まるも亜希子の「寄り道日和」
古いクルマたちを修復・復元する「ヤナセ クラシックカーセンター」
2021年1月21日 00:00
世界中の人たちから、「壊れない」ことを賞賛される優秀な日本車に恵まれた日本では、クルマを修理しながら乗り続けるという文化がなかなか根付きにくいのかもしれないな、と感じます。でも、クラシックカー、ヒストリックカーとなると、話は別。長く乗っているとわが子のように愛着が湧いて、壊れたからといって手放すなんて考えられない、特別な絆で結ばれるものです。
だけど輸入車のクラシックカーはとくに、そのクルマの価値や歴史、もちろん特殊な構造をちゃんと理解してくれる匠のようなプロに修理を任せたいと願うものの、年々、そういった職人さんは減っており、修理のための部品も入手困難になる一方。乗れないまま、もう何年も車庫に眠らせているというお話をちらほらと聞いたことがありました。
そんな時にたまたまご縁があってお邪魔したのが、日本でいち早く輸入車販売事業をスタートし、2020年で105周年を迎えたヤナセでした。わが家も愛車(Vクラス)をヤナセで購入してから、点検や車検などでお世話になっているんですが、これまで体験したことのないような親切で的確なサービスに「さすが!」と唸るところがたくさんあるんです。
訪れたのは、2004年にリニューアル開設された、板金塗装や車両整備といったアフターサービス機能を集約させた大型施設、「横浜ニューデポー」。ここは、ヤナセが車両販売だけでなく、パーツやアクセサリーの再生や販売といった、クルマを長く大切に乗り続けるための総合サービスに力を入れていく、という決意の証でもあると思います。
その一角に、30年以上前に製造された「オールドタイマー」、20~30年前に製造された「ヤングタイマー」と呼ばれる古いクルマたちの修復・復元を専門とする「ヤナセ クラシックカーセンター」が開設されたのは、2年前のこと。一般客の見学は受け付けていないので、なかなか見ることができなかったんですが、ラッキーなことに今回ちょこっと、覗かせていただくことができました。
するとそこには、ドンガラのボディと、1つ残らず分解されてきれいに磨かれ、並べられた部品たちが! そしてボディを覗き込み、せっせと作業をしている職人さん。この日は2人でしたが、ヤナセ クラシックカーセンターには、旧車のことを知り尽くし、修理・リビルト作業の技術もとても優秀な、ヤナセが誇る匠が3名いらっしゃるそうです。
この状態になるまでに、すでに数か月を費やし、ここから完成まではまだまだかかるということで、時間も根気も必要な作業だなとあらためて思いますよね。ただ壊れた部分を直して新しくすればいい、というものではないのがクラシックカーの世界。下手に新しい部品を入れたりすれば、他の部分に負担がかかって、今度はそこが壊れてしまうかもしれないし、その時だけちゃんと走るように修理するのではなく、いつまでも元気に乗ってもらえるように、という「長生きしてもらうため」のことを考えるのが、匠の腕の見せ所ではないでしょうか。
まぁ、下世話なものでどうしても気になっちゃうのは、「ちなみに完成するまでにおいくらほどかかるんでしょうか……?」というお金の話。もちろん、個人オーナーさまのクルマだし、プライバシーもあるので教えてもらうわけにはいかなかったんですが、ぶっちゃけ予算や修理内容はすべて、お客さまとの相談でどうとでも対応可能とのこと。例えば、予算100万円内でできるところまで、というのでもいいし、数回に分けて完成を目指すのもいいし、一度でピカピカになるまで仕上げるのももちろん大丈夫ということでした。
でもそれも、100年以上前から輸入車を手がけて、世界中にネットワークを築き、修理のノウハウとパーツの供給体制を蓄積してきたヤナセだから、安心して任せられることですよね。現在、全国の整備業者が加盟する「日本自動車整備振興会連合会」がありますが、その前身である「日本自動車修理加工工業組合連合会」の初代理事長を勤めたのが、故梁瀬長太郎氏。昭和初期にいち早く、日本の自動車業界の発達を願って、修理業者の組合を結成して活動していた実績が認められてのことでしょう。
もちろんこの「ヤナセ クラシックカーセンター」も、クラシックカーガレージの評価・査定を行なう世界的な第三者機関「テュフ ラインランド」によって、数々の基準で監査をクリアした「クラシックカーガレージ認証」が与えられています。
近ごろは、エコカー減税といった買い替え推奨を国が後押しする流れが強く、古いクルマを大切に長く乗ることのよさを軽んじるような風潮も見られますが、それはクルマを消耗品、実用品と決めつける考えの押し付けとも言えるような気がします。
ヤナセのスローガンは、「クルマはつくらない。クルマのある人生をつくっている」。人生の大切なパートナーとして、何十年も連れ添えるクルマと出会えることは、きっと幸せのひとつの形じゃないかなと感じます。