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グッドイヤーの最新スタッドレス「アイスナビ 8」はどこが進化した? アイス性能向上を開発者に聞く
雪上でのフィーリング&開発者同乗で舗装路での実力もレポート
- 提供:
- 日本グッドイヤー株式会社
2021年11月11日 06:00
非対称トレッドパターンを初採用
1997年に初代が登場したアイスナビも、これにて8代目。8月に発売されたグッドイヤーの乗用車向けスタッドレスタイヤの最新作「ICE NAVI 8(アイスナビ エイト)」は、「高次元でバランスのとれた性能がより長く続くプレミアムスタッドレスタイヤ」がコンセプト。その優れた実力は、都心から長野の志賀高原までを往復し、すでに確認済みだ。
印象的だったのは、トータルバランスに優れること。どこか突出して優れた点があるのではなく、舗装路ではサマータイヤに近い感覚で走れ、スノーやアイスでもものともせず走れるなど、どんな路面でも本当にそつなく走れてしまうことに感心した。そのあたり何か秘訣でもあるのだろうか。今回は商品企画とテストドライバーの両氏に新製品の進化のポイントについて話をうかがうことができた。
【スタッドレスタイヤレビュー】グッドイヤーのニューモデル「アイスナビ 8」、乾燥路&雪道を走って感じたその性能
https://car.watch.impress.co.jp/docs/review/1343253.html
念のためにお伝えすると、ご存知のとおりグッドイヤーはアメリカのブランドではあるが、スタッドレスタイヤの開発は日本で行ない、北海道のテストコースでアイスやスノーなどの冬性能を評価し、JARI(日本自動車研究所)でドライやウェット性能を磨いている。
新製品の開発にあたり実施した消費者調査で、スタッドレスタイヤを購入した人にどんな性能が不満かを調べたところ、やはりアイスやスノーなど冬性能を重視する声が多い中で、3番目に耐摩耗性能が続いた。商品企画部 部長の岸宗弘氏は、「アイス性能を上げるには柔らかくしたほうがよいのですが、摩耗性が落ちてしまいます。そのあたりをどう両立させるかに取り組みながら、ウェット、ノイズ、燃費などの性能も含め、総合的に考えて開発しました」と語る。
アイスナビ 8の特徴として、これまで対称だったトレッドパターンを非対称としたのが一番大きなポイントとなる。ドライと同じくINとOUTでデザインを変えることはアイスでも効く。ブロックの外側を大きくしたほうがハンドリングはよくなる。接地圧分布をより均一にできたことは摩耗にも効いている。そのほかのさまざまな設計要素も含め、アイスナビ 8ではライフ、ノイズ、低燃費など、トータルでの性能向上を果たすことができたと岸氏は続けた。
中でも氷上ブレーキは8%も向上している。ランド比(タイヤの接地面と溝の面積比)は2%増加し、エッジ成分が7%、ピッチ数は21%も増えた。ブロックのエッジも増え、ゴムも新しくした。ランド比を上げて溝比率が減ると、アイス性能にはプラスでもスノー性能にはネガなのだが、評価の結果は従来品と同等を維持しているのは、ブロックのデザインの工夫により雪柱せん断力を維持したことや、断面形状の見直しにより接地形状を最適化できたことが効いている。
耐摩耗性は従来比で3%向上しているが、これについて「それほど大きくないように思うかもしれませんが、アイス性能を上げながら同時に耐摩耗性の改善を実現するのは技術的に難しいことです。消費者調査で意外と上位だった転がり抵抗についても若干下げることができました」と岸氏は述べる。
静粛性についても、パターンノイズが31%、ロードノイズが16%も低減できたというのは、2月に試乗した際にも印象的だったように記憶している。
「従来品に対してアイス性能を大幅に引き上げても、ドライを落とすことなく、ライフ、摩耗も犠牲にしていません。冬道でもっとも重要なアイス性能を最重視しながらも、何かを犠牲にして何かを上げるではなく、あくまで全体的なバランスを重視しています」と岸氏は強調する。そこは他社製品に対するアイスナビ 8の優位性が光る部分でもある。
リラックスして快適に乗れるように
「テストドライバーの立場からすると、どんな状況でも安心して走れるというのは簡単ではありません。おそらく一般的には開発しやすいように、特定の環境を想定しているケースが多いように感じています。一方でそこから外れると、ある環境で感じたよさが感じられなくなってしまうようなことが多々あります。弊社はそうでなく、実際に遭遇しうるすべてのシーンで、それぞれにおいてトップにはなれなくても、トータルで見たときにトップにこられるようなコンセプトで開発しています。なかなか数値では表しにくいところですが……(笑)」とは、シニアテストドライバー兼エンジニアの中島希光氏の談。
中島氏は「目標としては、リラックスして快適に運転できることが何より重要と考えています。冬道は高いグリップがあること、回復しやすいこと、滑り出しが分かりやすいことなど限界域での評価や、高いグリップで緊急回避できることなどをコアにテストしています。根本にあるのは、より安全、安心、快適なカーライフのために、という想いです」とも語る。
捕足するとスノー性能は前作のアイスナビ 7同等としているが、細かく見ると若干の差異があり、表面に新しい雪のないよく踏み固められた圧雪路のように、よりアイスに近い状況ではアイスナビ 8のほうが上がっている。それはアイス性能の向上と同じ理由による。
操縦安定性も異なり、アイスナビ 8ではあえてスポーティさを控えめにしている。それは運転に自信のある人には操舵に対してパッと動く感覚はアイスナビ 7のほうが好まれた半面、一般的なユーザーには「動きすぎて怖い」という声も少なからずあったからだという。
中島氏も「正直、当時たしかにそうだなと思うところはありました。とくに冬道では、キックバックがあったときに動きすぎるとふらふらしてしまいます。そこでアイスナビ 8ではゆったり落ち着いた動きを作り込んでいます。総合点とすると、レスポンスは下げても安定性は上がっているので、差し引き同等としました」と述べている。
総合性能という性能を磨き上げた
「まんべんない性能を追求しました。一般的にある性能を突き詰めていくと、最初はリニアに上がっていきますが、だんだん飽和してきて、デメリットのほうが大きくなっていきます。その中でメリットとデメリットのベストバランスを探り、いろいろな環境で高い性能を出せるようにしました。そのため、北海道の中でもとくに冷え込む士別での厳しい環境下で、昼間の日差しある中やフカフカの雪、氷の上で雪の量をいろいろ変えてみたりと、本当にいろいろな環境でテストしました」(中島氏)。
実際に2月の長野方面へのウインターリゾートを想定した試乗時に、われわれは運よく冬道で考えられるほぼすべてのシチュエーションを体感することができたのだが、コンセプトどおり路面状況を問わず安定した性能を発揮してくれることを実感した。
志賀高原を登っていき、だんだん温度が下がっていく中でも路面状況が掴みやすく、安定したグリップを得ることができた。一方で、高速カーブが連なる上信越道でもしっかりとした剛性感があり、腰砕けになることはなく、何も不安に感じることなく走れた。どんなシチュエーションも苦手とする印象がなく、アイスでもスノーでもドライでも、それぞれの状況に相応しい安心感があった。
そのオールラウンドな性能は、グッドイヤーの製品づくりのコンセプトとしてあるのだという。「アイスナビは市場である日本で企画して設計し、開発していますが、その際に社内で統一された基準に則して、その方向性に合わせていくようにしています。日本車を使って、日本向けにアレンジした部分もありますが、評価の仕方はグローバルで統一されたものがあります。走ってみないと分からないところはあるし、開発時に冬道を運転する中で、周囲のクルマを観察していて気づくこともあり、こういうところ大事にしなければと自分なりのアイデアも出てきます。また、テストドライバーとして、試乗会などのイベントにも参加しているのですが、その際に販売店さんを通してユーザーさんからの生の声を聞くこともできて、それを取り入れていけるのも製品を開発する上で役に立っています」(中島氏)。
いわば「総合性能」という性能を磨き上げたのがアイスナビ 8ということだ。今回は都内の一般道で、あらためて舗装路での走りを確認した。10月初旬で気温が高かったため2月に比べると多少は柔らかく感じられたものの、2月にも第一印象としてあった、舗装路でサマータイヤのように走れるという感覚は変わらず。コーナーでフラつくこともなく、適度に減衰が効いていて振動の収束は素早く、多少ペースを上げてもフラット感があり、乗り心地がよいことも印象的だった。
まもなくまた冬がやってくるが、アイスナビ 8ならどんなシーンに遭遇しても高い安心感があり、その優れた性能をこれまでよりも長く享受することができるのもありがたい。より多くの人に薦められる、極めて万人向けで万能な性格のスタッドレスタイヤである。
Photo:安田 剛