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トヨタ、2017年からのWRC参戦などを明らかにしたモータースポーツ活動発表会
WRC参戦車「ヤリスWRC」を“17年間恋い焦がれた彼女に会うような感覚”と語った豊田社長
(2015/1/30 19:17)
- 2015年1月30日開催
トヨタ自動車は1月30日、東京 お台場のメガウェブにおいて記者会見を開催し、同社の2015年におけるモータースポーツ活動および支援計画に関する発表を行った。この中で、同社が検討を続けてきたWRC(世界ラリー選手権)への2017年からの参戦計画を明らかにした。トヨタは途中の中断こそあったものの、1973年~1999年にWRCに参戦をしており、43回の優勝、4回のドライバーズタイトルと3回のマニファクチャラーズタイトルと数々の勝利とタイトルを獲得しており、2017年からの正式参戦ではその再来を目指すことになる。
また、2014年同様に国際的にはWEC(世界耐久選手権)とNASCAR、日本国内ではSUPER GT、スーパーフォーミュラに参戦。中でも2014年までは日本をベースに活動しており、WECにはパートタイムの参戦に留まっていた中嶋一貴選手がWECにフル参戦し、2014年のチャンピオンペアであるセバスチャン・ブエミ、アンソニー・デビットソンとトリオを組み、日本人初となるWECチャンピオン獲得に挑むことになる。また、2014年までF1世界選手権に参戦していた小林可夢偉選手が、今年はスーパーフォーミュラに参戦することも明らかになった。
輝かしい歴史を持つトヨタのWRC活動だが、豊田社長は“0からのスタート”と強調
「1980年代にトヨタのラリー活動を支えていただいた、ビョルン・ワルデガルドさんが昨年亡くなられた。深く哀悼の意を表明したい」と、トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏は1980年代にトヨタのWRC活動でラリードライバーを務めたワルデガルド氏の功績を称えながら、WRC活動に復帰することを発表した。
古いラリーファンにはワルデガルド氏の名前はお馴染みだと思うが、若いファンにとってはその名前に馴染みがないかもしれない。というのも、ワルデガルド氏はトヨタのヨーロッパでのモータースポーツ活動の拠点となるTMG(Toyota Motorsport GmbH)の前身となるTTE(Toyota Team Europe)が、かつてトヨタが販売していたスポーツカー「セリカ」をベースにしたラリーカーでWRCに挑戦していた1980年代にTTEのドライバーとして参戦していたドライバーで、それは今から20年以上前の話だ。ワルデガルド氏は、当時のWRCで最も過酷なラリーとして知られているサファリラリー(ケニアで開催されていたラリー)に参戦し、1984年に見事勝利を収めたドライバーとしても知られている。
その後、トヨタのWRC活動は発展を続け、1990年にはカルロス・サインツ(スペイン、今年トロロッソからF1デビューするカルロス・サインツ・ジュニアの父親)が、トヨタとしてもサインツ自身としても初めてWRCドライバータイトルを獲得してまさに頂点を極めた。その後1992年に再びサインツが、1993年にはユハ・カンクネン、1994年にはディディエ・オリオールがドライバーズチャンピオンに輝いたほか、1992年、1993年、さらには1999年のマニファクチャラーズチャンピオンに3度も輝くなど、輝かしい戦績を納めた歴史がある。そうした歴史の基礎を作ったのがワルデガルド氏であり、そしてTTEの創設者として知られるオベ・アンダーソン氏でもある。豊田社長のワルデガルド氏への哀悼の意の表明は、トヨタのWRCの歴史を象徴するシーンといってよいだろう。
そのトヨタが1999年末の撤退以来、実に18年振りにWRCのフィールドに戻ってくる。豊田社長は「昨年フィンランドのラリーを訪れた時に、多くの方がトヨタはいつラリーに戻ってくるのだと問うて下さった。そうしたよい記憶が残っているうちにラリーに復帰したいと考え、2017年にWRCに参戦することとした。ただし、これは復帰ではなく、ゼロからの参戦というのが現実だ。いちからチームやクルマを鍛え、一歩一歩参戦に向け準備をしていきたい」と述べ、トヨタにとって今回のWRC参戦は中断していた参戦を再開するというニュアンスではなく、輝かしい歴史はあるものの、事実上はゼロからの参戦だと強調した。
豊田氏が復帰ではないと強調する背景には、1999年にWRC参戦を中断してから、WRC参戦の拠点だったTMGはF1参戦の基地となり、F1撤退後はWECに参戦する拠点として利用されている。つまり、WRC参戦を止めてから15年近くが経過しており、ラリーを知っているスタッフもだいぶ減っていることが予想されるので、事実上ゼロからの参戦というのは正しい表現になる。このため、2015年、2016年はテスト期間にあて、万を持して2017年から参戦というのは理にかなった方針と言えるだろう。
会見の最後に、豊田氏は「トヨタのモータースポーツの哲学は豊田喜一郎が新聞に寄稿した“オートレースは日本の乗用車製造事業の発展に必要欠くべからざるものである”という考え方にある。その考え方の下、お客様が笑顔になり、社会に貢献できる、そのためにもっとよいクルマを作り提供していきたい」と述べ、モータースポーツが自動車メーカーにとってビジネスと不可分で、モータースポーツに参戦することでよりよいクルマを消費者に届けていきたいというトヨタの哲学を説明してまとめとした。
「17年間恋い焦がれた彼女に会った感じ」と豊田社長が表現したヤリスWRC
豊田氏のプレゼンテーション終了後には、2017年からWRCに参戦する際に利用されるレース車両「ヤリスWRC」が紹介された。ヤリスというのは、日本ではヴィッツとして販売されているコンパクトカーのグローバルブランドで、欧米などの海外ではヴィッツがヤリスとして販売されている。現在、WRCではこうした小型ハッチバック車がベース車両になることが多く、2014年のWRCチャンピオンになったフォルクスワーゲンも「ポロWRC」という小型車のポロをベース車両としている。トヨタの発表によれば、ヤリスWRCは以下のようなスペックになっている。
・車両:ヤリスWRC(全長:3910mm、全幅 1820mm)
・エンジン:1.6リッター直噴ターボエンジン(GRE規定ベース)
・タイヤ:ミシュラン
2017年から参戦する際のドライバーはまだ未定だが、今年行われる予定のテスト走行では、ステファン・サラザン(WECの2号車ドライバーも兼任)、セバスチャン・リンドホルム、エリック・カミリがテストドライバーを務める。なお、車両、エンジンの開発は、前出のTMGが担当することが明らかにされており、2017年の正式参戦に向けて開発が続けられることになる。
このヤリスWRCについて、豊田氏は「実はすでに北海道でテスト走行をするというので乗せてもらっている。まだまだ完成にはほど遠いが、今後沢山走ってもらって戦闘力を高めて欲しいと思っている」と述べたほか、司会に実際に乗ってみた感想を問われると「17年間恋い焦がれた彼女に会うような感覚だった」と述べ、会場の笑いを誘った。
WECで日本人初の世界チャンピオンを目指す中嶋選手、日本に10年ぶりに復帰する小林選手
豊田社長の会見終了後には、トヨタ自動車 取締役副社長 加藤光久氏による、2015年のモータースポーツ活動の概要が説明された。
その中で注目を集めた点は大きくいうと2つある。1つは中嶋一貴選手が今年はSUPER GTに参戦せず、WECに集中すること。そしてもう1つがトヨタの育成プログラム(TDP)出身で、2014年までF1に参戦していた小林可夢偉選手が全日本選手権スーパーフォーミュラに参戦するというニュースだ。
2014年までの中嶋一貴選手は、世界選手権としてのWEC、国内選手権としてのスーパーフォーミュラ、SUPER GTの3つのシリーズに参戦するという、世界でもっとも忙しいドライバーの1人という状況になっていた。このうち、WECとSUPER GTはバッティングしている日程が多く、中嶋選手は6月のル・マン24時間まではWEC優先で、ル・マン24時間後はSUPER GT優先という日程が組まれていた。このため、SUPER GTに関しては2戦欠場し、WECに関してはル・マン24時間までのレースと富士戦にとどまり、どちらのシリーズもやや不完全燃焼という状況になっていたのだ。それでも、SUPER GTではパートナーを組むジェームス・ロシター選手が最終戦までチャンピオンを争うなど大活躍だったし、WECでもル・マン24時間で日本人として初めてポール・ポジションを獲得したうえ、スーパーフォーミュラでは2度目のチャンピオンに輝くなどの活躍をみせた。
それで、という訳でもないだろうが、中嶋選手は今年はSUPER GTに参戦せず、WECにフル参戦する(日程がバッティングしないスーパーフォーミュラには継続参戦)。しかも乗るのは2014年のチャンピオンカーとなるカーナンバー1号車のトヨタ TS040 HYBRIDで、2014年のドライバーチャンピオンとなったアンソニー・デビッドソン、セバスチャン・ブエミの2人と組み、「中嶋選手には日本人初の世界チャンピオンを目指してもらう」(加藤氏)との目標に向かって1年を過ごすことになる。今年のWECは、レギュレーションは基本的には去年と大きく変わりがなく、トヨタの優位は続くと考えられているので、中嶋選手がサーキットレースでの日本人初のワールドチャンピオンに輝けるかどうかは、ファンとしては今年のWECの見どころだといえる。
また、もう1つの注目点は2014年までF1世界選手権にケータハムF1チームから参戦していた小林可夢偉選手が、日本に帰国してスーパーフォーミュラを戦うという点だ。小林選手が国内のシリーズを走るのは、2003年に育成カテゴリーとなるフォーミュラ・トヨタを走っていた時以来で、国内のビッグレースを走るのは今年が初めてということになる。小林選手が乗るのは、2014年までロイック・デュバル選手が乗っていたチーム・ルマンの8号車で、デュバル選手は2014年の開幕戦で見事に優勝するなどチームのポテンシャルは十分にある。現在のスーパーフォーミュラが利用している車両のSF14は、ヨーロッパのコンストラクターであるダラーラ製で、ヨーロッパのレース育ちの小林選手はF1へとステップアップする過程で何度もダラーラ製のレーシングカーに乗ってきた経験もある。その点でも心配は少ないだろう。
このほか、トヨタは2014年通りSUPER GTのGT500クラスに6チームで参戦し、GT300クラスに関してもaprのPRIUS apr GTのサポートを行うほか、トヨタがRC Fをベースに開発したFIA-GT3規格のレーシングカー「RC F GT3」をLM corsaチームが導入してGT300クラスに参戦することなどが明らかにされた。NASCARへの参戦、GaZooレーシングでのニュルブルクリンク24時間レースへの参戦なども継続される。さらには、レクサスブランドでレースをする場合に利用されるレクサスレーシングのロゴマークが変更されたことなどが発表された。
●WEC体制
チーム名 | 車両 | No. | ドライバー |
---|---|---|---|
トヨタ・レーシング | TS040 HYBRID | 1 | アンソニー・デビッドソン(Anthony Davidson イギリス) |
セバスチャン・ブエミ(Sébastien Buemi スイス) | |||
中嶋一貴(Kazuki Nakajima 日本) | |||
2 | アレックス・ブルツ(Alex Wurz オーストリア) | ||
ステファン・サラザン(Stéphane Sarrazin フランス) | |||
マイク・コンウェイ(Mike Conway イギリス) | |||
●スーパーフォーミュラ体制
チーム名 | No. | ドライバー |
---|---|---|
ペトロナス チーム トムス | 1 | 中嶋一貴(Kazuki Nakajima 日本) |
2 | アンドレ・ロッテラー(Andre Lotterer ドイツ) | |
コンドー レーシング | 3 | ジェームス・ロシター(James Rossiter イギリス) |
キグナス スノコ チーム ルマン | 7 | 平川亮(Ryo Hirakawa 日本) |
8 | 小林可夢偉(Kamui Kobayashi 日本) | |
ケーシーエムジー | 18 | 中山雄一(Yuichi Nakayama 日本) |
レノボ チーム インパル | 19 | ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ(Joao Paulo de Oliveira ブラジル) |
20 | アンドレア・カルダレッリ(Andrea Caldarelli イタリア) | |
プロミュー セルモ インギング | 38 | 石浦宏明(Hiroaki Ishiura 日本) |
39 | 国本雄資(Yuji Kunimoto 日本) |
●SUPER GT/GT500体制
チーム名 | 車両名 | No. | ドライバー | タイヤ |
---|---|---|---|---|
レクサス チーム ルマン エネオス | ENEOS SUSTINA RC F | 6 | 大嶋和也 | BS |
国本雄資 | ||||
レクサス チームウェッズスポーツ バンドウ | WedsSport ADVAN RC F | 19 | 脇阪 寿一 | YH |
関口雄飛 | ||||
レクサス チーム ペトロナス トムス | PETRONAS TOM'S RC F | 36 | 伊藤大輔 | BS |
ジェームス・ロシター | ||||
レクサス チーム キーパー トムス | KeePer TOM'S RC F | 37 | アンドレア・カルダレッリ | BS |
平川亮 | ||||
レクサス チーム ゼント セルモ | ZENT CERUMO RC F | 38 | 立川祐路 | BS |
石浦宏明 | ||||
レクサス チーム サード | DENSO KOBELCO SARD RC F | 39 | 平手晃平 | BS |
未定 |
●SUPER GT/GT300体制
チーム名 | 車両名 | No. | ドライバー | タイヤ |
---|---|---|---|---|
エー・ピー・アール(apr) | TOYOTA PRIUS apr GT | 31 | 嵯峨宏紀 | BS |
中山雄一 |