インプレッション

ポルシェ「パナメーラ ターボS E-ハイブリッド」(カナダ試乗)

“テクノロジー・フラグシップ”の「ターボS E-ハイブリッド」

 ハイブリッド・システムを“パフォーマンスのためのコンポーネンツ”と考えたモデルを、シリーズ頂点のバージョンとして用意する――「7年ほど前から考えていた」と技術者が語るそんなコンセプトに基づいて開発された「パナメーラ」が、今春に開催されたジュネーブモーターショーでヴェールを脱いだ。

 “スポーツツーリスモ”の登場と同じタイミングで、サルーンへの追加バージョンとして設定されたのが、「ターボS E-ハイブリッド」と長いグレード名が与えられたモデル。ポルシェ車のグレード流儀に詳しい人であれば、そこに現行パナメーラには存在しなかった“ターボS”の名が含まれる時点で、「これはただ者ではない!」と連想できるはずだ。

 実際、そこに採用されたパワーパックが発生するのは、もはやモンスター級とも言える数々のスペック。550PSの最高出力と770Nmの最大トルクを発するエンジンは、ターボグレードから移植された4.0リッターのツインターボ付きV8ユニット。さらに、そこに組み合わされるのはこれまで「4 E-ハイブリッド」で実績を積んできた、100kWのモーターを組み込んだ8速のデュアルクラッチ式トランスミッションだ。

 結果として得られるシステム全体での出力/トルクは、実に680PSと850Nmという弩級の数字。特に、100rpm(!)から400Nmの最大トルクを発するモーターの支援を受け、1400rpmからマークされるシステム最大トルク値は日常のシーンでも比類なく力強い走りを提供してくれることを予感させる、大きなポイントになっている。

最高出力404kW(550PS)/5750-6000rpm、最大トルク770Nm/1960-4500rpmのV型8気筒4.0リッターツインターボエンジンと最高出力100kW(136PS)/2800rpm、最大トルク400Nm/100-2300rpmの電気モーターを組み合わせるパナメーラ ターボS E-ハイブリッドのパワートレーン。システム全体で最高出力500kW(680PS)、最大トルク850Nmを発生する。トランスミッションは8速DCT(PDK)

 ターボS E-ハイブリッドは、シリーズ中のトップパフォーマーであると同時に、新たなフラグシップ・グレードであるということも特徴。当然、その装備レベルもシリーズ中で最上級だ。

 14ウェイで電動調整が可能なフロント・コンフォートシートや全ポジションに装備されるシートヒーター、レザーインテリアやアルカンターラ仕上げのルーフライニング/ドアパネル/サンバイザーなどはいずれも標準のアイテム。

パナメーラ ターボS E-ハイブリッドのインテリア

 さらに、ロングボディ版である“エグセクティブ”にはパノラミックルーフシステムも標準装備。同様に、やはり標準で装備されるリアのコンフォートシートやリアのサイドウィンドウ用ロールアップ・サンシェードなどは、ショーファー・ドリブンとしての用途も強く意識したことが明らか。標準ボディにはオプション設定のリア・アクスルステアが標準装備されるのは、もちろん小まわり性能を補うためだ。

 そんなこのモデルならではの外観上のコスメティックは、まず21インチの大径シューズと、そのホイールのスポーク間に姿を覗かせるポルシェ・ハイブリッド車に共通の“アシッドグリーン”色で彩られたブレーキキャリパーが最も目立つ特徴点。もちろん走りの頂点を目指したグレードでもあるだけに、そのために採用された先進テクノロジーにも惜しげがない。

パナメーラ ターボS E-ハイブリッド(2831万円)のボディサイズは5049×1937×1427mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2950mm
ブレーキシステムはフロント対向10ピストンのアルミニウム製モノブロックキャリパー、リア対向4ピストンのアルミニウム製モノブロックキャリパーを採用。タイヤサイズはフロント275/35 ZR21、リア325/30 ZR21
こちらはストレッチ版の「パナメーラ ターボS E-ハイブリッド エグゼクティブ」(3044万円)。ボディサイズは5199×1937×1432mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3100mm

 EVモードを優先する“E-パワー”、走行中に充電を優先する“E-チャージ”など、プラグイン・ハイブリッドモデルならではのポジションを含む走行モードを一括で選択させられる「スポーツクロノパッケージ」を筆頭に、電子制御式の可変減衰力ダンパー“PASM”付きの3チャンバー式エアサスペンション、アクティブロール制御システム“PDCC”、さらにはセラミックコンポジット・ブレーキ“PCCB”などがすべて標準装備となる。すなわちそれは、このモデルがポルシェ・ラインアップ切ってのテクノロジー・フラグシップでもあることを意味している。

サーキット、公道で試乗

 国際試乗会が開催されたのは、カナダ南西部で太平洋に面したバンクーバー島。別記事で紹介した「パナメーラ スポーツツーリスモ」のイベントと同時開催ではあったものの、こちらのモデルでは際立つ運動性能の高さをアピールすべく、サーキット走行のセッションが加えられた。

 初めてこのモデルに触れたのは、まさにそんなサーキットでの走行枠から。もっともそれは、2.3kmと短い全長の中に、レイアウトによっては19ものタイトなコーナーを採ることができるという、いわゆるミニ・サーキットだった。

 そんな舞台を、全長5m超で車両重量も2.3t級のモデルで駆け回ろうというのだから、ちょっとばかりの場違い感を抱いたというのがコースイン前の率直な感想。ところが、インストラクターが先導する911 ターボ(!)に続いてコースへと入り、アクセルペダルを深く踏み込みつつ最初のコーナーをクリアした時点で、印象は一変することになった。

「加速力が凄まじい」というのは確かに想定内。何しろ、発表された3.4秒という0-100km/h加速タイムは、911 ターボにわずかコンマ4秒のビハインドなのだから当然だろう。それよりもむしろ驚かされたのは、前述のような巨体がまるでふた回りほど小振りになったかの感覚で、右へ左へとタイトなコースをコマネズミのごとくクリアしてしまうこと。

 タイトなコーナーの連続とともに、時に進路が視界から消えてしまうほどに急なアップダウンも存在したこのコースでは、登り勾配を抜け、前輪荷重が抜けると同時にアンダーステアに見舞われて、トラクション・コントロールが介入し失速気味に……といった場面も皆無ではなかったのは事実。

 とはいえ、そんな限られたシーン以外では“あの911 ターボ”にしっかりと肉薄。何よりも、例え有効なブースト圧が得られないほどにエンジン回転が落ちてしまっても、そこをモータートルクが瞬時に補い、結果としてフル加速する911 ターボにまったくヒケを取らない加速力を見せつけるという、まさに“スーパースポーツカー”と呼ぶに相応しい振る舞いを示してくれたことに驚かされたのだ。

 一方で、そんなサーキットを後にすると、今度は飛び切りゴージャスなサルーンとしてのキャラクターが前面に押し出されることに。その二面性たるや、こちらもまた驚きだった。

 ターボS E-ハイブリッドでは標準装備扱いとなる前述のさまざまな“走りのアイテム”が、ターボ・グレードではオプション扱いに格下げになるなど、装備レベルには多くの相違が見られるものの、それを無視した単純計算では、両グレードでの重量差は実に300kg以上。

 ところが、ハイブリッド・システムの要である駆動モーターの出力が100kWと比較的大きく、EV走行時の最高速も140km/hに達するので、実はバッテリー残量に余裕がある限りは「街乗りシーンの大半はピュアEVとして走り切ってしまう」のが、ターボS E-ハイブリッドの実力でもあるのだ。

 そんなシーンでの静粛性は当然ながら超一級で、ある意味それもまた“パナメーラのフラグシップ”と呼ぶに相応しい振る舞いの1つ。アクセル操作に即応するモーターのトルクは伝達効率に優れ、電光石火の変速を行なうDCTを介して駆動力へと変換されるので、絶対的な加速力がさしたる大きさではなくても、フィーリングがなかなかスポーティであるのも好印象だ。

 もちろん、さらなる強力加速が必要となれば、すぐさまエンジンが目を覚まし、迫力のV8サウンドとともに有り余るパワーが上乗せされる。大容量の3チャンバー式エアサスペンションがもたらすゆったりとした乗り味も、こうした場面では今度はひたすら上質なサルーンであることを印象付ける、有力な武器になってくれた。

 こうして“スーパースポーツ”と”ハイエンドサルーン”とのキャラクターの間を、時と場面によって自在に行き来できることこそが、ターボS E-ハイブリッドの名を与えられたこのモデルならではの無二の特徴でもある。

 かくして、どこをとってもスーパーなスペックを見せつけるその実力は、やはり「ポルシェ」というブランドにこそ相応しいものであるということなのだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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