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三菱電機、電動化・ADASを重点成長事業から格下げ 自動車機器事業の分社化に向けて始動

2023年5月29日 発表

三菱電機 専務執行役 インダストリー・モビリティBAオーナーの加賀邦彦氏

 三菱電機は5月29日、「IR Day 2023」を開催し、インダストリー・モビリティBA(ビジネスエリア)の事業戦略について説明。自動車機器事業であるモビリティでは、2025年度の売上高を7000億円に下方修正した。これまでの中期経営計画では、最終年度となる2025年度には8000億円を目標としていたが、課題事業の早期終息を加速するほか、分社化による構造改革や事業変革を推進することを反映した内容となった。また、これまで重点成長事業に位置づけていた電動化・ADAS事業を、構造改革事業に格下げした。

 三菱電機は2023年4月に自動車機器事業の分社化を発表しており、それを盛り込んだ新たな計画としている。2025年度の営業利益率はこれまでの目標と同じく5%以上を目指す。なお、モビリティの2022年度実績は、売上高が8164億円、営業利益はマイナス462億円の赤字だった。

 三菱電機 専務執行役 インダストリー・モビリティBAオーナーの加賀邦彦氏は、「自動車機器事業の分社化により、製販一体運営による意思決定のスピードアップが可能になり、産業転換期における自動車機器事業の競争激化に対応できる。強みを活かしたレジリエント事業の強化、パートナーとの協業によるシナジーでの再成長を目指す。また、モノづくり力を生かしたBA内でのシナジーの創出や、全社成長にも貢献する」と述べた。

 2025年度の売上高7000億円の計画のうち、レジリエント事業は4000億円、営業利益率8%以上を目指す。レジリエント事業は、電動パワーステアリングやカーメカトロニクス、オルタネータ、スタータなど、同社の技術的な強みが活かせる分野であり、収益力を強化できる領域と位置づけている。

2025年度に向けた事業運営と目標

 加賀専務執行役は「レジリエント事業は、長年に渡り、お客さまからの信頼を獲得し、高いシェアを有している。また、レジリエント事業を支えるパワーエレクトロニクス、センシング、モーター、無線通信などの技術資産の蓄積や、生産、加工、評価などのモノづくり技術や特許も数多く有している。コスト削減と効率化を推進し、収益性の期待できる機種群やプロジェクトに集中させていく。この分野では、お客さまに対して、価格転嫁や契約条件の見直しのお願いもしている」と述べた。

 同社の調べによると、パワーステアリングの世界シェアは18%、オルタネータでは15%、スタータでは14%、インバータでは10%を獲得。ドライバーモニタリングシステムでは24%、EGR(排ガス再循環)バルブでは16%のシェアを持つという。

自動車機器事業の強み

 モビリティの構造改革では、レジリエント事業に関しては、前述したように、強みにフォーカスし収益力強化を進める一方、CASE(電動化およびADAS)関連事業ではパートナーとのシナジーによる成長を目指す。また、カーマルチメディアをはじめとする課題事業は早期終息による事業転換を図る。さらに、ものづくり力や資産を、三菱電機の他の成長領域に展開する方針を示した。

構造改革の実行
各事業の目指す方向性
加賀専務執行役

 加賀専務執行役は、「事業ごとに目指すゴールを明確化し、スピード感を持って、構造改革と事業変革を推進することになる」とし、「CASE事業については、電動化においては三菱電機が強みを持つパワエレ回路設計技術やモーターの制御技術と、他社が持つギアや車体適合技術が、シナジーを発現できるようなパートナーとの協業によって、再成長を目指したいと考えている。ADAS分野では、高精度ロケーターや運転状態モニタリングなど、独自の特許技術を活かせるパートナーと組んで、システム全体の差別化や、総合的な提案力の強化につなげたい。成長する絵が描けるパートナーと組みたいと考えており、協業に向けた活動を開始している」と述べた。

 電動化やADASでの取り組みとしては、5月24日には、ハンガリーの Commsignia Ltd.(コムシグニア)との戦略的パートナーシップ契約を締結し、V2X(Vehicle-to-Everything)に展開。三菱電機の高精度ロケーターと組み合わせて、ADASを実現するためのV2Xプラットフォームを提供することを発表している。

Commsigniaとの提携によって実現する高精度位置情報と地図情報を使用した衝突リスクの判定

 また、経済産業省と国土交通省が共同で進めているRoAD to the L4プロジェクトにおいては、自動運転移動サービスの実現に向けた実証実験に参画。三菱電機が道路運送車両法に基づいて開発した、自動運転制御装置を搭載した国内初のレベル4車両が、福井県永平寺町で、5月21日から運行を開始。遠隔型自動運転システムによる無人自動運転移動サービスを提供するといった取り組みもある。

福井県永平寺町で、5月21日から運行を開始した自動運転移動サービス

 一方、他の成長領域への展開については、「カーマルチメディアを基盤とする豊富なソフトウェア技術、車載やモーターで培った高速自動化量産技術、機電一体小型設計技術などを活用して、FAシステムの次世代コントローラの開発やラインアップの拡充、グローバル生産体制の増強につなげたい。その一方で、最新FAコンポーネントを自動車機器事業に導入したモノづくりを推進し、レジリエント事業の稼ぐ力の強化につなげていく」と語った。

 さらに生産拠点の再編にも言及。「収益性の期待できる機種群やプロジェクトに集中する一方で、生産ヤードや資産の最適化を図ることになる」とした。

グローバル生産戦略

 具体的には、海外11拠点の生産ヤードを、2027年までに、約40%となる4~5拠点をスリム化。余剰ヤードは、量産系事業を中心に、海外生産拠点や物流拠点として転用するほか、現地の人財や、蓄積したノウハウを活用して、全社のグローバル成長に貢献する考えを示した。「単に拠点を閉めるだけでなく、FAシステムや空調冷熱などの成長領域に活用していくことを考えている」と述べた。

三菱電機 執行役社長 CEOの漆間啓氏

 IRDay 2023の1番目のセッションで、三菱電機の経営戦略を説明した三菱電機の漆間啓社長 CEOは、「自動車機器事業は、分社化の準備を進めており、事業運営の効率化と、事業ポートフォリオの再構築をスピーディに進めたい。電動化およびADASについては、中期経営計画のスタート時には、重点成長事業のひとつに位置づけていたが、今回、その位置づけを見直した。電動化およびADASについては、三菱電機単独ではなく、シナジーを見込めるパートナーとの協業を進め、再成長を目指し、収益性、資産効率を高めることになる」とした。

 また、加賀専務執行役は、「将来的には、重点成長事業として、もう一度取り組んでいくことも視野に入れて検討している」と述べた。自動車機器事業の分社化については、「プランの設計をしている段階であり、上期中には分社化について詳細な体制を決めていくことになる。2023年度中には完遂したい。そのためには、2023年度の自動車機器事業の黒字化を必達し、分社化後の再成長を軌道に乗せられるように、事業ごとの構造改革に取り組んでいく必要がある」と語った。

 なお、インダストリー・モビリティBA全体では、2025年度に売上高で約1兆7000億円、営業利益率で14%以上を目指す。そのうち、FAシステムを担当するインダストリーの売上高は1兆円、営業利益率は20%以上を目指す。

2025年度の財務目標