インプレッション
フォルクスワーゲン「パサート GTE」
2016年7月4日 00:00
ゴルフGTEよりもパワーアップ
2015年夏より日本に導入されている現行パサートは、装いも新たに生まれ変わって見た目にも存在感があるし、走りもなかなかの仕上がりで、業界内での評価も上々だ。当時からディーゼルやプラグインハイブリッド(PHEV)、4WDなどの導入予定があることが伝えられていたが、例の一件もあってか、最初に追加発売されたのは、フォルクスワーゲンとしては「ゴルフ GTE」に次ぐPHEV第2弾となる「パサート GTE」であった。
「GTE」というと、すでにゴルフ GTEが日本にも導入されている。1.4リッターのガソリン直噴ターボエンジンとモーターおよびリチウムイオンバッテリーを組み合わせ、6速DSGを介して前輪を駆動させるのだが、ゴルフ GTEに対しエンジンとモーターの出力が若干向上したほか、バッテリー容量も増加している。
現行パサートの評判のよい内外装もガソリン車との差別化が図られており、ブルー基調のアクセントが各部に効果的に配されている。フロントバンパー両サイドにC字型のLEDが装着されているのも識別点となる。
ハイブリッドで気になるトランクについては、アンダーボックスはないものの、フロア上はガソリン車と同じ容量が確保されている。リアアクスル上にバッテリーを搭載するので、リアシートは前倒しが可能で、ガソリン車と同じようにラゲッジスペースを拡大することができる。セダンはやや前側が持ち上がるが、ヴァリアントはほぼ水平となるのもありがたい。
今回は千葉県の袖ケ浦フォレストレースウェイと周辺一般道で試乗した。
GTEならではの走りをチェック
まずパサートではなくゴルフでだが、サーキットの外周を使ってGTEの実力を確認。EVモードにしておくと、全開に近いくらいアクセルを踏んでも、カチッとフルスロットルが検知されるまで踏まなければモータードライブが維持されることに驚いた。しかもモーターだけで思ったよりもずっと力強く走れる。
試しにメインストレートでゴルフのGTIとGTEでドラッグレースにトライしたところ、出足は互角で、途中からややGTIのほうが伸びるものの、それほど大きくひけをとるわけではないという印象だった。ホットモデルのGTIと同等とはなかなかの実力の持ち主といえそうだ。
続いてサーキットの内周でパサート GTEの特性を体感する。「Eモード」「GTEモード」「HVモード」という3つの走行モードが選べるので、いろいろ試してみた。
「Eモード」で走り出すと、1.7tをやや上回る車両重量ながらスムーズに発進し、軽やかに加速していく。ある程度まで車速を高めて巡行し、アクセルオフにするとコースティング状態となる。タコメーターの表示がゼロになる瞬間が楽しみになる。抵抗感なく結構な距離を惰走できることと、条件が整えば何度でもコースティングすることが印象的だった。
6速DSGとの組み合わせゆえ、シフトチェンジすることで回生の具合を調整できるのも特徴的で、右側の「+」を引くと穏やかに回生し、左側の「-」でシフトダウンすると、それに合わせて回生の強さが変わる。GTEはトランスミッションを持つEVという側面も持ち合わせている点も興味深く、そのおかげもあってモーターのみでも130km/hまで走行可能という。また、モータードライブだけで航続距離が50km以上と聞くと、走りについて多少はガマンを強いられるのかと思うところだが、まったくそんなこともない。
「ハイブリッドモード」では、モーターで発進し、車速が上がるとエンジンで駆動する。そこで再加速を試みるとふたたびモーターがアシストするので、より瞬発力のある加速を得ることができる。「ハイブリッドモード」でもそうなのだから、エンジンとモーターの双方の能力を最大に引き出す「GTEモード」では、かなり強力な加速を味わえる。同時にステアリングやサウンドなども連動してスポーティな味付けとなる。
動力性能に関する不満はないとして、フットワーク面では、ガソリンのパサートをドライブした感覚からすると、車両重量が260kgも増加したことを感じないわけではないが、気になるようなネガティブなこともない。
力強い加速感と先進性が魅力
そして公道へ。周辺の一般道と高速道路を走ってGTEの乗り味を確かめた。ガソリンのパサートでは、1.4リッターという排気量の小さなエンジンでも上手いことパサートを走らせることができているなと思う半面、やはり線の細さも感じられて、適正値かどうかというと、やや外れている気もしなくなかった。ところがGTEは、不満を感じないどころか、これはけっこう速いなと感じるほどの力強い加速感だ。
モータードライブだけでもトルクがあるうえ、アクセルを踏み込めばエンジンが後押ししてくれるので、日常的な走り方ならEモードで十分。一般道はもちろんのこと、高速道路でも不満のない加速性能を得られる。
また、フォルクスワーゲン初採用というデジタルメーターは、見た目にも先進的で新鮮味もあるだけでなく、エネルギーフローをはじめPHEVに関するいろいろな情報を分かりやすく伝えてくれて重宝する。
試乗した上級の「GTE Advance」は、標準装備される電子制御ダンパーの「DCC」と18インチタイヤの相性もよく、快適でかつスポーティな走りを楽しむことができた。この強力な動力性能と適度に締まったフットワークを味わって、このクルマが「E」であるだけでなく、あえて「GT」を名乗る意味がヒシヒシと伝わってきた。
むろん、渋滞時の追従支援を積極的に行なうなどの新機構を含めた10アイテムの先進安全装備を全車標準装備するという、新型パサートの美点を引き継いでいるのはいうまでもない。こうした先進性も、このクルマの大きな魅力に違いない。
日本は世界に類をみないハイブリッド市場であり、近年はPHEVの比率も一気に高まっている中に、また1つ非常に注目すべきニューモデルが加わった。価格についても、一見高く感じるところだが、税制面での優遇や実車に触れて感じた付加価値を考えると、けっして高くはない。また、「GTE」と「GTE Advance」には60万円という決して小さくない価格差が存在するが、よほどの事情がなければ、「GTE Advance」を選ぶべき。DCCの有無の差は大きく、それ以外の装備の充実ぶりも、この価格差を補ってあまりあるものだ。