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「パナソニック グループ IR Day 2022」レポート オートモーティブシステムズとエナジーの経営トップが事業戦略を語る

2022年6月1日 開催

パナソニック オートモーティブシステムズの永易正吏社長兼CEO

「パナソニックライフカー」を作りたい

 パナソニックグループは6月1日、機関投資家や証券アナリストを対象にした「Panasonic Group IR Day 2022」を開催し、各事業会社の経営トップが事業説明を行なった。その中から、自動車分野に関連するパナソニック オートモーティブシステムズおよびパナソニック エナジーについてレポートする。

 説明の中で、パナソニック オートモーティブシステムズの永易正吏社長兼CEOは、「パナソニックはクルマを作らないのか、とよく聞かれるが、自動車メーカーが作っているようなクルマを作るつもりはない。そこにパナソニックにとっての価値はない。だが、人のUIやUXにまつわる車室空間ソリューションでは貢献ができる。調査すると、車室空間にはさまざまな期待があり、しかも、日常生活の困りごとと関連があるものが多い。人と暮らしに寄り添い、その知見を持つパナソニックだからこそ提案できるソリューションによって、クルマの移動にさらに付加価値を提供できる」とコメント。「社内では『パナソニックライフカー』を作りたいといっている。クルマを作るのではなく、パナソニックがプロデュースする移動での体験を事業にできないかという検討を進めている。これがパナニックの貢献領域である。Panasonic as a Producerとして、これまでのTear 1の立場とは異なった自動車メーカーへの貢献ができるのではないかと考えている」とも述べた。

 パナソニック オートモーティブシステムズは、車載コックピットシステムや車載エレクトロニクス事業を担当。コックピット統合ソリューションとEVソリューションを成長領域に位置付け、快適、安全、安心、環境をキーワードに、各種車載製品の開発、製造、販売を行なっている。売上構成比ではパナソニックグループ全体の14%を占めている。

パナソニック オートモーティブシステムズは車載コックピットシステムや車載エレクトロニクス事業を担当

 2021年度の業績は、売上高は前年比5%増の1兆671億円、調整後営業利益は116億円増の23億円と黒字転換。営業利益も前年度比131億円増の13億円となり黒字転換した。

 永易社長兼CEOは、「コロナ禍の影響や半導体逼迫の影響で自動車生産台数が変動し、収益への影響があったが増収増益を達成した」と総括。「2018年度以前は、意欲的に新規領域の拡大を図り、急激に売上げを伸ばし、業界内でのポジションを獲得するという成果を得たが、その一方で急拡大のひずみがあり、オペレーションの課題が顕在化し、収益を大きく痛めた経緯があった。2019年度からは収益優先の事業方針を打ち出し、受注前の意思決定プロセス、受注後の仕組みを一新した。2021年度は収支が厳しい充電器事業や、仕入販売であるクロスセルを除くと、5%の営業利益率を見込めるところまで体質が改善した。だが、外部要因の影響を受けて黒字を確保したものの、収益が痛んでいる状況にある」と述べている。

 2022年度からは、半導体不足の長期化リスクは存在するものの、グローバルの自動車生産は回復基調に転換すると見込んでおり、さらに2021年にはEV化の流れが急加速していることから、2030年には新車販売の約30%がEVになると予測。パナソニックにとって、ビジネスチャンスが広がると見込んでいる。

2030年には新車販売の約30%がEVになると予測

 永易社長兼CEOは「EV化やサービス化の進展により、クルマの設計や開発にも変化が生まれている。たとえば、ECU(電子制御ユニット)の統合化の動きが進んでおり、パナソニックの主力製品であるIVI(in-vehicle infotainment)は、HUD(ヘッドアップディスプレイ)やメーターなどと機能統合し、CDC(コックピットドメインコントローラ)へと進化している。また、EV化や自動運転の進展により、ソフトウェアの付加価値が上昇し、ECUのソフトウェアとハードウェアの分離開発がはじまり、自動車メーカーはソフトウェア開発を内部化しようとしている。自動車メーカーにしっかりと入り込むことで、ソフトウェア開発で継続的に貢献できるかが鍵になる」とする。現在、開発者の約3割がソフトウェア技術者であり、そのリソースをいかに活用するかが重要になりそうだ。

クルマの開発トレンド

 また、パナソニック オートモーティブシステムズの2024年度に向けた方針については、「今後3年間はオペレーション力強化を最優先し、ピンチをチャンスと捉え、変化対応力を強化し、収益性を高め、競争力を強化することに努める」と述べた。

 オペレーション力強化では、開発の効率化を目指す「開発オペレーション」と、設計、製造、調達との連携や、SCM改革、製造ムダ取りなどによる「量産オペレーション」に分けて強化。生産リードタイムの短縮のほか、2024年度には車載コックピットシステムのソフトウェア開発の生産性を3倍に、アーキテクト数を1.5倍に増強するとし、「開発費のコントロールは1丁目1番地の課題として取り組んできた。とくにソフトウェア開発の効率化は大きなテーマであった。2年間で100億円の開発費の削減を行なったが、プロセスから見直し、アーキテクトの効率化も3倍に高めていく。ソフトウェア開発が複雑化、大規模化する中で、最適解となる開発方式や、構造設計を司るアーキテクトの役割が重要になる。開発競争力をつけ、変化対応力を強化する」などと述べた。

2024年度には車載コックピットシステムのソフトウェア開発の生産性を3倍に、アーキテクト数を1.5倍に増強

 パナソニック オートモーティブシステムズの経営指標としては、2024年度には累積営業キャッシュフローで2000億円、ROICで8.5%を目指すとしており、「利益増額と在庫の適正化を進める。キャッシュを創出し、自前で成長投資ができる事業体質になることを目指す」と述べた。

2024年度には累積営業キャッシュフローで2000億円、ROICで8.5%を目指す

 さらに2030年に向けては、「クルマの進化に貢献するコックピット統合ソリューションやEVソリューションの進化」「コックピット領域でパナソニックらしい新たなUX価値の提案や商品化」「モビリティ社会の変革を目指した新たなサービス事業の創出」「環境貢献への取り組み」を重点テーマに挙げた。

2030年に向けた方向性

 コックピット統合ソリューションでは、IVIやHUDに注力し、その中核となるCDCを強化する。CDCでは第1号顧客として海外の自動車メーカーと契約したことを初めて公表。「ソフトウェアの開発規模が飛躍的に増加し、複雑化する領域であり、システムの骨格を作る力に加えて統合化への動きを捉えて、そこで重要な技術となる仮想化技術を獲得したり、いち早くGoogleなどのグローバルITプレーヤーや自動車メーカーとも協業してきた。技術進化への貢献に加えて、運転者の情報視認性や機器の使用感など、デバイスとシステムの両輪で、人に寄り添ったUI、UXの向上、安全な運転にも貢献していく」とした。また、HUDについては、「現在は4位か、5位の市場シェアだが、確実に3位になれる。収益性を確保しながら事業を拡大したい」と語った。

 また、EVソリューションではパワーエレクトロニクス技術を活用し、充電器やデバイスによってEV市場拡大に貢献。自動車メーカーのテクノロジーパートナーとして取り組んでいくという。「パナソニックは、高出力充電器事業を強化していく。欧州での充電器事業が赤字になったことが大きな反省点ではあったが、ここでの開発と生産を通じて、獲得できたものも多い。高出力充電器をラインアップとして提供できるのは、いまは世界中でパナソニックともう1社だけ。単なる充電器のサプライヤーに留まらず、ユーザーの困りごとを解決するテクノロジーパートナーとして、EV普及が進む社会に貢献したい」と述べた。

コックピット統合ソリューションとEVソリューションでクルマの進化に貢献していく

 EVの普及において、大きな課題の1つは充電時間としており、「充電時間を短縮するためにはパワーエレクトロニクスの技術が必要であり、高出力充電器が大きな役割を果たす。充電時間を短縮するためにどんどん高圧になっていく。いまは400Vが中心だが、今後は800V対応の世界になっていくだろう。それに対応する充電器があって、初めて充電時間の超短縮化が実現できる。そこに向けて仕込みをしている」と述べた。

 また、パナソニックでは9.6kW以上の領域を狙っており、2030年度にはこれが半分以上を占めると予測。「2025年度までは高出力化が課題になる。パナソニックはここで先行している。デバイス技術、回路のパワーエレクトロニクス技術で差別化できれば戦っていける。現在、充電器のシェアは15%。これを維持できれば将来、大きな事業規模になる」とした。

 一方、クルマでの移動により付加価値を提供するために、2030年以降の人々の暮らしや価値観、移動スタイルの変化を予測し、逆算する形で新たなソリューション事業の探索を開始していることも明らかにした。

 例えば、運転が苦手な人や知覚判断に自信がない人のための運転支援ソリューション、ウイルスや嫌な臭い、花粉などから空気をバリアし、無力化する車内衛生ソリューション、忙しい現代人を短時間で心身ともにリフレッシュさせるパワーリセットソリューション、人やクルマの情報をサイバー攻撃から守る車両セキュリティおよび監視ソリューションなどを検討しているとしており、「クルマの進化を起点にした開発に加えて、人を起点にした開発が加わることで、信頼と安心を届けることができる」と述べた。現時点では調査・検証フェーズだが、仕様化、事業化に向けた方向へとシフトチェンジしていくという。

新たなソリューション事業の探索を開始

 また、クルマのバリューチェーンの価値が、新車の販売から販売後のサービス領域に移行していくと予測。「すでに、送迎などのサービス事業を開始しているが、2022年4月からは社長直轄の新事業推進室を立ち上げ、サービス事業に創出に取り組む」という。

 環境貢献では、「パナソニックグループ全体として責務として取り組む考えであり、当社にとっての競争の源泉にしたい」とし、「パナソニックグループ全体の目標に先駆けて、オートモーティブシステムズでは2022年度に自社主管拠点のCO2排出量実質ゼロ化を目指す」と述べた。

環境への取り組みについて

 なお、パナソニック オートモーティブシステムズの売上高の約6~7割が日系企業向けのビジネスであり、永易社長兼CEOは「競争力が発揮できるところで共創活動を行なっている。競争力を活かせるところに絞り込んで事業を推進する」と述べた。

4680セルは5月からパイロットラインが稼働し、大規模な試作ができるように

パナソニック エナジーの只信一生CEO

 テスラ向けの車載電池などを担当するパナソニック エナジーは、2022年4月の持株会社制のスタートにより、パナソニックグループの中に分散していた電池事業を再集結した格好だ。

 パナソニック エナジーの只信一生CEOは1923年に乾電池の生産、販売を開始してから約100年の歴史を持つ事業であることを強調する一方、現在、EV向けバッテリーを生産、販売する「車載事業」と、市販用乾電池やデータセンター向け蓄電池、蓄電ユニット、スマートメーター用電池、アシスト自転車用電池、医療機器向け電池、建機および農機向け電池などを担当する「産業・民生事業」の2つの事業体制で展開していることを説明した。

パナソニック エナジーは「車載事業」と「産業・民生事業」の2つの事業体制で展開

 2021年度の売上高は、前年比27%増の7644億円、調整後営業利益は304億円増の682億円、営業利益が32億円増の642億円となった。そのうち車載事業の売上高は前年比45%増の4684億円。只信CEOは「車載事業の販売拡大、産業・民生事業の収益拡大で増収増益となった。車載電池の旺盛な需要に対して、北米での新ラインの稼働が貢献している」と総括。

 2022年度の業績見通しは、売上高は前年比10%増の8480億円、調整後営業利益が158億円減の550億円、営業利益は148億円減の520億円を見込んでいる。只信CEOは「材料価格の上昇を価格改定や合理化と増販益でカバーするが、将来に向けた投資の実行により、減益の計画にしている」とコメントするとともに、「車載分野は環境負荷低減を目的にEVの本格普及の時期に入っている。電池市場はかつてない勢いで拡大している。産業・民生の分野もデジタル社会の拡大に向けたデータ量の増大、再生可能エネルギーの有効活用などにあわせて、社会インフラの電化、電動化が加速することで新たな需要が生まれている。モビリティエナジー、エナジーソリューショュン、エナジーデバイスの3つの事業を通じて、モビリティの電動化を支え、CO2排出量を削減。非常時も止まらない安心安全な社会インフラの実現や、環境にやさしい電池で便利、快適なくらしを提供することに取り組んでいく」と述べた。

 2024年度の売上高は2021年度比で2000億円増の9700億円、営業利益は200億円増の870億円、EBITDAは300億円増の1500億円、EBITDA率は16%、3年間の累積営業キャッシュフローは3300億円、ROICは12%。また、カーボンフットプリントを2021年度比で50%に、商品を通じたCO2削減貢献量を2030年度に6000万tとする。

中期経営目標

 中長期戦略については、「持続的な成長の実現に向けて、車載の成長性と産業・民生の高い収益性の両輪経営を実践。環境貢献の活動を通じて、サステナブルな社会環境の構築をリードする」と述べた。2026年度までは売上高で年率10%以上の成長を計画。EBITDA率20%を目指すという。中期的に1000人前後の人員増加を計画しており、そのうちの半分強が、技術者などの価値を生み出すための人材になるという。

中長期戦略について

 車載電池事業については、「パナソニックが持つ高容量の強みが活き、強い事業基盤を有する北米市場に注力する。実績がある2170セルの拡販と、4680セルの事業化先行により、円筒形電池の事業基盤を強化する」という基本戦略を示した。

 パナソニックでは、2008年に円筒型リチウムイオン電池「1865」の量産を、2017年には「2170」の車載用電池の量産を開始。これまでに1865で46億セル、2170で55億セルを生産。合計で100億以上のセルを市場に供給しており、EVに換算すると170万台相当の円筒形電池を市場に供給したという。只信CEOは「円筒形プラットフォームの開発と、材料技術の進化により、常に高容量化で業界をリードしてきた。EVの進化に貢献しており、北米市場ではシェア1位となっている。モノづくり企業としては当たり前のことではあるが、安全設計を中心に置いており、リコールなどの重大な問題は一度も発生していない」と語り、「2170セルもさらに進化させることになり、さらに新たな4680セルによってEVの進化、普及に貢献をしていく」と述べた。

EVに換算すると170万台相当の円筒形電池を市場に供給したという

 2028年度には、現在の3~4倍の生産能力拡大を目指しており、とくに北米での生産能力を拡大。「競争力を担保するためにも最低限やっていかなくてはならない量である。円筒形電池の性能、安全性を評価する顧客との戦略的パートナーシップを引き続き強化することになる」とし、「2170セルでは、生産性の改善と新技術により継続的な性能向上を実現し、競争力を向上させる。戦略的パートナーへの供給増に加えて、北米のスタートアップ企業からも多くの引き合いがあり、新規顧客開拓にも乗り出す。また、4680セルは開発、量産に向けた開発を進め、和歌山工場において2023年度から事業化し、戦略パートナーに供給を開始する計画である」とした。

事業戦略骨子

 4680セルは、原型開発が完了し、2022年5月からパイロットラインが稼働して大規模な試作ができるようになったことを初めて公表。顧客へのサンプル納入を開始し、評価が行なえるようになったという。また、和歌山工場の建屋の改装や、納入する設備の製作も開始しており、「現時点では目論見通りの進捗になっている」とした。

4680セルについて

 技術開発においては、高信頼と高性能の両立に向けて、新技術や新工法の開発にめどがついたこと、モノづくりおよびオペレーションでは、和歌山工場においてグローバルオペレーションを前提としたモノづくりや生産システムを確立している段階にあること、サプライチェーンの観点では、安定的な供給を行なうため、原材料のマルチソース化を進めるとともに、現地調達率を将来的には50%にまで引き上げることを目指した活動を進めるとした。「4680セルによって、技術面、資源面、コスト面でも市場をリードしていく。これまで北米において事業を立ち上げた際のさまざまな経験を生かして着実に進めている」と述べている。