株式会社デンソー 広報・渉外部長 兼 グローバル戦略部 渉外戦略室 担当部長 兼 東京支社 コーポレートバリュー推進室長 神戸千隆氏 デンソーは10月24日、会社概要と事業内容の説明会を開催した。説明会の前半では会社概要とデンソーの技術について、後半はMaaS(Mobility as a Service)につながるデンソーのソフトウェアに関する取り組みについて、それぞれの担当者が説明を行なった。
説明会の冒頭、デンソー 広報・渉外部長 兼 グローバル戦略部 渉外戦略室 担当部長 兼 東京支社 コーポレートバリュー推進室長の神戸千隆氏があいさつ。
あいさつの中で神戸氏は、「まさに今、自動車産業は100年に一度の変革期だと言われております。社長の有馬も“生きるか死ぬかの時代”、あるいは“第2の創業期”だという言葉で社内外に発信をしております。弊社のように愛知県の三河に居ますと、どうしても世界の流れに対して敏感になりにくいところもありますので、トップ自らが世界中を駆け回り、世界の最先端で起きていることを肌で感じながら経営の舵取りをしております。さらに、われわれにも世界で見てきたものを伝えて、よりよい社会を築くためにデンソーを導いて行こうと率先して動いています」と、世界を見据えて活動していることを説明した。
続いて、デンソー 東京支社 広報・渉外部 広報担当部長の澤芳彦氏が会社概要として、1949年にトヨタ自動車工業(当時)の電装・ラジエータ部門より独立して設立されたこと、現在は38の国と地域に259拠点を置いていること、2019年の12月で創立70年になることなどを紹介した。
株式会社デンソー 東京支社 広報・渉外部 広報担当部長 澤芳彦氏 売上収益は5兆円、営業利益は4000億円を超え、営業利益率は8.1%になる 世界各地に販売会社・製造会社・テクニカルセンターを設置 日本では愛知県刈谷市に本社を置き、関係会社として北海道、岩手、福島など全国に製造・販売拠点がある。また、ADAS(先進安全運転機能)を強化するため、Global R&D Tokyoを2018年4月に立ち上げた 得意先別の売上収益。トヨタグループ各社の中では、トヨタ自動車向けの売上比率が比較的低いという。なお、市販・新事業では、産業用ロボットや「COBOTTA(コボタ)」という4kgに満たないロボットなどを開発。さらに、23年ほど前にデンソーが開発して今ではおなじみとなった「QRコード」の活用の幅を拡げている 製品別売上収益。最も多くの割合を占める「サーマルシステム」は、いわゆるカーエアコンで、グローバルシェアでは3割を超え、世界を走っているクルマの3台に1台はデンソー製のカーエアコンを採用している 2025年度には、売上収益を約40%増の7兆円に拡大する目標 これまでに年間で約3000億円ほどの設備投資を行なってきたが、現在は海外での展開などを踏まえて4000億円程度になる見込み。研究開発は売上の9%程度の4000億円を目安としてきたが、現在は4950億円と強化を進めている デンソーの社風・風土。当初は「日本電装」という社名で、由来は“クルマのコアになるであろう電装品に関する技術力と、日本を代表する企業になりたい”という想いからとのこと デンソーの発祥は2018年に創業100年を迎えた豊田紡織 デンソー 広報・渉外部 ブランド推進室 担当次長 (兼)東京支社 (兼)技術企画部 (兼)R&D Tokyo総括室の麻弘知氏は、デンソーの技術について紹介。クルマの機能それぞれに対して、デンソー製部品が採用されていることを説明した。
株式会社デンソー 広報・渉外部 ブランド推進室 担当次長 (兼)東京支社 (兼)技術企画部 (兼)R&D Tokyo総括室 麻弘知氏 具体的には、「走る」という分野では、エンジン制御システムやハイブリッド車制御システムといったシステムに加え、電子スロットル、インジェクター、発電機、モーター/ジェネレーターなどの製品を生産。また、自動運転にもつながる「ぶつからない」という分野では、カメラやミリ波レーダー、ソナーといった高度運転支援の製品やシステム、さらに、万が一ぶつかってしまった際のエアバッグやセンサーなども手掛けていると紹介した。
デンソーの設立当初はダイナモやスターターなどの電装品(電気機器)、ラジエターといった熱交換器(熱機器)から生産を開始。世界で初めて世の中に出した製品も数多くある 技術開発では、基本的には自動車メーカーからのニーズを開発・設計・量産するが、最初から量産を見据えたコンカレントエンジニアリングにも取り組んでいるという。また、新しい発想の提案に加え、自動車以外のロボットやエコキュート、QRコードなどの開発・販売も行なう EV(電気自動車)に対してキーとなるコンポーネントは、インバーター、モーター、電池ECUの3種で、特にインバーターとモーターに力を入れている スペースの少ないエンジンルームの中で、よりいっそうの小型化が求められているインバーターの小型化技術について。1968年にIC研究室を発足して、自動車部品メーカーとして初めてオルタネーター用パワーICを製作するなどの開発を行ない、オルタネーターの冷却効率を上げることで、従来品に対して出力を約60%向上させつつ体積を約半分に抑えた モーター/ジェネレーター(MG)について。電力を磁力に変換してモーターを回すステーターという部品において、新しく開発した巻線技術によって約30%の小型化を達成 自動運転の取り組みでは、「いつもの安心」「もしもの安全」というコンセプトを掲げ、認知・判断・操作をきちんと行なえるようにして、事前に事故を発生させないようにするとともに、もしも事故が起きてしまった場合はできるだけ被害を軽減できるようにするため、「走行環境認識」「車両運動制御」「HMI」「情報通信」という4つの分野で取り組んでいる 走行環境認識と情報通信分野の製品。クルマから遠くなるほど、外部との通信が必要になってくる 乗員の顔の状態を検知・判断して警報を出す「DSM(ドライバーステータスモニター)」はHMI分野の製品 コネクテッドについて。クルマはどんどん外と繋がっていき、「MaaS(Mobility as a Service)」といったようなサービスとクルマをどのように繋いでいくかが重要になってくる アジャイル開発はシリコンバレー流?
技術説明に続いて、MaaSにつながるデンソーのソフトウェアに関する取り組みについて、デンソー 電子基盤先行開発室 室長の奥村洋氏が紹介。
株式会社デンソー 電子基盤先行開発室 室長 奥村洋氏 奥村氏は組み込みソフトウェアの仕組みや車載ソフトウェアの変化の歴史、自動運転技術といったデンソーのソフトウェアに関する取り組みについて解説し、「今後の電動化、自動運転、コネクテッド、カーシェアリングといった『CASE』においては、デンソーとしてはこれまで取り組んでこれなかった領域が非常に重要になる」と今後の展開を示した。
デンソーはサーマルシステム、パワートレーン、モビリティシステムなどを提供。その中でもリアルタイムに制御を行なう組み込みソフトウェアがキーとなっている 組み込みソフトウェアは「性能に余裕がある=無駄」となるので、一般のソフトウェアと異なり、ちょうどいいサイズのプロセッサーにソフトウェアを乗せることが技術のポイント。さらに、組み込みソフトウェアが動かすセンサーやアクチュエーターの制御は物理現象なので、デジタルシステムのように完全に思ったとおりに動くものではないため、異常事態が起きても破綻なく正しく動くというソフトウェアを作るというのが重要 車載ソフトウェアの変化。最初は排出ガス対策のためのマイコン制御から発展していき、2000年にはエンジンソフトウェアのコード数が100万行というような時代になるとともに、車載LANが登場して統合機能が増加した。なお、今後はIT化が進み、それぞれの機能に対応するECUを統合するコアとなるECUが登場し、頭脳になるようなソフトウェアを搭載するようになっていくのではないかとしている 車載電子のパラダイムシフト。スタンフォード大学で自動運転を研究していた人がGoogleのグループに移って自動運転を開発したり、カーネギー大学のRobotics Instituteの研究者が半数ほど引き抜かれてUberで自動運転の研究をスタートしたりする一方で、テスラが電動化車両に自動運転のユニットを搭載して、ソフトウェアの更新やボードのアップデートを可能にするなど、ソフトウェアを主にする新しいプレイヤーが現われた 100年に1度のパラダイムシフト。自動運転は安全機能の延長として、クルマの従来価値の維持向上を進めるとともに、今後はソフトウェアがメインとなってイノベーションを作っていくことになるという 最後に、デンソー MaaS開発部 部長の成迫剛志氏が登壇し、MaaSが必要とされる時代にデンソーではどのような組織でMaaSのサービス開発を行なっているのか、また、これから競争が激化するモビリティサービス関連の取り組みについて説明した。
株式会社デンソー MaaS開発部 部長 成迫剛志氏 成迫氏は、「コネクテッドによってクルマがクラウドに繋がっていること、人々の思考が所有から利用に移ってきていること、電動化によってクルマの制御がエンジンに比べてシンプルにできるようになってきたこと。その先に自動運転がある。そんなことを見据えるとモビリティサービスは急激に進化してくる時代なのではないか」と考えを示した。
「現在は“CASE”+“MaaS”というかなり大きな変化が来ているのではないか」という成迫氏の考え ITの大変革。1990年代にインターネットができた頃は「すごいものができた」という感覚はあったが、今では当時は誰も思い描いていなかったほど生活やビジネスになくてはならない社会基盤となり、世界を変えそうなテクノロジーとなった。これらを踏まえて、今後の取り組みについては考えなければいけないという 自動車業界は変化が少ない、ゆっくりだと言われることもあるが、1900年と1913年のニューヨーク 5番街を比べると、馬車だらけだった街がクルマだらけになっていて、景色が変わるほどの急激な変化が起こった。今、これと同じような急激な変化がCASEやMaaS、ITやIoT、AIの世界で起こっていると成迫氏は言う デンソーが考える未来のモビリティ社会の一例。カーシェアやライドシェア、物流の運行管理、サプライチェーン連携などを支えるシステムは、すべてコネクテッド技術によってクラウド上で価値を生み出すような作りになっている イノベーションは、今の延長線上にあるのではなく、現在とは違う軸から始まるもの。例えばタクシー会社がコストを下げるために燃費のいいクルマを導入したり、売上を伸ばそうとして大勢が乗れるクルマに変えたりするが、クルマを持たないでタクシー事業を始めようというUberが新しい競合として現われる。このUberがイノベーションとなる リアルな世界とクラウドの世界(サイバー世界)がうまく繋がることが今後必要になってくると予想。成迫氏が所属するチームでは、リアルな世界のものはすべて「シャドウ」としてクラウドに存在するとして、クラウド上でどのようにしたらユーザー価値が生み出せるのかをアプローチしているという 破壊的イノベーションを創る企業は、0から1を創り出したり、作りかけの考えでもとにかく早く形にしたり、発展途上のシステムをユーザーと一緒に作ったりしているという 新横浜でアジャイル開発を行なうデジタルイノベーション室は、2017年4月に2人から始まり、約1年半経過した今では総勢50名まで増加。アジャイル開発チームは8チームとなった デジタルイノベーション室は、従来の技術調査研究のチーム、アーキテクチャーやインフラストラクチャーのチーム、潜在的なユーザーニーズを発掘してそれを元に新しいサービスやビジネスモデルをデザインするチーム、そのチームのアイデアをユーザーニーズや従来の技術、新しい技術と融合させながら新しいサービスを作るアジャイル開発チームという組織体制 デンソーではデジタルイノベーション室を手足として、事業部や横断プロジェクトなどの維持保守、運用、開発、デザイン、構想といった各レイヤーにまたがってサポートできるようにしている。そのため、それぞれのチームが「シリコンバレーのスタートアップ企業のよう」だと成迫氏は解説 アジャイル開発のプロセスについて。オーバーな表現や認識違い、方向性が異なる提案を排除して、最短距離でユーザーニーズにアプローチするのがアジャイル開発だという デンソーのアジャイル開発チームのワークスタイルは、効率的な開発ができるようにミニマムなチーム体制となっている アジャイル開発チームでは、考え方だけでなく、メンバーのパッションもシリコンバレー流になっているという 会場にはデンソーが取り扱っている製品も展示されていた 後付けの「ドライバーモニターシステム」は、顔画像認証やニューラルネットワーク技術により検出する顔の特徴点を増やし、運転状態の検知精度とマスクやサングラスなどで顔の一部が隠れてしまっているときのロバスト性を向上させた。今回は、目を開いていると左上のグラフに反応があり、目を閉じるとすぐにグラフの反応が消えるといった動きを見られた