インプレッション

ルノー「キャプチャー」

欧州で一番人気のコンパクトクロスオーバー

 2013年の日本における販売台数は3772台と、前年比21.4%増となり、純輸入ブランド別の順位では前年と同じ8位をキープしたルノー。相変わらず「カングー」の売れ行きも好調なようだが、2013年秋に発売され、非常に高く評価されている「ルーテシア」に続いて、そのルーテシアをベースとするコンパクトクロスオーバーの「キャプチャー」が日本に導入されるなど、ニューモデルが相次いで登場した。

 2013年夏にデリバリーが始まった欧州での販売も非常に好調で、コンパクトクロスオーバーモデルにおける年間の販売台数では日産自動車「ジューク」が首位(約10万6000台)でキャプチャーは2位(約8万6000台)となっているが、登場以降はキャプチャーが上回っている。いまや大激戦区となったコンパクトクロスオーバーのカテゴリーにおいて、まずその事実がこのクルマの商品力の高さを物語っているといえよう。

 また、ルーテシアではクルマとしての完成度の高さに加えて、割安感のある価格設定も印象的だったところ、今回のキャプチャーも上級グレードの「インテンス」が259万8000円、標準グレードの「ゼン」が249万8000円と、比較的控えめな値づけとされた。わずか10万円の違いなので、中身の違いを吟味するまでもなく「インテンス」を選んだほうがいいという気がするところ。今回試乗したのも「インテンス」である。

「インテンス」「ゼン」の2グレードを展開するキャプチャー。装備やボディーカラーによってグレード分けされ、撮影車両のインテンスではフロントフォグランプ、ルーフ同色ヒーター付電動格納式ドアミラー、プライバシーガラス、17インチアルミホイール、クローム内装トリムなどが追加されている。ボディーカラーは2トーンのイヴォワール/ノワール エトワール M。ボディーサイズは4125×1780×1565mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2605mm。車両重量は1270kg
左右のヘッドランプをつなぐ印象的なデザインのフロントグリル
インテンス、ゼンともにヘッドランプはハロゲン
LEDランプは両グレードとも標準装備
インテンスはブラックの加飾のつく17インチアルミホイールを装備(タイヤサイズ:205/55 R17)。ゼンは16インチアルミホイールとなる
ルーフ同色のヒーター付電動格納式ドアミラー(ワンタッチウインカー機能付き)はインテンスのみの装備
テールゲートのクロームフィニッシャーに「CAPTUR」のロゴが入る

 2013年の東京モーターショーに出展されていたキャプチャーの実車を見たときも、この曲面を多用したデザインは秀作だと思ったものだが、今回改めて見てこのデザインだけでも買うに値すると感じた。コンパクトな車体ながら、とても印象に残るアピアランスを持っている。

 ボディーカラーのラインアップもデザインに合わせたユニークなもので、「ゼン」は単色の3色、「インテンス」は2トーンの7色から選べる。2トーンがとても似合うクルマで、どれも色合いがまたいい。その意味でも「インテンス」をお薦めしたい。

 前輪駆動のみの設定で、オフロードといわないまでも雪道ぐらいなら走りやすいよう、それなりのロードクリアランスは欲しいところだが、最低地上高はルーテシアよりも80mm上げて200mmを確保。競合車では200mmに満たないものも見受けられるのに対し、そこはキャプチャーのアドバンテージといえる。

画期的な「ジップシートクロス」

インテンスのインテリアカラーはグレー/ダークカーボンまたはオレンジ/ダークカーボンから選択可能。撮影車両は前者

 ドアを開けると、地上高は高められていても、サイドシルの盛り上がりは小さく、車内へのアクセスに気を使うことはあまりない。シートに収まると、ルーテシアよりもややアップライトで、100mm高められたシートポジションにより見晴らしがよく、視界を妨げるものも少ないことが分かる。

 専用にデザインされたインテリアもとっつきやすくてよい。質感が高いというほどでもないが、このクラスとしては頑張っていると思う。カーナビは収まりのよい一体型のものが用意されており、両グレードで選べる。これについては設定がないルーテシア(執筆時点)とは事情が異なる。バックカメラも標準で装備される。

グレー/ダークカーボンカラーのファブリックシート
メーターまわり。アナログのタコメーターにデジタルのスピードメーターを組み合わせる
160mmの前後スライドが可能なリアシート
フロントシートバックのコードポケットもインテンスのみの装備
インテンスでは取り外し可能なシートカバーを設定し、カバーを交換することでインテリアの雰囲気を気軽に変えることができる

 リアシートはニールームがルーテシア比で+75mmの640mmとなっており、実際にもかなり余裕がある。日産のFFアッパーミドルセダンよりも長いというからかなりのものだ。ヘッドクリアランスも十分に確保されている。

 シートについては、「ジップシートクロス」という取り外し可能なシートカバーの設定が特徴的だ。縫い目がシートの溝にはまるようになっているのがポイントで、シートカバーがずれて不快に感じることもない。汚れたら洗濯できるし、飽きたら好みで違う柄に替えられるところもよい。このシートカバーは画期的なアイデアだと思う。

 トランク容量は377Lとルーテシアよりも77L多く、このクラスとしては大きいほう。リアシートは160mmの前後スライドが可能で、6:4で分割して前倒しできる。最大で1235Lまでスペースを拡大できる。また、フロアボードはリバーシブルで、汚れに強い素材の面も用意されている。積みたい荷物に合わせて自由度の高いアレンジができるところもよい。

後席は6:4分割可倒式
トランクルームのフロアボードはリバーシブルで、積載する荷物に応じてアレンジが可能になっている

快適な乗り心地でリラックスして乗れる

直列4気筒DOHC 1.2リッターターボエンジンは最高出力88kW(120PS)/4900rpm、最大トルク190Nm(19.4kgm)/2000rpmを発生

 ルーテシアをテストドライブしたときも、とても印象はよかったが、共通部分の多いキャプチャーも走りに関しては概ね期待どおりだった。

 エンジンはルーテシアと同じ直列4気筒DOHC 1.2リッターターボ。小さなシングルスクロールターボチャージャーを持つダウンサイジングエンジンだ。最高出力は88kW(120PS)/4900rpmで、最大トルクは190Nm(19.4kgm)/2000rpmと、自然吸気で例えるなら2リッター並みの性能を持つ。これに「6速エフィシェント デュアルクラッチ」と呼ぶ、ゲトラグ製の乾式クラッチを持つDCTが組み合わされる。

 ルーテシアはまだしもキャプチャーは「1.2リッターで大丈夫か」という声が一般ユーザーからあるそうだが、走った印象はまったくこれで十分で、動力性能に大きな不満はない。DCTのレスポンスをあえて穏やかにしているようで、ダイレクト感は薄れるものの、そのぶん扱いやすい。エコスイッチを押すとトルクが低減され、エアコンの制御も燃費重視となり、約10%の燃費低減が見込めるという。

 ルーテシアでも感じた好印象のフットワークは、キャプチャーでも変わることはなかった。トレッドは拡大されており、ダンパーには重心高の上昇を考慮した専用チューニングが施されているが、ルーテシアでは若干硬さを感じたところ、キャプチャーでは感じない。

 サスペンションはストローク感があり、タイヤのサイドウォールが厚くなることも効いているようで、角の丸い快適な乗り心地が提供されている。上記のチューンにより、若干ロール感に突っ張ったところが見受けられるものの、過度にスポーティさを追求しておらず、リラックスして乗れるところもよい。ロングドライブでも疲労感が少なそうだ。

 改めて述べると、やはりデザインで抜きん出ているところにキャプチャーの大きな魅力がある。そして、ユニークなシートカバーのように他車にはない装備もある。さらには、気の効いた使い勝手やそつのない走りなど基本的な部分もしっかり押さえてある。しかも価格がリーズナブル。コンパクトクロスオーバーというジャンルに多くのモデルがひしめく中で、なかなか魅力的な選択肢ではないだろうか。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。