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羽田空港で実用化されたレベル4自動運転トーイングトラクターをANA&豊田自動織機、JAL&AiROの4社が合同公開
2025年12月16日 16:56
- 2025年12月15日 開催
ANA(全日本空輸)、豊田自動織機、JAL(日本航空)、AiROの4社は12月15日、羽田空港(東京国際空港)の空港制限区域内で自動運転レベル4相当を実現した自動運転トーイングトラクターを合同公開した。
ANAと豊田自動織機、JALとAiROはそれぞれ、2021年度から羽田空港の制限区域内で無人貨物搬送(自動運転レベル4相当)の実現に向けた試験運用を段階的に進め、ANAと豊田自動織機は2024年度、JALとAiROは2025年度からレベル4相当での試験運用をスタート。さらに開発を進めてそれぞれ実用化にたどり着いた。
ANA&豊田自動織機の自動運転トーイングトラクター
JAL&AiROの自動運転トーイングトラクター
JAL&AiROは車載センサーのみで自動走行する「完全自律走行型」
合同記者発表会では最初に、自動運転トーイングトラクター開発に携わった4社の担当者から車両解説が行なわれた。
まずは日本航空 グランドハンドリング企画部 金子誠氏から、自動運転開発に取り組んだ背景や目的について説明。生産年齢人口の減少に伴う労働力不足への対応や“2030年訪日6000万人”を受け入れるための業務効率化を目的とした自動運転開発では、同時にトーイングトラクターをBEV(バッテリ電気自動車)化することでCO2排出量の削減にも大きく寄与すると説明された。さらに、羽田空港でAiROとの協力で実現したレベル4自動運転は、同日からtracteasy製トーイングトラクターを使って成田空港(新東京国際空港)でもスタートしており、主要2空港で同時の実用化を果たしたこともアピールしている。
羽田空港でJALが行なう自動運転の走行ルートは、西貨物上屋~東貨物上屋間の約1kmで、所要時間は5分30秒に設定。さらなる効率向上に向け、より長い搬送ルートの実現に向けて検討を進めているという。
このルートにおける自動運転の実現に向けては国からの協力も得ており、国土交通省 航空局に願い出て、ルート中の2か所に監視カメラが設置されている。これは車両単体の技術開発では状況によって安全確保に限界があることから、死角解消を目的としている。
1つは幅が約200mある誘導路付近で、自動運転車両が誘導路を横断する車両を検知できないことへの対策として設置されている。もう1つは空港内にある消防署前で、JALの給油所の近くにある消防署の壁が遮蔽となり、右折先の状況を自動運転車両が把握できないことへの対策となっている。右折先にある給油所で順番待ちの渋滞ができているときにトーイングトラクターが接近すると、最大6台までけん引可能な荷車の最後尾が消防署の出入り口前をふさいでしまい、緊急車両の通行を妨げる危険性があることが原因となっている。
自動運転の遠隔監視はJALの貨物事務所内で行なわれ、前出の国交省設置によるカメラ2台による映像を表示する「VME(Vehicle Management Equipment in airport restricted areas)」と、自動運転車両に設置されたカメラ映像を映し出すことに加え、ヘッドライトの点灯/消灯、ワイパーの作動などを遠隔管理者が手動操作する「FMS(運航管理システム)」の2種類を運用している。
なお、羽田空港における自動運転トーイングトラクターの運行台数は1台のみで、追加発注している2台が来夏ごろに導入される予定。成田空港では2台が運用されており、さらに来春には4台が追加される予定となっている。
JALとAiROの自動運転トーイングトラクターであるRoboCar Tractor 25Tの技術解説はAiRO 取締役の西村明浩氏が担当。AiROの親会社でもあり、2025年4月1日付けで社名を従来のZMPから変更した「ROBO-HI」が生産するこの車両では、ルーフ上に自車位置推定を行なう3D-LiDARとGPSセンサー、IMU(慣性計測ユニット)などを搭載し、フロントノーズ両側面にも物体検出用の3D-LiDARを備え、計3基の3D-LiDARを採用。また、光学カメラは自動運転用の3台、遠隔監視用の3台で計6台を搭載している。
自動運転を制御するコンピュータ「IZAC」は、バックアップPCと合わせて車両後方の高い位置に設置して冗長性を確保。システムはクラウド上にある「ROBO-HI OS」に接続され、遠隔からの運行監視のほか、位置情報の把握、データ分析、改善・最適化、レポート作成などに対応している。
自動運転では事前に用意した走行ルートの自動運転用3次元マップを使い、3D-LiDARとGPSなどによる自車位置測位情報を照合して走行。リアルタイムで発生するほかの車両や歩行者といった障害物を把握し、将来的な移動先を予測して減速や回避などを行なう。
RoboCar Tractor 25TではZMP時代から長年にわたって培ってきた技術を活用して、磁気ネイルや路面マーカーといったインフラ側の工事を不要とし、車載センサーのみで自動走行する「完全自律走行型」となっている。クラウド対応のROBO-HI OSによって遠隔監視が可能となっているほか、将来的な複数台同時の遠隔監視にも対応可能といった点を特徴としている。これまでにも公道自動運転で豊富な実績を持つことで高い信頼性を実現しているとアピールした。
ANAと豊田自動織機は定時性を確保するため4つのセンサーで冗長化を達成
全日本空輸 OSC空港サポート室グランドハンドリング企画部の森真希子氏も、まずは自動運転開発に取り組んだ背景や目的について説明。ANAでは「業務のSimple&Smart化」をテーマとして掲げ、多くの人手を必要とするランプハンドリング業務の自動化、機械化、省力化に取り組んでおり、自動化や機械化が可能な部分は機械に任せ、人力は人にしかできない業務に集中することで「人と機械の最適な役割分担」を目指してより少ない労力と人員で運航便のハンドリングを実現する体制作りを目指しているという。
ANAが自動運転を行なう走行ルートは、敷地内の東側にある国内貨物上屋と西側にある第2ターミナルの「60」「61」「65」スポットの約1.5kmを結ぶ区間で、所要時間は7分~8分。国内定期便に対する貨物輸送を行なう。新たに交差点での合流がルート内に設定され、「58」スポット付近の2か所に国土交通省 航空局によって信号機が設置された。これは、自動運転車両が対応するのではなく、自動運転車両が接近することで通常の黄点滅が赤点滅に切り替わり、人が運転している車両が自動運転車両と衝突しないよう停止して通過を待つ仕組みとなっている。
自動運転のトーイングトラクターがスポットの指定エリアに到着したあとは、同一便の手動搬送を担当するスタッフが手動でトーイングトラクターをハイリフトローダーに隣接させ、けん引貨物を切り離して貨物の載せ降ろしなどを行なうが、ルート走行中には無人化が可能で省力化が図れる。現時点で3台が自動運転で稼働しており、導入からしばらくは1便に対して1搬送を目安とした頻度で運用するが、2025年度内にさらに3台の増車を予定している。
車両解説を行なった豊田自動織機 トヨタL&Fカンパニー AR開発室の深津史浩氏は、ANA&豊田自動織機の自動運転トーイングトラクターのベースとなっている3TE25はこれまでに1000台以上を販売した実績のある車両で、車両、自動運転技術、運行管理システムを同社で垂直統合開発したモデルであることを紹介。デザインも先進的な意匠となっており、全国発明表彰で「内閣総理大臣賞」を受賞しているとアピールした。
自動運転で重要な要素となる自車位置推定では4種類の技術を採用。空港では安全性はもちろんのこと、定時性の確保も重視されるためあらゆる環境下で停止せず、確実に荷物を目的地まで届けられる自動運転を追求して、自車位置推定装置の冗長化に取り組み、「GNSS(衛星測位システム)」「3D-SLAM」「RSPM(路面パターンマッチング)」「磁気誘導」を組み合わせて採用している。
各技術にはそれぞれ得意不得意が存在しているが、4つのセンサーが相互に補い合うことで、空港内のどのエリアを走行しているときでも最低限2つ以上のセンサーで自車位置推定を行ない、完全な冗長化を達成しているという。また、障害物を検知する機能では、2Dと3Dで2種6個のセンサーを組み合わせて車両の周辺状況を監視している。
自動運転トーイングトラクターは現状の3台から2025年度中に6台まで拡大予定となっており、これを実現するためANA&豊田自動織機でも運航管理システムのFMSを採用。車両、作業者端末、信号機、フライト情報などを連結させ、車両の運行管理に加えて駐機場や貨物上屋などの行き先指示、現場スタッフの作業項目といった情報を一元化して効率的なオペレーションを実現する。
さらにFMSは信号機との連携も果たし、自動運転トーイングトラクターとFMSが連動することで、自動運転車両と有人運転車両の混在走行をスムーズで安全性の高いものにしている。具体的には自動運転トーイングトラクターが信号機に接近するとFMSに通知を行ない、FMSでは自動運転トーイングトラクターに接続されている荷車の連結数に合わせて最適な信号切り替えを実施。複雑な交差点でも安全に通過することが可能になると説明された。
自動運転トーイングトラクターデモ
合同記者発表会の終了後には制限区域内に移動して、実際にそれぞれの自動運転トーイングトラクターが稼働する場面のデモが公開された。
まず行なわれたANA&豊田自動織機のデモでは、自動運転トーイングトラクター同士が交差点ですれ違うシーンが披露された。実際にはまだ羽田空港内で3台しか運用されておらず、稼働頻度も抑え気味に設定されているためこのような場面はほとんど起きないとのことだが、将来的にたくさんの自動運転トーイングトラクターが走るようになったときにも問題が起きないことがしっかりと検証されていることが紹介された。
続いて行なわれたのはANA&豊田自動織機の自動運転トーイングトラクターが駐機している出発便に貨物を運んでくるシーン。万が一の事故を防ぐため、自動運転では飛行機の駐機場所から離れた所定の位置で停車して、そこからは通常のトーイングトラクター運転スタッフが飛行機に隣接する位置まで手動運転。貨物をすべて降ろしたあとは通路際までスタッフが運転し、自動運転を再開させて国内貨物上屋まで戻っていった。
最後に行なわれたJAL&AiROの自動運転トーイングトラクターによるデモでは、上限となる6台の荷車をけん引して軽快に直線路を進んでいくシーンが披露された。
実用化は非常に大きなステップだが、これはあくまで通過点と宮澤航空局長
合同記者発表会では国土交通省 航空局長の宮澤康一氏、全日本空輸 代表取締役社長の井上慎一氏、日本航空株式会社 代表取締役社長の鳥取三津子氏の3人によるあいさつも行なわれた。
宮澤氏は長年にわたって続けられた取り組みが実用化されたことに喜びと祝福の言葉を贈ったあと、政府目標としている2030年までの訪日客6000万人を実現するためには空港整備などによる容量拡大の取り組みと合わせ、グランドハンドリングなどを含めた受け入れ体制の着実な確保が重要だとコメント。そのために必要な生産性向上の鍵になるのが空港におけるDXの実現で、羽田や成田といった大規模な空港では搬送業務に多くの人手が割かれており、この自動化によるインパクトは非常に大きいとの考えを示した。
また、関係各位の尽力によって羽田空港におけるトーイングトラクター自動化が実用化されたことは非常に大きなステップになると評価しつつも、これらはあくまで通過点になるとし、今後も自動運転の車種や走行区域の拡大に向けて技術的に乗り越えていかなければならない課題はまだまだ残されているとした。今後、導入台数や実施する空港の拡大を実現するためにはコスト低減が必要で、この実現には会社や官民といった枠を越えた関係者の協働、経営トップによる揺るぎないコミットメントが求められるとの考えを述べ、この場にいる日本航空業界の両雄である2人の社長にグランドハンドリング分野における自動運転といった技術導入に向けた揺るぎないコミットメントを示してもらうことが画期的なできごとになるとコメント。
国土交通省としてもそのような流れを大いに加速させていけるよう共に歩んでいきたいと語り、これからもこのような新たな技術の開発と実装を国家プロジェクトとしてさらに強力に進める協働の枠組みを設置していき、「空港DX技術実装推進会議(仮)」といったものを立ち上げるべく準備を進めていくため、関係者のこれまで以上の協力を期待しているとアピールした。
ANAの井上社長は、ANAグループでは空港地上支援業務のDX、イノベーションを通じて空港オペレーションの変革を加速させているところで、長年にわたって多くの人手に頼ってきた業務にデジタル、データ、AIを取り入れて「人×DX」というスマートな空港オペレーションに進化させていくことが自分たちの目指す姿だと紹介。
実用化を果たしたトーイングトラクターのレベル4自動運転はその象徴となる技術で、日本最大の空港オペレーションを担っている羽田空港を舞台に「複数台の自動運転トーイングトラクターが無人でコンテナを搬送する」という世界的に見ても先進的なステージにたどり着いたと評価した。
一方で先の宮澤航空局長も述べているように、自動運転レベル4の実用化は通過点であり、新しい未来のオペレーションに向けたスタートラインと位置付けた。今後に向けては、羽田空港では2030年時点で貨物搬送車両の半数となる50台規模の導入まで拡大。全国6空港程度に展開を拡大していくとの計画を示した。
そのためには、充電設備といった空港インフラの環境整備や車両コストの抑制といった乗り越えなければならない課題があると指摘しつつ、宮澤航空局長も示した官民の枠を越えた関係者の協働、スピード感を持った取り組みによって必ず乗り越えていけると意気込みを口にしている。
JALの鳥取社長は、羽田空港と同時に成田空港でも自動運転トーイングトラクターのレベル4を実現し、これはグランドハンドリング業務の発展における大きな一歩だと語り、宮澤航空局長と同じく政府が掲げている2030年までの訪日客6000万人という目標達成に向け、日本の空の玄関口である空港のキャパシティ、グランドハンドリング業務の生産性向上は極めて重要な鍵になるとコメント。なかでも羽田空港と成田空港は訪日客を迎える主要空港であり、多くのスタッフがグランドハンドリングの業務に携わっており、自動化による生産性向上の効果が非常に大きく出ると分析した。
また、どちらの空港も交通量が極めて多く、この環境で無人化の技術が確立されればほかの空港での横展開もスムーズに進められると説明。今後も安全を第一に考えつつ、台数や走行エリアの拡大、全国の空港への普及をさらに推し進めていくことが重要で、5年後に50台規模、追加で2~3空港での自動運転拡大を目指していくとのビジョンを示した。
その一方で航空機を優先させる運用、複雑な環境下での走行といった技術面、運用面の課題が山積しており、今回の自動運転トーイングトラクター レベル4走行実現を新たなスタートラインと位置付け、引き続き産学官の知恵を出し合い、ANAをはじめとするエアライン各社とも協力してグランドハンドリング業務の生産性向上に積極的にチャレンジしていくと述べた。



















































