日下部保雄の悠悠閑閑

ロータリーエンジン

やってみよう充電。途中のサービスエリアで充電スポットが空いていたので充電中のMX-30 Rotary-EV。ゴーという音とともに電気が流れ込む

 マツダの技術の宝、ロータリーエンジンを復活させてレンジエクステンダーとしたのがMX-30 Rotary-EV。MX30は攻めたコンセプトで2ドア+観音開きの後部ドアを持ったSUVクーペだがそれも含めたインプレなどはいずれ本稿で。

 発電機として使われたロータリーエンジンは数年前の東京モーターショーでお披露目された美しいコンセプトクーペに搭載された16Cがベース。その1ローター分がMX-30 Rotary-EVに搭載された8Cとなる。

 見慣れた13Bの1ローター654ccから830ccに拡大された8Cは外径が大きくなったが、薄いロータリーハウジングの特徴を活かしてエンジンルーム内にスッキリと収まる。125kW/260Nmのモーター+薄型ジェネレーターに直結されている。

 寸法に触れるとローター幅は13Bの80mmから76mmと狭くなったかわりに創成半径は105mmから120mmになっている。レシプロエンジンに例えればロングストロークになったようなもので希薄燃焼も可能となってエミッションでも有利だ。

新しい8C型ロータリーエンジン、主要エンジンはこれだけ。シンプルなロータリーを表している

 ロータリーエンジンはコンパクトで軽い。そうはいっても金属の塊だからそれなりに重い。その昔、ナイトスポーツで降ろされていた13Bを持ち上げようとしたが、無謀な作業だと悟った。見た目以上に重い。新しい8Cはサイドハウジングをアルミ化して15kg軽量化することに成功している。軽量化はEVにとって大切なポイントだ。

 このサイドハウジングの工作過程を広島で見る機会があった。表面を高速フレーム溶射でセラミック加工する過程は芸術的でダイヤモンドのように高い強度を待たせている。ちょっと感動ものだった。

 そのほかの生産工程も「からくり技術」のマツダらしく合理的に組まれ簡略化されており、目からウロコの連続だった。それにBEVからICEまで異なるパワートレーンの異車種を1ラインで混流生産する技にも驚くばかりだった。

 走行中8Cはときどき回って充電している。しかし始動時に車体に伝わる振動は皆無。ローターが大きくなった分、振動も大きくなるから各部の精度を上げてバランスを取ることは重要だ。ローターは砂型鋳造で量産されるのを初めて見た。砂型も芸術的だった。その結果、各工程で工作精度とパーツの精密化で13Bに比べると75%もバランス精度が向上したとされ、その効果ははっきり体感できた。

 コンパクトで振動がなくなんでも燃えるロータリーエンジンの復活はマツダならではの技術だ。

ボディサイドにつつましく取り付けられロータリーのエンブレム

 快適性のもう1つの難敵である音も独特のエンジンノートが伝わる程度で静かなものだ。そういえば昔乗ったレーシングロータリーの直管エキゾーストはすさまじかった。高周波音は頭に響き、普段はしない耳栓をしてよかったと心から思ったものだ。今の8Cとは関係ない話だが、音で思い出した。

 バッテリは17.8kWhのリチウムイオンでEVとしての航続距離は107kmとしている。BEV仕様では35.5kWhだから約半分の容量。

充電スポットは新規で増えている一方で閉鎖や故障も多い。家での充電が基本かな

 レンジエクステンダーの燃費は分かりにくいが、WLTC燃費は15.4km/Lと表示されており、今回の試乗では高速、豪雨、3名乗車という悪条件で燃費計は12.6km/Lを指していた。充電を基本としたレンジエクステンダーなので基本は家で充電して乗るのが理想だ。しかしその充電量を気にしないで走れるのもいいところ。

 電気が主流になる筋道の上でロータリーの活躍の舞台は広がるだろうか。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。