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パナソニック、ニッケル水素電池で安価で長寿命なアイドリングストップシステム

高温充電効率を改善。回生エネルギーを効率よく回収し鉛蓄電池の寿命を延長

新型のニッケル水素充電池セル。サイズは単1形。1セルの電圧は1.2V、容量は6Ah
2013年2月14日開催

 パナソニックは2月14日、新型ニッケル水素電池(Ni-MH電池)に関する説明会を報道陣向けに行った。この新型ニッケル水素充電池に関する発表は2月8日に行っており、開発の背景や、今後の展開について詳細な説明が行われた。

 説明を行ったのは、パナソニックグループ エナジー社 三洋電機株式会社 エナジー社 車載電池ビジネスユニット アルカリ電池技術グループ グループマネージャーの川瀬龍二氏と、開発3チーム チームリーダーの越智誠氏の2名。川瀬氏は、この新型ニッケル水素充電池開発の背景に、今後大きな伸びが予測されるISS(アイドリングストップシステム)市場があるとし、そのために高機能な12Vエネルギー回生システムの開発を行ったと言う。

パナソニックグループ エナジー社 三洋電機株式会社 エナジー社 車載電池ビジネスユニット アルカリ電池技術グループ グループマネージャー 川瀬龍二氏
パナソニックグループ エナジー社 三洋電機株式会社 エナジー社 車載電池ビジネスユニット アルカリ電池技術グループ 開発3チーム チームリーダーの越智誠氏

 今回開発された12Vエネルギー回生システムの機能コンセプトは、「減速時の回生エネルギーをニッケル水素電池がもれなく蓄電」「蓄電した電気を電装品やアシストモーターへ供給し、燃費を改善」「鉛蓄電池の寿命を延長」の3つ。何らかの形でエネルギー回生を行うには、エネルギーを蓄えるデバイスが必要になるが、今回のシステムでは新型のニッケル水素電池を選択している。

 その理由として挙げたのは、すでにクルマに標準搭載されている鉛蓄電池とニッケル水素電池の電圧適合性が高いことと、エンジンルーム内に置かれることの多い鉛蓄電池のそばに置けること。たとえばキャパシターであれば、鉛蓄電池との電圧特性が異なるためにDC/DCコンバーターが必要になり、リチウムイオン電池であればそのエネルギー密度の高さからエンジンルーム内に置くことが非常に困難と言う。

 その点、今回開発したニッケル水素電池であれば、鉛蓄電池との電圧適合性が高く、高温充電効率も改善したことから、エンジンルーム内への設置も可能と言う。

エネルギー回生システム概況
12Vエネルギー回生システムの機能コンセプト
鉛電池とニッケル水素電池の電圧適合性
システム構成
システムの成立性確認

 新型ニッケル水素電池は、10直(10セルを直列)仕様で、電圧12V、容量6Ah。1セルのサイズは単1形で、システム全体でも2kg~3kgとのこと。

 具体的なシステム構築は、12Vの鉛蓄電池と新型ニッケル水素電池10直を並列に配置。エネルギー回生時(充電時)や放電時に積極的にニッケル水素を用いることで、鉛蓄電池のSoC(システム オン チャージ)変動を抑制。アイドリングストップシステムのSoC許容範囲5%に対し、0.5%の変動に抑えられると言う。SoC変動が減ることで、鉛蓄電池の寿命も長くなり、加速試験において約6倍に延びることが確認できている。

鉛電池の延命効果

 また、JC08モード走行では、ニッケル水素電池があることで供給電圧が12Vを上回り、オルタネータの動作を抑制できる。オルタネータ動作の負荷を抑制すことで、燃費の向上も期待できるものであるとした。

 すでに複数の自動車メーカーとの話し合いが始まっており、量産車への搭載は、2014年初頭とのこと。アイドリングストップシステム搭載は、日本市場、次いで欧州市場での要望が強く、それらの市場から投入されるだろうとの見通しを述べた。

システム構成図
JC08モードの電圧応答
JC08モードのSoC変化
セルの基本構造
高温充電効率
セルの耐久性能

 高温時の充電効率に関しては、従来品では60度を超えると大幅に落ちていたのに対し、電解液の中にある添加剤を入れることで解決。充放電を許容できる上限温度を60度から70度へと引き上げた。鉛蓄電池では75度での動作が目安となっており、最終的には鉛蓄電池と同じ75度を目指している。

 この添加剤により、ニッケル水素電池で負極として使っている水素吸蔵合金の酸化劣化も低減。「負極を攻撃する酸素(酸化)をできるだけ減らせば電池は長持ちになる」(川瀬氏)と言い、新型のニッケル水素電池では高温時の充電効率改善とともに充放電寿命が大幅に延びている。

 パナソニックのニッケル水素電池セルは、すでにハイブリッド車に用いられているが、新型ニッケル水素電池のハイブリッド車利用については「セルの量産は今年の秋ごろ。その後アイドリングストップシステム用に出荷し、ハイブリッド車用はその後」(川瀬氏)と言う。

 アイドリングストップシステム搭載車では、これまでと異なる充放電特性の鉛蓄電池を要求されることから、鉛蓄電池の大容量化・高機能化が進んでいる。これは鉛蓄電池のコスト増につながっており、新型ニッケル水素電池を導入することで、より安価な鉛蓄電池でも優れたアイドリングストップシステムを構築できるだろうとのことだ。

 日産自動車「セレナ」では、鉛蓄電池を2つ用いた、オルタネータによるハイブリッドシステムを構築している。また、スズキ「ワゴンR」ではリチウムイオン電池を用いた減速エネルギー回生システム「エネチャージ」を、マツダ「アテンザ」ではキャパシターを用いた減速エネルギー回生システム「i-ELOOP(アイ・イーループ)」を搭載している。

 今回、パナソニックが発表した新型ニッケル水素電池を用いる方式は、鉛蓄電池を2つ用いるシステムと比較した場合、コンパクトなシステムを作り上げることができ、リチウムイオン電池との比較では、搭載の自由度が高くコントローラーも簡素化できる。キャパシターと比較した場合は、サイズ面のメリットは見いだせるが、充放電速度の点で劣るのではないかという疑問がある。それについては、「一般的にはキャパシターのほうがセルとして充放電が高速だが、(われわれは)ニッケル水素電池によるハイブリッド車などの経験があり、システム全体の速度としては特に劣るものではないと考えている」(越智氏)とのことだ。

 また、鉛蓄電池を用いずにニッケル水素電池だけでシステムを構成すればよいのではという質問が出たが、それについて「低温時のエンジン始動、停止時の暗電流(スタンバイ電流)などの問題から、鉛蓄電池は必要」と答えた。

 日本市場では、アイドリングストップシステム搭載車、減速エネルギー回生機構搭載車の人気は高く、来年には何らかの形でニッケル水素電池システムを搭載した量産車を見ることができるだろう。

(編集部:谷川 潔)