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JRP、スーパーフォーミュラ 2023年シーズンからニューマシン「SF23」導入 デジタルプラットフォーム「SFgo」も正式サービス開始

2022年12月13日 開催

2023年シーズンからスーパーフォーミュラで使用される「SF23」の開発車両である“白寅”(左)と“赤寅”(右)。東京ミッドタウン日比谷にある「LEXUS MEETS...」で12月18日まで車両展示される

 スーパーフォーミュラを運営するJRP(日本レースプロモーション)は12月13日、モータースポーツのサスティナブル化を目的として進めているプロジェクト「SUPER FORMULA NEXT 50」(SF ネクストゴー)における2022年の成果を報告し、2023年に予定する取り組みについて紹介する発表会を都内で開催した。

 東京都千代区の東京ミッドタウン日比谷にある「LEXUS MEETS...(レクサス ミーツ)」で行なわれた発表会には、JRP 代表取締役社長 上野禎久氏に加え、SF ネクストゴーのプロジェクトに参加しているデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー エネルギーセクター リードパートナー 三木要氏、ホンダ・レーシング 代表取締役社長 渡辺康治氏、トヨタ自動車 執行役員 GAZOO Racing Company President 佐藤恒治氏、新型車両の開発テストドライバーを務めた石浦宏明選手と塚越広大選手、2022年の全日本スーパーフォーミュラ選手権でシリーズチャンピオンを獲得した野尻智紀選手が参加した。

左から株式会社日本レースプロモーション 代表取締役社長 上野禎久氏、株式会社ホンダ・レーシング 代表取締役社長 渡辺康治氏、カーボンニュートラル開発テスト車両“赤寅”テストドライバー石浦宏明選手、2022年全日本スーパーフォーミュラ選手権 シリーズチャンピオン 野尻智紀選手、カーボンニュートラル開発テスト車両“白寅”テストドライバー塚越広大選手、トヨタ自動車株式会社 執行役員 GAZOO Racing Company President 佐藤恒治氏、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 エネルギーセクター リードパートナー 三木要氏

新型スーパーフォーミュラ用車両「SF23」を導入

 発表会では野尻選手がシリーズチャンピオンとなった2022年シーズンの振り返りを行なったほか、1973年の全日本F2000選手権スタートから数えて50周年を迎える節目の年となる2023年シーズンに実施するさまざまな取り組みについて紹介した。

 2023年シーズンからは、2019年から使用されてきたスーパーフォーミュラ用車両「SF19」に替わり、SF ネクストゴーの活動から生み出された新型車両「SF23」を新たに導入。SF19同様にダラーラ製となるSF23のボディには、カーボン素材同等の剛性と重量を実現しつつ、麻由来の天然素材などを使うことで原材料と製造過程でのCO2排出量を約75%抑制したBcomp製バイオコンポジット素材を採用。

 同じく引き続き横浜ゴムから供給されるタイヤでは、天然由来の配合剤やリサイクル素材といった再生可能原料を活用する新開発の「カーボンニュートラル対応レーシングタイヤ」を使用。従来品とほぼ同等の性能を維持しながら、ドライタイヤではリサイクル素材と再生可能原料を原料比率で33%使用するものとなっており、高いカーボンニュートラル対応を実現したマシンとなっている。

 なお、導入を予定していた「カーボンニュートラル燃料」については、参戦各チームの負担増が懸念されるほか、国内生産される燃料の適合を模索したいといった理由から、2023年シーズンは導入を見送ることになった。「引き続き業界全体の連携を図りながらさまざまな可能性を模索し、テストを継続してまいります」としている。

SF23の開発車両となった“赤寅”。石浦選手がテストドライバーを務めたトヨタ製エンジン搭載のマシン
ボディサイズは5233×1900×960mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは3115mm。車両重量は670kg以上と規定されている

 また、レースの大きな魅力であるオーバーテイクシーンを増やすため、スーパーフォーミュラでは従来からエンジン出力を一時的に高める「OTS」(オーバーテイクシステム)を導入しているが、SF23ではエアロダイナミクスの見直しによってさらなるエンターテインメント性を追求。マシンが発生する空気の乱流を低下させることで後続車両がよりスムーズに走れるようにしているほか、スリップストリームの効果がこれまでより遠い距離からでも出はじめ、エキサイティングなレース展開が期待できるようにマシンが仕上げられている。

 車両開発には石浦選手がテストドライバーを務めるトヨタ製エンジン搭載の“赤寅”、塚越選手がテストドライバーを務めるホンダ製エンジン搭載の“白寅”の2台が使用され、スーパーフォーミュラの舞台となる全国5か所のサーキットでテストを実施。7回にわたって行なわれたテスト走行にはスーパーフォーミュラに参戦する全チームが参加して、約60レース分に相当する1万km以上の総走行距離でマシンの熟成が図られた。

SF23の開発車両となった“白寅”。塚越選手がテストドライバーを務めたホンダ製エンジン搭載のマシン
搭載するエンジンはこれまでと同じく「NRE」(Nippon Race Engine)と呼ばれる直列4気筒2.0リッター直噴ターボだが、「内燃機関でやっているレースとしてエンジンサウンドにもこだわった」と、耳でも楽しめるレースマシンに仕立てられている
横浜ゴムが開発した「カーボンニュートラル対応レーシングタイヤ」を採用。今後もさらなる研究を重ね、再生可能原料比率をさらに高めていく予定
スーパーフォーミュラ新型車両「SF23」発表(45秒)

新デジタルプラットフォーム「SFgo」2023年1月中旬スタート

 すでに2022年シーズンから試験導入されている新しいデジタルプラットフォーム「SFgo」は、2023年1月中旬から正式なサービス提供がスタートする。

 これまでSFgoは1次募集300人、2次募集300人の計600人が「SFgo開発サポーター」としてサービスを利用しており、スーパーフォーミュラのレース観戦などで利用するなかで使い勝手の評価や新しいアイデアの提案などを行ない、実際に利用するファンの目線に立った開発が進められてきた。また、スーパーフォーミュラのレース実況中にもテレメトリーデータとして表示される情報が解説者から紹介されたり、レース中に各チームのチームスタッフがライバルチームのマシンの情報をチェックしてレース戦略に活用したりといった使い方もすでに進められているという。

新デジタルプラットフォーム「SFgo」紹介ムービー(1分12秒)

 正式サービスとしてスタートするSFgoは、これまで利用可能だったiOS、Androidに加えてPCでも利用できる無料アプリとして配布。「視聴サービス」としてF2000以降のヘリテージ映像を含む「アーカイブ映像」や、YouTubeのスーパーフォーミュラ公式チャンネルと連動した「レースシーンやレース外のショートクリップ」を楽しめるほか、観戦チケットやグッズ販売、チームやドライバーなどの情報配信などを無料サービスとして用意する。

 4月から追加される有料サービス(1480円~/月、または1万1880円/年を予定)では、スーパーフォーミュラの予選、決勝のレース公式映像を配信。レース中には各選手のオンボードカメラの映像を切り替えて表示でき、各種テレメトリーデータやGPS情報によるコース内位置の表示、チーム無線の聴取なども可能になる。また、1つのアカウントで新たに2端末まで視聴可能となり、PCの画面でレース映像を見ながらスマートフォンにテレメトリーデータを表示するといった使い方にも対応する。

 このほかにも有料サービスを利用すると、レース映像を最大30秒まで切り取ってSNSなどを通じて共有することが可能。さらにチケットなどの購入でも、年間パドックパスやラウンジといった特別チケットの購入、ドライバーミーティングなどのイベント参加権利などを手に入れることもできるようになるという。

SFgoのサービス概要。4月から追加される有料サービスは1480円~/月、または1万1880円/年(990円/月相当)の料金になる予定
テレメトリーデータでは各マシンの詳細なリアルタイム情報を表示可能。チーム無線なども交えて臨場感たっぷりにスーパーフォーミュラのレースを楽しめる

 このほか、年間7大会、全9戦で実施される2023年シーズンのスーパーフォーミュラ年間スケジュールも発表された。各大会の詳細は2023年2月から順次案内されるとのこと。

第1戦 4月8日(土) 富士スピードウェイ
第2戦 4月9日(日) 富士スピードウェイ
第3戦 4月22日(土)・23日(日) 鈴鹿サーキット(2輪レースのJSB1000クラスと併催)
第4戦 5月20日(土)・21日(日) 九州大会 in オートポリス
第5戦 6月17日(土)・18日(日) 東北大会 in スポーツランドSUGO
第6戦 7月15日(土)・16日(日) 富士スピードウェイ
第7戦 8月19日(土)・20日(日) モビリティリゾートもてぎ(2輪レースのJSB1000クラスと併催)
第8戦 10月28日(土) 鈴鹿サーキット
第9戦 10月29日(日) 鈴鹿サーキット
※第1戦と第2戦、第8戦と第9戦はそれぞれ土日2レースとなる

スーパーフォーミュラ 2023年シーズンの開催スケジュール

「開幕直後から目の離せないシーズンになる」と野尻選手

野尻智紀選手

 スーパーフォーミュラの2022年シーズンは、すでに関連記事「スーパーフォーミュラ第9戦鈴鹿JAFGP、野尻智紀選手が2年連続チャンピオン獲得 TEAM MUGENは1-2でチームタイトルを獲得」でも紹介しているとおり、2021年シーズンを制して1号車で今シーズンを戦った野尻智紀選手が連覇を達成。

 シーズンの振り返りについて質問された野尻選手は「こういった場にお招きいただくこともそうですが、2連覇というものの重みを感じています。シーズン中は周囲の皆さんにも『2連覇』と期待していただいたので、そのたびに精神的に非常に難しい状況にもなりましたが、なんとか2連覇を達成できて、自分にとって自信にもなりましたし、今後さらに勝ち星や結果を積み重ねていきたいと思います」と回答。

 また、新たに導入されるSF23については「僕は3連覇がかかる身なので、『今変えなくてもいいんじゃない?』というのが率直な思いではあります。でも、見た目はよりフォーミュラの今風なデザインになっていて、すごく洗練されているなという印象ですね」とコメント。マシンが刷新されることで、来シーズンは開幕からの2戦でいち早くSF23を手懐けた選手がチャンピオンシップの制覇に近付くだろうとの見解を語り、開幕直後から目の離せないシーズンになると説明した。

 国内トップフォーミュラでは、元F1ドライバーでJRPの会長も務めている中嶋悟氏が1980年代に全日本F2選手権を3連覇して以来、長らく3連覇を実現した選手は出てきていないが、これについては「3連覇に挑戦できる選手というだけでも数少ないですし、記録に挑戦できる喜びもそうですが、記録だけでも(中嶋氏に)並ばせていただきたいなという思いもあります」と述べ、来シーズンに向けた意気込みを口にしている。

JRP 上野禎久氏

 連覇を達成した野尻選手についてJRPの上野氏は「2021年シーズンにもてぎでチャンピオンを決定したあとに彼と話す機会があって、僕は(ポイント差が大きかったので)てっきり鼻歌交じりで走っているのかと思っていたら、『勝てると思われているところこそものすごくプレッシャーだ』って口にしてしゃがみ込むような状況なんですよ。そんな姿を見たときに、ドライバーって本当にプレッシャーのなかで戦っているんだなと思って感動しました。また、この1年に野尻選手がしてきたいろいろな発信を見ていると、どうやって業界をよくしていくかについての考えが増えてきたような印象があって、2年続けてチャンピオンを獲ったことで業界を背負っていく第一人者としての自覚が芽生えたのではなかろうかという印象を持っています」と評した。

 2023年シーズンからレースに投入するために開発したSF23については「エンターテインメント性の向上とカーボンニュートラルという2つの大きなテーマを同時に進めていこうというのが開発目的でした」と説明。空力性能では接近戦を生み出すようなパッケージを目指し、素材では一部に天然素材を使用。これからの新しい自動車社会に貢献していけるような車両としている。タイヤでも33%に天然素材や再生ゴムといったカーボンニュートラルな素材を使った「カーボンニュートラルタイヤ」と呼べるようなものを、レーシングタイヤとしての性能を低下させることなく導入することができたと説明した。

“白寅”テストドライバーの塚越選手

 ニューマシンであるSF23のテストドライバーを務めた塚越選手はSF23について「とても曲線がきれいでグラマラスな感じ。僕は特にフロントウイングの迫力であったり、リアウイングの造形であったりで迫力が増していて、初めて見たときも『すごくかっこよくなったな』と感じました。これまでのSF19ももちろんかっこいいのですが、割と直線的なデザインなんです。(SF23は)2022年の今現在に世の中にあるデザインに沿った新しい形になっていて、僕としてもすごくドキドキする見た目になったなと思います」とアピール。

 SF23を熟成させていくテスト走行では「これまでクルマを速くするためのテストというのはいろいろやってきましたが、(SF23では)未来に向けてレースのエンターテインメント性だったり、素材だったり、カーボンニュートラルだったり、新しい課題に向けたテストというのは初めての経験でした。すごく責任も感じましたし、これが将来的に採用されて、同じドライバーから『どうしてこんなクルマを造ったんだ』って思われたら悔しいですし、そうならないよう魅力あるクルマにするため、まずは自分たちで立てた目標に向かってしっかりと頑張ろうって、2人とも考えていたと思います」。

「さらに、今回は各チーム、僕はホンダ系、石浦さんはトヨタ系のそれぞれ全チームのオペレーションでマシンに乗ることになって、みんなの協力でテストさせていただきました。また、ホンダとトヨタのそれぞれでエンジニアやスタッフがアイデアを出しあっていて、これまでなかったような、みんなで1つの目標に向かう一体感がありました。エンジン音のところでは、両メーカーの責任者が『こうした方がいいんじゃないか』『それちょっと見せてよ』って話をしている光景を目にして、すごく素敵だなって感動しました」とエピソードを披露した。

“赤寅”テストドライバーの石浦選手

 接近戦の増加を目指した空力性能の開発について石浦選手は、「まずは現役で使われているSF19で、実際に使われているエアロパーツ設定の状態でデータ計測をして、そこからどのようにすれば効率的に後ろにいる車両に与える影響が減るのか、ちゃんと各サーキットでデータ取りをしています。普通だと、こういった開発では1つのサーキットだけになるケースが多いんですよね。なので、ちゃんとデータの裏付けがあるところに積み上げを行なって新しいボディカウルが生み出されています。SF23のボディカウルになってからも2台のマシンで追走テストなどを行なって、実際にこれまでよりも接近して走ることができると2人で確認しています。誰に聞かれても自信を持ってきちんと近付いて走れたと言いきれる結果になっていますし、数値としても残っています」。

「これまでこんなテストをやらせてもらう機会はありませんでしたし、いろいろなテスト走行をしてきましたが、開発テスト自体がこれほど注目されるケースがなかったですね。それはカーボンニュートラルだとか、レースを面白くしたいという大切なテーマがあったことで、メーカーやチームの垣根を越えて、みんなが輪になって取り組んだことがしっかりとした形になって、来シーズンにこのクルマで面白いレースを見ていただくことができれば、開発テストに取り組んだ甲斐があるなと思います」と説明し、SF23の開発が注目を集めたことの理由について語った。

ホンダ・レーシングの渡辺氏

 2023年シーズンのスーパーフォーミュラ参戦体制についてはトヨタ、ホンダ両陣営ともすでに発表済みとなっており、これについてホンダ・レーシングの渡辺氏は「野尻選手のさらなる活躍というのは当然期待しておりますが、新しい取り組みで言いますと、FIA F2で活躍してくれているリアム・ローソン選手。レッドブルとホンダの育成選手という形でSFに来ていただきます。それからラウル・ハイマン選手はフォーミュラ・リージョナル・アメリカズのチャンピオンで、彼は26歳ですがホンダ・パフォーマンス・ディベロップメントの育成で来ていただく。非常にレベルが高いSFで揉まれて、また世界で活躍してほしいと。そういったところをぜひ見ていただきたいですね」とコメント。

GAZOO Racing Companyの佐藤氏

 また、SFgoについてGAZOO Racing Companyの佐藤氏は「これは現場で見ていて、本当にそれまでとレースの見方がまったく変わりました。いろいろな情報がリアルタイムに入ってくるので、いわゆるモータースポーツの面白味というものが2倍、3倍になるなって思うんです。いつも現場で『本当にSFのドライバーは超一流のアスリートだな』と思うんですよ。そんなアスリートがしのぎを削っているリアルの持つ価値、これは現場でなければ分からないものがあって、でも、一方でなかなか現場に足を運べない人も実際には多いと思うんですよね。それがこういったデジタルツールによって、その手前のところでまず知っていただいて、興味を持っていただいて、『じゃあ現場に行ってみようかな』って、デジタルとリアルがクロスするようなきっかけになるんじゃないかと期待しています」と評価した。

“白寅”と“赤寅”を実車展示

 発表会が行なわれたLEXUS MEETS...ではテスト車両となった“白寅”と“赤寅”の2台に加え、スーパーフォーミュラで連覇を果たした野尻選手のヘルメットやグローブ、スーパーフォーミュラの迫力を切り取った写真パネルやスーパーフォーミュラマシンのスケールモデルなどを展示。この展示は12月14日~18日の期間続けられ、一般公開されている。

レクサスの施設にホンダのマシンが置かれているこの状況を、GAZOO Racing Companyの佐藤氏は「現在の業界の状態が伝わる光景。“アリ”ですね!」と歓迎した
SF23のスペック表もパネル展示
車両展示に加えてスーパーフォーミュラについて紹介する展示品も用意