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幼児の車内置き去り根絶へ。ヴァレオが大人やペットにも対応する専用車内レーダー開発

「人とくるまのテクノロジー展 2019 横浜」で展示予定

2019年5月15日 発表

ヴァレオが車内の幼児やペットの命を守る「幼児置き去り検知システム」を開発

 ヴァレオジャパンは5月15日、車内に置き去りにした幼児を検知できる新ソリューション「インテリアコクーン:幼児置き去り検知システム」を披露した。高周波ミリ波レーダーを車内向けに活用し、動体検知を行なうことで人や動物が車内にいるかどうかを認識する。欧州の自動車安全テスト「Euro NCAP」で2022年に試験項目として加わる「Child Presence Detection(幼児置き去り検知)」を見据えたもので、同年の量産開始を目指す。

 また、このシステムは5月22日~24日にパシフィコ横浜で開催される「人とくるまのテクノロジー展 2019 横浜」でも同社ブースで展示予定とのこと。

Valeo Safe InSight

エアコンとの連動や車外ドライバーへの通知などを想定

車内ルーフに設置された「幼児置き去り検知システム」のセンサー(プロトタイプ)

 幼児置き去り検知システムは、ヴァレオが提供する車内検知システムの総称「インテリアコクーン」を構成する1ソリューション。インテリアコクーンには、安全性を高めるソリューションとして、2Dカメラを用いたドライバー・モニタリングのほか、3D ToF(Time Of Flight:光線を利用した距離計測)、カメラを用いた乗員の姿勢、体格、位置などのモニタリングといった技術があり、ここに幼児置き去り検知システムが含まれる。自動車の先進運転支援システムで車外の物体検知に利用されることの多いミリ波レーダーを車内向けに応用した。

新システムを解説した株式会社ヴァレオジャパン ビジネスデベロップメントの小谷純也氏
ヴァレオが展開する「インテリアコクーン」のソリューション

 幼児置き去り検知システムでは、77~81GHzの周波数帯を利用するミリ波レーダーを車内ルーフパネルに設置し、下向き160度の範囲にある動体を検出できる。固定されている車内の座席やドア、その他装備などは検知対象外となり、大人や小さな子供、動物といった動く物体のみを検出することが可能となる。

 ミリ波レーダーの採用によって、カメラでは検出が困難な呼吸時に発生する数mm程度のわずかな胸の動きも判別できる。布やプラスチックはレーダーが透過するため、子供がチャイルドシートごと毛布やフードで覆われて視認できなかったり、ペットがキャリーなどに入っている状態でも中の子供や動物の存在を認識できるのも特徴だ。

薄型のセンサーで、ルーフパネルとトリムの間に設置できる
カメラでは認識不可能なわずかな動きもレーダーなら検出できる

 現時点のプロトタイプのセンサーはサイズが105×85×12mm(奥行き×幅×高さ)の薄型。製品化時は重量を100g程度に収める計画としており、車内ルーフパネルとルーフトリムの間に潜ませ、目に見えない形で設置することが可能だという。1個で160度の範囲をカバーできることから、標準的な2列シートの車両であればセンサー1台でまかなえる。3列シートの車両など車室が広い場合は複数のセンサーを組み合わせることも可能だ。

 センサーで検知した後の対処や機器連携については、導入先となる自動車メーカーなどとの協議によって決定されることになる。ヴァレオではほかにも車内空調を制御するサーマルシステムや、コネクテッドカーに必要な通信関連技術なども保有しているため、幼児やペットを検知した場合に車内のエアコンをピンポイントで稼働させたり、車外にいるドライバーのスマートフォンに通知するといったシステム連携が期待される。

当日行なわれたデモンストレーション。実際の車両を用いて実施された
車内ルーフ中央に取り付けられたセンサー
現在はプロトタイプの段階のため、荷室にあるPC上で動作を確認できる
PC画面に表示されたヒートマップで車内にいる動物の存在が判別できる
キャリーに入った場合でもしっかり認識している
さらに上から布をかぶせても検出。このとき、運転席に座っている大人のドライバーもしっかり表示された

 ただし、レーダーの消費電力は大きくないものの、クルマを停車した後、長時間にわたって稼働させた場合はバッテリー上がりの原因ともなりかねない。そのため、停車後の一定時間だけ稼働させるなど、ドライブレコーダーの駐車時録画と似たような方式で動作させることが考えられる。

 幼児・子供の車内置き去りによる熱中症は日本で問題になっているだけでなく、米国でも年間30~50人の死亡事故につながっており、世界的に安全面での課題の1つとして捉えられている。先述した通り2022年にEuro NCAPのスコアリング対象となることからも、置き去り検知システムは車両の安全装備の1つとして今後ますます注目されるだろう。

米国における子供の車内死亡事故件数のグラフ。近年、エアバッグによる事故はほぼゼロとなったが、熱中症による死亡事故は毎年30~50人に上る
幼児の置き去り検知は2022年にEuro NCAPのスコアリング対象となる

 また、今回の幼児置き去り検知システムのデモンストレーションに協力したアニコムによると、幼児だけでなくペットを車内に置き去りにすることによる熱中症の事例も年々増加しており、こうしたシステムがペットの命を守ることにもつながると期待する。車内温度が危険な状態になるのは真夏に限った話ではなく、特に春先の4月ごろから熱中症の事例が増えはじめるとのことで、ペットを連れてクルマ移動する人に対して注意を促している。

ペットの熱中症事例について解説したアニコム ホールディングス株式会社 経営企画部の石原玄基氏(左)。右はアニコム先進医療研究所株式会社 研究開発部で獣医師の資格をもつ清水孝恵氏
ペットの車内での熱中症の事例は年々増加傾向にある
真夏の事故件数は多いが、熱中症にかかりやすくなるのは4月から。涼しい季節と思っていても車内温度には注意が必要だ