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日立オートモティブ、自動運転技術への投資を加速

電子・電動化の製品ポートフォリオを強化

日立オートモティブシステムズ 取締役会長兼CEO 大沼邦彦氏
2015年6月11日開催

 日立製作所は6月11日、「Hitachi IR Day 2015」を都内で開催し、同社のオートモティブシステム事業の事業戦略について言及した。

 日立オートモティブシステムズ 取締役会長兼CEOの大沼邦彦氏は、「日立製作所のオートモティブシステム事業は、クルマの『環境』『安全』『情報』という3つの分野から取り組んでおり、モビリティテクノロジーを進化させ、社会価値創造を目指す」とし、環境に配慮した高効率エンジンと電動パワートレーンシステムによる「Environment(環境)」、走る、曲がる、止まるという機能を最適化する走行制御システムによる「Safety(安全)」、快適性、利便性を向上させる車載情報システムによる「Information(情報)」の観点から事業を展開。Vehicle統合制御システムにより、超「低燃費・安全」で、人と社会がつながるクルマを目指すとした。

 オートモティブシステム事業における2014年度の実績(IFRS)は、連結売上高が9369億円、営業利益率は5.1%。売り上げ構成比は、モーターやインバーター、エンジンコントロールシステムなどのパワートレイン&電子事業部が30%、電動パワーステアリングやピストンなどのエンジン機構事業部が20%、クラリオンブランドによる音声認識カーナビ、周辺監視カメラ、クラウド情報ネットワークサービス「Smart Access」などの車載情報システムが20%、電動型制御ブレーキ、セミアクティブサスペンション、水素ディスペンサーなどの走行制御システム事業部が20%、ブレーキパッドやリチウムイオン電池などの市販事業部・その他が10%となっている。

 2015年度の業績見通しは、売上高が前年比7%増の1兆円、顧客海外拠点向け売上高比率が60.0%、営業利益が680億円、営業利益率6.8%、EBITマージンで7.0%を目指す。大沼氏は「2013年度から順調に推移している。2015年度は通過点として、次期中期計画として、2018年度には売上高1兆2000億円、営業利益880億円、営業利益率7.3%、EBITで900億円を目指す。それに向けて着実に戦略を実行させ、真のグローバルプレーヤーを目指す」とした。

事業コンセプトとして「低炭素社会」「無事故社会」「安心快適社会」の3つを掲げる
事業構成の割合と具体的な製品例
2015年中期経営計画の進捗状況。2015年度は売上高1兆円、EBITマージン7.0%を目指す
業績の推移と2018年度までの目標値

 また、「日立オートモティブシステムズには、テクノロジー、クオリティ、R&D、グローバルフットポイント、セールスの5つの強みがある」(大沼氏)とし、「テクノロジー」においては、自動運転基盤の「ADAS統合制御」に代表されるメカトロニクス製品力、システムインテグレーション力、「クオリティ」では、垂直統合による製品品質力や制御システムの信頼性、「R&D」では、日立グループのR&Dリソースの有効活用、産学官のコラボレーション力による差別化技術の創造、「グローバルフットポイント」では、地域密着事業推進力、グローバル顧客サポート力、「セールス」ではグローバルアカウントチームによる機動力、クロスセル実行力をそれぞれの特徴として挙げた。

 さらに、クルマを取り巻く環境についても言及。グローバル規模で段階的に進んでいる環境規制強化と安全性向上、自動運転の潮流により、電子および電動化技術のニーズが拡大しており、パワートレーンにおける高効率化、先進運転支援システムでの高度制御化に取り組むとして、「自動運転の潮流が生まれており、これは我々が進めているものと合致する」(大沼氏)と語った。

 また、同社では、現在、45%のエレクトロニクス化製品の比率を、2020年度を目標に60%まで拡大。2013年度には4000億円だったエレクトロニクス化製品の売上高を、2015年度には5000億円に拡大する見通し。大沼氏は「エレクトロニクス化製品比率の高さでは、世界でトップ3のなかに入ることになる。市場成長率の高い電子・電動化の製品ポートフォリオを強化。エレクトロニクス化製品の比率を拡大することで、成長を実現していく」と述べた。

「テクノロジー」「クオリティ」「R&D」「グローバルフットポイント」「セールス」の5点が日立オートモティブシステムズの強み。クルマを取り巻く環境やユーザーニーズの変化に適合し、エレクトロニクス化製品を強化して成長を達成していく

 今後の成長戦略については、堅牢な基盤、確実な成長に向けて「製品」「顧客」「地域」の観点から3つの中核戦略を打ち出し、製品戦略では「内燃機関の高効率化、電動化、自動運転へのシステム対応」、顧客戦略では「顧客ダイバーシティ戦略の実行」、地域戦略として「グローバルフットプリントの拡充」をそれぞれ打ち出した。

 2018年度の売上高目標として、リチウムイオン電池は、2013年度比で7倍を掲げたほか、インバーターでは同3倍、高機能電動パワーステアリングでは同10倍、電動型制御ブレーキとセミアクティブサスペンションでそれぞれ同2倍を目指す。

 また、すでに世界的に高いシェアを持つ製品群についてもシェアの高さを維持、拡大することで、高い成長へ挑戦する姿勢を見せ、世界シェア40%でトップシェアのエアフローセンサーや、世界シェア72%を持つステレオカメラのほか、バルブタイミングコントロールシステム(VTC)、点火コイル、サスペンション、プロペラシャフトなどにおいて、引き続き高いシェアの維持に取り組む。

 従来比40%の検知領域拡大を達成したステレオカメラは、2018年度には売上高を6倍に拡大。これはスバル(富士重工業)のレヴォーグなどのモデルに採用されている製品だ。また、フォード エクスプローラーなどへの採用が決定している電動パワーステアリングでも50%のラック推進を達成。この分野の売上高を2018年度までに10倍に拡大させる。

 メルセデス・ベンツ S550 プラグインハイブリッド ロングなどが採用しているインバーターは、従来比40%の小型・高出力化を達成。2018年度までに売上高を3倍に増やす。2016年型のシボレー マリブ ハイブリッドへの採用が決定しているリチウムイオン電池でも従来比50%増の出力密度を実現しており、2018年度までに7倍に売上高を増やす計画だ。大沼氏は「リチウムイオン電池や高機能電動パワーステアリングなど、技術優位性のある製品を一層強化する」と述べた。

中核戦略となるのは「製品」「顧客」「地域」の3つ
環境、安全分野のコア製品で売り上げを2倍~10倍に高め高成長に挑戦する

 さらに同社は、2020年度までにHEV/EVシステム、ベルト駆動式高機能電動パワーステアリング、可変動弁システム、電子制御ブレーキシステムなどのシステム関連製品の売上高を5倍にする計画を明らかにした。「システム力はますます重視される。垂直統合モデルが大切になり、自らの製品を内製し、技術の中身を精査し、それを組み合わせた統合制御システムとして提供することが大切になる」(大沼氏)と語る。

 説明のなかで大沼氏は、垂直統合モデルの一例としてADAS統合制御システムへの取り組みについて解説。2018年度に実用化を予定している周辺監視カメラを軸にした自動駐車システムについて説明し、「クラリオンとの共同開発によるものであり、カメラ画像処理による駐車枠線と駐車空間の高速認識、静止・移動体のリアルタイム検知、駐車可能位置の把握と障害物回避、当社が持つコントローラとアクチュエーターとの連携により、スムーズですばやい駐車が可能になる」とした。

 並列駐車の場合には自動駐車が可能であり、駐車枠と障害物、走行可能空間を認識。縁石を認識して停止することができる。また、縦列駐車では駐車可能空間を認識するとともに、歩行者を検知すると停止する仕組みを搭載しており、出発時の発車支援も行う。発車支援では接近してくる走行車両をカメラで検知し、発車時にアラートを出すものになる。

 一方、クラリオンは「有用な情報をユーザーに提供し、快適、安心、利便性を高める車両情報システムプロバイダーとして事業を推進する」として、クラウド型情報ネットワークサービス「Smart Access」や、外界情報認識センサーの「Surround Eye」、高度HMIの「Smart Cockpit」、車載情報機器ではスマートフォン連携ナビゲーションや、テレコミュニケーションユニットなどを提供するとした。

「クラリオンは製品からサービスまでを提供する当社のグループ会社であり、日立が進める車両統合制御戦略のなかで重要な役割を果たすことになる」(大沼氏)とのこと。

 そのほか、自動運転の実現に向けて大沼氏は、「自動運転は自動車向けの技術だけでなく、社会との連携が重要になる。自動車クラウド・ビッグデータ解析、クラウドなどといった日立グループとの連携強化を通じて、セキュリティ通信でクルマが社会とつながり、高信頼性と各種サービスによりユーザーメリットをもたらす自動運転の実現を目指したい」と述べた。

 また、日立オートモティブシステムズ 取締役社長兼COOの関秀明氏は「自動運転では日立単独でも戦える力をつけていきたい。だが、M&Aも否定するものではない」とした。

さまざまな分野で高度な製品を作っていることで、ADASを実現する統合制御システムを自社による垂直統合モデルで実現できるのが大きな強み
2018年度に実用化を予定している自動駐車システムの解説と特徴
クラウド型情報ネットワークサービスや外界情報認識センサーなどを扱うクラリオンは、車両統合制御戦略における重要な役割を果たす日立のグループ会社

 一方、顧客戦略となる「顧客ダイバーシティ戦略の実行」としては、同社売上高の3分の1を占める主要顧客であるルノー・日産向けの売上高を拡大する一方、トヨタやフォルクスワーゲン・アウディ、GM、フォードなどの“グローバルトップ10”に対する2018年度の売上高を2013年度比で60%増とし、2014年度で35%となっている売上高構成比を39%にまで拡大。グローバルアカウントマネージャーやグローバルアカウントチームによるクロスセルの実行、2020年度までにグローバル営業人員を10%増とする増強計画を打ち出した。

 また、自動駐車、プレビューGVC(車両運動制御技術)、次世代ストップ&スタートシステムなどの差別化した新技術を活用し、課題解決型の提案を推進するとした。

 地域戦略では、米州、欧州、中国、アジアの4つの拠点における取り組みを強化。「中国では広州の新拠点を軸とした事業の拡大を図り、欧州では、顧客本社への戦略的アプローチを行う」(大沼氏)と述べた。

 新工場として、メキシコ(ケレタロ州)、インド(チェンナイ)に展開しており、メキシコでは2018年度までに売上高を2.7倍に拡大。2015年5月からピストン、アルミダイキャストの製造を開始。2018年度まで生産品目を13製品に拡大させる。また、インドでは売上高を2020年度までに9倍に拡大。2015年10月からは、VTC、点火コイルの製造を開始する予定だ。

売上高構成比で“グローバルトップ10”と呼ばれる顧客に対する売上を拡大する計画
世界4個所のエリアでそれぞれ生産拠点を増やし、事業を拡大していく
新拠点の例として挙げられた「メキシコ工場」と「インド新工場」

 グローバル投資については、2008年度~2010年度の3カ年で900億円の投資額だったものを、2014年度~2016年度までの投資額は約3倍となる2800億円とし、大沼氏は「とくに海外投資額は4.7倍に増加。投資額全体の6割を占める」とした。また、「社外研究機関とのコラボレーションにも力を注いでいる。とくに自動運転分野での共同開発を進めている」という。

 なお、日立製作所では事業構造改革などに取り組む「Hitachi Smart Transformation Project」を実行しているが、オートモティブシステム事業においては、グローバル生産改革に取り組み、標準自動化ラインを全世界に展開。7製品を15拠点で同一のラインを稼働。同一の品質を維持する環境を実現した。また、新興国ではローコスト生産ラインを導入する。そのほか。リモートモニタリングによるグローバル品質保証管理システムを拡充。グローバル調達改革を図ったという。

自社での研究開発に加え、とくに自動運転分野では社外研究機関とのコラボレーションにも注力
「Hitachi Smart Transformation Project」では「コスト構造改革」「キャッシュ創出」にも取り組んでいる
まとめとなる2015年度計画。「モビリティテクノロジーを進化させ、社会への価値創造をめざす」と結んでいる

(大河原克行)