特別企画

【特別企画】岡本幸一郎の雪上で三菱自動車 4WDモデルの性能を試す!

現行ラインアップに用意される6種類の4WDシステム、その違いとは?

現行車種に6種類もの4WDシステムを用意

 仕事柄、毎年冬になると北海道に行く機会が増えるのだが、2015年になって2度目の北海道は、三菱自動車工業の4WDモデルに試乗するのが目的。向かった会場は新千歳空港のすぐ近くに位置するクローズドコースだ。

 三菱自動車といえば、やはりジープから始まった4WDのイメージが強い。今でも4WDには非常に力を入れていて、2015年1月時点での現役モデルラインアップにおいて、大別して下記にある6種類もの4WDシステムが用意されている。

①スーパーセレクト4WD-II(SS4-II)
②イージーセレクト4WD
③(i)電子制御4WD、(ii)電子制御4WD(S-AWC)
④(i)ACD付フルタイム4WD(S-AWC)、(ii)ACD付フルタイム4WD
⑤ツインモーター4WD(S-AWC)
⑥VCU式オンデマンド4WD

 三菱自動車のAWC(オールホイールコントロール)思想は、4WD化により4輪の駆動力を最適にコントロールし、「走る」「曲がる」「止まる」を突き詰めることで、意のままの操縦性と卓越した安定性を追求するというものだ。

 そして今回は、上記の中から③(i)の「RVR」(ガソリン)と「デリカ D:5」(ディーゼル)、③(ii)の「アウトランダー」(ガソリン)、⑤の「アウトランダーPHEV」、①の「パジェロ」(ディーゼル)をドライブした。それぞれの機構の違いと体感した印象をお伝えしよう。

S-AWC装着車の高度な制御の恩恵を実感

 ③の電子制御4WDは、走行状況に応じて前後輪の駆動力配分を緻密に制御するというもの。不要の際は後輪へのトルク伝達を行わないため、燃費向上に寄与するという合理性も持ち合わせている。

 今回、同システムを搭載する車種としてRVR、デリカ D:5、アウトランダーに試乗した。中でも2012年に登場した現行アウトランダーに搭載されるのは、世代の新しいシステムであり、さらにはオプションの「アクティブフロントデフ」が装備されていた(S-AWC装着車)。これは前後輪間に加えてフロントにも電子制御LSDを採用し、フロントの左右輪間の駆動力や制動力をコントロールすることで、よりステアリングを切った方向にトラクションがかかり、走破性が向上するというものだ。乗り比べると、やはり少なからず違いが感じられる。むろんRVRやデリカも、状況に応じて適切に後輪に駆動力が配分されるおかげで、今回の試乗コースのような雪上でも問題なく走っていける。

FFをベースに電子制御で後輪へ駆動を伝える「電子制御4WD」システムを搭載するRVR。パワートレーンは直列4気筒SOHC 1.8リッターエンジンにCVT(6速スポーツモード付)を組み合わせ、最高出力は102kW(139PS)/6000rpm、最大トルクは172Nm(17.5kgm)/4200rpmを発生

 まず、RVRとデリカ D:5について述べると、走行モードは「2WD」「4WD AUTO」「4WD LOCK」の3種類が選べる。LOCKモードを選ぶと電気的に前後をデフロックしたような状態になり、後輪に大きく駆動力が配分されて初期のアクセルレスポンスが増すとともに、より前に進むようになる。ASC(アクティブスタビリティコントロール)をONにすると楽にターンインできるし、カウンターを当てるような挙動もほとんど出ない。反対にASCをOFFにすると、攻めた走り方も楽しめる。

 別のコースで試乗したデリカ D:5も同様で、ミニバンでありながらこれほどの走破性能を身に着けていることに、改めて大したものだと思った次第。これこそ登場から時間が経過しても、デリカ D:5が今でも支持されている要因に違いない。

燃費面に優れる「2WD」、路面状況に応じて前後輪に最適な駆動力を配分する「4WD AUTO」、強力なトラクションが必要な際に使う「4WD LOCK」の3モードを設定するデリカ D:5の「電子制御4WD」。撮影車は直列4気筒DOHC 2.2リッターディーゼルターボエンジンに6速ATの組み合わせで、最高出力109kW(148PS)/3500rpm、最大トルク360Nm(36.7kgm)/1500-2750rpmを発生する

 一方、S-AWCを装着したアウトランダーは、よりイージーに走れる。ASCとは別に、前輪のブレーキとLSDの制御で左右輪のトラクションを制御しており、ターンインは曲がりやすく、スピンさせないような制御も行われて、より旋回安定性が向上する。スラローム走行を試しても楽に曲がっていける。LOCKモードでASCをOFFにすると、テールスライドをコントロールしやすいことが分かる。

 SNOWモードが設定されているのも特徴で、選ぶとアクセルレスポンスが穏やかになり、誰でもより楽に冬道を走れるような制御となる。やはり、新しいものはそれだけ進化しているわけだ。ところが聞いたところでは、せっかくのS-AWCがどのようなものなのかあまり知られておらず、装着率が低いのだとか。執筆時点ではアウトランダーのガソリン車のみ設定されているのだが、乗り比べると違いは明らか。優れたものであることには違いなく、購入検討者にはぜひ装着することをおすすめしたいと思う。

車両運動統合制御システム「S-AWC」を装着したガソリンモデルのアウトランダー。ドライブモードは通常は燃費に優れた2WDで走行し、必要に応じて4WDで走行する「AWC ECO」、雪道など滑りやすい路面で走行するのに適した「SNOW」、乾燥舗装路や濡れた路面などでの利用を想定した「NORMAL」、滑りやすい路面で高い走破性を発揮する「LOCK」の4パターンから選択できる。直列4気筒SOHC 2.4リッターエンジンとCVT(6速スポーツモード付)を組み合わせ、最高出力124kW(169PS)/6000rpm、最大トルク220Nm(22.4kgm)/4200rpmを発生する

 なお、今後は「2WD」モードが廃され、低燃費を意識しつつも4WDの恩恵が得られる「4WD ECO」モードに移行していくとのことだ。

ツインモーター4WDならではの走り

前輪をエンジンとモーターで、後輪をモーターで駆動する「ツインモーター4WD」を採用するアウトランダーPHEV。最高出力87kW(118PS)/4500rpm、最大トルク186Nm(19.0kgm)/4500rpmの直列4気筒DOHC 2.0リッターエンジンに、フロントとリアそれぞれに60kW(82PS)/137Nm(フロント。リアは195Nm)を発生する電気モーターを搭載

 RVRやアウトランダーのガソリン車と同じコースを、⑤のツインモーター4WD(S-AWC)のアウトランダー PHEVでも走行した。

 前後に独立したモーターを搭載するのが同システムの特徴で、モーターの優れたレスポンスを活かして、前後のトルク配分を瞬時に行うことはもちろん、プロペラシャフトが存在しない(すなわち機械的な結合がない)ため、前後を切り離して自在にコントロールできるので、すっきりとした旋回を実現している。さらには、荷重がかかっているところに多めに、逆に抜けているところは少なめにと、駆動力をより自在に配分できるという強みがある。これらにより優れた旋回性能と走破性を両立しているのだ。

アウトランダーPHEVの走行モードは「NORMAL」と「4WD LOCK」の2種類を設定

 走行モードは「NORMAL」と「4WD LOCK」の2種類となる。こうした状況を走ると、駆動力にエンジンは関与せず、すべてモーターによるものとなるが、ドライブするとリニアにトルクを発生するモーターの特性のおかげでアクセルコントロールがしやすい。前述のとおりで、旋回中も動きが素直な感じがする。

 NORMALモードと4WD LOCKモードを切り替えても、この日の状況ではガソリン車ほど明確に違いが分からなかった。それについて開発関係者に聞いたところ、両車の走行モードの設定の考え方に違いがあるからだという。アウトランダー PHEVのNORMALモードは、全天候をカバーするというコンセプトであり、4WD LOCKモードはさらに強いトラクションを得たい場合に選ぶべきモードとして設定されている。対するガソリン車では、4種類のモードの中から路面状況に応じて最適なものを選んで欲しい、という方向である。

パジェロの「スーパーセレクト4WD-II[SS4-II]」は、空転しやすい悪路などでより大きな駆動力を発生するローギヤ直結4WD(センターデフロック)の「4LLc」をはじめ、雪道やダート路などでも駆動力を確実に発生する直結4WD(センターデフロック)の「4HLc」、高速走行時の安定性やニュートラルな旋回性能を特徴とする前後不等配分(33:67)フルタイム4WDの「4H」、FRならではのスムーズなハンドリングや静粛性に優れる「2H」という4つの走行モードを設定。直列4気筒DOHC 3.2リッターディーゼルターボエンジンは最高出力140kW(190PS)/3500rpm、最大トルク441Nm(45.0kgm)/2000rpmを発生する
パジェロは4つの走行モードから選択できる

 絶対的な走破性能については、三菱車はもとより、世界中の市販車の中でもトップレベルにあるといえるパジェロは、三菱車の中でも唯一「スーパーセレクト4WD-II[SS4-II]」を搭載する。走行モードは「2H」「4H」「4HLc」「4LLc」の4通りが設定されており、センターデフとリアデフが任意にロックできるようになっている。

 4Hモードでは33:67に駆動力の前後不等配分を行うので、わざと強めにアクセルを踏み込むとテールスライドするのだが、このぐらいの状況なら4Hモードでも楽に走破することができる。4HLcモードを選んでセンターデフをロックすると、タイトコーナーブレーキング現象で、Rの小さいコーナーをスムーズに曲がれなくなることもあるものの、やはりトラクションはがぜん高まり、全体的により走りやすくなる。

 こうして三菱自動車のAWC思想に基づく4WDラインアップの走りの違いと性能の高さを体感したのだが、三菱自動車にはやはり4WDに関する一日の長が大いにあると感じた次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。