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女子プロゴルファー 下村真由美選手に聞いた「N-ONE OWNER'S CUP」の魅力

“やりたいと言い出した自分から逃げない心”で戦い抜いたウェットバトル

2019年7月13日~14日 開催

「N-ONE OWNER'S CUP」第7戦が7月13日~14日に富士スピードウェイで行なわれた

 本田技研工業が販売する軽自動車「N-ONE」のナンバー付き車両によるワンメイクレースが「N-ONE OWNER'S CUP」。このレースはHondaワンメイクレース事務局(M-TEC内)が運営し、ホンダが後援しているもので、2019年は全国の8つの主要サーキットを使用して全14大会を開催している。

N-ONEによるワンメイクレースが「N-ONE OWNER'S CUP」だ。ナンバー付きのクルマを使用する
N-ONE OWNER'S CUPのゼッケンベースは全車共通デザイン。N-ONEのスタイルにマッチしたもの。ナンバー付き車両だがレースカーらしくカラーリングも楽しめる
パドックの風景。デイキャンプ的な装備があれば天候に左右されず快適に過ごすことができる

N-ONE OWNER'S CUPとは?

 日本で開催されるレースは数多くあるが、年間14戦もの回数をビッグレースも開催されるメジャーサーキットを中心に行なうのがN-ONE OWNER'S CUPの特徴。そして、華やかな大会でありながらN-ONEを所有する人に「レースという楽しみ」を提供することを主題としているので、参加しやすいレースになっているのが最大のポイントだ。ここでその点を一部紹介していこう。

 N-ONE OWNER'S CUPに参加するにはJAFの国内Aライセンスが必要だが、このライセンスは運転技術を示すものではない。このあたりはよく誤解されるが、国内Aライセンスは講義で取得できる国内Bラインセンスを所有していて、なおかつ公認サーキットでのスポーツ走行経験が25分以上あるなど一定の条件を満たしつつ、講習を受けることで発給されるライセンスなのだ。N-ONE OWNER'S CUPをはじめ、モータースポーツに参加したい気持ちを持っているのならAライセンス取得にチャレンジしてみてはいかがだろう。

Aライセンスは運転の技量を示すものではないが、ライセンスを取得するまでに得られる運転や安全、競技への知識はハイレベルだし、スポーツ走行も経験しているので、そういった面でAライセンス所有者の運転レベルは高いといえる

 N-ONE OWNER'S CUPは公道走行可能なナンバー付きのクルマのみが参加できるものだ。改造も可能だが、サーキットを楽しく安全に走るために最低限必要な範囲のみとなっているので、レースカーに仕上げてもN-ONE本来の使いやすさや経済性のよさはスポイルされないし、もちろん車検や整備でユーザーの不利益になることもない。N-ONE OWNER'S CUPの改造規定については公式サイトで紹介されているので、詳しいことを知りたい方はこちらを参照してほしい。

このレースはホンダが後援しているので、全国のホンダカーズでもN-ONE OWNER'S CUP仕様への改造を請けている。こちらはホンダカーズ東京中央 世田谷店チーム。ドライバーは西郷倫規選手。予選1位、決勝4位という結果だった。同チームは3名のユーザーと一緒に参加していて、ディーラーを中心にN-ONE OWNER'S CUPを楽しんでいるいい例である。こういった体制はほかのホンダカーズでも行なっているので、レース参加に興味があれば近くのホンダカーズへ問い合わせてみるといい
レースカー製作には指定部品と認定部品がある。指定部品はロールケージと前後の牽引フックで、これらは全車共通装備となる
認定部品とは主催者が認めたスポーツパーツで、指定パーツならどの銘柄を使用してもいいが性能面、機能面で不公平が出ないような設定となっている。そのほか、ブレーキパッド、シートなどはJAF(日本自動車連盟)の規定に沿っていれば選択は自由

 レースに掛かる費用は人員や移動費、宿泊場所などによって変わるが、N-ONE OWNER'S CUPの公式サイトによると1戦あたりの費用の目安はエントリー代や保険代、タイヤ、ブレーキパッド、オイルなどの消耗品代、遠征費などを含めて約10万円が1つのライン。

 ただ、実際にエントリーしている人ではもっと低予算で済ませている方もいる。参戦に興味があってそのへんを知りたいのなら1度レースを見に行き、パドックでエントラントに声をかけて聞いてみるのもいい。そして話をしてくれた人の応援でレースを見ればよりレースが楽しめるだろう。

N-ONE OWNER'S CUPでは毎戦、主催者がホスピタリティを用意。エントラントやメカニックの食事や飲み物も用意する
エントラント同士の雰囲気がいいのものこのレースの特徴。それゆえ、レース中の競い合いもクリーンなもの
レースではあるが月に1度、N-ONEオーナー同士が顔を合わせるミーティング的な側面にもなっている

女子プロゴルファーの下村真由美選手がN-ONE OWNER'S CUP 第7戦に参戦

N-ONE OWNER'S CUPに参戦する女子プロゴルファーの下村真由美選手

 参加しやすいN-ONE OWNER'S CUPには毎戦多くのエントリーがあるが、とくに人気が高いのはSUPER GTやスーパーフォーミュラなどのビッグレースとの同時開催だ。そして7月13日~14日の第7戦 富士スピードウェイはスーパーフォーミュラやTCR ジャパンと同時開催だったこともあり、N-ONE OWNER'S CUPも54台ものエントリーとなった。

 さて、このN-ONE OWNER'S CUPには以前から芸能界やプロスポーツ界で活躍するクルマ好きな人が参戦しているが、今シーズンは女子プロゴルファーである下村真由美選手が参戦している。

 Car Watch取材班がオジャマしたのは、N-ONE OWNER'S CUP 第7戦の富士スピードウェイ決勝日。天気はあいにくの雨だったが、出走時間を控えたN-ONE OWNER'S CUPのパドックには慌ただしい雰囲気があった。その中で下村さんが乗る34号車を発見。「これかぁ」と眺めていると、チームスタッフに声を掛けられてテントに案内される。するとそこには出走前準備をしている下村さんがいた。

レースカーのN-ONEと下村さん。エントリー名は「YHアウティスタN-ONE」
タイヤは横浜ゴム「ADVAN FLEVA V701」。今回のようなウェット路面でも安定感が高かったとのこと。ホイールは軽量・高剛性のレイズ製「TE37」を履く
Car Watchのロゴも貼っていただいた
サイドには下村さんの名前も入る
ヘルメットはゴルフボールをイメージしたデザイン
N-ONE OWNER'S CUP決勝の朝。取材班がパドックを尋ねたときは下村さんは決勝レースに向けて準備をしていた
忙しい中に尋ねた取材班だったが、歓迎してくれた下村さん。挨拶が終わると出走前点検を受けるために34号車はパドックを出発
点検後はそのままゲート前に整列、そしてコースインになる

 次はレースの模様と結果が気になるところだが、読者の皆さんにはまずは下村さんのことを知っていただきたいので、先に下村さんの紹介をしていこう。

 お名前は漢字を素直に読む「シモムラ マユミ」さんで、茨城県出身。下村さんが加盟する日本ゴルフ協会の資料によると、下村さんの主な戦歴は1997年から。日本ジュニアゴルフ競技会 女子12歳~14歳の部で8位タイを収めたときから始まり、2000年にナショナルチームへ参加。そして2006年より日本女子オープンゴルフ選手競技へ参加する現役の女子プロゴルファーだ。現在は競技だけでなく、後輩ゴルファーやアマチュアゴルファーの指導に力を入れているという。

レース参戦へのきっかけを語る下村さん

 そんな下村さんはご自身のトレーニングのため、スポーツトレーナーと契約をしているそうだが、下村さんを受け持つトレーナーが担当しているアスリートにはSUPER GTにも出ているレーシングドライバーもいた。そのためジムで顔を合わせることもあったが、レーシングドライバーの体型は筋肉隆々ではなく体脂肪を落としたスリムなタイプが多いので着やせ(?)する。そのため下村さん的にはスポーツ選手と言っても「普通のお兄さんみたいだな」と思っていたという。

 そして3年前のこと。トレーナーさんとともに招待されてSUPER GTを初めて見に行くことになったのだが、サーキットで見た「普通のお兄さん」は全然普通ではなかった。

 音が大きくカタチも厳ついGTマシンを操り、見たことないスピードでライバルと競い合いを間近で見た下村さんは、そこにアスリートとしての「カッコよさ」を感じた。さらに「レース中のドライバーさんにはライバルと戦うだけでなく、自分とも戦っているようなストイックさ感じました。この点はゴルフとも似ているので、そんなことがレースに興味を持ったきっかけです」と語った。

 そんなことからレース観戦にハマった下村さんは、その後も都合がつけばサーキットへ向かうようになった。そしてレースを見ているうちに「闘争心が沸々と沸き上がってきた」となり、その気持ちは「レースにチャレンジしてみたい」というものへ変わっていった。そこからN-ONE OWNER'S CUP出場への道が開けたのだった。

 ホンダのサポートを受けて初めて参加したのは、5月に行なわれた第3戦の富士スピードウェイだった。練習や予選では思っていた以上にいいタイムが出て、初参加ながら予選は54台中の44番手。この結果に、自身を含めてチームスタッフもいい雰囲気になっていたのだが、決勝でレースの難しさを思い知らされる。

 スタートを切った下村さんは、緊張の中でも冷静に「練習通りに走ろう」と思っていた。ところが練習や予選のときと違い、決勝時は前も後ろも右も左も、自分のまわりはクルマだらけでまったく自由に走れない。しかも、街中で経験する走行ではあり得ないほどクルマ同士が接近しているなど面食らうシーンばかりが現れる。そんな状況でも自分の走りをしようと努力したのだが、最後まで調子を掴めず順位を落として49位でチェッカーを受けた。

 下村さん自身、この結果にかなりガッカリしたそうだが、「予選と決勝では状況が全然違うことが分かったのでそこは収穫でした。それに、ゴルフのときは常に先を読んでプレーするのですが、レースにおいても同様に先を読むことが大事であることも理解しました」と得るものも多く、これを期にさらにレースが好きになったという。

身振り手振りを交えてレースの印象を語る下村さん。レースが楽しいという気持ちが伝わってくる笑顔だった

ウェットの富士スピードウェイでレース

 さて、それでは今回のレースの紹介に入ろう。この日の富士スピードウェイの天気は雨だったが、スタート進行のときは曇り空。N-ONE OWNER'S CUPは7周のレースなので「なんとかもってほしい」と誰もが思っただろうが、無情にもスタート前に再び雨、しかもしっかりとした降りになってしまった。

 そしてスタートシグナルの合図で全車スタート。水煙を上げて54台のN-ONEが1コーナーへ向かう。50位スタートだった下村さんの34号車はどうかというと、なんとスタートを失敗し、1台に抜かれて1コーナーを回っていく。

下村さんのグリッドは50番。後方の台数がさみしい位置だが、これが2戦目、しかも初のウェット。そして今回は練習走行なしのいきなり予選という状況なので仕方ないかも。ただ、この位置からではスタートシグナルが見えないので、まわりの動きを見てスタートするしかない
トップ集団のスタート後のシーン。ポールポジションの200号車 西郷選手が1位をキープ
N-ONE OWNER'S CUPは台数が多いのでそれぞれの位置でライバルがいて、バトルが繰り広げられる。だから速さに関係なく全員でレースが楽しめるのだ
下村さんのファーストコーナーシーン。スタートをミスしたので後ろのグリッドだった509号車 田原選手に抜かれてしまう

 しかし、その後は大きなミスもなく順位をキープしつつ、スタートで前に行かれた509号車を追う。そして徐々に差を詰めていき、最終ラップの1コーナーで抜き返す。これは自身のレース参戦において初めての競い合いの中での追い抜きであり、このとき相手にミスはなかった。ストレートで並びかけて1コーナー手前まで並走し、ブレーキング競争で競り勝っての追い抜きなのだ。これはドライブしている本人が一番盛り上がる。

 追い抜いてからは「後ろを見ないで前のクルマに追いつくことだけを考えた」という攻めの走りを続けた。残念ながらもう1台を抜くまではいかなかったが、予選より順位を上げた47位でゴール(スピンなどで抜かずに順位が上がった分もある)。

トップ争いは最初から激しい。200号車の西郷選手と38号車の岩間選手のバトルは見応えあるものだった
しかし3周目、1コーナーで少しラインを外してしまった西郷選手。そのミスが響いて岩間選手に抜かれてしまう
ワンミスが許されないハイレベルなトップ集団
スタートで509号車に抜かれたものの、その後は離されることなく食らいつく下村さん
下村さんはこの雨のコンディションでも、毎周、同じラインを通っていく。そんなことから落ち着いて走っているのが外からも分かる
ウェットなのでトラクションコントロールをONにして走行。これが非常に安定感があり、それでいてスピードをスポイルするような感じもなかったという
クラッシュもなく7周のレースがチェッカー。優勝は激しいバトルを切り抜けた38号車 岩間選手
中段グループのバトルも終始激しく、このように集団でのゴールシーンも見られた
ウォータースクリーンの後に34号車はいた。最終ラップの1コーナーで509号車に競り勝って順位を上げてゴール

 パドックに戻ってきた下村さんは、朝に会ったとき以上に笑顔だった。その理由は「初めてクルマを抜いた」という高揚感。下村さんは「監督の視点だとあちこちに反省点があるでしょうが、それでもやっぱりレースで初めて前のクルマを抜いたことは嬉しいです」と弾んだ声で感想を語ってくれた。

レース後の下村さん。笑顔でレースの状況を説明してくれた。初めてバトルの末に1台抜けたことを素直に喜ぶ姿はN-ONE OWNER'S CUPの本質。楽しめるレースである証拠か
N-ONE OWNER'S CUP 第7戦の表彰台。優勝は38号車 岩間浩一選手。2位は390号車 坂井拓斗選手、3位は998号車 吉田隆ノ介選手。皆さんおめでとうございました

 いい結果に終わったレース後のインタビューでは話も弾んだが、そこで下村さんは「レースは難しいものでありますが、やりたいと言い出したのは自分です。正直、今日の雨のレースは厳しいところもありましたが、“やりたいと言い出した自分から逃げないでおこう”という気持ちで走っていました」と語ってくれた。

 今回の記事では、レース経験が浅い(ほぼない)下村さんの挑戦を通じて、N-ONE OWNER'S CUPに参加したいと思っている方の気持ちを後押しできればという狙いもあったが、そこに“やりたいと言い出した自分から逃げないでおこう”のひと言をいただいた。

 レースに出たいと思う気持ちは、すなわち「挑戦したい」という闘争心だ。その気持ちの大きさや熱量は人それぞれだろうが、大事なのはやりたいと思ったことである。そしてやってみるといろいろ大変なこともあるだろうが、そんなときに“やりたいと言い出した自分から逃げないでおこう”と思える気持ちが持てたらチャレンジはひとまず成功と言えるのではないだろうか。

 もし、N-ONE OWNER'S CUPへの参戦を検討している方がいたら、下村流の心構えを胸に秘めて、そして気持ちを決めて参加のためのステップを開始していただきたい。