インプレッション

スバル「XVハイブリッド」

純ガソリンと比べて上質な乗り味

アイサイト付きのXVハイブリッドを公道初インプレッション

 発売されるや、スバル自身も驚くほどの好調な受注をマークしているというXVハイブリッドだが、その購入者の9割がアイサイト付きを選んでいるという。

 XVハイブリッドのアイサイト搭載車には「エコクルーズコントロール」という新しい機構が採用されているのだが、以前、富士スピードウェイでプロトタイプに試乗した際にはまだアイサイトの付く車両が用意できていなかった。ようやく車両の準備が整ったということで、ここであらためてレポートしたいと思う。

 考えてみると、XVハイブリッドの量産仕様を公道でドライブするのも初めてだ。まずはその印象から述べると、乗り心地がよい。純ガソリンのXVは、通常のインプレッサと比べてサスペンションが硬めに設定されており、大径タイヤの厚みでなんとかなっていたものの、乗り心地が硬く、バネ下の重さを上手く吸収できていない感があった。

 ところがXVハイブリッドでは、車両重量の増加に対して、サスペンションセッティングやボディーへの手当てといった一連の設定が上手くバランスして、乗り心地がよく、重厚感のある上質な乗り味となっている。XVハイブリッドから採用した14:1というステアリングギアレシオについても、高速道路のレーンチェンジでも過敏すぎて煩わしい思いをすることもなく、心地よい一体感がある。

 動力性能についても、ガソリン車よりだいぶ印象がよい。純ガソリンのXVはゼロスタートの出足はまずまずとしても、そこから50km/h程度の車速まで高めていくときの加速感が薄く、応答性もいまひとつでやや物足りないような気がした。ところがハイブリッドはその領域をモーターがカバーしていて、加速感もずっとリニアでダイレクト感があり好印象だった。

外観上は純ガソリン仕様と大きな差はないが、サスペンションセッティングやステアリングギアレシオの変更、モーターのアシストなどによって上質感のある走行性能を手に入れている

 では、最大の関心事であるエコクルーズコントロールの話に移りたい。スバル初のハイブリッドカーであるこのクルマを、もはやスバルのお家芸となったアイサイトとコラボレーションさせ、よりハイブリッドカーとしてのメリットを引き出すべく新たに試みられたアプローチがエコクルーズコントロールだ。

 開発者からは「モーターを積極的に使うようにした」と話に聞いていたものの、10kWで65Nmというスペックのモーターにできることなど限られるだろうと思っていたのだが、その予想をはるかに超えるフル活用ぶりだったことを、まずお伝えしておこう。

高い車速でも頻繁にEV走行となる

 走行したのは、河口湖近くから中央道の富士吉田線を通って東京方面に向かい、国道20号に接続している調布IC(インターチェンジ)で下りてしばらく夕刻の混雑した都内の一般道を走るというルートだ。

 ステアリングスイッチのSI-DRIVEの部分には、エコクルーズコントロールを意味する「ECO-C」というスイッチが追加されている。今回は基本的にこのモードを選択し、クルーズコントロールの速度設定を高速道路・市街地ともに制限速度にセットして走行した。ちなみに、車速はMAXで114km/hまで設定できる。

 まず、追従走行中に前方の車両との距離が詰まっていて減速する際には、即座にエンジンを切ってモーターにフルに回生させていることが分かる。タコメーターの針がストンと落ちるのを見て判別できるものの、高速巡航時は走行ノイズのほうがはるかに大きく、音や振動ではエンジンが止まったことは感じられず、いつに間にか止まっているという感じ。加速時のモーターのみでの走行は、アイサイトの付かない車両では40km/hが上限となっているが、アイサイト付きは80km/h程度の高い車速でも頻繁にモーターのみでのEV走行モードとなる。

アイサイト付きのXVハイブリッドは80km/h程度の車速でもEV走行モードを利用可能
車間距離が短くなると即座にエンジンを切って回生発電を開始

 前走車との距離がかなり離れている状況では、設定した速度まで適宜、エンジンとモーターを駆使して車速を設定速度まで高めようとするが、前走車が確認できる範囲にいるときは、エコクルーズコントロール任せにしておくと、できるだけモーターのみを使ってゆるやかに加速していく。

 もし加速に不満があれば、エンジンが始動して加速力が増すように自分でアクセルを踏めばいいだけの話なので、現状の設定はシステムのコンセプトとして非常に理にかなっていると思う。また、エンジンが再始動する際の音や振動は、ほとんど気にならないくらいスムーズだ。

 速度が高まるにつれてモーターのみで走行する時間は少なくなっていくが、ちょっとした下り坂ではEV走行となり、上り坂になるとエンジン主体にしながら、モーターも積極的に使って設定速度まで上げていくという制御を行なっているようだ。高速道路で速度が100km/h程度になると、さすがにエンジンが走行の主体となるが、状況によっては100km/hでもモーターのみで走ることもあった。

 ときおりマルチインフォメーションディスプレイを見ていたところ、めまぐるしくエネルギーフローの表示内容が変わるので面白かった。瞬間燃費計は最大で50.0km/Lまで表示され、約2秒おきに表示が切り替わるようで、表示される数字が状況によって大きな幅で変化する。

約40km/hでは延々とEV走行が継続

 ところで、かつてスバルがクルーズコントロールを採用しはじめたころは「高速道路以外では使わないでほしい」という旨の文章が取扱説明書に記されていたように記憶しているのだが、XVハイブリッドでは書かれていない。

 これについて開発者に尋ねたところ、「基本的にクルーズコントロールは高速道路でのドライバーの負担を減らすことがもともとのコンセプト。エコクルーズコントロールも高速で効果が出るので、使用を推奨するのは高速道路。ただし、郊外や市街地でも使いたいときはあるだろうから、そこでの使用も想定して開発した。使いどころをそれぞれのユーザーに合わせて見つけてもらえるといい」とのことだった。

 その言葉を受けて、高速道路を下りてからも一般道でエコクルーズコントロールを試してみたところ、やはり走行する車速域が高速道路よりも下がったことでより積極的にEV走行するようになった。ほとんど勾配や信号がなく、40km/h程度の車速を維持して走るような状況では、運転していて驚くほど延々とモーターのみのEV走行が継続するという状況も多々あった。

 EV走行が続くとあっという間に駆動用バッテリーの残量が減ってしまうのだが、かなり残量が少なくなってもXVハイブリッドはEV走行し続けようとする。バッテリーが2目盛りしか残っていない状況でも、信号で停まって再発進する際にはエンジンがかかるが、40km/h程度まで速度を上げるとEV走行に移行する。

 クルマ側で刻々と変わる状況に応じて最適に制御し、モーターとバッテリーの力を本当に余すところなく使い切る設定になっているという印象だった。そしてこの制御は、燃費向上に確実に効果があることは言うまでもない。

 とにかく、モーターが10kW&65Nm、バッテリーが5.5Ahという数字からイメージする性能をはるかに上まわり、ハイブリッドカーとしての先進性を感じさせる走りを実現したXVハイブリッドと、それを成し遂げたスバルの努力と創意工夫に大いに感心させられた次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛