東海大学、「グローバル・グリーン・チャレンジ(ソーラーカー部門)」優勝報告会 世界最大のソーラーカーレースで大会新記録で優勝 |
東海大学は、「グローバル・グリーン・チャレンジ(ソーラーカー部門)」優勝報告会を行った。これは10月24日~31日に開催された世界最大級のソーラーカーレースで、オーストラリアのダーウィンからアデレードまでの約3000kmのタイムを競うレース。東海大学では、学生によるプロジェクトチームが中心となって、シャープをはじめとした民間企業の協力によりマシンを制作。ドライバーには学生のほか、同大学OBである篠塚建次郎氏が参加した。東海大学チームは、平均100km/hで走破し、大会新記録で優勝した。
報告会には、東海大学 総長・理事長の松前達郎氏、同学長の髙野二郎氏も登壇し、あいさつを行った。松前氏によれば、東海大学では、グローバル・グリーン・チャレンジ(以下GGC)の前身となる「ワールド・ソーラー・チャレンジ」に1993年から挑戦してきたと言う。初参戦の時は完走はできたものの52台中18位という戦績で、今回は4回目の挑戦。松前氏は「こういったチャレンジには産学連携が重要で、今回もシャープ様から太陽電池を供給していただいた。そのほか多くの企業の皆様にもご協力をいただいており、感謝を申し上げる。これからも学生達のチャレンジを暖かく見守っていただき、学生達の夢を育てるということも含めてご協力をいただきたい」と述べ、あいさつとした。
東海大学 総長・理事長 松前達郎氏 | 東海大学 学長 髙野二郎氏 |
続いて髙野氏からは、今回のチャレンジプロジェクトの母体となる東海大学チャレンジセンターについての説明が行われた。
髙野氏によれば、東海大学は現在10のキャンパスに20の学部を持つと言う。しかしこれからのグローバルな時代で、社会的な実践力を持った人材を育てるためには、学部の枠を超えた横断型のプロジェクトをできる場が必要と考え、2006年にチャレンジセンターを設立したと言う。
ここでは、学生が中心となってプロジェクトを立ち上げ、学科を横断したメンバー50名以上といった条件を満たすことで、認定される。現在は24のプロジェクトでおよそ1300人の学生が活躍しており、今回のGGCへ挑戦した「ライトパワープロジェクト」には71名が在籍。ソーラーカーだけでなく、電気自動車や人力飛行機の開発などを行っている。
髙野氏は「チャレンジセンターの中の1つのプロジェクトがこのような成果を成し遂げたことは、チャレンジセンターの目標を達成してくれたということであり、将来彼らの社会での活動に期待をしている」と述べた。
レースの結果報告は、プロジェクトアドバイザーを務めた工学部電気電子工学科教授の木村英樹氏と、同学科生でチームマネージャーの竹内豪さんによって行われた。
東海大学工学部電気電子工学科教授 木村英樹氏 | 東海大学工学部電気電子工学科3年生で、チームマネージャーの竹内豪さん |
今回制作した新型ソーラーカー「Tokai Challenger」は学生の設計によるもので、シャープ製の太陽電池6m2を搭載。その変換効率は30%で出力は1.8kWと出場チーム中最高だと言う。さらに太陽電池出力を取り出すための回路も三島木電子などと共同開発。変換効率は98%で、これもまた出場チーム中トップ。ボディーは、GHクラフトの協力のもと学生の手によって製作。カーボンFRP製で、新開発のミツバ製ダイレクトドライブモーター、パナソニック製リチウムイオン電池を搭載して、車重は160kgと、これも最軽量だと言う。また、低速時には後輪も操舵する3WS(3輪操舵機構)も採用。これによりタイヤカバーを細くでき、空気抵抗の軽減に寄与すると言う。
太陽電池の6m2というのは、レギュレーションによって決められているため、太陽電池の変換効率が重要になると言う。2001年より4連覇中で強力なライバルとなるオランダデルフト工科大学では、当初34%の変換効率の太陽電池を搭載と言われていたが、実際にはパネルの一部に使われているだけで、出力としては東海大学がトップだったとのこと。搭載するモーターに関しては自由で、東海大学チームでは、平均速度95km/hのモーターと100km/hのモーターを用意したが、出力が高かったため100km/hのモーターを搭載できたと言う。また、車重に関してもデルフト工科大学がトラブルにより161kgとなったことで、東海大学が勝った。
前身となるワールド・ソーラーカー・チャレンジからは、今年で10年目を迎える | 出場チーム中最高の出力を誇るシャープ製太陽電池 | MPPTやモーターも新規に開発 |
バッテリーはパナソニック製で、タイヤはミシュランがこのレースのために開発したもの | セラミックボールベアリングで低抵抗化 | Tokai Challengerの諸元。黒字が予定で、赤字が変更になった箇所。予定より車重は増えたが、平均速度も向上した |
レースはダーウィン~アデレード間の約3000kmで行われる。1日に走行できるのは8時~17時のみで、走行時間以外も日の出ている間は太陽光による充電は許される。また、ドライバーチェンジのために数カ所にコントロールストップが設けられ、ここでは30分の停車が義務づけられている。
スターティンググリッドはヒドゥン・バレー・サーキットで行われる予選によって決められるが、東海大学の順位は4位。優勝候補のデルフト工科大学のチームは2位で、1位は地元オーストラリアの名門チームであるオーロラ。ほか、車検に合格した32台が決勝にエントリーした。
決勝を4番手でスタートした東海大学チームだったが、上位3チームのトラブルにより順位を上げトップに。その後も4日目にタイヤがバーストし8分停止したほかは、ノートラブルで走り続けることができ、29時間39分と大会新記録で優勝した。
チームマネージャーの竹内さんは、「今回GGCという世界的に有名なレースに挑戦することで、1つのプロジェクトを達成することの難しさや、それを乗り越えたときの達成感を得ることができました」と述べ、協力企業各社や、篠塚さんら協力者への感謝の意を述べた
シャープ代表取締役副社長 濱野稔重氏 |
今回の挑戦に最高水準の太陽電池を提供することで協力した、シャープからは、代表取締役副社長濱野稔重氏が来訪した。濱野氏は、予定より1日早い優勝の一報に本当に驚いたと言い「太陽電池メーカーとしてこれほど喜ばしいことはない」と、その喜びを表した。濱野氏によれば、今回搭載した太陽電池は宇宙用のもので、それを今回のカーレース用に改良したものとのこと。地上での本格的な使用はこれが初めてで、今後東海大学からもらうデータでさらなる開発を進めるとした。
ドライバーを務めた篠塚建次郎氏 |
最後に、ドライバーを務めた篠塚建次郎氏がレースの感想を述べた。篠塚氏は決勝が始まるまでは、スケジュールもすべて遅れ、船積みにも間に合わず空輸し、予選でもリミッターが作動するというトラブルに見舞われて「10秒は損した」と述べ「このトラブルを引きずりながら本番は走るんだなと覚悟をした」と言う。しかし決勝では4日目にパンクで8分止まった以外まったく止まらず走ることができ「奇跡が起きた」と思ったと言う。篠塚氏はこの奇跡を、夏休みも、オーストラリアに来てからも夜遅くまでの作業が続いて、それでもがんばった学生たちの努力が起こした物ではないかと述べた。
質疑応答では、今後のチャレンジについて聞かれた竹内さんは、今後もチャレンジを続けたいとしながらも、まだ帰ってきたばかり(記者会見当日に帰国)で具体的には考えられていないとした。
(瀬戸 学)
2009年 11月 5日