試乗レポート

ホンダ新型「ZR-V」試乗レポート第2弾 ハイブリッドモデルのFFと4WDの違いを雪上で試す

発売間近のホンダ「ZR-V」ハイブリッドモデルの2WD(FF)と4WDを試乗する機会を得た

 今春(4月21日)発売となるホンダの新型SUVモデル「ZR-V」をひと足お先に体験させていただくことになった。その第2弾は雪上試乗である。雪国の人に言わせるとホンダの四駆は弱いというイメージがあると聞くが、果たしてZR-Vはどうだろう?

 ZR-Vには1.5リッターガソリンターボモデルにも、ハイブリッドのスポーツe:HEVモデルにも4WDが設定されているが、いずれもがプロペラシャフトを介してリアに駆動を与えるリアルタイムAWDを採用。リアトルク配分をこれまでよりも大幅に高めていることがZR-Vのポイントとなっている。

今回はスポーツe:HEVを搭載したハイブリッドモデル(いずれも上位設定のZグレード)で、FF(左)と4WD(右)を雪上で試乗。試乗日の山形県は雪が降ったり晴れたりと、いろいろな条件で試乗ができた

 すなわち、フロントが滑ったらリアに少しだけトルクを配分するのではなく、4輪のタイヤが持つ摩擦円の状況を常に考え、前後駆動力配分の適正化を行なっている。基本ベースは前後重量配分である約58:42に準じており、加速体勢に入ってリアに荷重が乗った分に合わせてトルクをリアに寄せていく。

 これの何がいいかといえば、それはフロントタイヤの依存が圧倒的に減るからだ。FFベースのスタンバイ四駆の場合、フロントタイヤが滑った段階でリアにトルクを流すが、それではワンテンポ遅く、フロントは限界ギリギリ。リアのグリップが余ったところに少しトルクがきたところで、発進くらいでは助かるが旋回しながらの加速ではフロントタイヤが負けてしまいアンダーステアになりやすい。そこを打破したのが今回のシステムということなのだろう。

ボディサイズは4570×1840×1620mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2655mm、車両重量はFFが1580kg、4WDが1630kg。パワートレーンはハイブリッドモデル用の直列4気筒2.0リッターエンジン(最高出力141PS/6000rpm、最大トルク182Nm/4500rpm)にモーター(最高出力135kW/5000-6000rpm、最大トルク315Nm/0-2000rpm)、トランスミッションは2モーター内蔵電気式CVTが組み合わせられる。試乗した2台のカタログWLTCモード燃費値はFFが22.0km/L、4WDが21.5km/L

 今回はe:HEV Zグレードの4WDにまずは試乗する。タイヤはその特性を感じやすくするためか、横方向が少し弱い旧作のブリヂストンのブリザック VRX2が装着されていた。

 ちなみにこの最上級のZグレードの4WDにはステアリングヒーターや前後シートヒーター、さらにはヒーテッドドアミラーなどが装備される。ただし、FFの場合はZグレードでも後席シートヒーターやヒーテッドドアミラーの装備はない。

装着タイヤはどちらもブリヂストンのブリザック VRX2で、サイズは225/55R18
雪国ではとても重宝したステアリングヒーターはZグレードは標準装備
前席のシートヒーターはZグレードとXグレードの4WDも標準装備となっている
今回の試乗、山間部ではマイナス8℃を表示していた

 走り始めてまず感じることは、特にステアリングを切りながら加速体勢に入るような状況におけるライントレース性がかなり高いということだった。今回走った山形駅周辺の交差点は、昼夜に渡り発進や停止が行なわれることで、路面がブラックアイスバーン化している場所が多かった。だが、そんなシーンでもしっかりとリアが蹴り出すことでフロントタイヤが楽になり、狙った方向へと導いてくれたのだ。

AWDは雪道でもライントレース性がかなり高い

 同じ状況をFFモデルで走ってみると、やはりステアリング操舵角は大きめになり、少しでも素早く交差点を出ようとアクセルを踏み込むと、アンダーステアに陥りやすい。

 これはワインディングでも同様の傾向だ。AWDは操舵角がとにかく少なくコーナーを抜けていく印象が高く、おかげで安心感もかなりのものだ。同じコーナーをFFモデルで走ると、アクセルオンした瞬間から対向車線方向にはらむ動きとなり、やや不安感がつきまとう。

路面はところどころブラックアイスバーン化していた
4WDモデル
4WDのメーター内の表示
FFモデル
FFのメーター内の表示
ワインディングでもAWDの安定感は高い
FFだとアクセルオンで外側にふくらんでしまう

 その特性をしっかりと見極めようと、円旋回を豪快に行なってみたが、AWDモデルはアクセルで積極的に向きが変えられるほどリアにトルクが移っており、かなりスポーティな走りが可能だった。うまくいけばスライドさせながら円旋回が可能。FFモデルはアクセルを入れれば入れるほどはらんでいくのみで、そっと走ることしかできない。雪深い状況ではスタックする恐れもあったため、あまり積極的には走ることができなかった。

 今回はこのテスト後、AWDモデルでおよそ500kmの雪上ドライブを実行してみたが、安心感はかなり高く疲れもかなり軽減されていた。ライントレースが正確に行なわれるため、雪道であったとしてもリラックスして走れたのだ。操舵輪であるフロントのトルクをできるだけ抜いてやることがこれほどまでに効いてくるとは……。

 FFベースが苦手とする登りのコーナリングを、操舵角を増やさずに駆け抜けられることがどれだけ心地良いことか。また、その際にもしっかりとしたトラクションが得られ、スタックするような心配がないところも嬉しい。実は今回、深夜に新潟県から長野県までのワインディングも走ったが、視界は常に良好で、それによる安心感も高かった。

ロングドライブもAWDモデルは安心だった

 ここまでのメリットが得られるAWDではあるが、やはり燃費を比較するとFFに比べて2km/Lくらいは落ちる傾向にあった。これを許せるか否かはユーザー次第。だが、個人的には年に何回かは雪道を走る身からすれば、それくらいであれば許せるかな、という感覚だ。雪道を安全に、そして楽しく走れるZR-Vなら、個人的にはAWDモデルをオススメしたい。

【ホンダ】新型ZR-V e:HEV 4WD&2WD(FF)雪上試乗(1分10秒)
橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一