試乗レポート

メルセデスAMGのV8エンジンを搭載するアストンマーティン「DB11」、迫力と上品さが同居

「メルセデスAMG GT S」との違いは?

DBシリーズの最新モデル

「DB」というのは、第二次世界大戦後のアストンマーティンの隆盛を築き上げたデイビッド・ブラウンのイニシャルであることは、多くの読者諸兄もご存知のことだろう。少しおさらいすると、1948年の「DB1」に始まり、「DB6」までいったところでブラウン氏がオーナーではなくなったためDBシリーズは中断する。ところが、やがてフォード傘下となり同氏が再び役員として招聘されたことで、1993年の「DB7」よりその名称が復活した。

 ただし、本来は次に出るはずの「DB8」はV8との混同を避けるためとの理由で存在せず、1つ飛ばして「DB9」が2003年に発売。続く「DB10」は映画「007 スペクター」の劇中車として10台が2015年に特別生産されたのみで、市販はされなかった。そんなわけで市販車においては「8」と「10」は欠番になっている。ちなみにご存知のとおり、アストンマーティンはボンドカーとして使われていた歴史があり、DB10の登場はそのパートナーシップ50年という記念すべき年のことだ。そして、DB9の実質的な後継となる新たな主力GTモデルとして「DB11」が登場したのは、その翌年の2016年となる。

 歴代DBシリーズのアイコンを受け継ぐ荘厳なスタイリングは、ほかに形容する適切な言葉が思い浮かばないほど、とにかく得もいわれぬ美しさを見せる。ひとたび目にすると虜になってしまう人が少なくないのもうなずける。

 伸びやかなラインを描くボディは前後のフェンダーが大きく張り出していて、高めの目線から眺めるとかなりくびれていることも印象的。とりわけグラマラスなリアセクションはセクシーさが際立つ。実車を前にすると、まるで目にした者の心に訴えかけてくるかのように、写真で見るよりもずっとディテールにいたるまで手の込んだ複雑な造形とされているのが印象的だ。

今回試乗したのは、テクニカルパートナーであるメルセデスAMGから供給されたV型8気筒4.0リッター直噴ツインターボエンジンを搭載する「DB11」(2193万8900円[税別])。ボディサイズは4750×1950×1290mm(全長×全幅×全高、全幅はドアミラーをのぞく)、ホイールベースは2805mm。車両重量は1760kg
V8エンジン搭載モデルでは20インチアロイホイール、ダーク・ヘッドランプ・ベゼル、2つのボンネット・ベント(V12エンジン搭載モデルでは4つ)が専用アイテムとなる

 お決まりの斜めに跳ね上がるドアを開くと、細かなステッチワークと柄が印象的なシートや、各部に上質なレザーやアルカンターラが敷き詰められたクラフトマンシップあふれる妖艶なインテリアが迎えてくれる。これまたほかにない独特の雰囲気を漂わせている。中央にタコメーターを配したシンプルなメーターもアストンマーティンらしい。伝統に則った様式美の中に、ADAS系やタッチパネルなど現代の高級車として求められる先進的なアイテムが巧みに溶け込んでいる。

ベージュとブルーカラーをうまくコンビネーションさせた上質なインテリア。なお、メーターなどを含めてインテリアにおけるV12エンジン搭載モデルとの違いはないとのこと

AMGから供給を受けるV8エンジン

 そんなDB11の登場当初はV12モデルのみだったところ、2017年6月にV8モデルが追加された。このエンジンこそ、2013年に交わされたアストンマーティンとダイムラーの技術提携による初の成果物であり、「メルセデスAMG GT S」に搭載されるM178型と基本的に同じものとなる。ただし、最高出力510PSを200rpm低い6000rpmで発生し、最大トルクも25Nm増の675Nmとするなど、より扱いやすい特性とされているほか、オイル潤滑方式をウェットサンプに変更してエンジン重量の軽減を図るなど手が加えられている。

 このエンジンがいかに高性能かというのは、一連のAMGモデルもドライブしたことがあるのでよく知っていて、このクルマもまさしくそのとおりなのだが、エキゾーストサウンドはほとんど別物だ。AMGの獰猛そうなイメージからしっかりアストンマーティンのテイストになっていることにも感心する。

 このサウンドを実現するため、多く時間を費やしてアストンマーティンとしてあるべきサウンドの再現を図ったとのことで、AMGでは排気音の大半は低い周波数で発生するのに対し、こちらはより高い周波数帯が主体となっている。

 エンジンの構成部品そのものから、吸気系やパイプの取りまわしなどの見直しも必要だったとのことで、まさしく空気が入るところから排気が出ていくところまで変更を加え、さらにはエンジンマネジメントシステムまでも再調整したという。

V型8気筒4.0リッター直噴ツインターボエンジンは最高出力375kW(510PS)/6000rpm、最大トルク675Nm/2000-5000rpmを発生

 これらによって迫力がありながらもどこか上品なところのある、より“らしい”キャラクターを上手く演出している。アストンマーティンの新世代V12ともまた違った、どちらかというとV8の方が派手な印象も受ける。

 SモードやS+モードに切り替えると、音の印象は大きく変わり、エンジンレスポンスも変わって、AMG GTのキャラクターに近づいていく。それはそれでわるくなく、刺激的なドライビングを味わうと、これまた本領発揮という気もしてくる。これからの時代、アストンマーティンというブランドを続けていく上で、こうして優れたエンジンの供給を受けて独自にアレンジするというのは合理的な手法に違いない。

意外なほど俊敏なハンドリング

 三次元プレス機を用いたアルミパネルやアルミ引き出し材を接着およびリベット留めすることで、より軽量・高剛性を実現したという新世代のプラットフォームは、リアサブフレームとの接合部にゴムブッシュを挟んで乗り心地と音振対策を図ったという。DB11をドライブしたのはちょうど1年ぶりのことで、それからとくに変更が加えられていないそうだが、乗ると心なしか全体的にまろやかになっているように思えた。

 前側を軸に開くエンジンフードを開けると、V8のブロックはかなり後方にレイアウトされていることが分かる。加えてトランスアクスルレイアウトにより、前後重量配分は49:51とのこと。車両重量はそれなりに大きいが、意外なほど回頭性に優れ、俊敏なハンドリングは軽快感すら覚えるほどだ。

 年間生産台数が数千台規模のメーカーが、4車種ものスポーツカーをラインアップしていて、しかも矢継ぎ早に送り出されるさまざまな仕様のモデルのそれぞれが個性を発揮しているのは大したものだ。このDB11 V8も、まさしくそんな1台であった。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛