イベントレポート 東京オートサロン 2020

「TAFT コンセプト」は使い倒せる頼れる相棒。ダイハツの担当デザイナーに聞いてみた

「タント CROSSFIELD Ver.」も反響次第で市販化を検討

2020年1月10日~12日 開催

2020年の年央発売に向けて開発が進められているという軽クロスオーバー「TAFT コンセプト」

 幕張メッセ(千葉市美浜区)で1月10日~12日に開催された「東京オートサロン 2020」。ダイハツ工業のブースでは市販を前提とした軽クロスオーバー「TAFT(タフト)コンセプト」をはじめ、いくつものコンセプトモデルが展示された。そこでそれぞれについて、担当デザイナーの米山知良氏、芝垣登志男氏の2人に話を聞いた。

みんなが集い、楽しめ笑顔になってもらいたい

ダイハツ工業株式会社 デザイン部 第一デザイン室先行開発スタジオ エグゼクティブリエゾンデザイナー 米山知良氏(Photo:内田千鶴子)

 ダイハツブースのテーマは2019年に引き続き、「遊びゴコロをみんなのものに」。そこをベースとして、「今回はみんなが集い、楽しめるようにというコンセプトでクルマ作りをしています」とは、ダイハツ工業 デザイン部 第一デザイン室先行開発スタジオ エグゼクティブリエゾンデザイナーの米山知良氏の弁。

 これまでは市販用品など(ディーラーオプションやカー用品店で装着する物)を意識しながら開発していたが、「今回はそこを越えたところにチャレンジしています。クルマを使って人が集ったり寄り添ったりできるものにしたかったのです。そうすることで、これらのクルマを使っていろいろな人に楽しんでもらえることを目指しました」という。従って、「軽トラなどもボルダリングやDJなどを提案し、これらで人が笑顔になってもらいたいのです」と米山氏は語った。

「TAFT コンセプト」はもうすぐ登場。使い倒せる頼れる相棒

TAFT コンセプト

 TAFT コンセプトは「Tough&Almighty Fun Tool」をコンセプトに、2020年の年央発売に向けて開発を進めている軽クロスオーバーのコンセプトモデルだ。日常生活からレジャーまでアクティブに使える新感覚の軽クロスオーバーであり、開放感あふれるガラスルーフや、フラットで使い勝手のいい荷室空間といった、毎日を楽しくしてくれるアイテムを多く採用している。

――早速ですが、こちらのデザインコンセプトを教えてください。

ダイハツ工業 デザイン部 第1デザイン室 課長 芝垣登志男氏:使い倒せる頼れる相棒です。デザイン的には、都会的でタフでシャープ。しかも大胆さを目指しました。

――それらを具体的にどのように表現していますか?

芝垣氏:車両全体ではスクエアなボディです。その中で最も目に付くのは、バンパーが両サイドからくっついているようにすることでタイヤを強調したことでしょう。そうすることで走破性がよさそうな印象を与えています。

 室内では天井のガラスルーフが特徴として挙げられます。実際には開閉しない固定式ですが、開放感をすごく感じてもらえます。このぐらいの全高(1630mm)ですと閉塞感を覚えるかもしれませんが、このクルマではまったく感じられません。

 また、前席と後席を区別した室内の考え方を持たせています。前席はしっかりと運転に集中させ、後席は使い倒せる荷室のようになっているのが特徴です。荷室は当然ながらきちんとフラットにできるようになってもいます。

前席はしっかりと運転に集中させ、後席は使い倒せる荷室のようになっているのが特徴

――バンパーまわりはフロント側から少しだけタイヤが見えますが、これがオフロードテイストでいい印象ですね。

芝垣氏:実はこの案をずっと温めていた先輩デザイナーがいまして、その先輩デザイナー曰く、入社当時、30年くらい前からやりたかったというもの。それを今回、形にできたことが喜びだと言っていました。

 このクルマはクロカンし過ぎてもキャラが違うと思いますし、都会にお住まいでもアウトドア志向の人はたくさんいますので、そういった人たちがちょっと外に出てみたくなるような楽しいツールになればいいと思ってデザインしています。そこで少し無骨な方がかっこいいかなと。また、今回もバリエーション展開をしっかりできるように考えていきたいですね。

正面からフロントタイヤが少しだけ見えていることもデザイン上のアピールポイント

――ネーミングに関して聞かせてください。ダイハツ「タフト」というとダイハツのクロカン4WDのイメージを強く感じる人もいるでしょう。しかし、実際にはキーワードの頭文字になっています。このあたりの関係性を教えてください。

芝垣氏:元々タフトを意識して開発したわけではありません。ただ、デザイナーが絵を描いている中でイメージしていなかったかというと、そうではないと思います。一方で時代に合わせた新しいものを提供したいという思いもあり、そこにはダイハツらしさも必要です。そこがうまく名前に現れたと捉えています。

 トヨタと一緒に仕事をするようになってからは、なおのことダイハツらしさを強調しようという風潮が出てきました。ここ数年ではダイハツらしさを押し出したショーが非常に多くなっています。私自身もオートサロンを何回かやっていますが、ダイハツらしさ、そしてユーザーフレンドリーなところも押していきたいと思っています。

コンセプトカー開発では“ダイハツらしさ”を意識しているという

タント カスタム Premium Ver.は圧倒的な存在感を放つ至高のカスタム

「タント カスタム Premium Ver.」

――市販車の「タント カスタム」とはかなり印象が違いますね。

米山氏:このクルマはフロントまわりを全部作り変えています。市販のタント カスタムの記号性をより力強く強調したクルマで、われわれがショーで表現している3つの世界観(「SPORT」「PREMIUM」「ACTIVE」)の中のプレミアムの部分です。これまでは市販可能なパーツ類をうまく使って、手に届く身近な感じに仕上げていましたが、このクルマに関してはもう少しプレミアムなイメージを中心に仕上げました。

タント CROSSFIELD Ver.は毎日が冒険。家族のための頼れるアクティブギア

「タント CROSSFIELD Ver.」

――この「タント」もフロントまわりを中心にイメージが大きく変わっています。

米山氏:4年前、「ウェイク」でもアウトドア仕様を作ったのですが、それのタントバージョンです。車高などはとくに上げてはいません。前後バンパーとグリル、サイドパネルを新規で作りました。リアガーニッシュは純正用品を加工して赤く光るようにしています。また、カラーリングはベージュとオレンジの2トーンで、内装にはその差し色を入れたり、シートにはデジタルカモフラージュによるシートカバーを使い、遊び心が感じられるようにしています。そうすることで、ファミリーでワクワクできるようなクルマを目指しました。

――フロントまわりのコンセプトはどのようなものですか。

米山氏:「ロッキー」やTAFT コンセプトと同様に、わりとアウトドアチックな方向性を表現し、それらと共通性を持たせています。カップルや若者であればTAFT コンセプト、ファミリーであればタント CROSSFIELD Ver.というイメージでデザインしています。現在市販は予定していませんが、今回の反響次第で考えていきたいですね。

ハイゼット トラック DJ Ver.は音楽と共に“街を彩るサイバートラック”

「ハイゼット トラック DJ Ver.」

――こちらは荷台部分をDJブースにするなど、面白い提案が行なわれていますね。

米山氏:1980年代から1990年代に“バニング”や“スポコン(スポーツコンパクト)”“デコトラ”などが流行しましたが、そのころのクルマの楽しさをもう1度伝えたいと思っています。このクルマを見てクスッと笑ってもらいたい、そういう笑顔になるクルマを目指して作りました。

 フロントグリルはスピーカーをモチーフにデザインしており、サイド部分にはウーファーとミッドレンジスピーカーが入っていて、実際にDJパフォーマンスができるようになっています。つまり、DJ自らが運転してフェスやイベント会場に行ってパフォーマンスするというのがコンセプトなのです。名付けて“街を彩るサイバートラック”でしょうか(笑)。

ハイゼット トラック DJ Ver.のインテリア

 インテリアでは、マイクを模したシフトノブは実際に動くようになっていますし、通常はドリンクホルダーなのですが、そこはマイクホルダーになっています。ルーフにはミラーボールも付いています。シート表皮はクロコダイル調です。

 車内で音楽を鳴らすとピラー部分がグライコ(グラフィックイコライザー)になっていてきちんと光ります。これは1980年代の憧れのオーディオなどをイメージし、その色味も当時のグライコを表現しています。スピーカーも本格的にフォーカルで組んでいます。荷台側面のウーファーは固定ですが、その上のミッドレンジ部分は内側にしまうことができ、モニターも内側に倒れて普通の軽トラックとして乗っていくことができる仕組みです。

荷台部分がDJブースになっている

ハイゼット トラック PEAKS Ver.は“遊べるオーバーランダー”

「ハイゼット トラック PEAKS Ver.」

――ずいぶんと遊び心溢れたハイゼット トラックですね。

米山氏:アウトドア雑誌「PEAKS(ピークス)」とコラボしたものです。現在、軽トラックのカスタムの世界では、オーバーランダーが流行しています。このクルマも親子でボルダリングに行ったり、山に行ったりというコンセプトで“遊べるオーバーランダー”として提案しています。

 2007年の東京モーターショーで「MUD MASTER-C」というコンセプトモデルを発表しました。小ささと軽さが生み出す高い走破性に加えて、フレーム付ボディの圧倒的な耐久性と積載性を合わせ持つスモール&タフなトランスポーターとして、サイクルスポーツ界を代表する鈴木雷太氏と共同企画したマウンテンバイクサポートモデルで、このクルマをリスペクト。それを今のハイゼットでやったらかっこよくなるのではないかというイメージです。

 ボディ左側のパネルは強化樹脂でボルダリングできるようになっています。日本フリークライミング協会の方に監修してもらい、展示用の偽物ではありません。荷室には本格的な道具を実際に積んで、車中泊もできる仕掛けにしています。

 フロントバンパーも全部作り変えました。インパネまわりに差し色を入れるなど、インテリアも作り込んでいます。


 東京モーターショー 2019に続き、東京オートサロン 2020のダイハツブースでも遊び心溢れたクルマが多数展示された。それらは米山氏が話すように、見た人が笑顔になれるようなクルマばかり。そんなクルマを使うことで楽しさが伝わってきて、クルマのまわりに人が集ってくる、そういった思いに駆られる仕上がりばかりだ。TAFT コンセプト以外は現状では市販化の計画はないというが、それも今回と大阪オートメッセ 2020の反響次第では動きが出る可能性もあるようなので、笑顔を届けるクルマたちの登場をぜひ期待したい。

内田俊一

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー 25 バカラと同じくルノー 10。