レビュー

【スタッドレスタイヤレビュー】グッドイヤーのニューモデル「アイスナビ 8」、乾燥路&雪道を走って感じたその性能

ライフ性能も重視

 グッドイヤーの新スタッドレスタイヤ「ICE NAVI 8(アイスナビ エイト)」は、多くのユーザーが求めるスノー/アイス性能の大幅な強化を図りながらも、なおかつ相反するドライ/ウェット性能を高い次元で両立させている。

 中でもドライ路面でのノイズやライフ性能にも力を入れている。このところ業界の動向を見ると、ドライ性能でのライフ性能を多少犠牲にしてもアイス性能を上げる傾向が見受けられるのに対し、グッドイヤーとしてはライフも重要な性能と位置付けており、その中でアイス性能をいかに上げていくかに取り組んだ。また、ライフというとドライ性能の話と思われがちだが、雪上ではゴムの柔らかさではなく溝がどれだけ残っているかが大事。スタッドレスタイヤにとってライフは立派な冬性能と認識しているという。

 概要は別記事でも述べているとおり。前身の「ICE NAVI 7」に対しては、非対称パターンの採用をはじめ、ランド比、密着性能、エッジ成分の向上などにより、氷上ブレーキおよびコーナリング性能がとくに向上している。

グッドイヤー、新スタッドレスタイヤ「アイスナビ 8」 初の左右非対称パターンで氷上性能に加えライフ&低転がり性能も向上

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1339699.html

今回試したのは8月2日に発売された日本グッドイヤーの新スタッドレスタイヤ「ICE NAVI 8(アイスナビ エイト)」。シリーズ初の左右非対称パターンを採用し、雪上や氷上の冬性能に加えてライフ性能や新たな軟化剤の使用により柔軟性の持続も考慮した製品となる
パターンデザインではOUT側の剛性を高め、旋回時の操縦安定性を確保するとともにLAND比を従来の「ICE NAVI 7」から2%高める(195/65R15)ことでより広く接地し、密着性が向上。氷上でのコーナリング性能はICE NAVI 7比で5%向上した。LAND比が上がると通常は下がってしまう雪上性能は、最適化されたトレッドパターンによりICE NAVI 7と同等の性能を維持している
ICE NAVI 8では均一摩耗プロファイルの採用により、摩耗エネルギーを分散し偏摩耗を抑制。耐摩耗性はICE NAVI 7比で3%向上したほか、転がり抵抗比較テストにおいてはICE NAVI 7比で2%低減しており、同社の夏タイヤ「EAGLE LS EXE」と同等の低転がり抵抗を実現した。なお、ICE NAVI 7と比べてパターンノイズ(騒音エネルギー)が31%減、ロードノイズ(騒音エネルギー)が16%低減しているという

 その実力のほどをうかがうべく、195/65R15サイズのアイスナビ 8を履かせた「プリウス」で目指したのは志賀高原。限界性能はさておいて、ちょっと長めの距離を走り、ウインタースポーツを楽しみにいくとか降雪地に帰省といったシチュエーションでどう感じたのかをお伝えしたい。

ドライ性能に驚く

 都心を抜けて、関越道~上信越道を走る。片道約280kmの旅。天候は晴れ。高速道路をしばらく走ってみた印象だが、本当にサマータイヤに近い感覚で走れることに感心。ふらつきの小ささ、微舵の応答、レーンチェンジでの収束のよさなどはサマータイヤそのもの。音についても、パターンノイズは実に31%、ロードノイズも良路と悪路での違いはあるにせよ、騒音エネルギーとしては16%も低減しているというだけあってかなり静かだ。これでちゃんとアイス路面を走ることができれば御の字というところだが、果たしてどうだろうか。

ドライ路面での高速巡行ではサマータイヤに近い感覚で走れたことに感心

 志賀高原にさしかかったあたりの気温は-10℃、さらに標高の高いあたりで-13℃。クルマから降りて歩いてみると、昨晩に降った新しい雪は水っぽくなく、片栗粉のようなサラサラのパウダースノー。除雪車が通って踏み固められ、ところどころ凍っているという状況だ。

 そこをトラクションコントロール(TRC)がONのまま走ると、発進時の感覚からして路面をしっかり掴んでいる感覚が伝わってきて、アクセル開度の小さい状態で走っていくと、やはり全体的に滑る量が少ないことを感じる。ミューが低くてTRCが作動してもおかしくない路面でも、思ったよりも作動せずに粘る。試しにアクセルを踏み増したりしてみても、感触としてはかなりTRCが介入しにくい。ブレーキもよく効いて、何度か試してみても予想よりも手前で止まる。エッジ成分の増加による優れたひっかき効果や、柔軟性を高める極小分散シリカの採用により路面への密着が高まったことが効いているようだ。

志賀高原の標高の高いあたりでの気温は-13℃。ところどころ凍っている状況

 タイヤのトレッドを見てみると、サイプには雪が詰まっているが、縦横のグルーブの端の方はキレイになっている。こうした場所では、路面をつかみながらもいかに排雪するのが求められるが、それを上手くやってのけていることの表れだろう。

思った通りに動いてくれる

 ところで、プリウスというのは降雪地ユーザーにとっては“スタックしやすいクルマ”と認識されている。その理由が、歴代モデルではTRCをOFFにできない仕様になっていたから。ひとたびハマるとパワーを絞り込んでしまうため抜け出せなくなるのだ。

 そこで現行型ではOFFにできるようにされたのだが、途中ややスタック気味になったところではOFFで頑張るまでもなく、むしろ空転し続けそうな感じだったところ、ONでじわっとアクセルを踏むと無駄に空転することなくスルッと脱出できたのに驚いた。むろんこれはタイヤの力によるところが大きく、それだけグリップしているということにほかならない。

 絶対的な性能は競合や新旧製品を同条件で比べてみないと分からないものの、アイスナビ 8は思ったとおりに動いてくれるところが好印象だ。路面のインフォメーションもあるので滑り出しも分かりやすく、動きが読みやすくてコントロール性にも優れる。

 これには乾燥舗装路でも感じた、剛性の高さも効いているに違いない。トレッド部の剛性を高める専用構造や、ブロックの倒れ込みを抑える技術等の内容により、剛性がしっかり確保されているから不確実な要素が減って、より意図どおりに走れるようになる。さらには非対称パターンとプロファイルの最適化によりOUT側の接地面積が増えて、より広い範囲で路面に均一に接地するようになり、旋回時のグリップが向上したことも効いて、上り勾配のワインディングでも「このクルマは4WDだったっけ?」と思うぐらいトラクションがあるので、思わずペースが上がってしまったほどだ。

上り勾配のワインディングでは「このクルマは4WDだったっけ?」と思うぐらいのトラクションが体感できた

 ところでグッドイヤーというとオールシーズンタイヤの評判も上々で、雪道でもけっこう走れてしまうので、どちらを選べばよいのかと迷ってしまう人もいることだろうが、それでもスノー性能はアイスナビ 8が上まわるし、アイス性能は圧倒的に上だ。その上で、ドライの諸性能とライフ性能も上がっているのだからいうことなしだ。

 いろいろ相反する要素を兼ね備え、あらゆる状況にいい形で対応できるフレキシビリティ=柔軟性(やわらかいという意味ではなく)はピカイチの、いわば人にやさしいスタッドレスタイヤ。これならどんな冬道も、何も不安に感じることなくより安全で快適に走れるに違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛