インプレッション
アウディ「A1(1.0リッターターボ)」
Text by Photo:安田 剛(2015/6/16 00:00)
3気筒の1.0リッター直噴ターボを搭載
アウディのコンパクトモデル「A1」が新型となった。2011年のデビュー以来1万7311台を販売したA1だが、新型ではエンジンのさらなるダウンサイジング化が図られ直列3気筒1.0リッター直噴ターボ「CHZ」型エンジン(95PS/16.3kgm)を主軸とした点が最大のトピックだ。従来から搭載していた直列4気筒1.4リッター直噴ターボは150PS/25.4kgmと10PS上乗せされている。トランスミッションはいずれも7速DCTの「Sトロニック」だ。
ボディーサイズは3985×1740×1425㎜(全長×全幅×全高)、最小回転半径は5.0mと日本の道路事情で使いやすい。質感は高く、フロントデザインではLEDポジショニングランプを採用したバイキセノンヘッドライト(ナビキセノンプラスパッケージ装着車)とシングルフレームグリルを組み合わせることで、アウディファミリーであることがひと目で分かるなどアイコン性もしっかり持ち合わせている。
インテリアもまさしく正統派のアウディだ。しかし、たとえば「A4」や「Q3」が醸し出す優雅な佇まいとは別で、道具としてのシンプルな機能美を感じさせるところが新しい。例えるならフォルクスワーゲン「ポロ」が持つ質実剛健さにアウディのデザインエッセンスが加わったと表現するのが近いか……。もっとも、ここはアウディとしても気に掛けていた部分とのことで、ユーザーの期待を裏切らない質感の確保には苦労したという。また、装備にしてもオート式ではなく、コストの関係もあり1.0リッターモデルはマニュアルエアコンを採用しているが、日本導入段階では最後までオート式を装備するかどうか検討課題として残っていたようだ。
世界的な流れであるダウンサイジング化だが、ここ2~3年はコンパクトクラスにまで波及している。コンパクトクラスの特徴はその名が示すとおり、小さなボディーに小さな排気量のエンジンを搭載することにあるが、そこからさらに小さいパワートレーンへの移行が進んでいるのだ。A1の場合、すでにダウンサイジングの主流である過給器の導入によって排気量を下げる手法は採り入れられていたわけで、新型ではシリンダーの数を減らすことで対応した。
ということは、「1.4リッターのシリンダーを1つ減らしたのがA1の1.0リッターエンジンか」と思われがちだが、ボア×ストロークからはフォルクスワーゲン「up!」が搭載する「CHY」型エンジンがベースであることが分かる。1.4リッターに比べてストローク比が約7%ほどショートになる「CHZ」型がターボとの組み合わせによりどんな走りをみせてくれるのか、今回の試乗はこの点にスポットをあててみることにした。
力強い加速力を全域で堪能
試乗モデルはA1のベースグレードで249万円と魅力的な価格設定の「1.0TFSI」。試乗車には、ベースグレードにオプション装備のユートピアブルーメタリックの外装色(6万円)、ナビキセノンプラスパッケージ(36万円)、アドバンスドキーとアウディパーキングシステムがセットになったコンビニエンスパッケージ(15万円)、ボディー同色ドアミラー(1万円)が加わり、さらに受注生産アイテムとしてパノラマサンルーフ(14万円)とBOSEサラウンドシステム&LEDインテリアライトパッケージ(10万円)が上乗せされ、総額331万円となっていた。
まずは市街地の印象から。アイドリング音は低く抑えられ、車内にいる限り3気筒特有のビートを感じることもない。エンジン始動時こそ高めのクランキング音に加えて軽い振動がフロアにまで入り込むが、全般的に極めて静かな印象だ。街中で多用するゆっくりとしたアクセルワークで発進すると、すぐさまダイレクトな駆動力が前輪に伝達される様子が、まさしく手に取るように分かる。フォルクスワーゲングループのDCTはこれまで変速の速さを謳うことはあっても、こうした日常域での使い勝手に言及することはあまりなかったが、日本の渋滞路であってもなかなか優秀な発進加速性能を見せつける。
過給効果の高まりは1速ギヤからすでに体感できる。最大トルクは1500-3500rpmと常用域に絞っていることから、エンジン負荷が少ないと判断されるとたとえ登坂路であってもポンポンと早めのシフトアップが行われる。これはSトロニック(やフォルクスワーゲンのDSG)に共通する傾向ながら、必要最低限のエンジン回転数のまま速度を乗せていくさまはエンジンスペック以上のゆとりを実感する部分でもある。もちろん、先だってリポートした本田技研工業「ステップワゴン」(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/20150605_705297.html)のダウンサイジングターボ×CVTでも低回転域を保ったまま、太いトルクから生み出される駆動力に身を任せた静かな加速感を堪能することはできるが、有段ギヤならではのダイレクトフィールを伴いながらの加速感にはまた違う味わいがある。
試乗のメインステージは箱根路のワインディングロードだったが、最高出力95PSからイメージする以上の力強い加速力を全域で堪能することができた。この達成には、台形状のトルクカーブに代表されるようにダウンサイジングターボの過給効果を持続させる技術が向上したことが貢献しているが、単にエンジンの最大燃焼効率を上げるだけでなく最大燃焼効率領域を増やす設計手法が採られていることも大きな要因だ。こうしてできあがったダウンサイジングエンジンに対して、多用するエンジン回転領域を車種ごとに細かく設定することで、A1のような全域での力強さが感じられるようになる。
とはいえ、物理的な限界点があるのも事実。いわゆるエンジン使用領域に対して“選択と集中”を行っているわけで、6000rpmに近くなるような高回転領域では加速力は衰え出すし、音色にしても5000rpmあたりを境に苦しげになってくる。しかし前述した日常領域での走りっぷりは1.5リッターの自然吸気エンジンと比べても遜色ないし、Sトロニックの絶妙な変速プログラムは「CHZ型」のエンジンキャラクターを100%発揮するだけの高い能力を持っていることも分かった。燃費数値にしても、カタログ値22.9km/Lとアウディとして過去最高を記録する。
「衝突被害軽減ブレーキ」や「ACC」などのADAS(先進運転支援システム)は残念ながら現状では用意がないものの、テールゲートを開けた際に黄色いフラッシャーの点滅が確認できるよう開口部に専用ランプを設けるなど、後続車に対する被視認性の配慮という意味では実利主義がしっかりと貫かれている。これまで車両価格が高めであったことから敷居が高いブランドの1つであったアウディだが、新型A1の登場は、価格の上でも日本の上級コンパクトクラスに対してよい刺激をもたらすだろう。