まるも亜希子の「寄り道日和」

古いクルマたちを修復・復元する「ヤナセ クラシックカーセンター」

ヤナセ クラシックカーセンターにお邪魔した際に、コツコツと作業が進められていたのがこちらのクラシックカー。個人オーナーさまのクルマのため年式や車種などの詳細は伏せられましたが、おそらくアレかな~と想像するだけでワクワクしてしまいました。開設当初から、全国のクラシックカーオーナーさんより100件以上の問い合わせがあったというだけあって、日本でもこうしたサービスを求めている人は確実にいらっしゃるんですね

 世界中の人たちから、「壊れない」ことを賞賛される優秀な日本車に恵まれた日本では、クルマを修理しながら乗り続けるという文化がなかなか根付きにくいのかもしれないな、と感じます。でも、クラシックカー、ヒストリックカーとなると、話は別。長く乗っているとわが子のように愛着が湧いて、壊れたからといって手放すなんて考えられない、特別な絆で結ばれるものです。

 だけど輸入車のクラシックカーはとくに、そのクルマの価値や歴史、もちろん特殊な構造をちゃんと理解してくれる匠のようなプロに修理を任せたいと願うものの、年々、そういった職人さんは減っており、修理のための部品も入手困難になる一方。乗れないまま、もう何年も車庫に眠らせているというお話をちらほらと聞いたことがありました。

 そんな時にたまたまご縁があってお邪魔したのが、日本でいち早く輸入車販売事業をスタートし、2020年で105周年を迎えたヤナセでした。わが家も愛車(Vクラス)をヤナセで購入してから、点検や車検などでお世話になっているんですが、これまで体験したことのないような親切で的確なサービスに「さすが!」と唸るところがたくさんあるんです。

 訪れたのは、2004年にリニューアル開設された、板金塗装や車両整備といったアフターサービス機能を集約させた大型施設、「横浜ニューデポー」。ここは、ヤナセが車両販売だけでなく、パーツやアクセサリーの再生や販売といった、クルマを長く大切に乗り続けるための総合サービスに力を入れていく、という決意の証でもあると思います。

 その一角に、30年以上前に製造された「オールドタイマー」、20~30年前に製造された「ヤングタイマー」と呼ばれる古いクルマたちの修復・復元を専門とする「ヤナセ クラシックカーセンター」が開設されたのは、2年前のこと。一般客の見学は受け付けていないので、なかなか見ることができなかったんですが、ラッキーなことに今回ちょこっと、覗かせていただくことができました。

 するとそこには、ドンガラのボディと、1つ残らず分解されてきれいに磨かれ、並べられた部品たちが! そしてボディを覗き込み、せっせと作業をしている職人さん。この日は2人でしたが、ヤナセ クラシックカーセンターには、旧車のことを知り尽くし、修理・リビルト作業の技術もとても優秀な、ヤナセが誇る匠が3名いらっしゃるそうです。

 この状態になるまでに、すでに数か月を費やし、ここから完成まではまだまだかかるということで、時間も根気も必要な作業だなとあらためて思いますよね。ただ壊れた部分を直して新しくすればいい、というものではないのがクラシックカーの世界。下手に新しい部品を入れたりすれば、他の部分に負担がかかって、今度はそこが壊れてしまうかもしれないし、その時だけちゃんと走るように修理するのではなく、いつまでも元気に乗ってもらえるように、という「長生きしてもらうため」のことを考えるのが、匠の腕の見せ所ではないでしょうか。

分解、修復した部品はそれぞれまとめられて、再び組まれる日を待っているようでした。作業内容や予算は、相談次第でいかようにもできるということですが、今回はピカピカに仕上げる感じでしょうか。よく見ると、壁に往年のメルセデスのグリルが飾ってあるのがステキ!

 まぁ、下世話なものでどうしても気になっちゃうのは、「ちなみに完成するまでにおいくらほどかかるんでしょうか……?」というお金の話。もちろん、個人オーナーさまのクルマだし、プライバシーもあるので教えてもらうわけにはいかなかったんですが、ぶっちゃけ予算や修理内容はすべて、お客さまとの相談でどうとでも対応可能とのこと。例えば、予算100万円内でできるところまで、というのでもいいし、数回に分けて完成を目指すのもいいし、一度でピカピカになるまで仕上げるのももちろん大丈夫ということでした。

 でもそれも、100年以上前から輸入車を手がけて、世界中にネットワークを築き、修理のノウハウとパーツの供給体制を蓄積してきたヤナセだから、安心して任せられることですよね。現在、全国の整備業者が加盟する「日本自動車整備振興会連合会」がありますが、その前身である「日本自動車修理加工工業組合連合会」の初代理事長を勤めたのが、故梁瀬長太郎氏。昭和初期にいち早く、日本の自動車業界の発達を願って、修理業者の組合を結成して活動していた実績が認められてのことでしょう。

ヤナセ クラシックカーセンターの別棟にお邪魔すると、そこはあらゆる部品を修理するための作業場と、修理を待つパーツ、修理済みのパーツの倉庫にもなっていました。ここが全国のアフターサービスの中核拠点でもあるので、部品の注文が入ると24時間以内に用意されるという、迅速な供給体制ができているのもすごいですね

 もちろんこの「ヤナセ クラシックカーセンター」も、クラシックカーガレージの評価・査定を行なう世界的な第三者機関「テュフ ラインランド」によって、数々の基準で監査をクリアした「クラシックカーガレージ認証」が与えられています。

 近ごろは、エコカー減税といった買い替え推奨を国が後押しする流れが強く、古いクルマを大切に長く乗ることのよさを軽んじるような風潮も見られますが、それはクルマを消耗品、実用品と決めつける考えの押し付けとも言えるような気がします。

 ヤナセのスローガンは、「クルマはつくらない。クルマのある人生をつくっている」。人生の大切なパートナーとして、何十年も連れ添えるクルマと出会えることは、きっと幸せのひとつの形じゃないかなと感じます。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Zなど。 現在は新型のスバル・レヴォーグとメルセデス・ベンツVクラス。