イベントレポート
【フランクフルトショー 2019】ヴァレオ、中国メーカーに売り込みを強化する48Vハイブリッドシステムなど展示
シーメンスとの合弁会社のEV用パワートレーンも
2019年9月17日 15:52
フランスの部品メーカーであるヴァレオは、9月10日(現地時間)よりドイツ フランクフルトのフランクフルトメッセで開催されている「フランクフルトモーターショー(IAA)2019」で報道関係者向けの質疑応答に応じ、同社が自動車メーカーに提供している48Vのハイブリッドシステムなどの各種のソリューションを説明した。
同社のブースには、同社が独シーメンスと設立した合弁企業「Valeo Siemens eAutomotive」が開発したモーター、インバーターなどのパワートレーンを1つに統合した「eDRIVE」のほか、ハイブリッド時代に重要になるとみられているバッテリーのサーマルシステムなどが展示された。
ヴァレオ CEO ジャック・アシェンブロワ氏は「中国の自動車メーカーは欧米市場の進出にとてもアグレッシブ」と述べ、電動車(EV/PHEV/HVの総称)を武器に内需から外需へと転換を遂げようとしている中国メーカーへ、同社がラインアップを強化している48Vハイブリッドシステムの売り込みを強化すると述べた。
また、ややスローダウンが言われている自動運転に関しては「まずはフル自動運転はロボットタクシーから」と述べ、まずはロボットタクシーやロボットバスといった都市部の営業車の自動運転が実現され、乗用車に関しては当初よりも時間がかかるだろうと述べた。
48Vハイブリッドシステム搭載PHEVや、シーメンスとの合弁会社のEV用パワートレーンを展示
フランスのティアワン部品メーカーとなるヴァレオは1923年にフランスで創業。日本でも1985年12月に日本法人ヴァレオジャパンが設立され、ヴァレオカペックジャパン、市光工業といったヴァレオ傘下の3社がヴァレオグループとして、日本国内に17か所の生産拠点、7か所の研究開発センターを構え、6145名の従業員という規模で日本の自動車メーカーなどに部品の販売、供給を行なっている。
近年のヴァレオは、電気系のコンポーネントの開発に力を入れており、48Vと比較的低電圧で低コストなハイブリッドシステム、LiDARなどの自動運転向けのセンサー、パワートレーンを冷却するサーマルシステムなど各種の部品を自動車メーカーに対して提供している。また、2016年にはドイツのシーメンスと折半で電動車向けのパワートレーンを開発する合弁企業のValeo Siemens eAutomotiveを設立し、パワートレーン向けの事業を同社に集約させるという戦略をとっている。
今回のフランクフルトモーターショーのヴァレオブースでもValeo Siemens eAutomotiveが開発しているモーター、インバーターなどを1つのユニットにしたeDRIVEが展示されており、2019年中にドイツで搭載された実車が走るようになる見通しだと説明されていた。
また、同社ブースの中央には2018年のパリショーで公開された48Vと低電圧で動作するハイブリッドシステムを搭載したPHEVが展示されていた。
「プリウス」などの日本で主流になっているハイブリッド車両では200Vの電池を600V超という高電圧に昇圧して使う仕組みになっており、それ故に高性能を実現しているのだが、その分安全のための装置などが必要になるため複雑になってしまう。その結果として高コストになってしまうという課題を抱えている。
そこで、48Vのハイブリッドシステムでは48Vという低電圧で動作するモーターを利用することで、システムを簡素化することができる。ヴァレオでは48Vハイブリッドシステムの特徴を「従来の高電圧ハイブリッドシステムが持つ利点の95%を60%のコストで実現しています」(ヴァレオの資料より)と説明しており、低コストでハイブリッドの持つ優れた燃費などの特徴を提供することができるとしている。今回ヴァレオのブースに展示されていたのはそうした48Vハイブリッドシステムを応用したPHEV(プラグインハイブリッド車)で、低価格でPHEVを実現できるため、PHEVにつきまとう「内燃機関の車両よりも高い」というイメージを低減することが可能になる。
中国メーカーは欧米市場への進出にアグレッシブ。ヴァレオは48Vハイブリッドを武器に市場拡大を目指す
ヴァレオはフランクフルトショーの期間中に、同社 CEO ジャック・アシェンブロワ氏など同社幹部による報道関係者向けの質疑応答に応じた。
中国市場の電動化について質問されたアシェンブロワ氏は「中国のOEM(筆者注:この場合は自動車メーカーのこと)はとてもアグレッシブで、内需から外需への転換を図っており、欧州や米国などに進出しようとしている。それはちょうど数十年前に日本メーカーや韓国メーカーがたどったのと同じ道だ。われわれも中国でいくつかの顧客を抱えており、ドイツや日本の部品メーカーと競合している。そこで鍵になるのは48Vハイブリッドシステムだと考えている。欧州の法律はとても厳しく、CO2の削減などを求めている。2030年の欧州での基準を達成するには(中国勢が得意としている)EVだけでなく、48Vハイブリッドが必要になる。現在われわれは中国で48Vを提供できている唯一のメーカーだ」と述べ、成長著しい中国市場での市場拡大の鍵は48Vハイブリッドだと説明した。
実際、今回のフランクフルトショーでは欧州外のメーカーはホンダ、フォード、ヒュンダイぐらいだったのに対して、中国メーカーは複数のメーカーが参加しており、非常に目立つ存在だった。特に中国のメーカーはEVに力を入れており、EVはPHEVへの注目が高まっている欧州市場への参入を目指している現状となっている。そうした中国メーカーに対してはヴァレオだけでなく、ほかの日欧の部品メーカーも注目しており、競争は激化している。そうした中で、ヴァレオとしては同社の強みとなっている48Vハイブリッドを武器に中国での市場を拡大を目指していくということだ。
自動運転に関して聞かれたアシェンブロワ氏は「レベル5の自動運転はそんなに遠い未来ではなく、まもなくだ。ただし、それは乗用車ではなく、ロボットタクシーやロボットバスなどの市場からと考えている。では乗用車はいつか? それは10年の単位で時間がかかるかもしれないし、数年かもしれない。しかし、レベル4以上のフル自動運転は非常に複雑で、完全に異なる市場だと考えている。しかしフル自動運転ではないレベル2、レベル2+などのADAS(先進安全運転機能)は別で、これに関しては急速に立ち上がっており、今後も機能が増えていくことになるだろう」と述べ、フル自動運転はまずロボットタクシーなどで普及し、乗用車にはADASとして実装されていき、長い時間をかけてフル自動運転へと切り替わっていくだろうという見通しを述べた。
また、今後の部品開発のトレンドとして「ソフトウェアはこれからの鍵になる。ステアリングにせよ、パワートレーンにせよ、ECUのソフトウェア無くしては動かない。顧客とわれわれの間で、しっかりと領域を明らかにしてソフトウェア開発をしていかなければならない。すでにわれわれの開発陣のうち1000人はソフトウェア開発者となっており、その割合は50%になっている。ただし、ビジネスとしてソフトウェアを売ることがメインになることはないだろう。あくまで部品に統合して販売するソフトウェアの開発をしているのだ」と述べ、自動車パーツの開発にとってソフトウェア開発の重要性は今後も増していくだろうと述べた。