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アストンマーティンの“今”と“これから”について、アンディ・パーマー社長兼CEOに聞く

新型SUV「DBX」は4000台の販売目標、EVブランド「ラゴンダ」は2022~2023年に立ち上げ

お盆期間に来日したアストンマーティン・ラゴンダ 社長兼グループ最高経営責任者(CEO)のアンディ・パーマー氏に、アストンマーティンの“今”と“これから”を聞いた

 言わずと知れた英国の高級自動車メーカー、アストンマーティン。現在、「ヴァンテージ」「DB11」「DBS スーパーレジェーラ」「ラピード AMR」といったスポーツカー&スポーツセダンを展開しているが、2019年末には同社初のSUVである「DBX」の発表を控えるとともに、ゼロエミッションのラグジュアリーブランドに位置付けられる「ラゴンダ」の市場投入を予告するなど、ブランニューモデルの登場が待たれる段階だ。

 DBX、そしてバッテリーEVのSUVであるラゴンダブランドの量産モデルは英国 ウェールズ州の新工場であるセント・アサンで生産されることがアナウンスされており、同工場は2020年の第1四半期でのフル操業を目指している。

 一方で、2020/2021年シーズンのWEC(FIA世界耐久選手権)に同社のハイパーカー「Valkyrie(ヴァルキリー)」でワークス参戦することも発表しており、市販車とともにモータースポーツに対しても意欲的に取り組んでいる。

 そうしたアストンマーティンの現状について、このお盆期間に来日したアストンマーティン・ラゴンダ 社長兼グループ最高経営責任者(CEO)のアンディ・パーマー氏に聞くことができたので、その模様をお伝えする。

EVブランド「ラゴンダ」は2022~2023年に立ち上げ

――今、アストンマーティンは微妙な位置にいらっしゃると思います。株価がやや落ちている一方で新しいモデルの発表を多く控えている。パーマーさんの今のお気持ちを教えてください。

アンディ・パーマー氏:現状に関して言えば、対前年比で販売は(世界的に見て)26%拡大している状況です。どこのメーカーも26%拡大しているところはないと思うのです。アメリカ市場ではほぼ倍になっていて、日本では約40%の成長。(パーマー氏が以前副社長を務めていた)日産自動車は逆に40%縮小しましたね(笑)。

 これは私の伝え方がわるかったのかもしれません。現在、小売りの成長率というのは今までにないほど好調な一方、問題はいくつかあると思います。卸しが小売りにつながっていないということ、ホールセール(リテール業務を行なう組織に対する卸売など)の成長レートがわれわれの望むレートに達していないといった現状があります。そしてコンサルティングの契約を結んだのですが、それがうまくいかなくて2000万ポンドほどの損失につながりました。それを計上しなければいけなくなり、2018年に結んだこの契約が2019年にも影響しました。キャッシュフローの方には影響がなかったのですが、そこで見かけ上わるくなってしまったというのがあります。

 2018年に(ロンドン証券取引所に)上場してから2019年というのは過渡期であることを認識しており、これは2020年のDBXと「ヴァルキリー」の登場まで続くでしょう。欧州市場などでは証券の空売り、株価の下落というところにいってしまい、販売が26%増えているにも関わらず焦点がそこにいってしまいました。ということで、26%上向いているということをぜひ皆さまに伝えていただければと思います。

――今回、なぜアメリカ市場がこんなに成長したのか。もしかしたらアストンマーティンのクルマ作りはアメリカの市場を向いているのではないでしょうか。その反動がイギリスや欧州に来ているのではないのかと。

アンディ・パーマー氏:答えは1つではなくいくつかありまして、イギリスとヨーロッパだけで売り上げが落ち、そのほかの市場は伸びました。現在、世界的に見てもアメリカ市場がトップです。その主な理由は「ヴァンテージ」です。ヴァンテージの売上は当初あまりよくなかったのですが、お客さまが段々と見慣れてきたこと、そしてアメリカ市場でのリースの重要性にもう少し早く気付いていればよかったということ。

 現在、アメリカでお買い上げいただいたほとんどのお客さまがヴァンテージをリースで購入されていまして、今年の頭にやっと適切なリースプランを提供開始しました。実は同じリースプランを日本でも立ち上げました。リースによってヴァンテージが非常に買い求めやすくなり、頭金はポルシェと比べて多少高くなりますが、毎月の支払いはポルシェと比べて半額になります。アメリカ市場と同様の反応を日本でも示していただければ、ヴァンテージの売り上げも相当に伸びる見込みです。

 一方で、イギリスおよびヨーロッパでは市場全体が落ち込んでおり、それはドイツ、イギリス、フランスのメーカーどこでもそうです。そしてほかのメーカーほどではないですが、われわれもイギリスとヨーロッパでの売り上げの落ち込みは避けようがありません。これは部分的にブレグジットの影響があると思います。1つにもともと3月末に行なわれる予定だったブレグジットが10月末になったことがあり、それまで市場が持ち直すとは到底考えられませんので、従ってそのような収益性に関する報告を出したわけです。

――事態をそれだけ把握しているということは、(次世代モデルへの切り替えを推し進める)「セカンドセンチュリープラン」に変更はないということですか?

アンディ・パーマー氏:基本的には変更することはありません。ここで重要なのは成長です。成長は続けますが、継続性を考えると、例えば数百台は生産台数をカットして、それによってクルマの残価を保証し続けることができます。これは決してクルマが売れなくなったということではなく、やはり継続して成長を続けるためには必要だと考えます。ここで鍵となるのはDBXで、2019年末の立ち上げを予定しています。なぜ私があえてこのように申し上げたかと言うと、株価が下がっている実態がある一方で、われわれとしてはセカンドセンチュリープランをコミットしているからで、われわれは成長を続けます。どちらが正しかったかは時間が経てば証明されるでしょう。

――DBXの目標販売台数は?

アンディ・パーマー氏:現在、われわれは年間に約6500台を販売していますが、DBXはそれに加えて4000台を販売する予定です。ただし、作り過ぎてもよくない。今回の問題は“作り過ぎ”もあるかもしれませんので、新工場(セント・アサン)の生産能力は5000台に制限しています。生産台数を上げたいのは山々ですが、たとえ1万台のオーダーが入ってもそれほどは一気に作れません。工場の整備などの時間を考えると4000台程度の能力になると思います。

アストンマーティン初のSUV「DBX」(写真は量産前モデル)

――ラゴンダEV(電気自動車)はどのような方がターゲットになるのでしょう?

アンディ・パーマー氏:ラゴンダブランドの立ち上げは2022~2023年になります。プラットフォームはDBXのものを流用しますが、電気モーターとEVコンポーネントを載せるために変更は行ないます。例えば医師や中小企業の社長、現在テスラに乗っていてプログレッシブな考えを持っている方などが対象になるでしょう。

――世界的にハイブリッドを見直す動きが出ているかと思いますが、アストンマーティンではどのように考えていらっしゃいますか。

アンディ・パーマー氏:ラゴンダは100%電気自動車ですが、アストンマーティン全体としてはハイブリッドを導入していきます。ヴァルキリーではハイブリッドが必ずしも燃費だけではなくパフォーマンスも発揮できることを証明します。今後導入するモデルでは必ずハイブリッドを入れていきます。おそらくPHEV(プラグインハイブリッド)にはならないと思います。今後、法規制などで要求があった場合はその限りではないですが。PHEVのように重いバッテリーと重いエンジンの両方を抱えるものではなく、一方では100%電気自動車、もう一方ではハイブリッドをラインアップに入れていくことになるでしょう。

 基本的にアストンマーティンブランドがハイブリッド、ラゴンダブランドがEVと分けて考えています。アストンマーティンのモデルはドライバーズカーとして高性能を発揮しなければなりません。万が一、日本の法規制が変わって「都市部ではEVしか走れない」といった状況になった場合はDBXをEVにするかもしれませんが。

2019年のジュネーブモーターショーで公開されたSUVモデルのEV(電気自動車)コンセプト「ラゴンダ・オールテレイン・コンセプト」

――アストンマーティンではEVやハイブリッドを専門的に開発する部署というのはどのくらいの規模であるのでしょうか。

アンディ・パーマー氏:現時点で40~50人が(EVの)「ラピード E」の開発に携わっています。この開発にはウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリングにも携わっていただいているので正確に何人とは申し上げにくいですが、それくらいの規模感になります。プラットフォームの開発にはだいたい4年ほどかかり、その間のものづくりには1000人ほどが関わっています。(セカンドセンチュリープランに基づき)7年間にわたって7機種を開発していくわけですが、人員はいずれかのモデルに偏るのではなく、平均的に配置しています。

――現在はDBXに注力しているかと思いますが、パーマーさんはDBXに乗りましたか?

アンディ・パーマー氏:もちろん乗りました。量産のプロセスで作られたモデルではありませんが。夏休み明けにはこれまで意図どおり車両が開発されているか確認を行ない、認証の確認を行ないます。試作車ではオフロードも走り、このカテゴリーでは最も高いハンドリング性能を得ています。

――DBXはアストンマーティンらしい仕上がりになっていますか?

アンディ・パーマー氏:はい。世界で一番美しいクルマを作るというのがわれわれのDNAなので、GTからSUVに移行しようとも美しくなければいけない。伝統的でなければいけない。ハンドリングもアストンマーティンらしさがなければいけないのです。最終的には皆さまに判断していただかなくてはならないのですが、実際にDBXを見て、運転して、音を聞いていただければアストンマーティンを象徴するモデルということが伝わると思います。

DBX(プロトタイプ)

――パーマーさんは巨額を投じて(他メーカーと)同じような技術を開発するのはナンセンスだと言ったと聞いたことがあります。DBXもおそらく、4WDのシステムなどはメルセデスAMGのものを持ってきて、それを改良してという流れになるのかなと思うのですが、お話しできるところまでお聞かせください。

アンディ・パーマー氏:これはクリスマスまで待っていただかなくてはならないのですが、エンジニアリングの哲学としては、流用できるものは最大限活用していかなくてはならない。ヴァンテージ、DB11から、そしてメルセデスAMGから流用するものもあります。ですので、DBXにはメルセデスAMGのコンテンツが含まれていることは申し上げることができます。アッパーボディもプラットフォームも新しいもので、工場も新規のものになります。日本のエンジニアリングを学んだものとして、リスクは最小限に抑えなければいけません。

 もちろん、メルセデスのプラットフォームを利用する選択肢もありましたが、今までにスチール製のプラットフォームをわれわれだけで生産した経験がなく、そういったリスク軽減やデザインの観点から、アルミ製のプラットフォームを採用した方が選択肢としてはいいだろうと結論付けました。リスクを最低限に抑えて品質を最大限に上げていくことがわれわれの哲学なのです。

 以前は(アストンマーティンモデルの)クオリティはまあまあという評判もあったかもしれませんが、現状ではワールドクラスのクオリティになったと自負しています。少し長くなりましたが、DBXにメルセデスAMGの何かを搭載するというのが答えです。それがどの部分になるかというのは12月までお待ちいただければと思います。

メルセデスAMGから供給されたV型8気筒4.0リッター直噴ツインターボエンジンを搭載する「DB11」。このエンジンは2013年に交わされたアストンマーティンとダイムラーの技術提携による初の成果物

――先ほど「ブランドを守る」という発言がありましたが、SUVやEVなどこれまでアストンマーティンが持っていなかったラインアップを拡充することに対し、ブランドイメージをキープすることに何らかの危機感をお持ちなのでしょうか。また、ブランドを守るために具体的に何をしていくのでしょうか。

アンディ・パーマー氏:簡単に言えることは車種、台数を増やさないこと。モデルが増え、新工場が立ち上がりますが、生産台数はベントレーやフェラーリと同じ程度となる1万4000台に限定します。これにより希少性を維持することができます。SUVがわれわれのブランドにふさわしいかどうか、これは議論しても結論には至らないかもしれませんが、現実的にはベントレーもランボルギーニもSUVを作っていますし、近い将来にはフェラーリも作るでしょう。

 やはり重要なのはアストンマーティンにふさわしいモデルであるということで、アストンマーティンの歴史を見ても2つの特徴があると思います。1つは美しいプロポーションであること。もう1つはアストンマーティンは1913年に、ラゴンダは1899年に創立されましたが、両者に共通することは最先端のものを作るということ。従ってアストンマーティンが伝統的なモデルを作らなければいけないというのは間違っていると思うのです。創立当初から最先端のモデルを作っていましたので、それが重要なのです。

 最先端の技術としてEVのラゴンダを考えていただくと、EVと言うとバッテリー技術に目が行きがちですが、EVのパワートレーンの開発はさほど難しいものではありません。動いているものも少ないですし、一番重要な技術はバッテリー管理になります。EVの重要なポイントとして忘れがちなのが、軽量であること、走行抵抗が少ないことです。この2つについてわれわれは最先端の技術を持っています。われわれが引き続き美しいモデルを作り、最先端の技術を有することを保証すれば、今後も引き続き市場が受け入れてくれると思います。