山田弘樹のスバル「クロストレック」ストロングハイブリッド徹底レポート

第1回:クロストレックにハマっちゃったので、長期レポートをすることにしました!

スバル乗りの“心のふるさと”、群馬製作所本工場をバックに連載スタート!

クロストレック、始めました!

 2024年12月5日に発売された「クロストレック プレミアム S:HEV」。スバル車としては初となるストロングハイブリッド搭載モデルを、長期レポートすることになった。

 ちなみにCar Watchでは、このクロストレック S:HEVが登場したと同時に、「1000kmチャレンジ」を行なっている。その理由はWLTCモードで18.9km/Lという、スバル車としては念願であった高燃費と、ワンタンク63Lという数字をかけ合わせれば、1190.7kmという航続距離が得られたからだ。もちろんリアルワールドでこうした机上の数字がそのまま反映されることはないけれど、だからこそ「どこまで行けるか?」を試してみたくなったわけである。

 果たしてその結果は東京・恵比寿のスバル本社から、九州は門司までの道のりで見事に1000kmを達成。高速主体ながら燃費も17.2km/Lと、フルタイム4WDのコンパクトSUVとしては、上出来といえる数字をマークしたのであった。

 つまり1000kmチャレンジ、大成功というわけだ。

 ただこうした燃費もさることながら、筆者の心をつかんだのは、クロストレック S:HEVの乗り味だった。

 ベースとなるインプレッサに対して、約65mm(e-BOXERの数値。ガソリンモデルは70mm)ものグランドクリアランスを取った、ストロークフルな足まわり。これがもたらす視界の良さや、優しい乗り心地。なおかつ大人3人とその荷物を満載してもぶれないハンドリング性能と、ストロングハイブリッドがもたらす、静かで頼りがいのある走り。これにいたく感心させられた。

 だからこのクロストレック S:HEVを長期レポートして、オーナー視点でもっとその素顔に迫ってみたい! と強く思ったのだ。

 今年はすっかり「フォレスター S:HEV」がスバルの主役になっているけれど、こんなに質実剛健な国産Cセグメントは久しぶりだ。

 というわけで実用燃費や使い勝手を含めて、細かく丁寧にレポートしていくつもりなので、どうぞヨロシクお願いいたします。

まずは連載の相棒をご紹介

 連載1回目となる今回は、まずCar Watch号の紹介から始めよう。

 グレードは、「Premium S:HEV EX」。メーカーオプションは本革(グレー[シルバーステッチ])シートとルーフレール、そしてサンルーフが付いている。そしてアイサイトXが標準装備の、かなり豪華な仕様だ。ちなみに価格は、税込みで435万500円となる。

 ボディカラーはまたもや、マグネタイトグレー・メタリックだ。

 2度目の「大阪・1000kmチャレンジ」でもCar Watchには同じ色が用意されたから、スバルはマグネタイトグレーが大好きなのだろう(笑)。筆者としては、今っぽいクールグレーカーキか、アイスシルバーメタリックがよかった。今年の夏に加わった「サンドデューンパール」もアウトドアテイストがかっこいい。

 なんて言いながら、その実マグネタイトグレーは汚れが目立たなくて、ずぼらな私にはとても都合がいいボディカラーだ。

相棒のクロストレック Premium S:HEV EX。車両本体価格は435万500円で、405万3500円のベース車に、29万7000円分のメーカーオプション(グレーの本革シート、電動チルト&スライド式サンルーフ、AC100V/1500Wのアクセサリーコンセント、ルーフレール)が装着されている仕様
エンジンは水平対向4気筒DOHC 2.5リッター直噴「FB25」を搭載。これに、2つのモーターを組み合わせる「e-BOXER(ストロングハイブリッド)」モデルとなる
いくらずぼらでも、洗車をするときだって、もちろんある。高さのあるルーフの拭き上げをするときに、リアのステップに足を乗せられるのはとてもいいポイントだと感じた
225/55R18サイズのオールシーズンタイヤ(ファルケン「ZIEX ZE 001A A/S」)を装着する
お気に入りポイントの1つに、デジタルマルチビューモニターがある。アイサイトセイフティプラスの視界拡張テクノロジーとなるのだが、フロントやサイドをカメラで見られるだけでなく、クルマを頭上から見下ろしたかのように見られるので、狭い道や駐車の際に大活躍している

 そんなマグネタイト号は(いつの間にッ!?)、スバル乗りの流儀で言えば「アプライドB型」である。スバルはマイナーチェンジごとにアルファベットでA型、B型、C型……と区切っているわけだが、マグネタイト号がアプライドB型なのは、ストロングハイブリッド搭載モデルの登場が、年次改良版となったからである。

 ちなみにアプライドA型は、2022年に「XV」からクロストレックとして生まれ変わった初期モデルのことを指す。クロストレックは助手席側のドアを開けたBピラーに型式プレート(シール?)があり、そこには「アプライドモデル:GUFB5DW」と書かれていた。詳しい読み方は、写真のキャプションをどうぞ!

助手席ドアを開けたときに、コーションプレートが車体側に貼り付けられている(今はシールのようなものになっているが、以前は金属の板がエンジンルーム内にあったので、その名残でプレートと呼ばれているのではないかと思われる)。アプライドモデルを左から読み解くと「GU」が2023年から発売されている「インプレッサ」シリーズを表わしており、「F」がハイブリッドであることを示している。次の「B」が発売後に何回モデルチェンジしたかがわかる部分で、Aから始まって1つのモデルではEやFくらいまで変更を重ねていく。「5」はドアの枚数を表わしており、そのあとに続く「DW」は……忘れてしまった。ちなみに、ここに記されているオプションコード(写真だとAHC)をWebサイトで公開されている主要装備表と照らし合わせればどのメーカーオプションが付いているかが確認できるし、外装色コード(写真だとP8Y)はタッチアップペンなどのボディ補修用品を買うときに参考にすると便利だ(編集部撮影)

聖地・太田市を目指してレッツゴー!

 というわけで今回目指したのは、スバルの群馬製作所本工場だ。折しも群馬・太田市方面に取材で行く機会があったため、ついでに「里帰り」しちゃおう! というわけである。

 ところで筆者はこの連載を始めるにあたって、実は8月からマグネタイト号を預かって予習をしていた。そのためにノートを1冊用意して、運行した日と行き先、そして気付いたことをすべて書き込み、最後に走行距離と燃費(メーター読み)、満タン法による実燃費を毎回記録している。

 だからドライバーズシートに乗り込むと、メーター内のインフォメーションディスプレイには、「ハロー こうきさん」という文字が出てくるのがちょっと嬉しい。そして前日に奥さんが運転していたりすると、自動でシートポジションを戻してくれるのがたまらない。

ちょっと嬉しいポイント。ドライバーモニタリングシステムでユーザー登録をすると、メーター内に名前が表示されたり、シート位置を自動で合わせてくれたりする

 ちょっと残念なのは、スマホ連動がたまにグズること。インストールされたナビを使えばいいのかもしれないが、ミュージックソースもスマホに入ってるし、行き先を入れるのもGoogleマップは楽だから、どうしてもスマホを使ってしまう。そのとき「Apple CarPlay」が、サクッと連動してくれないときがあるのだ。仮に連動できたとしても、ナビ音声や音楽がスマホから聞こえてきたときはガッカリする。BluetoothのON/OFFをしたり、USBポートの抜き差しをしたりといろいろと試すのだが、直らないときも。その原因が、何なのかはよくわからないままだ。

 というわけで一路、太田へ!

 街中はスイスイだ。その優しい乗り心地に、ストロングハイブリッドの滑らかな出足が組み合わさると、1日の始まりがとても幸せな気持ちになる。

 高い着座位置と、広いグラスエリアがもたらす視界は良好。オフセットされたサイドミラーでよく見える三角窓まわりの眺めも、すっかりなくてはならないものになっている。

まわりを見渡しやすい高い着座位置や、広いグラスエリアなど、スバルは“そもそも事故を起こしにくいクルマ”を目指している

 こうしたステキな走り出しと比べて、インテリアの雰囲気は少しばかりさみしい。なぜなら室内空間が、“まっくろ”なのだ。

 ダッシュボードは立体的な造形で、スタイリッシュ。そのほとんどがハードプラだけれど、手が届く助手席側の上部だけはゴムパッドにしているのも、コストを抑えながら上手に質感を上げていると思う。

 レザーステアリングは、個人的にはスムースレザーが好きだけど、シボタイプも滑りにくくてわるくない。大ぶりなホーンパッドがハードプラなのは、見た目にかなりチープだ。エアバッグが展開したとき、パッドがなくても大丈夫なのかな?

インテリアはシートやドアまわりにグレーが取り入れられているものの、全体的に真っ黒な印象……。引き締まったスポーティなイメージにはなるが、華やかさや明るさはない

 とはいえこれもCセグのコンパクトSUVだと思えば、コストのやりくりがとてもうまいと思う。確かにクロストレック S:HEVの車両価格はアイサイトXが付くと税込みで400万円を超えてしまうけれど、このコンパクトなボディに、Dセグ用のパワーユニットを搭載していることがそもそも規格外なのだ。

 ドアとセンターコンソールボックスがソフトクッションになっていて、柔らかく両肘を支えてくれるのも素晴らしい。最初はセンター側がちょっと短すぎないか? とも思ったけれど、ドリンクホルダーとの位置関係を考えると、これが最適解だとわかる。シフトレバーに手を置いて支えれば、ちょうどいいポジショニングになる。

 だから残念なのは、室内の色使いだけなのだ。ダッシュボードの中央パネルに、カーボン柄を使うのはナンセンスだろう。ナビまわりとシフトノブまわりのパネルに、指紋の付きやすいピアノブラックを使うのも少しセンスが古いし、アウトドアテイストのキャラには合ってない。

 もしドアパネルの一部だけでも、明るい合皮パッドやテキスタイル地だったら。もしくは肘掛けやステアリング、シートにカラードステッチ(実際はシルバーステッチされているけど、地味なんですよ)が選べたら、もう少し室内が明るくなっただろう。というか、やってみたい!

 開発陣は黒一色のこのストイックなインテリアに自信を持っていたけれど、あまりに黒すぎると思う。確かにメーターやナビの視認性は引き立つかもしれないが、もうちょっと元気が出る色使いだといいな!

明るいオレンジやエナジーグリーンのような差し色をステッチに取り入れたり、パネルの色を明るい色に変えたりするだけで、華やかでポップな印象になるはず。テカテカのピアノブラックは最初はかっこいいものの、使っているうちにほこりや指紋、キズが目立ってきてしまうのが残念。最近、スバルに限らず多用されているように思うが、各社とも一考してもらえたらと願う

1人乗りだと、乗り味が違う!?

 さてここからが本題なのだが、一番気になったのは乗り味の違いだ。特に1人で運転していると、低中速域でちょっとフラフラ感が目立つと感じた。

 ストローク量をたっぷり取った足まわりは、路面からの入力を優しく吸収してくれるのだけれど、縮んだ足まわりがフワッと伸びたあと収束しきらないため、うねった道ではバウンス感が強いのだ。

 また、タウンスピードでは、電動パワステ(EPS)が効きすぎてしまう。するとソフトな足まわりをロールさせ過ぎてしまうから、切っては戻しての修正舵が割と多くなる。

 肩に力を入れてハンドルをゆっくり回せばロールは穏やかになるけれど、それではリラックスな運転とは言えないだろう。またうねりのある路面だと、そこに上下バウンスがミックスされてしまう。

惚れ込んだ乗り味だからこそ、ちょっと気になる部分も

 それでも街中ではスピードなんて出さないから、乗り心地のよさを感じるのがほとんどだ。しかしちょっと曲がりくねった切り返しの多い道だったり、それこそ首都高速環状線を運転したりすると、この落ち着きのなさが目立ってくる。うちの奥さんは運転が好きだけれど、「もう少し、どっしりしててほしい」と言っていた。

 マグネタイト号にはサンルーフが付いているから、さらにその重心は高くなるとは言えるだろう。でもサンルーフは人気オプションだと思うから、そこはスバルらしく、堂々とした乗り味を示してほしいところだ。

クロストレックの最低地上高は200mmあるため、そもそも車両の重心は高めの位置ではある
サンルーフ付きの車両なので、さらに重心は高くなるが……。もしそれだけで乗り味が大きく変わってしまうのだとしたら、それはちょっといただけない

 クロストレック S:HEVがこうした挙動になるのは、割と本格的なオフローダーだからだろう。荒れた路面でも高い走破性を得るために取ったサスペンションストロークを、平らな路面ではややコントロールしきれていない感じだ。

 対策としてはEPSをもう少し速度に応じて細かく制御して、ダンパー減衰力もほんの少し高めたらよいと思う。スバルとしては、このふんわりとした極上な乗り心地も、失いたくないところなのだろうけれど。

 スプリングやスタビライザーの剛性レートは、悪くない。ロール量そのものは大きくないし、内輪もよく伸びている。しかしダンパーの抑えが効かないから、ステアリングを切ればフラッとするし、揺れや伸縮が収まらない。2度にわたる1000kmチャレンジが驚くほどに快適だったのは、そうした初期減衰力の弱い領域を、大人3人とラゲッジの重量が押さえ込んでいたからとわかった。

 そしてこれが高速巡航になるとEPSもすわり出し、少し運転しやすくなる。しかしその直進性には、よくも悪くも4WDらしさはあまり意識できない。むしろアイサイトを起動させたときの方が、EPSがガッシリと車線中央をキープしてくれるから快適だった。

 また荷重が大きくかかるロングコーナーでは、サスペンションの遊びが詰められて、姿勢が安定した。

高速巡航になると運転しやすくなる

 面白かったのは、群馬の街中を走ったときだ。厳しい寒さやトラックの多さが原因なのか、国道をはじめあらゆる道が割と荒れていたのだが、その道をクロストレック S:HEVはオフロード車のように、たくましく走った。連続して容赦なく突き上げてくる衝撃を、巧みなバウンスで吸収する足さばきは、本当にお見事だった。

 まさかその足まわりが群馬仕様になってるなんてことはないだろうけれど(むしろ北米好みなのだと思う)、なんだかそれもちょっと嬉しかったりしたから、筆者もかなり“スバ菌”に犯されてきたみたいだ。

「太田グルメと言えば焼きそばでしょう!」と聞き、焼きそば大好きな筆者は大喜び。太田でも老舗だという「岩崎屋」に向かった
出てきた焼きそばは想像していたより黒い! 麺はもちもちで食べごたえがあっておいしかったし、ソースはなんだか懐かしい味で“これこれ!”という感じだった。焼きそばと一緒にこちらも名物だという焼きまんじゅうを注文。ふんわりもちもちした食感と甘辛い餡がおいしかった
創業は昭和32年という焼きそば・焼きまんじゅうのお店「岩崎屋」。住所は群馬県太田市寺井町697‐8。定休日は毎週火曜日で、営業時間は11時~17時。20台分の駐車場を完備しているので、太田へ行った際は立ち寄ってみては
太田市スバル町1丁目にある、スバル群馬製作所本工場の目の前にある和菓子屋「伊勢屋」にも立ち寄り。スバル最中やサブロク焼き、THE スバルといったスバルに縁のある和菓子が購入できる。気さくな店主の方からは車種の由来などがうかがえる……かも? 伊勢屋も店舗から1軒挟んだ隣に駐車場が設けられており、スペースには目印の看板が立っている。駐車の際には間違えないよう必ず確認を

 ということで初回はちょっと辛口になってしまったけれど、それこそはクロストレック S:HEVへの愛ゆえだ。この初期の“フラッと感”が本物のフラット感になってくれたらクロストレック S:HEVは、世界に誇れるCセグメントのコンパクトSUVになれると筆者は信じている。

 というわけで次回は、燃費のことなどをつづってみたい。

スバル車のふるさと太田市を訪ねたら、面白いものや気付がたくさんあった。これからもクロストレック S:HEVと一緒にいろいろな場所を訪ねてみたい
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:高橋 学