インプレッション

マツダ「アクセラ」「アクセラハイブリッド」

ガソリンエンジン開発チームの逆襲

 クリーンな排気ガスと好燃費、さらには驚きの動力性能で世間を納得させたマツダのディーゼル。「CX-5」や「アテンザ」の売れ線はディーゼルだったというから驚くばかり。日本人のディーゼルアレルギーが治まるばかりか、完治してしまった感さえある。マツダと言えばディーゼル、ディーゼルと言えばマツダと言わんばかりの状況が続いているのだ。ガソリンエンジンを開発するチームが、その動きを横目に涙していると聞くほどだ。

 だが、そんなガソリンエンジン開発チームの逆襲が、いよいよマツダの新世代商品・第3弾となるこの「アクセラ」から始まるのかもしれない。

 すでにご存じの方も多いだろうが、今回のアクセラが搭載するパワーユニットは大きく分けて4タイプ。ガソリンエンジンの1.5リッター「SKYACTIV-G 1.5」と2.0リッター「SKYACTIV-G 2.0」、専用のSKYACTIV-G 2.0エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド、そしてディーゼルエンジンの2.2リッター「SKYACTIV-D 2.2」となる。

 それに加えてコンセプトモデルのCNG(圧縮天然ガス)仕様を東京モーターショーで発表と、ありとあらゆるパワーユニットを取り揃えているから面白い。これに組み合わされるボディーはセダンとハッチバック。一体どれだけの組み合わせができるのやら。冗談だが、造り間違えをしないか心配になりそうなくらいである。

今回試乗したSKYACTIV-G 1.5を搭載するハッチバックの「15S」(6速AT)。価格は190万500円で、ディスチャージヘッドランプ、シグネチャーLEDランプ、レインセンサーワイパー(フロント)などをセットにした「ディスチャージパッケージ」(6万8250円)や、スマート・シティ・ブレーキ・サポート(SCBS)、AT誤発進抑制制御、クルーズコントロールなどをセットにした「セーフティクルーズパッケージ」(8万4000円)、CD/DVDプレーヤー&地デジチューナー(フルセグ)、ボーズサウンドシステム&9スピーカーといったオプションを装備
直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴エンジン「SKYACTIV-G 1.5」。最高出力は82kW(111PS)/6000rpm、最大トルク144Nm(14.7kgm)/3500rpmで、JC08モード燃費は19.4km/L
ボディーサイズは4460×1795×1470mm(全長×全幅×全高)、車両重量は1270kg。ボディーカラーはソウルレッドプレミアムメタリック(特別塗装色)
16インチアルミホイール(16×6 1/2J)。タイヤサイズは205/60 R16
ブラックを基調としたインテリア。コクピット設計は運転に集中できるよう、運転中に扱う情報を「走行情報」と「快適・利便情報」に明確に分けるデザインに。運転席ではステアリングや単眼メーターとドライバーの体の中心を同軸にレイアウトし、クルマとドライバーの一体感を演出する。シートはファブリック
後席は6:4分割可倒式

 けれどもマツダと言えばディーゼルなのだからして、当然アクセラでもディーゼルが一押しとなるのだろうと勝手に思い込んでいた。なにせ兄貴分のCX-5やアテンザよりも軽い車体にソレを押し込んだというのだから……。だが、実際には想定通りではなかった。以前、伊豆で開かれた事前試乗会で乗らせていただいたのがプロトタイプということもあるのだろうが、ホットハッチと名乗ってもおかしくないと思えるほど強烈な蹴り出しを実現。タイトターンからの立ち上がりではパワーアンダーステアを簡単に誘発するほどだったのである。これはこれでわるくはないが、ちょっとばかりやり過ぎでは? これが正直な感想だった。もちろん、ディーゼル仕様は市販化までに若干時間があるから、その特性を改めてくると予測できるのだが……。

 さらにバランスがわるいと感じたのは鼻先が明らかに重くなっているということだった。軽快な走りこそがこのクラスのウリとなるはずが、スポイルされているように感じたのだ。4駆化でもして前後バランスを適正化してしまったほうがよいのではないか? そんなことを思わせるほど、このクラスにあの2.2リッターディーゼルは重すぎるのだ。なにせ一番重たいATモデルで1450kgですから。真っ直ぐな道をロングドライブすることが多い人に勧めたいモデルだ。

こちらはSKYACTIV-G 2.0+モーターを搭載するセダンの「HYBRID-S L Package」(電気式無段変速機)。価格は262万5000円で、オプションのCD/DVDプレーヤー&地デジチューナー(フルセグ)、ボーズサウンドシステム&9スピーカー、電動スライドガラスサンルーフを装備
ハイブリッドは専用のSKYACTIV-G 2.0エンジンとモーターを組み合わせる。エンジンの最高出力は73kW(99PS)/5200rpm、最大トルク142Nm(14.5kgm)/4000rpm。モーターは最高出力60kW(82PS)、最大トルク207Nm(21.1kgm)で、JC08モード燃費は30.8km/L
ボディーサイズは4580×1795×1455mm(全長×全幅×全高)、車両重量は1390kg。ボディーカラーはチタニウムフラッシュマイカ
16インチアルミホイール(16×6 1/2J)。タイヤサイズは205/60 R16
パーフォレーション(穴開け)加工を施したオフホワイトカラーのレザーシートを採用。セダンでは「HYBRID-S」「HYBRID-S L Package」に標準装備となる車速やナビゲーションのルート誘導などを表示する「アクティブ・ドライビング・ディスプレイ」などを装備する

“人馬一体”感覚が得られるガソリン1.5リッター仕様

 そんなディーゼルモデルは2014年1月に発売予定となっており、今回の試乗会では乗ることができなかったので、市販版に乗れる機会を楽しみに待ちたいと思う。

 そこから一転して最軽量のガソリン1.5リッター仕様「15S」に乗ると、まるでスキーブーツからスニーカーに履き替えたかのように軽やかに走ってくれるから新鮮なことこの上なし。車重はMTモデルで1240kg、ATモデルで1270kgである。話は脱線するが、MTモデルを1.5リッターと2.2リッターディーゼルに用意してくれたマツダ。マニアの心を掴んで離さないその姿勢には恐れ入る。

 マツダは、ロードスターで提唱してきた“人馬一体”感覚をこのアクセラでも展開したいと鼻息が荒いが、まさにその感覚を地で行くのがこのクルマ。今回はその仕様に公道で乗ることを許されたが、これがとにかく軽快に走ってくれた。試乗したコースは横浜の街中と首都高速だったが、どのシーンにおいても実に思い通りにコーナーリングを展開。荒れた路面もスッとおさめ、ピタリと安定して駆け抜ける。

 ただ、追操舵をした時に重さが変化してしまうステアリングがやや気になった。これはキャスターをはじめとするアライメント的な問題と、パワーステアリングの制御の荒さがあるからとのことだが、今後の熟成に期待したい部分だ。

 こうしてハンドリングが抜群なところが1.5リッターモデル。低中速域のパンチは少ないのだが、そんなことはどうでもいいと思えるビートの効いたサウンドとともに、高回転までストレスなく吹け上がってくれるところに共感できた。コレ、昔のロードスターの感覚に近いかもしれない。使い切る愉しみがあるとでも言えばいいだろうか。そんな感覚に溢れているのだ。個人的なベストはコレ。乗り出し200万円前後という安さも魅力だ。

マツダらしさが感じられるハイブリッド

 悩ましいのがハイブリッドモデルだ。2010年にトヨタ自動車との提携関係を結び、「プリウス」のハイブリッド技術が供給されることになったマツダ。その第1弾モデルとして登場したのがアクセラハイブリッドである。だが、エンジンはマツダのスカイアクティブを搭載。ここだけはどうしても譲りたくなかったのだろう。

 走ってみると、スロットルに対する応答性がトヨタとは違いリニアな感覚。SUVだろうがセダンだろうが、とにかく走りにこだわってきたマツダ。ハイブリッドでも決してその領域を捨てたくなかったというのがこのクルマの仕上がりに表れている。これでJC08モード燃費は30.8km/L。プリウスの一般的なグレードが30.4km/L(燃費スペシャルは32.6km/L)であることを考えても、マツダの本気が伝わってくる。

 ただし、静粛性については若干物足りなかった。それはモーターやインバーターが発するモスキート音のようなノイズが大きめに感じたからだ。ご存じの通り、モスキート音のようなものは年齢や個人差で聞こえ方が変わってくるらしいが、アラフォー世代の筆者がそう感じてしまったのだから仕方ない。リクエストをすれば必ずよくしてくれるマツダ。これからに期待しております!

 乗り心地やハンドリングについては、他のアクセラとはチョット違う感覚。全体的にフワリとしたソフトな感覚は、リアに重たいバッテリーを積みながらも乗り心地とハンドリングを両立させたかったことを物語っている。一体感溢れるスポーティなアクセラという感覚とはズレるのだが、それが決してわるいわけではない。乗り心地重視、さらには先進的なハイブリッドをマツダブランドで味わいたいと考えるファンにはきっと響くに違いない。これもまた新たなトライとして今後どう市場に受け入れられるかが楽しみだ。

 こうして駆け足で主にパワーユニットにごとの違いを書いてきたが、これ以外でもCセグメントとは思えぬ塊感と存在感を際立たせている鼓動デザインも魅力的。セダンもいいが、ギュッと凝縮されたハッチバックのスタイルは、個人的にかなり惹かれた。

 さて、皆さんはどんな組み合わせをベストと捉えるか。繰り返しになるが、僕は今回ばかりはガソリンモデルがイチ押し。ハッチバックの1.5S(MTモデル)にハートを撃ち抜かれてしまったのでありました。値段だけで良し悪しを判断できませんよ、今度のアクセラは。

Photo:安田 剛

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。