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MINIの新デザインについて責任者オリバー・ハイルマー氏が想いを語る

2021年6月22日 開催

MINIデザイン部門責任者オリバー・ハイルマー氏

MINIらしさを残しながらよりピュアでより高機能に

 BMWとMINIのブランド体験型販売拠点「BMW GROUP Tokyo Bay」(東京都江東区青海2-2-15)にてメディア向けに「MINIデザイン・ワークショップ」が開催され、MINIデザイン部門責任者オリバー・ハイルマー氏が、マイナーチェンジしたMINIのデザインについての解説と参加者との質疑応答を行なった。

 今回のマイナーチェンジを受けてMINIは内外装を刷新。オリバー氏は冒頭に「前モデルと比べるとグリルやフロントまわりを刷新しているが、MINIらしさを失っていないのが大事なところ」とあいさつ。

高機能化されたヘッドライト
フォグライトをなくし空力を高めるエアカーテンを取り入れた
フロントバンパーの中央をボディ同色に変更したのも大きなトピック
モダン化されたサイドスカットルはウインカーを内蔵
止まっていてもダイナミックなイメージをデザインしたホイール

 今回のマイチェンでは「さらにピュアにしよう」というところからスタートしたと言い、ピュアにするというのは「ニーズに合わせてコンポーネントの数を削っていくことだ」とオリバー氏。機能面ではヘッドライトが高機能化したことで、フォグライトが不要となり、その場所に新たに“エアカーテン”を導入し、空力性能が高められた。また、バンパーの前部分をボディ同色にしたことで全体的な統一感が生まれたとしている。

 側面に関してはあまり変更点はないが、サイドスカットルの形状をモダン化しウインカーを内蔵。ホイールのデザインも刷新し、クラシックなスポークデザインとしつつ、表面を工夫したことで「クルマが止まっていてもダイナミックなイメージを与えることができた」とオリバー氏は解説する。

 リアまわりも同じ考え方でピュアにしつつ、強調するところは強調。特にマフラーとバンパーの形状は工夫してよりスポーティに仕上げたという。また、ヘッドライトやテールランプのまわりをクロームとブラックと選べるようにしているが、これは人気があり今回も継続している。「このカラーを選べる部分を、エンブレム、ドアハンドル、給油キャップなど、多岐に広げたことでよりモダンなデザインに仕上がった」とオリバー氏は言う。

スポーティに仕上げたリアまわり
バックフォグも搭載
エンブレムやミラー、給油キャップ、ヘッドライトリングなどはブラックも選択可能になった

 また、オリバー氏は「ピュアにするというアプローチはインテリアにも適合していて、ダッシュボード、ステアリングなども見直した」と言い、ステアリングのスイッチやボタンはフラットでクリーンなものにし、ピアノブラックを採用。ステアリングの下の部分(6時の場所)でジョンクーパーやEV、スペシャルエディションなどが分かるようにしている。

 センターディスプレイもスイッチの凹凸がないクリーンな造形にしたことで、フロントガラスとの一体感があり精度の高いイメージを演出。間接照明のアンビエントライトは走行モードと連動して色が変わるよう工夫を施してある。また一部のシートは「ブラックパール」という素材で100%リサイクル素材でできているのがポイントだという。

サイドブレーキが電動式に変更されたことでシンプルな形状に
旧モデルのシフトまわり
スタイリッシュでコンパクトなデジタルメーターに
旧モデルのメーター
8.8インチディスプレイはそのままだが上下にあるボタンがフラットになりスッキリした
旧モデルのセンターディスプレイ
白いチェックの部分が100%リサイクル素材となっている新シート

 オリバー氏は、「今回もう1つ達成したかったのが、いろいろなエンジンの種類をユーザーがひと目で見て分かるような特徴を設けることで、機能に応じたデザインを行なった」という。具体的には、ジョンクーパーワークスでは、エアインテークはより高性能なエンジンに必要なものでありながら、よりワイド感を強調するためのデザインとして使用。リアはGPのスペシャルモデルのインスピレーションを受けてマフラーまわりのデザインを行なったという。「特徴のデザイン分けを行なった結果、スタンダードモデルはよりエレガントになり、ジョンクーパーはよりスポーティになった」とオリバー氏はまとめた。

ジョンクーパーワークスのデザインスケッチ
ジョンクーパーワークス実車

オリバー氏とオンライン質疑応答を実施

──「MINIらしいデザイン」とよく言われるが、MINIの「アイデンティティ」を維持するためのポイントは何でしょうか?

オリバー氏:突然MINIが視界に入ってきたときに感じる気持ちを大切にしている。同時にMINIらしいといいながらも進化することも大事なので、将来に向けてどうするかも考えなければいけない。チームとしては毎日これが大変でしたが、どこまでいったらMINIらしくなくなってしまうのかを常に考えながらデザインしている。つまりデザインスケッチを作るときに、明らかにMINIのアイコンであると思うものを外してみる。そうするとそれがMINIに必要なアイコンなのか、そうでないのかが見えてくる。率直に、常に過去と未来の間で綱引きをしている感覚だ。

──MINIのデザイナーの楽しさと難しさとは?

オリバー氏:MINIはとてもポジティブで、強力で、フレンドリーなブランドなのが楽しい。そして大変なのはそれをどうやって変えたらよいかということ。このような強力なブランドでそういったチャレンジができるのは嬉しい。個人的に思っているのはMINIの将来を考えたとき、これまでの「コンパクト」や「ゴーカートフィーリング」といったイメージも重要だが、これから先どういう風に進化させていくかが難しいところ。

──カルフォルニアでデザインワークスをやっていたが、そのときの経験はどのように活かされているのでしょうか?

オリバー氏:個人的にも家族にとっても重要な経験だった。大きなトラクターや小さなブラシなどを手掛けたり、たくさんのことを学んだ。気づいたのは、自動車であれば7年、トラクターであれば30年、小さなものであれば1年など、テーマによってスピード感がまったく違うということ。時間というのは相対的なもので、2050年までずっと使い続けられる製品をデザインするのと、来年発売されてすぐ使われるものをデザインするのはまったく違う経験で、前者の場合は2050年にどんな風に見えているかまで考えなければいけない。

──今の若者の自動車離れに対してMINIはどんな可能性を秘めている?

オリバー氏:世界はどんどん複雑化しているので、若い世代は理解したい、何かを明確化したい気持ちがあると思う。そして自動車に対する概念、自動車を所有したいという気持ちもまったく変わり、今の子は楽しもうという気持ちがなくなってしまったと思う。MINIというブランドは、ずっと可愛らしくいなければいけないし、目が輝いたいたずらっ子みたいな存在でなければならない。ドライビングに関する性能がどれくらい必要なのかなど、若者が何を求めているのかをもっと理解しなればならない。ただ、私の妻はクルマの色を見るだけで好きになったりするので、もしかしたらそれぐらい単純なことなのかもしれない。軽やかなのか、エネルギッシュなのか、一番難しいのは自動車としてどんなフィーリングを伝えたいのかをしっかり考えておくことだと思う。

──今回のデザインではどんなトレンドを取り入れているのでしょうか?

オリバー氏:色や素材でいえば、内装には家具やファッションから取り入れている。外装では全体的な考え方としてはより直線的に、よりクリーンに、丸みを少し減らす方向でデザインしている。家電やほかのジャンルもそうだが、クリーンで決してシンプルという訳ではないが、ディテールがしっかり定義されたデザインになってきている。

──テールランプのユニオンジャックが継続されたのは評判がよかったから?

オリバー氏:非常に分かりやすい、チームとしても最初から「これはMINIのアイコンだよね」と考えていた。よりよいアイコンができなければこのまま継続していてよいだろうと考えている。ユーザーからの評判もいい。同僚から聞いた話だと、旧モデルに乗っているユーザーが「新型のテールランプが欲しい」と言ってくるそうで、アフターパーツのマーケットとしても強力だと思う。

──マルチトーンルーフ導入のいきさつや苦労を教えてください。

オリバー氏:実はこれはチーム員から出てきたアイデアで、「前のクルマを塗装した塗料が残っている状態で別の塗料を入れて塗装したらどうなるのか?」という単純な疑問から始まった。そこで実際にオックスフォードの塗装工場へ行ってやってみた。戻ってきて「思っていたよりもずっと面白い」という報告だったので、これを次のトピックスにしようと本格的にスタートした。実現するにはきちんとした工程を作る必要があり、修理もできなければいけないなど、とても大変な作業が待っていた。最終的に完成できたので誇りに思っている。面白いのはロボットで塗装しているのに、気温や湿度や塗料の具合によって異なる仕上がりになる点。「コントロールされた不完全さ」が素晴らしいと感じている。

──新たなデザインはクラシックMINIのデザインを現代風に再定義したのでしょうか? これはタイムレスなデザインだと思われますか?

オリバー氏:毎日悩んでいるが「近代化する」「新たな解釈をする」「レトロに走る」といった違いは本当に微妙な違いでしかない。チームとしては役に立ったのは原点に戻ったことで、初代MINIをデザインしたひとが現代にいたらどんな風にデザインするかをイメージした。タイムレスなデザインかどうかは10年や15年経ち、振り返って分かるものなので、私にはまだ分からないが、タイムレスなデザインになっていることを祈っている。

──MINIがMINIらしくあるための絶対的な要素とは?

オリバー氏:チームはすでに次のデザインを始めていて、まさに同じことを自問自答している最中。絶対にキープしなければいけないのは、ルーフと窓の部分とボディの3層構造と、丸みを帯びたヘッドライト。遠くから見てもMINIだと分かるプロポーションも重要な要素としてどのように進化させるかがポイント。ユニオンジャックのテールランプは、今回は残しているが、ブランドとして絶対に残さなければいけないデザイン要素ではないと考えている。大事なのはいろいろなものを削ぎ落しても、見たときに感情が掻き立てられなければいけない、エモーショナルでなければいけないし、ディテールが特別でなければならないと考えている。

──電動化が進むとMINIのデザインにも影響が出てくるのでしょうか?

オリバー氏:MINIの場合はプロポーションに影響があると思うが、それはよいことだと考えている。ユーザーがMINIを買うのは、エンジンではなくブランドを好きだから買ってくれていると思うので、電動化をあえて強調する必要はないと思っている。

オリバー氏が「MINIの多様性が伝わってくるのでお気に入り」という写真