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ブリヂストンの柔らかいロボット「モーフ」を体験できる無目的室「モーフ・イン」に行ってみた

2024年5月17日~25日 開催

入場無料

ブリヂストンのゴム人工筋肉を使った柔らかいロボット「モーフ」を体験できる施設が原宿に5月17日~25日の期間限定でオープンしている

 ブリヂストンの社内ベンチャーである「ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズ」は、クリエイター集団「konel(コネル)」と共同で、ユーザーに対して未来体験を提供するための共創型プロジェクトを4月に立ち上げた。

 このプロジェクトでは、ブリヂストン製のゴム人工筋肉を用いた、柔らかいロボット「Morph(モーフ)」を開発していて、そのモーフを使った体験型施設である無目的室「Morph inn(モーフ・イン)」を、5月17日~25日の期間に原宿にある「seeen(シーン)」にオープンした。入場は無料。

 そこで今回、一般公開前に行なわれたモーフ体験ツアーに参加してみた。

5月25日までの期間中、事前予約をするとモーフを体験できる。予約は専用Webサイトから可能。開場時間は11時~19時で、モーフを利用できるのは17時45分まで。入場無料
プレスツアーのガイドを務めたのはkonel(コネル)/知的図鑑 クリエイティブディレクター CEOの出村光世氏(左)と、ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズ創業メンバー/主幹の山口真広氏(右)
東京都渋谷区神宮前4丁目12-12にある「seeen」で公開している無目的室「モーフイン」。忙しい日々を過ごす現代人は「目的のない時間」を持ちにくい状況だが、モーフに身を委ねつつ無目的な時間を過ごすことにより思考をリラックスさせ、いつもより豊かな時間を体験してもらうことをテーマとした施設
地下室にモーフが2台設置されている。事前予約をすればモーフを体験できる。1階は予約なしでも見学可能

ブリヂストンが開発するラバーアクチュエーター

 モーフのメイン技術として使われているのは、ブリヂストンがゴム素材の研究開発で得た知見を生かした「ラバーアクチュエーター」だ。ラバーアクチュエーターは、タイヤや油圧ホースの技術を使ったゴムチューブと、それらを包む高強度繊維であるケブラーを使ったスリーブで構成されていて、ゴムチューブに空気やオイルなどの流体を封入し、圧力を加えることでチューブが膨らみ筋肉のように収縮。そしてその際に生まれる力がアクチュエーターとしての機能を発揮するもの。

 ラバーアクチュエーターのコンセプトモデルとしては、「人の手」のようなロボットがあり、これは従来のロボットハンドがやれなかった繊細で器用な手の動きが再現できるのが特徴。ラバーアクチュエーターを使うロボットハンドは、例えば柔らかいものをそっと包み見込むように持つこともできる。

 こうした「柔らかさ」を兼ね備えたゴム人工筋肉の指を持つロボットハンドは、正確、精密さが求められる従来のロボットハンドの世界になかったもので、これまでより多用途に、そして便利に使える技術として期待されている。

ブリヂストンが開発を進めているラバーアクチュエーター
ラバーアクチュエーターの構造。サイズは数種類ある。ラバーアクチュエーターは「柔らかい」「衝撃に強い」「水に強い」「繊細かつ、ダイナミックな動きが可能」「軽くて力持ち」という特徴がある
理想の収縮を実現するためにはケブラーの編み方がポイントだという

ゴム人工筋肉を活用したソフトロボティクス

 ゴム人工筋肉を使ったこの事業は、「ソフトロボティクス」という分野になる。ソフトロボティクスは従来よりも柔軟性のある素材と、高度な制御システムを掛け合わせることで、繊細かつしなやかな動きの実現を目指すもの。そのため、タイヤ、ゴム業界のリーディングカンパニーであるブリヂストンでは、「ブリヂストン ソフトロボティクスベンチャー」を創業してゴム人工筋肉を開発している。

 この技術は将来にわたり多方面への技術応用と革新が期待されているが、現状では工業や物流倉庫など限られた領域でしか認知されていない状況でもある。

 そうしたことからブリヂストンは、ソフトロボティクスが使われる環境をもっと広めていくため、「人とロボットとの歩み寄り」という視点からの新たな展開を模索。さらにその方向に進むためには、人とロボットが互いを信頼し合い、委ね合う体験が必要であると考えたことから「先端技術を用いた可能性の創造」を追求するクリエイター集団コネルとの共創型プロジェクトが発足したという。

 なお、ブリヂストン ソフトロボティクスベンチャーは、これまでに3体のロボットを手掛けている。

ラバーアクチュエーターを用いたソフトロボットハンド「TETOTE」
ソフトロボットハンドのコンセプトモデル「Dialogue」。国際的なデザイン賞である「iFデザインアワード2023」で金賞を受賞
ふれあいを通じて人の心を動かすロボットのプロトタイプ「umaru」

ゴム人工筋肉と自然界からのデータを組み合わせる「Morph(モーフ)」とは

 モーフは、ゴム人工筋肉を使ったロボットハンド開発時に、山口氏が実物を手に取ってその動きを体感したときに「動きに夢中になり」「言葉にならないような感情」を得たことが始まりだったという。

 このことについて山口氏は、「ロボットハンドは産業とともに発展していくのものなのでしょうが、僕としてはゴム人工筋肉の柔らかな動きを目にしたときに、これらをたくさんつなげたところに“ダイブ”してみたいと思いました。おかしな発想だけに、自分としてもどうしてそう思ったのか理由が知りたかったので、よく考えてみたところ1つの答えにたどり着きました。たとえ家族が相手であってもなかなか難しいのが“自然体で過ごす”です。それこそ全身を預けて“甘えるような”ことはなかなかやれないと思います。でも、相手がロボットであればできるのではないか? それが未来への新たな価値観につながるんじゃないかという仮説を立てたのです。そこでいろいろな無理難題をコネルの出村氏へ投げさせていただき、1年ほどかけて現在のモーフができ上がったのです」と開発経緯を語った。

 山口氏は、ラバーアクチュエーターを使うロボットハンドの動作について、「強弱」といった言葉でなく、ものをそっとつまめることをイメージしやすい「いい感じ」という言葉で表現していた。

 モーフはラバーアクチュエーターに空気を送ることで生物の筋肉のような伸縮をするのだが、その伸縮のためのデータは自然界にある動きから得たものだ。例えば動物が休んでいるときの様子を記録した映像から特徴となる部分を映像技術を使って抽出することで、生き物ならではの細かい皮膚の動きを読み取り、それをゴム人工筋肉動かすデータとして使用している。また、生き物意外にも海の潮の満ち引きなどさまざまな自然界の動きを抽出してデータ化していて、現在は30種類ほどのモーションデータを持っているとのことだ。

 なお、モーフには2つのモデルがあり、1つは4本の足が付いたイスのような形状で、腰掛けることもできるし、連結することでベッドのようにも使えるため、モーフ・インでは3つ連結してベッド形状としている。そして大きなモーフの上に乗っている黒いクッションのようなものもモーフで、こちらは「モーフミニ」と呼ばれている。

生き物の胎動や自然界の動きはパターンがないため、その動きを再現するモーフとモーフミニは人が予想できない動きをする

モーフインで体感できること

 今回の体験ツアーでは、モーフとモーフミニを、短時間だが筆者も体感できた。

 モーフにあお向けに寝転んだあと、モーフミニを身体の上にセットするのだが、その際モーフミニを抱き枕のように抱えてもいいし、掛け布団のようにかぶるのも自由とのことだったので、布団に寝るようにかぶってみることにした。

 モーフとモーフミニに使われているカバーは、生き物の皮膚のような肌触りの繊維が使われていて、モーフ自体の感触も“フワフワ”ではなくて、多少の沈み込みはあるがしっかり感があるものだった。

 体験する準備が整うとモーフに空気が送られ動き出すが、身体を預けているモーフからは大きくゆっくりした動き感じられた。そしてかぶっているモーフミニは身体を軽くつかむような動きだった。

 上下で異なる動きである。しかもそれら動きは一定のリズムがあるのではなく不規則なもの。これをどう表現していいか難しいのだが、動きの大きかったモーフミニから感じるイメージは筆者の経験のなかで似た感覚のものを探したところ、膝の上(ももの上)犬や猫を乗せているようなイメージが浮かんだ。ジッとしていたり小刻みに動いたり、ときには大きく動いたりとそんなところである。機械に身を委ねているけれど、相手が機械とは思えない、何とも不思議な感覚だったが、生き物の筋肉の動きを再現できるモーフだからなのだろう。

 それに対してモーフはわずかな力でゆっくり動く感じで、リラックス効果のある印象だった。なお山口氏はこうしたモーフの動きについて「精神的に解放される」「甘えさせてもらえる」という表現を使っていたが、この不思議な感覚は、ぜひ自身で体感してみてほしいところだ。

このような体勢でモーフを体験(写真で寝ているのはスタッフ)。モーフを3つ連結し、モーフミニを身体にかけている
モーフのカバーは動物の皮膚のような質感を持っている
モーフ内に仕込まれるゴム人工筋肉にはホースを通じて空気が送られている

共創型プロジェクトのパートナーシップも受け付け中

 このプロジェクトでは、ソフトロボティクス分野の発展や未来に関するオープンコミュニケーションを生み出すことや、従来のロボットの姿にとらわれず、ロボットそのもののあり方、よりよい未来の姿について模索していくとのことを目的としている。そのため、これからの活動を推進するための協賛、協力を受け付けている。ゴム人工筋肉を支える骨格や、人とのインターフェイスになる皮膚、自然界の動きをセンシングするテクノロジ、それに議論を深めるための実証フィールド、展示機会などのコラボレーションを歓迎している。

 このプロジェクトと共創したいという企業・団体・個人を、モーフ・イン特設Webサイトで募集している。第一次募集期間は2024年6月28日まで。

モーフ・インのチェックアウト時に参加できるモーションデータの提供。カメラが付いた機器の前で約40秒間、身体を動かしてそれをモーションデータとして記録するもの。自分の動きがソフトロボティクスの研究開発に役立つのはちょっと楽しい