特別企画

【特別企画】岡本幸一郎の新型「ロードスター」で行く南九州1泊2日の旅

冬でも何のその、オープントップで雪化粧した鹿児島の風を楽しむ

雪の積もった鹿児島は初めて

 鹿児島空港に到着すると、北海道に来たのかと思うほど滑走路に雪が残っていた。ニュースでも報じられていたとおり、我々が行く数日前に鹿児島で珍しく大雪が降ったせいだ。恒例となったマツダの鹿児島試乗会には、もう何回も参加しているが、さすがに雪のある景色を目にするのは初めてのことである。

 今回ドライブするロードスターは、ご存知のとおり栄えある「2015-2016日本カー・オブ・ザ・イヤー」受賞車。試乗を控え、山本主査から2015年5月に発売したロードスターは、年末までに国内で約8000台を販売したことや、今回の試乗では冬でもオープンで走ってほしい旨などが伝えられた。

 ところで、これまで毎年走っている指宿スカイラインは、この日は積雪のため通行止め。ではいつもと違うことをしようと、まずは「本土最南端の始発・終着駅」というJR枕崎駅に向かった。

今回の鹿児島試乗会では、まずベースグレードの「S」(赤)と「Sスペシャルパッケージ」(白)を借りることができた。筆者はそのうちSグレードを中心に鹿児島市内をドライブ。ロードスターのボディーサイズは3915×1735×1235mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2310mm。Sグレードの車重は990kg
事前に聞いていたものの、実際に確かめてみるとやっぱり通行止めだった指宿スカイライン。「せっかくのスポーツカー試乗会なのに~」と残念がる筆者
気を取り直して国道225号、通称“枕崎かつお街道”などを走りながら本土最南端の始発・終着駅であるJR枕崎駅へ向かった

 せっかく鹿児島でロードスターに乗るのだから、山本主査のいうとおり雨さえ降らなければオープンで走ることにする。そういえば筆者も、実は20代前半のころに初代ロードスター(NA型)を2年ほど愛車にしていた時期があって、そのときは寸暇を惜しんで真冬でもオープンにしていたものだ。今回も、ときおりクローズとの違いを確認するためにトップを閉めたりしたのだが、基本はオープンだ。

 それにしても、NA型のときはリアスクリーンがガラスではなくビニールで、トップを開閉するたびジッパーを開け閉めする必要まであったのと比べると、ND型はシートに座ったままでもトップを簡単に開け閉めできることにあらためて感心させられる。

 また、オープンにしてもサイドウィンドウを上げると風の巻き込みがかなり抑えられ、首のあたりまでヒーターの暖気が逃げないので、寒い思いをすることもあまりない。これなら山本主査の言葉どおり、冬でも十分にオープンエアドライブを楽しめる。

 せっかく枕崎駅に来たので「到着証明書」をもらい、続いて近くの枕崎港へ。初日に筆者がドライブしたのは、素の赤い「S」。白い「Sスペシャルパッケージ」は、行動をともにした編集担当氏とカメラマンが乗った。途中、道の駅で小休止したりしながら、この日はおもに海岸線を走った。

「道の駅 川辺やすらぎの郷」に立ち寄って小休止。ここでは地元で採れた野菜をはじめ、山の幸や海の幸など豊富な食材を購入することができる
地元の名産品を横目で見つつ、鹿児島産牛乳で作られたソフトクリームをいただきました。味はバニラ、チョコレート、ミックスとあり、各270円
ND型はシートに座ったままでもルーフの開け閉めを楽に行なえる。ND型の大きな美点の1つだ
“本土最南端の始発・終着駅”JR枕崎駅で記念撮影。駅前には鹿児島県の地図が立体的に見えるトリックアート舗装が施されるとともに、駅舎にはかつおが飾られていた。さすが名産地
JR枕崎駅の近くにある観光案内所では、日本最南端の終着駅に着いたことを証明する「到着証明書」を購入することができる。到着証明書には枕崎市の火之神公園から見える奇岩「立神岩」に沈む夕日がデザインされている

ごく普通に運転しているときの心地よさ

 半日にわたり「S」に乗って感じたのは“素”のよさだ。これまで「S」については挙動が大きく出ることをたびたび指摘してきたのは事実だが、こうして飛ばすのでなく、ごく普通に運転していると実に心地よい。考えてみると、こうしてある程度の時間を連続して「S」と向き合ったのは初めてのことだが、ただ流しているだけでも楽しさを感じる。それはまさしく操る楽しさにほかならない。すべての操作に対してイメージしたとおりに素直に反応してくれるので、交差点1つ曲がるだけでも楽しみになる。ND型はどのグレードもその味付けの方向性であることには違いないが、ごく普通の走り方をする上では「S」がもっともその感覚を感じられる。そこに「S」ならではの価値がある。

 ロードスターに乗りながらともに走るロードスターを眺めていると、サイズは小柄でも存在感は大きいことをあらためて感じる。それはデザインの力によるものに違いない。そんなロードスターが2台つるんで走る姿は、やはり周囲にも印象的に目に映ったのだろう。海岸線を走っていて、女子高生の集団に手を振られたので振り返した。横断歩道で信号待ちしていた小学生の男の子から、「かっこいい!」とわざわざ聞こえるように声をかけられたりもした。ロードスターは、乗った人だけでなく見た人までワクワクさせてくれるクルマということだ。

 せっかくなので、このあたりのパワースポットとして知られるという「釜蓋神社」に立ち寄った。なんでも、なでしこジャパンのメンバーが鹿児島合宿の際に訪れたとか。夕景に印象的な建造物が映えるが、こちらでは釜の蓋を頭の上にのせて、落とすことなく賽銭箱まで歩いて参拝すると願いごとがかなうという「釜蓋願掛け」が有名らしい。これは意外と簡単にできた。

 また、小さな素焼きの釜蓋を海にあるお釜にめがけて投げ、見事に入ったら願いごとがかなうという「釜蓋投げ」という願掛けもあって、2回チャレンジしたのだが、そちらは成功しませんでした……。

“勝負事”にご利益があるという「釜蓋神社」
釜の蓋を頭の上にのせて、落とすことなく賽銭箱まで歩いて参拝すると願いごとがかなうという「釜蓋願掛け」に挑戦。見事に成功したので“ロードスターで指宿スカイラインを走りたい!”という願いがかなうかも?
こちらは小さな素焼きの釜蓋を海にあるお釜にめがけて投げ、見事に入ったら願いごとがかなうという「釜蓋投げ」。こちらは2投してどちらも失敗。願いがかなうのかかなわないのか、果たして結果は

 そして宿泊地へ向かう。到着して聞いたところでは、夕方から指宿スカイラインが開通したそうだ。翌日は「RS」をドライブする予定なのでちょうどよい。「釜蓋願掛け」に成功した恩恵だろうか(笑)。

リズムにこだわったからこそ

「RS」に乗るのは、2015年末にリポートした伊豆での試乗会に次ぐ2回目。今回はクラッチのスペシャリストである開発グループの石川美代子さんを助手席に乗せ、話を伺いながらドライブすることができた。

翌日はビルシュタイン製ダンパー、フロントサスタワーバー、大径ブレーキなどで走行性能が強化された「ロードスター RS」に試乗。直列4気筒DOHC 1.5リッターエンジンの出力は全グレード共通の最高出力96kW(131PS)/7000rpm、最大トルク150Nm(15.3kgm)/4800rpm。インテリアではレカロと共同開発した専用シートが目を引く
筆者とマツダ株式会社 パワートレイン開発本部 ドライブトレイン開発部 第2ドライブトレイン開発グループの石川美代子さん

 石川さんは、クラッチをどのようにつなぐかの味付けはもとより、エンジンレスポンスや回転落ち、シフトフィールやブレーキフィールとクラッチとの連携についてもかかわっている。

 話をうかがうと「一番はリズムにこだわりました」とのこと。それはまさしく筆者もロードスターをドライブするたび感じていた部分で、一連のすべてがリズムよく調和している。だからこそこれほど気持ちよく走れるのだ。アクセル、ブレーキ、クラッチとも、けっしてゲインが高いわけではなく、レスポンスがよく応答遅れがない。ロードスターには「リニア」という言葉がふさわしい。

 また、前回の伊豆では車両がシェイクダウン直後だったので、やや足まわりの動きの渋さを感じたのだが、走行距離が5000kmを越えていた今回は、その印象もだいぶ薄れていた。

 そして、いざ指宿スカイラインへ。やはりこういうワインディングを走ると、RSの適度に締まった、姿勢変化を抑えた足まわりの按配がいい。ステアリング操作に対して、より俊敏に反応するところも操る楽しさを引き立てている。サポートがややきつめのシートは、こういうシチュエーションでこそ真価を発揮する。ロードスターのキャラクターの1つとして、RSのようなバリエーションが選べるようになったことを、あらためて歓迎したいと思う。

 アクセルとブレーキペダルの位置関係もよく考えられている。石川さんによると、ドア側は衝突安全の要件があるし、反対側はトランスミッションのでっぱりがあるなど、いろいろスペース面での制約のある中で、最適なペダルレイアウトを実現するためペダルのサイズを従来より小さくしたという。

 ただし、それを感じさせないよう、ペダルの縁の部分について、これまで低くなっていたところを出っ張らせたそうだ。そんな小さなところにまで気を配ってこだわっていることにも感心させられた。

 こうして鹿児島の地であらためて味わったロードスター。その楽しさと魅力を再発見することのできた2日間であった。

ロードスターではペダルのサイズ、デザインにも細心の注意を払って開発された。ロードスターに興味を持たれた方は、試乗するときにぜひペダルにも注目いただきたい

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛