試乗インプレッション
見た目よし、走りよし。アバルト「695C リヴァーレ」は特別な魅力にあふれる限定車
「695」なれど実は中身は「595」?
2019年5月9日 05:00
高性能ボートにインスパイア
現行「500(チンクエチェント)」が誕生したのも、思えばもう12年あまりも前のことだが、独特のキャラクターゆえ古くならないところが強み。さらには、これまで送り出されたさまざまな仕様の限定車を見るにつけ、どんなふうに着飾っても絵になるのもこのクルマならではだと常々思っているが、今回の150台限定車「アバルト 695C リヴァーレ」は、これまでのアバルトにはなかった優美なテイストに仕立てられていて興味深い。
「リヴァーレ」というのは、イタリアのラグジュアリーボートメーカーであるリーヴァの高性能モデルの名称だ。リーヴァとのコラボは初の試みとなるが、お互いクラフトマンシップと勝利にかける情熱を持ち合わせている点で共通する。同限定車には、そのリヴァーレにインスパイアされたというユニークなアイキャッチの数々が与えられている。ブルーとグレーを組み合わせた印象的なボディカラーも同限定車ならではのもので、小さいながらもなかなか存在感がある。
インテリアはさらにユニークだ。シートやメーターフード、ステアリングホイールなどにはブルーレザー、ダッシュボードやステアリングホイールの一部にはマホガニーがあしらわれていて、ボートのデッキを思わせるような演出も見られる。フロアマットも目が引き寄せられるほど高級感があって驚いた。
チンクエチェントは、もとの樹脂パネルの質感がそれほど高くないからこそ、これらシートやパネルの質感が高いとそれがより際立って見える。“取って付けた”かのような印象が、むしろ個性の演出になっているように思う。
試乗した日はあいにく大雨に見舞われたが、「695C」であれば好みに合わせて3通りの開け方でオープンエアドライブを楽しめる。また、同限定車が発売される少し前の一部改良で、Uconnectの液晶サイズが7インチに大型化され、Apple CarPlayおよびAndroid Autoに対応が図られたばかり。やはりかつてのような後付けのモニターではなく、ビルトインされている方がありがたいのは言うまでもない。
「695」だが「595」?
405万円~422万円という価格は、「695」としては破格だなと思っていたら、実は中身は「595」だそうな。にもかかわらず「695」とされたのは、それだけ価値のある特別なモデルなので、「アバルト 695 トリブート フェラーリ」や「アバルト 695 エディツィオーネ マセラティ」と同じ「695」の称号を与えたのだという。
というわけで、エンジン性能は595とイコールとなるのだが、最高出力180PS、最大トルク230Nmを発生する1.4リッター直4DOHCターボエンジンは、1.1tあまりの車体と組み合わせるには十分すぎるほど。持ち前のパンチの効いた加速フィールを存分に味わうことができる。本来の695であればさらにパワフルな半面、いささかピーキーな感もなくはないが、595のスペックであれば速さを堪能できつつも扱いやすいところがよい。同限定車には標準で付くカーボン仕上げのアクラポビッチ製ハイパフォーマンスエキゾーストシステムも心地よい野太いサウンドを聞かせてくれる。
ブースト計に目をやると、ピークがノーマルでは1.3K程度のところ、走行モードをスポーツにすると約1.5Kまでかかるようになり、最大トルクが20Nm増の250Nmをノーマルよりも1000rpm高い3000rpmで発生。がぜん力感がみなぎる。
出た当初はとやかく言われたシーケンシャルトランスミッションも、徐々に改善されてだいぶよくなったことをあらためて確認。むろんシングルクラッチ式の宿命で、駆動抜けする時間はあるものの、その動作は人間がシフトチェンジする際にクラッチを踏んで、次のギヤに入れてクラッチをつなぐ感覚に近く、あまりいやな感じがしなくなっている。
変わっていないが変わっている
足まわりも少し前まではもっとバタついていたような気がするが、同限定車に乗るとそうでもなくなっていて、乗り心地に不快な印象がないことにも感心。ショートホイールベースかつナロートレッドで重心が高めのパッケージングゆえ、ピッチングや車体の前後左右の傾きを上手く抑えるのは簡単ではないと思うが、それだけ努力したということだろう。基本的な内容はベース車が世に出た当初とほぼ変わっていないとはいえ、時間が経過していろいろ改善されているようだ。
一方で、ブレンボ製ブレーキの与えられたディスクローターを見ると、試乗車はけっこうハードに走り込まれた個体であることがうかがえた。そうした走り方にもしっかり応えてくれるということに違いない。
見た目よし。走りよし。全長わずか3.6mあまりのコンパクトなボディにお楽しみの要素をめいっぱい詰め込んだ、魅力あふれる限定車だった。