インプレッション

フォルクスワーゲン「パサート GTE」

ゴルフGTEよりもパワーアップ

 2015年夏より日本に導入されている現行パサートは、装いも新たに生まれ変わって見た目にも存在感があるし、走りもなかなかの仕上がりで、業界内での評価も上々だ。当時からディーゼルやプラグインハイブリッド(PHEV)、4WDなどの導入予定があることが伝えられていたが、例の一件もあってか、最初に追加発売されたのは、フォルクスワーゲンとしては「ゴルフ GTE」に次ぐPHEV第2弾となる「パサート GTE」であった。

「GTE」というと、すでにゴルフ GTEが日本にも導入されている。1.4リッターのガソリン直噴ターボエンジンとモーターおよびリチウムイオンバッテリーを組み合わせ、6速DSGを介して前輪を駆動させるのだが、ゴルフ GTEに対しエンジンとモーターの出力が若干向上したほか、バッテリー容量も増加している。

 現行パサートの評判のよい内外装もガソリン車との差別化が図られており、ブルー基調のアクセントが各部に効果的に配されている。フロントバンパー両サイドにC字型のLEDが装着されているのも識別点となる。

 ハイブリッドで気になるトランクについては、アンダーボックスはないものの、フロア上はガソリン車と同じ容量が確保されている。リアアクスル上にバッテリーを搭載するので、リアシートは前倒しが可能で、ガソリン車と同じようにラゲッジスペースを拡大することができる。セダンはやや前側が持ち上がるが、ヴァリアントはほぼ水平となるのもありがたい。

 今回は千葉県の袖ケ浦フォレストレースウェイと周辺一般道で試乗した。

セダンのパサート GTEとステーションワゴンのパサート GTE ヴァリアント
パサート GTEのボディサイズは4785×1830×1470mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2790mm。価格は519万9000円。ナッパレザーシート(運転席マッサージ機能付き)や同社初採用のヘッドアップディスプレイ、18インチアルミホイールなどを標準装備するアップグレード仕様の「Advance(アドヴァンス)」は579万9000円
パサート GTE ヴァリアントのボディサイズは4775×1830×1510mm(全長×全幅×全高)で、価格は539万9000円。パサート GTE ヴァリアント Advanceは599万9000円。セダン、ステーションワゴンともエクステリアの各所にブルーパーツを採用するのが特徴
トランスミッションにはPHEV専用に開発された3つのクラッチを内蔵する6速DSGを採用する
走行モードは「Eモード」「GTEモード」「HVモード」を用意し、「Eモード」では国内で販売されるPHEV(セダン/ステーションワゴン)の中で最長となる51.7kmという航続距離を実現。また、「GTEモード」ではアクセルレスポンス、ギヤのシフトタイミング、ステアリングが自動的にスポーティな特性に切り替わるとともに、エンジンと電気モーターのフルパワーを得ることが可能
TFT12.3インチの大型液晶を採用したデジタルメータークラスター「Active info Display」。フォルクスワーゲン車として初採用となっている
ラゲッジスペース横のレバーで後席のシートバックを倒すことができる

GTEならではの走りをチェック

 まずパサートではなくゴルフでだが、サーキットの外周を使ってGTEの実力を確認。EVモードにしておくと、全開に近いくらいアクセルを踏んでも、カチッとフルスロットルが検知されるまで踏まなければモータードライブが維持されることに驚いた。しかもモーターだけで思ったよりもずっと力強く走れる。

 試しにメインストレートでゴルフのGTIとGTEでドラッグレースにトライしたところ、出足は互角で、途中からややGTIのほうが伸びるものの、それほど大きくひけをとるわけではないという印象だった。ホットモデルのGTIと同等とはなかなかの実力の持ち主といえそうだ。

 続いてサーキットの内周でパサート GTEの特性を体感する。「Eモード」「GTEモード」「HVモード」という3つの走行モードが選べるので、いろいろ試してみた。

「Eモード」で走り出すと、1.7tをやや上回る車両重量ながらスムーズに発進し、軽やかに加速していく。ある程度まで車速を高めて巡行し、アクセルオフにするとコースティング状態となる。タコメーターの表示がゼロになる瞬間が楽しみになる。抵抗感なく結構な距離を惰走できることと、条件が整えば何度でもコースティングすることが印象的だった。

 6速DSGとの組み合わせゆえ、シフトチェンジすることで回生の具合を調整できるのも特徴的で、右側の「+」を引くと穏やかに回生し、左側の「-」でシフトダウンすると、それに合わせて回生の強さが変わる。GTEはトランスミッションを持つEVという側面も持ち合わせている点も興味深く、そのおかげもあってモーターのみでも130km/hまで走行可能という。また、モータードライブだけで航続距離が50km以上と聞くと、走りについて多少はガマンを強いられるのかと思うところだが、まったくそんなこともない。

直列4気筒DOHC 1.4リッター直噴ターボエンジンは最高出力115kW(156PS)/5000-6000rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpmを発生。これに最高出力85kW(116PS)、最大トルク330Nm(33.6kgm)を発生する電気モーターを組み合わせる。ハイブリッド燃料消費率(JC08モード)は21.4km/Lを実現

「ハイブリッドモード」では、モーターで発進し、車速が上がるとエンジンで駆動する。そこで再加速を試みるとふたたびモーターがアシストするので、より瞬発力のある加速を得ることができる。「ハイブリッドモード」でもそうなのだから、エンジンとモーターの双方の能力を最大に引き出す「GTEモード」では、かなり強力な加速を味わえる。同時にステアリングやサウンドなども連動してスポーティな味付けとなる。

 動力性能に関する不満はないとして、フットワーク面では、ガソリンのパサートをドライブした感覚からすると、車両重量が260kgも増加したことを感じないわけではないが、気になるようなネガティブなこともない。

純正インフォテイメントシステム「Discover Pro」ではエネルギーフローを表示させることも可能

力強い加速感と先進性が魅力

 そして公道へ。周辺の一般道と高速道路を走ってGTEの乗り味を確かめた。ガソリンのパサートでは、1.4リッターという排気量の小さなエンジンでも上手いことパサートを走らせることができているなと思う半面、やはり線の細さも感じられて、適正値かどうかというと、やや外れている気もしなくなかった。ところがGTEは、不満を感じないどころか、これはけっこう速いなと感じるほどの力強い加速感だ。

 モータードライブだけでもトルクがあるうえ、アクセルを踏み込めばエンジンが後押ししてくれるので、日常的な走り方ならEモードで十分。一般道はもちろんのこと、高速道路でも不満のない加速性能を得られる。

 また、フォルクスワーゲン初採用というデジタルメーターは、見た目にも先進的で新鮮味もあるだけでなく、エネルギーフローをはじめPHEVに関するいろいろな情報を分かりやすく伝えてくれて重宝する。

 試乗した上級の「GTE Advance」は、標準装備される電子制御ダンパーの「DCC」と18インチタイヤの相性もよく、快適でかつスポーティな走りを楽しむことができた。この強力な動力性能と適度に締まったフットワークを味わって、このクルマが「E」であるだけでなく、あえて「GT」を名乗る意味がヒシヒシと伝わってきた。

 むろん、渋滞時の追従支援を積極的に行なうなどの新機構を含めた10アイテムの先進安全装備を全車標準装備するという、新型パサートの美点を引き継いでいるのはいうまでもない。こうした先進性も、このクルマの大きな魅力に違いない。

 日本は世界に類をみないハイブリッド市場であり、近年はPHEVの比率も一気に高まっている中に、また1つ非常に注目すべきニューモデルが加わった。価格についても、一見高く感じるところだが、税制面での優遇や実車に触れて感じた付加価値を考えると、けっして高くはない。また、「GTE」と「GTE Advance」には60万円という決して小さくない価格差が存在するが、よほどの事情がなければ、「GTE Advance」を選ぶべき。DCCの有無の差は大きく、それ以外の装備の充実ぶりも、この価格差を補ってあまりあるものだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。