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日産、知的資産活用ビジネスに関する説明会を実施

自動車を造るノウハウが野菜や水産加工品の生産効率を上げる

グローバル企業の日産ならではの手法をコンサルティングビジネスで他社に提供
2013年8月7日開催

 日産自動車は8月7日、同社が行っている知的資産活用ビジネスの内容を紹介する説明会を実施した。

日産自動車 IPプロモーション部の野口恭平部長

 説明会では、まず日産自動車 IPプロモーション部の野口恭平部長から同社における知的資産活用ビジネスのアウトライン、3部門に分けて進められているビジネスのうち商品化権ビジネスと技術ライセンスビジネスについて解説された。

 企業が持つ知的資産で、一般的に目にしたり触れる機会が多いのがこの2種類。日産では商品化権ビジネスを積極的に運用しており、玩具メーカー、ゲームメーカーなどにライセンスを提供。日産車を扱うミニカーやゲームソフトなどが消費者の目に触れる機会が多くなることで日産のブランドイメージが高まることに加え、メーカー側も日産からベースとなる車両データが提供されることで高品質な製品開発が可能になる。これを手に入れるエンドユーザーも商品の選択肢が増え、魅力ある製品が手に入る3者間のWin-Win体制が構築されると説明。また、技術ライセンスビジネスでは自動車のボディー塗装に使われ細かな傷を時間の経過で復元する「スクラッチシールド」、上級車の内装材に採用して柔らかく心地よい触感を生み出す「SOFILEZ(ソフィレス)」などを自動車業界以外の電機メーカーや家具メーカーなどに提供している事例などが紹介された。

関連する3者にそれぞれメリットが生まれるスタイルをライセンスビジネスでは目指しているという
知的資産活用を3部門に分け、それぞれに管理職とスタッフを配置。人員的には少数精鋭というスタイルで、ビジネス規模は拡大していると説明
缶コーヒーのおまけとして販売されている「ベタ付け景品」と呼ばれるミニカーなども、商品化権ビジネスの確立で積極的に展開されるようになった
かつては「高級家具を車内に取り込んだような」と表現される高級車もあったが、現代では自動車メーカーが手がけた技術が高級家具に利用される時代になっている
日産自動車 IPプロモーション部 日産コンサルティングの大橋正憲課長

 その後、日産自動車 IPプロモーション部 日産コンサルティングの大橋正憲課長にバトンタッチして解説されたのが、今回の説明会のメインとなるコンサルティングビジネスについて。

 自動車業界はグローバル化が進み、競争の激化によって多くのメーカーがコスト低減や生産効率の改善などの課題に必死で取り組んでいる。また、日産はルノーとのアライアンス締結によってV字回復を果たしたが、大企業である2社が協力体制を確立するまでに、企業文化や製品開発の手法などの違いをすり合わせるために多大な労力が投入されたことは想像に難くない。そんな日産が持つ独自のノウハウについて、過去にも渉外対策の一環として他社に提供する活動は行われていたが、より積極的に、目的意識と責任感を持って取り組むためには本格的な事業化が必要であるとの判断によってコンサルティングビジネスが立ち上げられた。

 大橋課長は日産におけるコンサルティングビジネスには「V-up」「NPW(Nissan Production Way)」の2種類があると説明。まず、今年上期からスタートしたばかりのV-upについて解説した。

 スタートして間もないV-upだけに、まだ提供の主体は日産グループ内の販売会社などだが、経営計画達成に向けて日産グローバルで導入されているV-upは、企業内の部署間を横断するような問題の解決、日常的な課題解消を目的に体系化、標準化されたツールで、社内実績ながら課題解決件数が3万件以上、効果金額は3500億円としている。

日産の企業活動で構築されたノウハウを、「V-up」「NPW」という2つのパッケージによって他社にも提供。コンサルティングのキーワードとして、異なった意見や考えかたを受け入れる多様性に加え、日産がこだわっている「結果を出す」という要素を取り入れている
グローバル企業の日産だからこそ、海外の生産現場などでも通用する体系化や標準化は基本要素。これが汎用性の高さにもつながり、他社にも提供できるツールとなっている
V-upプログラムの概要
V-upで問題を解決する一連の流れ。2分割された「課題解決プロセス」は、デサイドは毛色の違った他部門に渡る問題を長期的に解決するプロセス、ヴィファーストは元から交流の多い部署で短期的に問題解消を図るプロセスとなる

 また、V-upの事例として販売会社で導入したケースを紹介。販売会社で休日に比べて平日の販売台数が伸び悩んでいる問題を解消するためにV-upが利用され、現状分析の結果、平日は来店者が着座するプロセスで大きな差が出ていると判明。この要因として販売スタッフの人員が不足していること、店舗における初期対応業務が明確化されていないことなどが挙げられ、この2点を改善したことで受注率が10~15%向上。さらに車両の値引き以外にも店頭対応のブラッシュアップでライバルとの競合に勝てるシーンがあることも分かり、データの重要性が販売店のスタッフにも浸透して現場レベルでの定量的データ収集が習慣化するなどの効果が出ているという。

販売店における活動内容を、自動車の生産プロセスのように置き換えて分析。この結果、平日は既存ユーザーのアフターケアなどで店頭のスタッフが足りなくなり、せっかくの来場者を逃してしまっていると判明した
洗い出された問題点に改善策を立て、受注率の向上など大きな成果が出ている

 もう1つのNPWは、これまでに製造業などのクライアントを中心に150社ほどから依頼を受けてコンサルティングビジネスを実施してきたが、今回の説明会では成功事例の1つとして「トマト農家における農作業の効率化」が紹介された。かなり驚かされる内容ではあるが、日産のコンサルティングビジネスではクライアントとのコミュニケーションを重視し、共同で内容をカスタマイズする体制となっていることがアピールされている。また、コンサルティングビジネスを通じて他社の取り組みや企業風土に触れることで、自分たちも得るものが大きいと説明。特に同じ製造業でも完全受注生産スタイルの企業から依頼を受けたときは、さまざまな面で刺激を受けることになったと話した。

体系化、標準化された「モノづくり理論」を活用しながら、クライアントに合わせてカスタマイズする柔軟性を持つ
社内で「4つの箱」と呼ばれる改善メソッド。この考えかたを基本に企業の生産性や収益性を追求する
日産では生産を「移動と加工の繰り返し」と定義。他業種の場合でもこの定義をカスタマイズしながら当てはめていく
従来型の改善方法は工程ごとに改善を細切れにしていたが、現状ではシステム全体を視野に入れて「利益を出すためにはなにが最適なのか」をテーマに改善を行っている
日産のコンサルティングビジネスの相手がトマト農家、というサプライズ。とはいえ、従業員数15人の農業生産法人での事例となる。近年注目されている規模が大きい農業形態だが、人数が多いだけにベテランと新人の間で生産性に差があることが改善点となった
説明会では効率化作業の中で「枝芽かき作業」を取り上げて紹介。現状把握でベテランと新人の作業時間に差が大きいことがボトルネックになっているとデータ化
ベテランの作業内容を仕様書にまとめて標準化。写真なども使って分かりやすく構成している。これによって新人の作業時間が短縮され、最終的には生産性が約15%向上している

 このほかに、現在も取り組んでいる途上で明確な結果は出ていないものの、東日本大震災の復興支援の一環として宮城県石巻市にある水産加工会社で進む「シャケの3枚おろし原価改善」も一例として取り上げている。この場合、再生支援機構の支援によってスタートした再建計画のなかで、銀行から融資条件として利益率の改善が提示されており、この実現に向けて無償サポートを行っているという。工業製品以外の分野では、紹介された農業、水産業以外にも、役所の効率化、病院における待ち時間の短縮などに活用されているとのこと。

石巻で進行中のコンサルティングビジネス。テーマは「シャケの3枚おろし原価改善」。加工作業を実際に調査し、労務費を33%低減する可能性を報告している
5年後の具体的な目標を設定し、「ありたい水産加工の仕組み」を提言。ライン作りにたいしても明確な数値目標を設定している部分は自動車メーカーならではといったところだろう

 コンサルティングなどの知的資産活用ビジネスは、日産自動車全体の利益でみればそれほど大きなポジションではないものの、社会貢献の面でもこれからさらに拡大していきたいと大橋課長は説明する。とくに今後は農業分野での利用増加を予想しており、異業種にも積極的に対応したいとコメントしている。

(編集部:佐久間 秀)