ボッシュ、2010年は476億ユーロの記録的な売上を記録 「プレスカンファレンス イン ジャパン 2011」より |
ボッシュは7月14日、報道関係者に向けた「プレスカンファレンス イン ジャパン 2011」を開催し、織田秀明取締役社長が2010年を総括するとともに、2011年の展望および製品戦略について説明した。
■2010年はグループ全体で記録的なプラス成長
2010年の世界における自動車販売台数は新興国の大幅な成長により7600万台に達した。
これに比例し、ボッシュ・グループ全体の2010年の売上高は476億ユーロとなり、前年比24%(91億ユーロ)増と記録的なプラス成長をみせた。この数値について、織田氏は「2010年は経済危機を全世界で力強く成長に変えていくというトップの意志のもと、その目標を達成できた」と振り返る。
同社は大きく自動車機器部門、産業機器部門、消費財・建築関連部門の3部門に分かれるが、2010年の売上高の構成比はそれぞれ59%、14%、27%と、自動車機器部門がもっとも高い比率を占めた。とくに自動車機器部門の29%という成長率について「ここの部門の伸びが大きかった」(織田氏)とし、その伸びの主たる要因は「新規製品に対する利益」「利益率の少ない製品に対する合理化が効いている」と言う。
ちなみに産業機器部門は30%、消費財・建築関連部門は10%の成長率で、全事業セクターで売上高が向上したことになる。
また、地域別の売上高を見ると、欧州が277億ユーロ、北米が66億ユーロ、南米が20億ユーロ、アジア太平洋が110億ユーロ。売上高でもっとも高かったのは欧州だが、成長率で見ると欧州16%、北米27%、南米36%、アジア太平洋43%と、「一言で言うとアジア、アジアしかないという時代に入った」(織田氏)。2011年もアジアの成長(とくに中国)は続くとしており、2010年のシェア率23%は2011年に30%まで拡大すると見込んでいる。そのため今年度は20億ユーロの投資を行う予定だと言う。
織田秀明取締役社長 | 2010年の自動車販売台数は新興国の大幅な成長により7600万台に達した | ボッシュ・グループは2010年に記録的なプラス成長をみせた |
事業セクター別の売上高について | 地域別売上高について | 全事業セクターで売上高が向上した |
■日本では3300億円の売上高
一方、日本における売上高は前年比37%増の3300億円を記録。売上の9割は自動車機器部門が占めていると言い、自動車機器部門単体の成長率は39%という結果となった。その成長につながった主な要因は、新興国の成長に牽引されたこと、エコカー減税の効果を挙げている。
しかし、2011年は東日本大震災があったことから、震災前は前年比で約10%の売上増だったのに対し、震災後は事業部によって異なるものの20~40%減(3~4月)となっている。また、5~6月は大体の部門で震災前まで復調してきているものの、「ブレーキ関連部門は4~5%わるい状況」(織田氏)としており、「今年はこのあと急激に回復するだろうと思っているが、円高の問題などで数%の影響がでるのではないか」との危機感を述べた。
日本のボッシュ・グループの売上高 | 事業部別の売上構成比率 |
日本のボッシュ・グループの税引き前利益 | 日本のボッシュ・グループの研究開発費の推移 |
■世界のボッシュ・グループの2011年の展望
世界のボッシュ・グループ全体の展望については、2011年第1四半期(1月~3月)は前年比約15%増の売上高を計上しており、「非常に好調なスタートを切った」と言う。この第1四半期でグループを牽引したのは産業機器部門としている。
自動車機器部門については、2010年に281億ユーロだった売上高が300億ユーロまで伸びると見込んでおり、「新興諸国での伸びが大きく影響する」ことを前提に、「先進国においても新製品のシェアを伸ばす」ことで実現したいと語った。
世界のボッシュ・グループの2011年の展望 | 売上高は300億ユーロまで伸びると見込む |
■製品戦略について
同社では現在、急速に変化している3つの動向に注視していると言う。
1つは、2020年までにアジア太平洋地域の世界経済に占める割合が40%になるとする「グローバル化」について。
2つ目は気候変動と資源不足に対する回答である「エネルギーシステムの転換」。
そして最後に「機器やサービスのインターネット化」。この項目については下記で紹介するが、とくに成長著しいスマートフォンの台頭を例に挙げ、「この媒体を通して情報のやりとりが加速度的に速くなるとともに、全世界がつながる時代になっている。このインターネット化に対し、(ボッシュの)すべての部門がどのように対応していくかが、今後の事業を決定する」と織田氏は言う。
具体的な成長チャンスには、パワートレーン技術を1つの大きな要素として挙げる。2010年の車両販売台数(6t以下)の内訳はディーゼル車が1520万台、ガソリン車5100万台、ガソリン直噴システム搭載車470万台、圧縮天然ガス車(CNG)40万台の計7130万台だった。
この割合が、2020年にはディーゼル車2330万台、ガソリン車5750万台、ガソリン直噴システム搭載車1920万台、CNG車100万台、電気自動車(EV)300万台の計1億400万台になるとともに、ディーゼル車、ガソリン車、ガソリン直噴システム搭載車のうちハイブリッド(HV)車が600万台を占めると同社は予想している。
この予想に込められるメッセージは、2020年においても内燃機関が依然95%を占めるということであり、そのことから「内燃機関の効率化をキチッとやっていくことが自動車部品産業としての重要なポイント」と織田氏は言う。
また、HV、プラグインハイブリッド(PHV)、EVといった次世代自動車の普及については、法規制の枠組みをしっかり作ることのほか、次世代自動車に対する購入意欲や、燃費・快適性の向上といった顧客の要求を満たすこと、EV開発への補助金や大口顧客に向けた購入プログラムといった政府のインセンティブを充実させること、バッテリーのエネルギー密度および信頼性とコストの革新といったテクノロジーをさらに進化させることといった、すべての条件が必要であるとした。
そうした中で、同社は充電器、インバーター、電動モーター、コントロールユニットといったパワートレーン・コンポーネントや充電インフラ、回生ブレーキシステム、自動車診断装置など次世代自動車の普及へ向けた製品群をフルラインアップしており、そのことから「すべての内燃技術を踏まえた自動車技術を我々は持っている。そして全世界に研究開発部門がある。こうしたネットワークを駆使して(次世代自動車の普及へ向けた)貢献をしていきたい」(織田氏)と述べた。
今年でボッシュは創業125周年を迎える |
■震災で学んだこと
プレスカンファレンスでは東日本大震災の影響についても紹介された。
同社は今回の震災で東松山工場、ボッシュレックスロス 土浦工場、栃木工場、横浜事務所など計8個所が被害を受けたものの、いずれも軽微なものだったと言う。
今回の震災では福島の原子力発電所による放射能汚染の危険性を鑑み、従来からあるものも含め、合計で70個のガイガーカウンターを用意し、従業員の安全確保のために19個所の事務所で1時間ごとに放射線量の計測を行ったほか、海外向けの製品のチェックを行い、風評被害を受けないような体制をとったと言う。
そのほか被災地支援活動として、従業員によるボランティア活動を行っていること、コンテナハウスを寄贈したことなどを紹介した。
プレスカンファレンスの最後に、織田氏は同社の創業者であるロバート・ボッシュ生誕150年であること、そしてボッシュ創業125周年であり、さらにボッシュが日本へ進出して100周年を迎えること、日独交流150周年であることなどについて紹介。今年は同社にとってめでたい年であったわけだが、震災の発生により記念式典をキャンセルし、その予算の大半を被災者支援活動の資金に回したと言う。
計8個所の向上が被災した | 危機管理体制について | 中央対策本部の組織図 |
震災から学んだこと | さまざまな被災者支援活動を行っている | 従業員はボランティア活動を実施している |
支援活動の一環としてコンテナハウスを寄贈した | ロバート・ボッシュ氏の精神 |
■機器やサービスのインターネット化
なお、当日は専務取締役 押澤秀和氏らによる同社のさまざまな技術について紹介する技術説明会も行われ、その中で押澤氏は「機器やサービスのインターネット化」についての具体的な説明を行った。
現在スマートフォンが浸透していることについて、「ラジオなどは一方的に情報を受け取るだけだが、インターネットやスマートフォンは(情報を発信したり受信したりできる)相互的に行うことができ、そこにさまざまなサービスが増えている」と分析。一例だが、アメリカでは新車を購入する人のうちおよそ半分がスマートフォンを所有していると言い、そのことから「“クルマと(スマートフォンが)つながらないの?”と疑問を思うのは当然。これが大きな課題」(押澤氏)と言う。
実際にはクルマに備え付けのディスプレイを共有する、あるいはスマートフォンの画面をクルマ側に転送するといったことは比較的簡単に行うことができると言い、「こうしたネットワークを実現することでOEM側の我々も自分たちのポータルサイトやアプリケーションストアを開設させることができ、そこからまた違ったサービスを売ることができ、クルマをサービス販売の媒体にできるメリットが生まれる」と説明する。
一方で、自動車は長い時間をかけて信頼性のある製品作りをするが、コンシューマーエレクトロニクスは短時間で開発して素早く販売するという、開発ポリシーの違いが自動車にこうしたサービスを展開するにあたってネックになると言い、「どうしたらミックスして販売できるかが課題」と押澤氏は説明する。
車内でインターネットをできる環境作りにおいて1つの鍵となるのは通信網で、押澤氏は「次世代携帯通信サービス『LTE(Long Term Evolution)』であれば高速通信が可能になり、クルマがネットワークの1部になって動くことができる。そうなると例えば事故が起きたことが全車両に伝わるし、あるいは事故ポイントを避けたルート取りや危険そのものを回避できるできるようになる」と、期待感を示す。
このように、インターネット環境を車内に構築することはさまざまなメリットを生むわけだが、ドライバー(または同乗者)は複雑化する表示情報や機能と格闘しなければならないデメリットも生まれる。そのためディスプレイも状況に柔軟に応じる必要があり、改善も併せて行わなければならない。現在ヘッドアップディスプレイや音声コントロールを含め、先進ディスプレイ技術に取り組んでいることを紹介した。
専務取締役 押澤秀和氏 | スマートフォンが急激に浸透している | カーナビを活用したサービス |
カーナビのエコルート機能は大幅な燃費向上の可能性をもつ | ディスプレイの改善も行っていく必要がある | ヘッドアップディスプレイや音声コントロールを含め、先進ディスプレイ技術に取り組んでいる |
(編集部:小林 隆)
2011年 7月 15日