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「第10回 オートモーティブ・ソフトウェア・フロンティア 2025」招待講演で「“推し活”できるSFgoがスポーツ観戦を変えていく」とJRP上野社長
2025年3月7日 12:06
- 2025年2月18日~20日 開催
SDV時代の自動車ソフトウェア開発とモビリティ社会のこれからを探るオンライン講演会「第10回 オートモーティブ・ソフトウェア・フロンティア 2025 オンライン」(主催:インプレス、共催:名古屋大学 未来社会創造機構 モビリティ社会研究所)が2月18日~20日に開催された。
自動車メーカーや部品メーカー、Tier1-2、OEM系ソフトウェアメーカー、半導体メーカー、組み込みソフトウェアメーカーなどで研究開発に携わるエンジニアを中心に、事前登録するだけでZoom/Vimeoから無料参加できるこのオンライン講演会では、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の概念が広く認識されるようになってきた昨今のソフトウェア開発の最前線で活躍する多彩な講演者が講演を実施。
最終日となった2月20日には、国内最高峰のフォーミュラカーレース「スーパーフォーミュラ」が持つ魅力をより多くの人に、より深く体験してもらうため2023年1月中旬からサービスを開始したデジタルプラットフォーム「SFgo」について、スーパーフォーミュラを運営する日本レースプロモーション 代表取締役社長 上野禎久氏が解説する招待講演が実施されたので、本稿ではこの内容について紹介する。
招待講演「モータースポーツデータの活用と『SFgo』が描く未来」
「デジタルの力でドライバーの魅力を余すことなくお伝えする」というコンセプトを掲げるSFgoでは、レースの中継映像に加え、各車オンボードカメラ映像と車両のテレメトリーデータ、高精度GPSによる位置情報やチーム無線といったレースで戦うマシンのリアルタイム情報を配信して、レース観戦に新しい価値を提供している。
上野社長は、1973年に「全日本F2000選手権」としてスタートしたスーパーフォーミュラは2023年で50周年を迎え、国内格式で行なわれるフォーミュラレースで最高峰のレースであること、共通の車体を使って競うワンメイクレースで、ドライバーやチーム戦略、ピットクルーなどの技術が勝敗を分ける人中心のレースであること、エンジン供給で参加するトヨタ自動車と本田技研工業がカーボンニュートラルやDX(デジタルトランスフォーメーション)などさまざまな取り組みを共同で行なっていることなど、スーパーフォーミュラの概要を紹介。
ラップタイムで比較した場合、F1に次ぐ速さを持つレースとなっており、スーパーフォーミュラで腕を磨いたドライバーがF1やインディカー、WEC(世界耐久選手権)、フォーミュラEといった世界トップカテゴリーレースにステップアップするケースも数多いと語り、近年でもリアム・ローソン選手が2025年からF1のレッドブルチームでレギュラードライバーの座を獲得。平川亮選手も今シーズンからアルピーヌ F1チームのリザーブドライバーとして契約したことなどを紹介して、「ここで勝ったドライバーは、世界のどのカテゴリーに行っても通用するクオリティのレースとして運営している」とアピールした。
また、講演の視聴者向けにアンケートシステムを利用して質問が投げかけられ、スーパーフォーミュラを6割ほどが知っている一方、SFgoについてはまだ8割以上が知らないといった結果となった。しかし、講演の最後に行なわれた問いかけでは6割近くが「SFgoで観てみたくなった」と回答して、上野社長は「ぜひ無料登録してSFgoでレースを観てください」と呼びかけていた。
公式PR動画を流してから行なわれたSFgoの紹介では、モータースポーツ視聴アプリであるSFgoを2022年から導入するにあたり、モータースポーツが持つ強みと弱みがどこにあるだろうと考えたとき、全長が6km近くあるサーキットでレースを観戦していると、マシンは300km/h近いスピードで駆け抜けていってしまう。これではドライバー1人ひとりの凄さが伝わりにくく、同じく広いスペースを使って行なうゴルフは応援する選手を追いかけてコースをまわることが可能だが、モータースポーツではドライバー1人ひとりを追いかけられない点が弱みになっていると分析。
一方、現代ではレース中の各マシンから大量の生データが出力されており、視聴アプリでレース映像とテレメトリーデータを配信することで、デジタルの力を活用して選手たちのすべてをファンに見せることができると考え、SFgoの導入が決断されたという。
スマートフォンなどに対応するアプリや専用Webサイトでは、会員登録するだけでレースのオンボード映像やお気に入り選手やチームの最新情報を見ることができるほか、1480円/月の有料会員登録をするとドライバーとチームスタッフが会話するチーム無線、エンジン回転数やギヤポジション、スロットル開度、ステアリング舵角といったマシンの状態を示すテレメトリーデータ、高精度GPSなどのリアルタイム情報を画面表示することも可能になる。
テレメトリーデータの配信については、「野球で言えばバッテリーの配球をすべて見ることができるような状況」と表現し、導入にあたっては参戦チームの多くから強い抵抗もあったが、現代のプロスポーツではさまざまな情報をオープンにしていく傾向となっており、自分たちはさらに先を目指そうと呼びかけて実現されたという。
また、レース観戦に加え、ファン同士が交流するコミュニティ、レースシーンを30秒まで動画編集してSNSなどで共有するクリエイター機能なども用意され、ファンがアプリを活用してレースの楽しさや魅力を伝えてくれる2次的な効果が発揮されているとした。
SFgoで配信されるテレメトリーデータは全チームの詳細な情報を確認でき、チーム無線を聞くこともできることから、現在では参戦チームのエンジニアやメカニックもSFgoに表示されるデータを活用。チーム戦略に生かしていくレベルになっていると明かされた。
そんなSFgoは、トヨタ、ホンダの協力を得て2021年からスタートしたプロジェクト「SF NEXT50」(スーパーフォーミュラ ネクスト ゴー)から誕生。カーボンニュートラルに挑戦するSDGs、デジタルシフトによるエンタメ性強化、競技人口を増やして業界人材を育成するヒューマンリソースなどに取り組み、サステナブルなモータースポーツ業界づくりを目的として進められてきた。
これまでの3年間の取り組みで来場者数は10万人から21万人と倍以上に増加。これはSFgoのような新しいタッチポイントを導入した成果だと述べ、これ以外にもファミリー比率が10%から45%に増え、公式YouTubeの視聴回数は21倍になっているめざましい伸びだと強調し、他スポーツの平均来場者数と比較して、すでにプロ野球やJリーグと比肩する規模になっていることもアピールした。
テレメトリーデータを活用する特色ある取り組みとして、JRPでは富士スピードウェイに隣接する富士モータースポーツフォレストでデータサイエンティストを目指す人を対象とした「データサイエンティスト育成研修」を開催した実例を紹介。
「統計学が最強の学問である」の著者である西内啓氏を講師として招いた特別講義も行なわれたこの研修では、レース中のマシンから送り出される大量の生データを教材として活用。一般的なデータサイエンティスト研修では小売業界の来客情報、仕入れ情報などのデータが利用されているが、スーパーフォーミュラのレース中に生成される大量の時系列データを見て選別、分析する機会は非常にレアで、一方でレースはイコールコンディションで実施されており、比較分析が容易な部分が研修としての優位性になると解説。
ここで鍛えられたデータサイエンティストがさまざまな領域で活躍すると期待され、スーパーフォーミュラを含むスポーツ業界やマーケティング、製造業などで新たな可能性を生み出していくと述べた。
講演の最後に上野社長は、自分たちが世に送り出したSFgoが、これからさまざまなスポーツの見方を変えていくのではないかとコメント。エンタテインメント業界で耳にするようになった「推し活」という言葉から見て、自分が応援しているドライバーそのものにスポットを当て、ドライバーのレースにまつわるすべてを見ることができるSFgoというツールがモータースポーツの世界に推し活を広めていき、自分が推しているドライバーだけをスタートからゴールまで追いかけ続けられるというSFgoのようなツールが、これからのスポーツ観戦のスタイルを変えていくと分析。モータースポーツでしかできない多彩なデータをエンタテインメントに活用するSFgoの仕組みが、スポーツ観戦を改革していくのではないかと考えて日々の仕事に取り組んでいると締めくくった。