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KDDI、ティアフォー、アイサンテクノロジーなど5社、配送ロボット・自動運転車・ドローン協調制御による国内初の「協調配送」実証実験
2024年12月7日 09:28
- 2024年12月6日 開催
KDDI、ティアフォー、アイサンテクノロジー、KDDIスマートドローン、KDDI総合研究所の5社は12月6日、「全自動配送」の実現に向けた配送ロボット・自動運転車・ドローンを組み合わせる国内初の「協調配送実証」に成功したと発表し、報道関係者に実証実験のデモンストレーションを公開した。
日本では現在、労働力不足を背景として国内の物流領域における「物流の2024年問題」や交通空白、買い物難民などが社会課題となっており、多角的なモビリティを協調制御で組み合わせた全自動配送の実現による配送の効率化が期待されている。
将来的な全自動配送の実現に向けた協調配送実証では、配送ロボットの稼働範囲と自動運転車の運行区間、ドローンの飛行範囲などを最適化する「統合配送経路計算技術」を開発。荷物の配送に関わる配送ロボット・自動運転車・ドローンなどそれぞれが利用する異なる位置・座標情報のデータ形式を変換して、各モビリティが持つ能力と運用効率を最大化させる配送経路が自動計算される。
なお、この実証実験は、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)から受託した「スマートモビリティプラットフォームの実現に向けたドローン・自動運転車の協調制御プラットフォームの研究開発(採択番号:JPJ012368C01601)」の一環として実施された。
この技術を活用することで、荷物を受け取った配送ロボットとドローンを搭載する自動運転車がそれぞれの現在地のデータを連携させ、両者にとって最適な合流地点を算出。合流地点まで移動して配送ロボットから自動運転車に荷物を渡したあと、ドローンの最適な飛行開始地点まで自動運転車が移動し、最終的な配送を行なうためドローンが離陸する。
現在は配送ロボットから自動運転車、自動運転車からドローンといったモビリティ間で荷物を移し替える場面に人の手が介在しているが、将来的にはこのような取り組みを受けて荷物をハンドリングするロボットアームなどの開発が進み、人手を必要としない全自動配送に発展していくことが期待されている。
5社は実証実験を続けて技術開発を進め、労働力不足が顕在化する2030年を目途に全自動配送の社会実装を目指す構えだ。
実証シナリオ・その1「配送ロボットが店舗で荷物を受け取り、自動運転車へ」
公開された協調配送実証デモでは、千葉県君津市にある閉校になった学校をドローンスクールなどに活用している施設「コードベースキミツ」の校舎を商業施設に見立て、配送ロボットが店舗(教室)で荷物を受け取る場面からスタート。
実証シナリオ・その2「自動運転車に荷物が渡され、ドローンへ」
配送ロボットと自動運転車は待ち合わせのポイントでの合流後、配送ロボットが再移動して自動運転車の近くに接近。現時点では人の手で荷物の移動が行なわれるのでそれほど意味のある部分ではないが、将来的に荷物の受け渡しも自動化されることを先取りした制御が行なわれている。
実証シナリオ・その3「荷物がドローンに搭載され、フライト開始」
締め括りは自動運転車とドローンの連携。5社による取り組みでは、すでに2023年9月に行なわれた実証で自動運転車がけん引するキャリアからドローンが離着陸するテストにも成功しているが、今回は会場スペースの関係でドローン運搬用のキャリアが運用できなかったため、「ドローンが飛び立つ最適ポイント」として仮定された地点で自動運転車とドローンが合流して荷物の受け渡しが行なわれた。
ドローンが向かう荷物の最終目的地は、雑木林の丘を越えた先にある山のなかに設定。クルマでは大きく迂回しなければたどり着けない場所だが、垂直に移動できるドローンなら最短距離を進んで効率よく荷物を届けることが可能。また、災害が発生して道路が寸断されたときの被災地向け物資配送への活用も期待されているという。
また、統合配送経路計算技術では風向きを飛行に利用してドローンの消費電力を抑え、より遠くまで荷物を届けて配送効率を向上させる自動計算も行なわれていることを示すため、ドローンの離陸後に自動運転車が移動して、荷物を届けたあとのドローンを別の場所で回収するシーンも披露された。なお、風向きなどの気象データはインターネット上で公開されているAPIを活用しているとのことだ。
統合配送経路計算技術でドローンのバッテリを最大限活用
報道公開にあたって技術解説を行なったKDDI 先端技術統括本部 先端技術研究本部 応用技術研究1部 エキスパート 樫原俊太郎氏は、2021年にNICTから受託した「ドローンと自動運転車の協調制御プラットフォーム」の開発では、モビリティごとにまったく異なる技術を背景とした位置情報や三次元地図を使っており、1つのサービスとしてまとめるためには相互で理解できるよう翻訳する必要があり、この実現によって協調制御プラットフォームとして位置付けられると説明。
このほか、地上の5G基地局によるセルラー通信と宇宙空間にある衛星で実現している衛星通信をハイブリッドさせ、状況に応じて使い分ける「Beyond 5Gネットワークアーキテクチャ」は、人口密集地を中心に展開しているセルラー網では山間部でドローンを飛行させる際に通信圏外になってしまうケースもあり、こうしたシーンを衛星通信との連携によってカバーして、ドローンが飛行できる領域を拡張する重要な技術となっている。
2023年9月に行なわれた実証実験では、ドローンが利用するGNSS(Global Navigation Satellite System)と自動運転車が利用するSLAM(Simultaneous Localization and Mapping:移動体の自己位置推定と環境地図作成を同時に行なう技術)という異なる測位方式を用いるモビリティを協調制御プラットフォームによって位置情報の連携を図り、自動運転車からドローンが離着陸することに成功。これをさらに拡大した今回の実証実験では、測位方式にローカル座標系を使う配送ロボットを追加した3種類のモビリティを協調制御プラットフォームで連携させている。
また、今回の実証実験で新たに追加された統合配送経路計算技術では、搭載するバッテリで飛行するドローンを最大限活用できるよう、バッテリ消費が大きい上昇と下降を抑制するため目的地との高低差が少ない場所から飛び立つようにしたり、往復で飛行する経路を風向きになるべく逆らわないよう計算することで飛行距離の拡大を実現した。
2030年を目途とする社会実装では5社が運送業を手がけるのではなく、運送業者や物流企業といった事業者に利用してもらうサービスプラットフォームとしての運用を想定。また、今回の実証実験で運用した配送ロボット・自動運転車・ドローンという組み合わせにこだわることなく、必要に応じて配送ロボット-自動運転車-配送ロボット、また配送ロボットとドローンというような組み合わせや、複数のドローンを1度に運用することも想定しているという。