インプレッション

ポルシェ「パナメーラ」(ドイツ公道試乗)

「イノドライブ」とは?

 ナビゲーション・システムに目的地を入力し、あとはスイッチを押せば目的地へと連れて行ってくれる――クルマなんか運転しないという人を含め、多くの人にとっての「自動運転」のイメージは、きっとこんな全自動の自動車であるはずだ。

 となると、昨今紹介される「その手」のデバイスを採用したモデルの実力は、残念ながらどれもこれもがまだまだそうした完成形にはほど遠い。ましてや、「これは自動運転ではなく、『自動運転技術』です」などという詭弁で紹介される、セット済みの車線からいつ逸脱してしまうか分からないモデルに“全自動”の夢を重ねられる人など1人も存在しないに違わない。

 ところが、「イノドライブ(innoDrive)」なる聞きなれない言葉で紹介された発展型アダプティブ・クルーズコントロールを搭載する今回のテスト車が、思った以上に「それ」に近い印象を味わわせてくれることには驚いた。

 レーダーとカメラセンサーを活用し、ナビゲーション・システム用地図データを元に3km先までの道路状況を判断。ラウンドアバウト(環状交差点)なども認識しながら、トランスミッションのギヤ位置選択も含めて最適な加速/減速状態を作り出していくというのが、「すべて社内で開発を行なった」というこのデバイス。

 電光標識による可変速度規制が行なわれるアウトバーン上のみならず、一般道でも目まぐるしく変化する速度規制にすべて対応すると同時に、規制速度が100km/hと高い郊外の一般路でも、近づくコーナーに対して事前に速度を落とした後、コーナー脱出後にはふたたび速度を高めるそのさまは、ステアリング操作こそ行なわないものの、まさに自動運転の入口に立ったことを実感させてくれるに相応しい出来栄えであったのだ。

「2017年1月から、まずは本国ドイツをはじめとしたヨーロッパ市場向けモデルに設定」というこのイノドライブは、残念ながら今のところ日本市場への展開については「未定」とされる。そもそも、今回のドイツでの試乗会でそんな機械任せの走りにストレスが伴わなかったのは、実は彼の地での速度をはじめとする各種の規制が「理にかなったもの」という点も非常に大きかった。これまで「自動運転」などとは無縁とも思えたブランドが、すでにここまでの内容に仕上げていたことにビックリした。そんなこのデバイスの持ち主は、ポルシェの新型「パナメーラ」だ。

日本で7月28日から予約受注が始まった新型「パナメーラ」は、V型6気筒 2.9リッターツインターボエンジンを搭載する「パナメーラ 4S」(写真)、V型8気筒 4.0リッターツインターボエンジンを搭載する「パナメーラ ターボ」を展開。いずれもDCTの8速ポルシェ・ドッペルクップルング(PDK)を介して4輪を駆動する。パナメーラ 4Sの価格は1591万円
新型パナメーラのボディサイズは先代モデルと比べ34mm長く、6mm広く、5mm高い5049×1937×1423mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは30mm延長の2950mm。先進技術ではアダプティブクルーズコントロールに新技術となる「ポルシェ イノドライブ」を設定。これはナビゲーションデータとレーダー、ビデオセンサーからの信号などを使い、3km先までの最適な加速度と減速度、ギヤ選択、コースティングフェーズなどを計算して車両を制御するというもの。コーナー、斜面、速度制限などを自動的に算出するという
パナメーラ 4Sに搭載されるV型6気筒 2.9リッターツインターボエンジンの最高出力は324kW(440PS)/5650-6600rpm、最大トルクは550Nm/1750-5500rpm。最高速は289km/h、0-100km/h加速は4.4秒
ダッシュボードの中央部に12.3インチのタッチスクリーンを持つ次世代ポルシェ コミュニケーション マネージメント システム(PCM)を採用。リアシートは40:20:40分割可倒式となる。そのほかパノラミックチルトルーフ、マッサージシート、アンビエントライト、Burmester 3Dハイエンドサウンドシステムといったオプションも用意される

 実は創業以来、ポルシェが常に憧れを抱いてきた「4ドアでフル4シーター」という形態のスポーツカー。言うなれば、ついにそれをカタチとした初代パナメーラがデビューしたのは2009年のことだった。ここに紹介のモデルは、初のフルモデルチェンジを受けた2代目となる。

 そんな2代目パナメーラの概要は、試乗会に先駆けて開催されたワークショップで得られた情報を、すでにCar Watch上でも紹介済み。それから1カ月半ほどの間を置いて、いよいよ自身の手でドライブすることができる試乗会の舞台も、前出ワークショップ同様に本国ドイツだった。

 イベントの起終点として、ミュンヘンの空港ターミナル前に特設されたパビリオンに用意をされたのは「ターボ」と「4S」、そして「4Sディーゼル」という、当初のローンチ時に発表された全3グレード。残念ながら、時間の関係から「世界最速ディーゼルセダン」を標榜する4Sディーゼルには触れられなかったが、近々日本にも導入予定の残る2タイプのガソリン・モデルをテストドライブすることができた。

こちらはV型8気筒 4.0リッターツインターボエンジンを搭載するパナメーラ ターボ
V型8気筒 4.0リッターツインターボエンジンは最高出力404kW(550PS)/5750-6000rpm、最大トルク770Nm/1960-4500rpmを発生。最高速は306km/h、0-100km/h加速は3.8秒
パナメーラ ターボのインテリア

静粛性の高さは文句なしにすごい!

 ポルシェ車の場合、直接“走り”の性能に関係するさまざまなオプション・アイテムが用意されるのが常だが、新型パナメーラの場合もその例外ではない。今回テストドライブしたモデルも、「ターボ」にはリアアクスル・ステアリングやPCCB(セラミックコンポジット・ブレーキ)、そして標準より1インチ増しの21インチ・シューズが。

 また「4S」には同じくリアアクスル・ステアリングや、こちらでは標準比2インチ増しに該当する21インチ・シューズのほか、「ターボ」には標準装備となるエアサスペンションなどがオプション装着されていた。

 現時点ではシリーズ中で最もパワフルと紹介される「ターボ」に積まれた心臓は、90度バンクの内側にターボユニットを配したセンターターボ・レイアウトや、4つのシリンダーの休止機構などを新採用した4.0リッターのツインターボ付き8気筒エンジン。同様にツインターボ付きだった従来の8気筒ユニットに比べると0.8リッターのダウンサイズとなるが、「効率を高めつつ出力も向上させる」という最新ポルシェ・エンジンの流儀に則って、最高出力は30PS、最大トルクは70Nmと大幅に上乗せされている。

 そんな新開発ユニットを、こちらも新しい8速DCTとの組み合わせで搭載するこのモデルの走りは、もはやどんなシーンであっても非の打ちどころのない、際立つ速さがまず印象に残ったもの。

 フラグシップセダンとして見た場合、微低速の動きの滑らかさでは正直なところステップATを採用するライバルに先行を許した部分もあるように思えた。だが、アクセル開度の小さな街乗りシーンではあくまでジェントルに。一方で、アクセル開度の大きな領域でV8ユニットならではのサウンドとともに凄まじい加速が味わえるという点では、従来型にも増しての見事な2重人格(?)ぶりだ。

 そんなトップグレードと比べると、シリンダー数で2本、排気量で1.0リッター強、そして最高出力では110PSのダウンと、スペック上は随分と見劣りするようにも思えるものの、実は「4S」の方も「すこぶる速い」ということに変わりはない。サウンド面も含め、多少迫力が落ちるのは確かであるものの、特に日本へと持ち込んだ場合、「これ以上、一体何を望むのか!?」とそう感じる人も多いはず。

 それでもやはり頂点にV8モデルを置いたのは、前述特有のサウンドを含んだフィーリング面の特徴に加え、アメリカを中心に未だ「スペック信奉」が高いマーケットに向けての、ライバルとの競争力維持にこだわった結果からとも思えてくる。

 新型パナメーラでは、前出のパワーパックに加えボディ骨格構造からシャシー/サスペンションの設計に至るまで、「何から何まで」が新開発されたアイテムで構成されているというのは、ワークショップの項でも述べたとおり。ただし、かくもすべてがオールニューであるがためか、実はポルシェ車ゆえの際立って高い期待値をあてはめると、「あれ? これはまだ、熟成し切れていないかな?」と、実はそう感じさせられる部分も皆無ではなかった。

 例えば、微低速域でのスムーズな動きという点では、むしろ従来型の方が上だったのではないかと思わされる部分もあった。時にごくわずかなショックが感じられる前述DCTの制御や、ボディに入った振動のダンピングの素早さ、さらにはアウトバーン上で感じられたオーバー200km/h領域でのステアリングの正確性なども、そのように感じさせられたものの一例だ。

 一方で、文句ナシに凄かったのはその静粛性の高さ。特にロードノイズの遮断性に関しては、「これまで自身が知る中で、最上級の高さ」と断言できるものであったのだ。同時に、ワークショップでのサーキットでの同乗走行時に、「これはまさしくリアルスポーツカーだ!」と実感させてくれた逞しいフットワークが、サスペンション・モードの切り替えによって、今度は「ショーファー・ドリブンとしても納得のストローク感豊かな上質な乗り味」へと変わる点にも感心させられた。

「速さ」と「効率」に磨きを掛けた上で、ゴージャスそのもののフラグシップセダンと、生粋のドライビング・マシンとしてのピュアなスポーツカーをさらなる高みで両立させた生粋のポルシェ車――あまつさえ、冒頭で述べたような真にドライバーの心を読み取ってくれる“自動運転技術”までもをさりげなく採り入れた上で、そんな贅沢極まるキャラクターの持ち主として改めてのスタートを切ったのが、新型パナメーラというモデルなのである。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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