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三菱自動車、業績を“V字回復軌道に乗せる”新中期経営計画「DRIVE FOR GROWTH」発表会
2019年までに新型「デリカD:5」を市場導入
2017年10月19日 18:10
- 2017年10月18日 開催
三菱自動車工業は10月18日、2017年から2019年にかけての新しい中期経営計画「DRIVE FOR GROWTH」を発表。同日に取締役社長 CEOの益子修氏、最高執行責任者(COO)のトレバー・マン氏などが出席する説明会が行なわれた。
説明会の冒頭で三菱自動車工業 取締役社長 CEOの益子修氏は、中期経営計画の3年間の考え方や位置付けなどについて紹介。新しい中期経営計画では重点項目として「2016年の燃費不正問題で傷ついた信頼の早期回復」「中期経営計画をV字回復軌道に乗せること」「中期経営計画で出す新車を成功させること」の3点を設定。
益子氏は多くの人に迷惑を掛けてしまった燃費不正問題はまだ解決しておらず、信頼回復もまだ完全ではないとの見方を示し、今後も引き続いて信頼回復に向け努力していくと語り、中期経営計画の3年間で第1の優先課題であるとした。2つめの業績回復では、敢えて「V字回復軌道」という言葉を使うことで、持続的成長を長く続けていくために、この3年間は将来の成長に向けた土台作りの期間と位置付けた。
3つめの新型車について益子氏は「ぜひ成功させたい」と語り、この理由が新型車の成功なくして中期経営計画が成立しないと考えていること。さらにこの3年間で発売となる新型車については、日産自動車とのアライアンスが成立するより前に開発に着手したモデルであり、とくに2016年の厳しい状況下で諦めることなく開発を続けたクルマが成功することで「開発に携わった社員たちが少しでも自信を取り戻してくれるのではないか」との期待を持っていると述べた。
今回の中期経営計画は、2020年以降の計画を見据えて会社としての基盤をしっかりと構築し、大きな環境変化のなかでも競争力を持ち続けていくことを狙いにしているという。また、苦しいときに会社を支えてくれたステークスホルダーに少しでも報い、一緒に発展していける環境作りも心がけたいとした。
新しい中期経営計画の策定に向けた過去の振り返りとしては、2004年の経営危機以降、ASEAN地域の戦略的な強化・育成、SUVやPHEV(プラグインハイブリッドカー)といった独自技術の強みなどを生かしてリーマンショックなどを乗り越え、2014年度と2015年度は円安の追い風なども受けつつ営業利益率を6%台にまで回復させた。一方で販売台数は100万台近辺で推移。この原因を益子氏は、計画していた新型車の市場投入が遅れたこと、世界的に環境規制、安全規制などが強化される状況に対応するリソースが不足していたことなどにあると分析。
さらに自動車業界は大きな転換期を迎えており、電動化、自動運転、コネクティビティといった開発において、競争は質、量の両面でこれまでとはまったく異なるものになると予測。100万台クラスのメーカー単独では対応に限界があり、必要とされる投資を行なうためには信頼できるパートナーの存在が不可欠であるとの結論から日産との資本提携に至ったと解説した。DRIVE FOR GROWTHと名付けた新しい中期経営計画は、ルノー、日産、三菱自動車によるアライアンスを前提としたこれまでとまったく異なるロードマップになっているという。
すでに始まっている新しい中期経営計画は、2016年度下期の回復の勢いを維持して順調にスタートしていると益子氏は述べ、今後もこの勢いを継続させていくと同時に確かな成長を実現。ユーザーや部品メーカー、株主、従業員などすべてのステークスホルダーに「三菱自動車は変わった」と言ってもらえるよう全力で取り組んでいくと意気込みを語った。
2019年までに新型「デリカD:5」を市場導入
益子氏の説明に続き、三菱自動車工業 最高執行責任者(COO)のトレバー・マン氏がDRIVE FOR GROWTHで掲げられた3つの戦略的施策について解説を実施。
マン氏は三菱自動車の強みとして、パリ・ダカールラリーを過去30年にわたって席巻した「パジェロ」、WRCで実績を積み重ねた「ランサーエボリューション」など、モータースポーツ活動で技術を磨き、SUVの人気が高まっている現在では三菱自動車の販売する車両の3分の2がSUVになっていると紹介。この10年では「アウトランダー」「パジェロ スポーツ」などのモデルが成功したこともあり、重要なSUVセグメントで確固たる地位を築いているとアピールした。
商品面におけるもう1つの強みとしてPHEVをマン氏は挙げ、三菱自動車は環境技術として注目されているPHEVのパイオニアであるとコメント。プラグインハイブリッド技術を搭載する初めてのSUVとして発売された「アウトランダーPHEV」は、日本と欧州の市場でPHEVの累計販売台数トップとなっており、アライアンスのルノー、日産も関心を寄せているとした。
DRIVE FOR GROWTHではこのような強みを背景に、3年間で11車種の市場投入を予定。すでに公開されている「エクスパンダー」「エクリプス クロス」のように2車種ずつ新規車種、またはフルモデルチェンジの新型車を発売。残る5車種は既存の中核モデルを刷新して発売する計画となっている。また、日本市場での販売も強く意識して、期間中にはエクリプス クロスの発売に加え、軽自動車2車種、新型「デリカD:5」を市場導入するという。
新しい中期経営計画を成功させるためには設備投資や研究開発費の増額が必要であるとマン氏は定義。この点が販売台数の成長が不十分になっていた原因であると述べ、設備投資は2016年度の581億円から2019年度には1370億円、研究開発費は2016年度の890億円から2019年度には1330億円と、それぞれ大幅に増加させていく。この予算は売上高に対する比率として5%台となり、同規模の競合他社と肩を並べるものになると解説。「こうした投資が持続可能で収益性の高い成長を支える基盤になる」とマン氏は語っている。
地域戦略では「ASEAN」「オセアニア」「北米」「北アジア」「日本」の5地域を中核市場として位置付け。この中核市場に対する注力を強めていくほか、世界の新車販売で1位、2位である「米国」「中国」を注力地域としている。なかでも日系メーカーとして進出が出遅れた中国市場では販売店を3年間で200店舗から400店舗に倍増させ、拡大するニーズを満たせるようエンジンの現地生産化を計画。販売台数は2016年度から3年間で2.5倍に増やすことを目指している。
日本市場での取り組みについては前出のエクリプス クロスなどの発売に加え、販売網の強化を図るべくディーラーネットワークに投資。重要な取り組みとして2016年10月に第1号店をオープンさせた次世代店舗「電動 DRIVE STATION」の継続的拡大を挙げた。
コストの最適化では「トータルデリバードコスト手法」の導入でコスト低減を実施。コストを毎年1.3%削減していくという。
基盤整備となる「持続的成長のための体制作り」「長期的戦略に基づくアライアンスの活用」については再び益子氏が登壇して説明。
益子氏は「私どもの中期経営計画を達成させるためには、まず当社としてできることに全力で取り組み、そのうえでアライアンスを活用してより高い競争力をつけていく」と語り、多岐に渡るアライアンスの効果のうち、共通プラットフォームなどを活用した新型車は今回の中期経営計画の次に来る2020年以降に登場することになるが、すでに開発はスタートしており、これまでのように単独で事業を行なう場合と比べて開発費が抑えられるようになるという。
また、2016年の燃費不正問題を受けた社内改革として、「PDCAサイクルの確立」「財務マネージメント、人材マネージメントの強化」「ITシステムの強化」など幅広い活動で組織改革を実行。とくにコンプライアンスの強化やガバナンスの改革は今後も経営の最重要課題としてあらゆる分野でさらに実効性を高めるべく推し進めていくと益子氏は述べた。
さらにこれまで十分とは言えなかったというIT投資も積極的に取り組み、「守りを固める目的」として、2度と過ちを繰り返さないためにチェック機能を強化するほか、「攻めの目的」として、経営に関する重要な情報をスピーディに共有して適切に判断できる体制を作っていきたいと意気込みを語った。
このほか、優先順位の高い項目として、すでに別記事(三菱自動車 益子CEO、新中期経営計画「DRIVE FOR GROWTH」発表会で“2020年以降にEVを少なくとも2車種投入”と明言)でも紹介した「パワートレーンの電動化」のほか、益子氏は改めて信頼回復に向けて「市場の声に耳を傾け、国内市場のお客さまをはじめ、すべてのステークスホルダーの方々の信頼回復に取り組んでいます。国内販売は少しずつ回復していますが、気を緩めることなく信頼回復に全力を尽くしていきます」と発言。また、「研究開発の投資を強化して、中長期的に幅広い商品ラインアップを刷新し、先進技術を搭載した高品質なモデルをお客さまに提供していく決意です」とも述べている。