日下部保雄の悠悠閑閑

ラリー北海道

KYB号の石黒/穴井クルーは今年から全日本ラリーにJN1で参戦。2回目のグラベルは徐々にペースをつかみ始めたところで転倒、リタイアとなる。写真は前日のスタート前。フロントのダッシュボードの青い輪は小学校訪問で子供たちが作ってくれた宝物

 全日本ラリー選手権第7戦、ラリー北海道に行ってきた。国内7戦あるラリーのうち、グラベルラリーは北海道の2戦のみ。ラリー北海道は帯広を起点に行なわれ、クロカン車のXCRクラスもあり参加車両はバラエティに富んでいる。

 ハイスピードグラベルラリーのため、敬遠するチームもある一方、ラリーはグラベル! と待ち望んでいたチームもある。ワンミスがクラッシュにつながるリスクもあるが、北海道らしい広大なグラベルコースはやっぱり魅力だ。

陸別の空。空が高く着実に秋が近づいているのを感じさせたが、気温はまだまだ高く、北海道らしくなかった
愛国サービスパーク。帯広は早く日が落ちる

 今年、TOYOTA GAZOO Racingは全日本ラリーチーム(TGR-WRJ)とオーストラリアラリー選手権(ARC)で実績を残すTOYOTA GAZOO Racing Australia(TGRA)との交流を図るため、育成ドライバーの大竹直生選手がオーストラリアへ行き、ハリー・ベイツ/コーラル・テイラーのGRヤリス・ラリー2が全日本ラリーに挑む。ベイツ選手は2度のARCチャンピオンとなった実力派で、今年もシリーズのトップランカーだ。

 TGRは各地域との交流を図り、国内ラリーをさらに活性化するという目標を立てている。海外からトップクラスの参戦者が増えると日本のラリーには大きな刺激となる。国内ラリーが世界に開かれる夢のような取り組みだ。

 GRヤリス・ラリー2は復帰したコバライネン選手やADVANの奴田原選手など5台が走る。そしてチャンピオンに王手をかけたシュコダ・ファビアR5の新井大樹選手との競い合いも注目だ。

 コースは5つのSSを2回ないし3回ずつ、計12SSを2日間で走る。観戦に行ったのは名物コースの4.63kmの陸別(リクベツ)と6.12kmの音更(オトフケ)。

 初日の陸別は帯広起点のラリーでは必ず走る有名なコース。観戦エリアも広く、3回も走るために観戦ポイントを変えて見ることができる。展示エリアには北海道のおいしい屋台も出展して楽しい。ラリーに力を入れるKYBブースもあって来場者は多い。

陸別のSS5。雄大な北海道のSSを全開で走る。優勝した新井大樹/松尾俊亮組のシュコダ・ファビアR5。メジャーなラリー2。2023年のコバライネン車をリビルトして使っている

 そしてレジェンドドライバー、ユハ・カンクネンが同じSSをデモランするという企画が盛り込まれていた。車両はなんと!TTE時代のST185セリカ。カンクネンのサイン会もあり、ラリーファンにとっては忘れられないイベントになったと思う。

 陸別で自分が見ていた観戦ポイントはラリー車までは遠いものの高速で走り抜けるのが見られ、車体の上下動や音によるアクセルワークなどそれぞれ特徴があって面白い。

 新井大樹選手はピッチングが少なくアクセルを開けている時間が長い。すでにSS5までに首位へ抜け出す。

 初めて見るベイツ選手も速い! 速度があまり落ちないしエンジンの音も変わらない。後でリリースを見るとポップオフバルブが不調だったようだが、スマートな走りに見えた。

 奴田原選手もあいかわらず無駄のない走り。珍しくタイトコーナーでテールスライドしたが自信を持って攻めている印象だ。サービスパークに戻ってきて「ラリー2は楽しい!」とうれしそうだった。

 残念ながら応援していたJN1のKYB号(ラリー2ではなくGRヤリスの改良型)は前のSSで転倒、デイリタイアでグラベルの走りを見ることができなかった。うーん、残念!

 XCRクラスで大きなトライトンを走らせている竹岡圭ちゃんも堅実に走っている。どうやらトライトンも気に入ったようで危なげない。

 翌日の音更は土手の上からの観戦で、すぐ下をラリー車が通過する。グラベルのラリーカーを間近で観戦できるのはやはりワクワクする。

音更のSSを走るヘイキ・コバライネン/北川紗衣組のAICELLO GRヤリス・ラリー2。病から復帰して今年は途中参加。クリッピングはピタリと合わせてさすがでした

 もっともこちらは見ているだけなので気楽なものだが、ドライバーとコ・ドライバーは次々と現れるコーナーに集中しているに違いない。そしてブレーキの使い方がとてもうまい。直線的にブレーキをかけてヒラリと向きを変えるタイミングが絶妙だしコーナリング速度もギリギリに保たれて速い。トップ争いするクルーはやっぱり素晴らしいぞ!

 優勝は既報のようにダントツだった新井大樹選手のシュコダ・ファビアR5。2024年の全日本ラリーチャンピオンに輝き2度目の戴冠となった。

 ところで国内ラリーの黎明期から女性ナビゲーターが一定数いた。その冷静な対応はクルーを組んで初めて知ることになり、ある意味、天職なんじゃないかと思ったものだ。

番場彬/梅本まどか組は大きなCUSCO YHジオランダー ハイラックスを豪快に走らせてXCRクラスで優勝。夜間のサービスではホイールが重そうだった

 近年ではラリーチャレンジで間口が広がった効果もあったと思うが、女性の参加者も増えている。ラリー北海道ではプログラムに掲載された79台の参加チームの30%を女性コ・ドライバーが担っており、今ではなくてはならない存在だ。ドライバーも増えておりラリーの醍醐味を多くの人に伝えてほしい。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。