日下部保雄の悠悠閑閑

2台のEV

フィアット・600e。イタリア語で「セイチェント」と言うらしい。名前からしてかっこいい。大きなチンクエチェントといったイメージだった

 ICEからBEVへの転換期にあって、フィアットは少なくとも日本では1年半も新型車が出ていない。久しぶりに二子玉川で発表されたのはフィアット・600eで、長い人気を誇るフィアット・500のエッセンスを継承したデザインは秀逸で街中でも振り向かれる存在になりそうだ。

「セイチェント」と呼ばれるバッテリEVは54kWhのバッテリを積み、WLTCモードで493kmの走行距離とされている。モーター出力は62kWで前輪駆動だ。駆動方式はBEVになってから搭載の自由度が増してRRも増えたが、フィアットは500eの流れをくんで現行では荷室スペースをかせげるFFだ。個人的にはトルクが大きく瞬発力の高いBEVはRRが向いているんじゃないかと思うところもあるが、制御で自由に設定できそうだ。

 フィアットのシンプルで明るいセンスにはいつも心惹かれる。わが人生で一度だけフィアットを所有していたことがある。初代パンダだ。古い小さなエンジンをそれこそブン回して、正真正銘のキャンバスシートに座って、ポンポン跳ねるリアサスの突き上げをハンドルにしがみつくように運転していた。

 リアシートもキャンバスで、シートの支点を変えると簡易ベッドになるので、まだハイハイしかできない長男を乗せてキャンバストップを開け放ち、海岸沿いの道を走ったのはいい思い出だ。とっても快適じゃなかったけど楽しかった。イタリア人は人生を謳歌するのが上手だがクルマも同じだなと痛感した。

 あれから数十年。BEV時代のセイチェントはどんなフィアットを見せてくれるのだろう。

 一方、ボルボのグローバルカー、EX30にやっと試乗することができた。BEV専用で、今後グループ傘下の多くの車種で使われると思われるBEV専用のプラットフォーム。こちらはRRを基本とする。

ボルボ・EX30。写真をいっぱい撮ったつもりがこれだけでした。ボクシーでクリーンなボディは北欧の空気を感じさせる

 69kWhのバッテリで航続距離560kmだが、試乗は高速道路が多かったので350km付近を目安に充電ポイントを考える。幸い休日でも下りサービスエリアの充電スポットはすいており、90kWと150kWの急速充電をしながら目的地の新城まで行けた。この仕事でも充電するチャンスはあまりなく、特に公共の150kW急速充電は新鮮。ゴーと音がしてコーヒータイムで80%充電が可能だった。そんなことはないが音をたてて電気が流れ込んでいく錯覚をおぼえた。

150kWの急速充電器にありつき、充電はコーヒータイムのうちに終了した。気のせいか音だけで圧倒された。チャージカードの選び方はなかなか難しい

 EX30は北欧のボルボらしいクリーンな内外装が好ましく、ほとんどの操作がセンターディスプレイから行なうようになっている。例えばドアミラーもそうだし、グローブボックスのフタもここから開く。何もそこまでと思い戸惑ったが、数日館間付き合っているうちに慣れてしまった。

 ハンドリングや挙動の落ち着きなど発展途上だが、市街地では視界や取りまわしなどとても扱いやすかった。こちらは近いうちにインプレも掲載予定です。

EX30で取材した先にはこの方が待ってくれてました。1998年の冬季長野オリンピックで日本中が声援を送った金メダリストです
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。