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豊田市の給電機能体験会レポート、トヨタとホンダの異色コラボFCバスも出展
2020年9月28日 13:06
- 2020年9月26日開催
愛知県豊田市は「豊田市つながる社会実証推進協議会」の取り組みとして、トヨタ自動車、本田技術研究所、デンソー、トヨタホーム、トヨタエナジーソリューションズ、大林組、大橋産業、デンヨー、ナイスとともに、クルマが持つ給電機能の体験会を開催した。
会場になったのは豊田市役所からも近い「とよたエコフルタウン」。この場所は未来のエコな暮らしや最新の環境技術を体感できる常設の低炭素社会モデルエリアで、ふだんは一般に無料開放されている場所である。
開催日は敷地内をイベント用のレイアウトにした都合、駐車場のみ閉鎖となったが入場は無料。開催時間は10時から12時30分と限定されたものだったが、家族連れを中心に多くの来場者が訪れていた。とはいえ、屋外の広い敷地を使用したイベントなので密になるような状況はなく、さらに入場時には豊田市による検温が行なわれるなど新型コロナウイルス感染症への対策も十分取られたものだった。
今回のイベントは豊田市としても初めての開催となった。そこで豊田市役所 企画政策部 未来都市推進課 課長の中神泰次氏にお話を伺った。
中神氏は「もともと豊田市では災害時の非常用電源として外部給電機能を備えたクルマを紹介する働きかけする「とよたSAKURAプロジェクト」という活動を行なっています。この活動は5年ほど前から行なっていますが、クルマから生活に使用できる電気を取り出すことへの理解はまだまだ広めていかなければなりません。世の中に普及しているトヨタ自動車のプリウスを例に取りますと、PHEVはもちろんHV車でもあっても外部給電機能があればクルマから1500Wもの電気を取り出すことができます。これだけの電力があれば災害等で停電が起きたときでもさまざまな家庭用電気製品を動かすことができ、一般的な家庭であればクルマからの給電で4日間は停電時の不便をしのげるのです。ちなみに電力会社さんのお話では大規模な停電であっても基本的に3日間で復旧することを目標にしているそうです」という。
また「現在は新型コロナウイルス感染症拡大抑制の観点から、災害発生時の避難所において三密になるのを避けることも大事ですが、豊田市は避難の仕方における選択肢のひとつとして在宅避難があると考えています。家に危険や問題がなく、停電だけの状況であれば電気を供給するクルマさえあれば自宅避難も可能でしょう。今回のイベントではこのようなメリットがある外部給電機能付き車両に加え、いろいろなクルマの外部給電機能を市民の方に紹介していくだけでなく、いざというときキチンと使えるようにするために体験機会も設けました。また、こうした取り組みは豊田市だけでなく全国に広まって欲しいとも思っていますので、今回の開催は豊田市民向けのみならず全国へ発信するものでもあります」と語ってくれた。
この催しにはトヨタ自動車が展示の協力をしていたのでそれらを中心に会場の紹介をしていこう。
まず、会場の目立つ場所に置かれていたのがホンダとコラボレーションしている大容量給電機能FCバスの「チャージングステーション」だ。この車両はトヨタ自動車が開発したもので、広範囲での活動を可能にするためベース車に対して水素タンクの容量をほぼ倍となる約47kgへ変更しているので航続距離は約400kmだ。
ただ、この数値はFC発電をしない状態でのものなので、現地での給電用活動をする場合の後続距離は約200kmになる。約半分になってしまうとはいえそれでも十分な行動範囲である。
このように長距離の移動も可能なチャージングステーションだが、車体が大型ゆえに道路や地形、現地の状況次第では電気を必要とする場所まで入っていけないこともある。また、この車両はあくまで発電車なので現地に着いてから、必要とする場所へ電気を届ける手段は別途必要になる。
そこで使用するのがホンダが持つ持ち運び可能な「モバイルパワーパック」という充電・給電器。このモバイルパワーパックはすでにホンダの電動スクーター「PCXエレクトリック」や「ベンリィe:II」で採用されている信頼と実績があるもの。
モバイルパワーパックをチャージングステーションで充電したあと専用のキャリーカートにセットして避難所など、電気を必要とする場所へ個別に届けるというもの。モバイルパワーパックが溜められる電気は1500W出力時で約40分、100Wで約10時間というものだが、チャージングステーションであらかじめ充電してあるものと頻繁に交換していくことで連続した使用も可能だ。
続いてはトヨタ自動車とデンヨーが環境省の委託事業である「CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証実験事業」のもと、共同で開発する燃料電池電源車(FC電源車)だ。
車両はトヨタ自動車の小型トラック「ダイナ」をベースにしていて、動力源は燃料電池自動車(FCV)のMIRAIに搭載されているFCシステムを活用。そして電力の給電のためにデンヨーが開発したFC専用給電器を搭載したものになっている。
この装置の特徴は単相出力とあわせて工業用の機器を動かすことのできる三相出力も可能なところで、これにより災害発生時は避難所等への給電だけでなく、復旧用の工業機材への給電もできるということ。定格出力は三相、単相の合計で8.5kWとなっている。
また、FC電源車はCO2を一切出さずに移動と発電ができることがメリットのひとつだが、発電の際に精製される大量の“水”をろ過することで飲料水も作ることができることも大きな特徴である。イベントでは発電時にできる水を湧かして「足湯」を設置。来場者に利用してもらうことでFC発電の意外なメリットをPRしていた。
もうひとつ興味深いものがトヨタホームが8月に発売を開始した「クルマde給電」というもの。これはプリウス等の外部給電用アクセサリーソケット(車種ごとに標準装備、オプション設定がある)から専用ケーブルを使い家側に給電をする設備で、家側には防水フランジインレット、車両接続用装置(交流用地絡検出器、絶縁トランス)と回路切り替えスイッチボックスが付く。
電力は1500Wの給電で照明はもちろん、大きな電気が必要な冷蔵庫や電子レンジ、ヒーターなど(いずれか単体)は動かせるため、非常時でも在宅避難が可能になるというもの。しかも既存の住宅にあと付けができる点と工事費を含めて約30万円台後半で設置できる点にも要注目である。
このほかにも展示されていたものがあるが、それらは画像で紹介していく。ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV(電気自動車)などの電動車が増えていくこれからの時代では、クルマから給電できることについてこれまで以上にPRしていくことが必要になってくるはずなので、豊田市が行なったこのイベントは有意義で興味深いものだった。