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ヤマハ、新型「PAS」2014年モデルの一気乗り体験試乗会

2014年モデルから全車種に“トリプルセンサー制御”搭載

ヤマハ発動機が「PAS」2014年モデルの説明会と試乗会を開催
2014年2月19日開催

 ヤマハ発動機は2月19日、同社の電動アシスト自転車「PAS」シリーズの2014年モデルに関する説明会と、それらすべてを実際に体験できる試乗会を開催した。新しいモデルでは既存ユーザーの意見をもとに、パワフル感のアップと充電時間の短縮、ライトの自動点灯機能の追加といった改善が盛り込まれ、幅広い層に受け入れられる製品を目指した。PASシリーズは業務用まで含めると全22車種をラインアップ。一部車種を除いてすでに発売中で、価格は9万3450円から。

「PAS Kiss mini XL」
「PAS Kiss mini」
「PAS Kiss」
「PAS Babby」
「PAS Raffini L」
「PAS CITY-S5」
「PAS CITY-L5」
「PAS Ami」
「PAS ナチュラL デラックス」
「PAS ナチュラL」
「PAS ナチュラS」

中期計画の販売目標を2年前倒しで達成

ヤマハ発動機 事業開発本部 森本実氏

 電動アシスト自転車は、電動モーターが一定速度までのペダルの踏み込みを補助する形で動作し、ペダル踏力を軽減する仕組みを備えた自転車のこと。日本国内では2008年に行われた法改正で以前より補助の比率が大きくなり、10km/hまでは人力1に対して2の補助動力がかけられるようになった。

 ヤマハ「PAS」は1993年に初めて発売され、一般向け電動アシスト自転車の先駆けと言える存在だ。日本国内でPASシリーズとして製品展開しているだけでなく、その心臓部である「ドライブユニット」をワールドワイドに出荷している実績もある。

 説明会では、ヤマハ発動機 事業開発本部の森本実氏が、世界的な需要の高まりにより出荷台数が大きく増加していること、今後の見通しも明るいことなどを報告した。具体的には、2013年のPASの出荷台数が前年比126%の13万1000台となり、ほかの自転車メーカーへのOEMや海外メーカーに対するドライブユニットの出荷台数は同122%の23万2000台を達成している。

 また、ドライブユニットとしての国内の累計総出荷台数はおよそ250万台。これは、同社が想定している国内の電動アシスト自転車市場における総需要累計490万台の半数を占める計算になる。また、当初2015年までの達成を目指していた中期計画の目標にあっさり到達したことから、2015年のシェア目標を55%以上に引き上げた。

 この好調の影には、電動アシスト自転車のパイオニアとして、新技術の開発や、子供を乗せる自転車として基準となる商品作りができたこと、若年層に人気のあるタレントを起用するなど地道な需要開拓活動を続けてきたことがあると森本氏は解説。

 2014年の目標については、PASの出荷台数を2013年比110%の14万4000台に設定。さらに、すでに契約している3社に加えて新たな供給先が1社見つかったことなどから、ドライブユニットの出荷台数を同121%の28万1000台とした。今後はシニア層や趣味用途の需要拡大も目指し、「家族全員が使えるモデルに加え、新しいコンセプトを提案して、全包囲網でPASをみなさんにお届けできたら、と考えている」と力強く語った。

2013年のPASの出荷台数は13万1000台。ドライブユニットも23万2000台に上った
国内シェアは当初目標を前倒しで達成。2015年の目標を引き上げた
新たな供給先が加わり、海外へのドライブユニットの出荷台数も増える見込み
2014年目標はPASの出荷台数を14万4000台に設定した

2014年モデルはユーザーの要望をもとに機能改善

ヤマハ発動機 SPV事業部 マーケティング部 鹿嶋泰広氏

 2014年の新しいPASシリーズのポイントについては、ヤマハ発動機 SPV事業部 マーケティング部の鹿嶋泰広氏が解説した。

 鹿嶋氏いわく、「快適+さらに便利へ」が2014年モデルのテーマ。従来の2013年モデルでは、一部の車種にトルクセンサー、スピードセンサーにクランク回転センサーを加えた“トリプルセンサー制御”を搭載していたが、2014年モデルからは全車種に拡大。両足の交互の踏み込みの間に生まれる電動アシストの“谷”を、クランク回転センサーで検知してパワー不足感を補う。

 さらに、従来車種のユーザーから要望の多かった点もカバーした。1つはバッテリーの急速充電を可能にしたこと。今まで、よりパワフルに、長距離走行できるようにとバッテリー容量がアップし続けてきたものの、それに比例して充電にかかる時間も長くなる結果を招いていた。2014年モデルではこの不満を解消するため、全車種に急速充電器を付属。5.0Ah容量のモデルでは、従来は満充電まで2.5時間かかったところを1.5時間に、12.8Ah容量では6.5時間かかったところを3.5時間にと大幅に短縮した。

 2つめは、暗くなるとライトが自動点灯する“オートライト”機能。残り走行可能距離を表示したり、電動アシストのオン・オフを切り替えたりするスイッチボックスに照度センサーを搭載し、周囲の明るさを判断して暗くなったときにライトが自動的に点灯する。

2014年モデルのポイントは3つ
トリプルセンサーにより両足での踏み込みの間に生まれるアシストの“谷”を補う
急速充電器により、充電時間を大幅に短縮
スイッチボックスに搭載したセンサーで、暗くなったことを感知してライトが自動点灯

 こうした機能を盛り込んだ数ある新しいモデルのなかでも、鹿嶋氏が特別に取り上げたのが、車体前後に幼児を乗せて走行できる3人乗り対応自転車の「PAS Babby」。2014年モデルで幼児2人同乗基準に適合させた。ギア比を調整したことにより、20インチという小径車でありながら、ペダル1回転で進む距離を26インチ車並みにしたという。

 また、通勤・通学に向いた27インチ車の「PAS CITY-L5/S5」も取り上げた。もっと速度を出しやすいギヤが欲しいとの要望を受けて開発されたモデルで、内装5段変速としたことで最適なギヤを選びやすく、長距離走行も楽に行えるという。また「PAS ナチュラS/L」は9万3450円からという安価な価格設定ながら、バッテリー容量は5.0Ah以上と基本性能の高い車種であると強調した。

PASに乗ると歩行者に優しくなる

ヤマハ発動機販売 PAS営業部 田部圭史郎氏

 最後に登壇したヤマハ発動機販売 PAS営業部の田部圭史郎氏は、PASの販売キャンペーンについて説明した。PASの登場から21年が経過し、幼少期に電動アシスト自転車に触れた子供が今や学生になっていることから、潜在的にPASを知っている層は確実に拡大していると指摘。PASユーザーの8割が初めて電動アシスト自転車を買う人であるというデータも引き合いに出し、接点の拡大や体感による興味喚起、特典による購入促進などを通じて「電動自転車そのものの楽しさ、すばらしさを分かりやすく伝えたい」と語った。

21年の歴史から、PASのユーザー層は拡大している
3世代家族をモデルとして、幅広い層にマッチする製品であることをキャンペーンを通じて伝える
ターゲットの人物像として、主婦、イクメン、女子高生などを想定。それぞれがPASに乗った感想を話した

 現在行っているキャンペーンは全部で4種類。PASに関する川柳を募集して大賞受賞者1名にPASをプレゼントする「ヤマハPAS 川柳キャンペーン」、販売店で試乗した先着1000名に楽天スーパーポイントを贈る「PAS 試乗で納得!キャンペーン」、幼児2人同乗基準適合モデルの購入者全員に子供用ヘルメットをプレゼントする「子供用ヘルメットプレゼントキャンペーン!」、Webからエントリーして対象車種を購入した10代のユーザーに、図書カード2000円分を先着1000名に贈る「図書カードプレゼントキャンペーン」の4種類となっている。

 同氏は、販売現場やユーザーからのフィードバックとして、「再発進が非常に楽で一時停止が苦にならなくなったため、(道路を横断する)歩行者に優しくなった」という感想を紹介。自転車のマナーアップにも貢献する製品であるとアピールした。

説明会場前に展示されたPASシリーズ
東京モーターショーに参考出品されたロードタイプの電動アシスト自転車「YJP-01」
小型のユニットが取り付けられている
欧州向けに出荷しているドライブユニットのスケルトンモデル。出力は250Wで、PASシリーズの240Wよりわずかに高い
トリプルセンサー付きドライブユニットのカットモデルも展示された

試乗会で圧倒的な踏み込みの軽さを体感

地下駐車場を会場に行われた試乗会の様子

 説明会終了後、PASシリーズの「一気乗り試乗会」が会場の地下駐車場内で行われた。コースの大部分はコンクリート敷きの平坦路だが、上階に続くスロープを坂道に見立て、電動アシストによる登坂能力が確認できた。

 時間の都合から、筆者が試乗できたのは5車種。最もアシスト能力の高い「PAS ナチュラXL スーパー(13万5000円)」と、20インチの子乗せモデル「PAS Kiss mini(13万6500円)」のフロントチャイルドシート搭載モデルとフロント・リアチャイルドシート搭載モデル、スポーツタイプの「PAS Brace XL(15万8000円)」、そして業務用の「PAS GEAR CARGO(オープンプライス)」だ。

 PAS ナチュラXL スーパーは一般的な街乗り軽快車のスタイルで、子乗せモデルと比較すると比較的軽量。それでいてアシストが最もパワフルであり、いわば“最強のママチャリ”と言えるかもしれない。こぎ出しが驚くほど軽いのは他車種と同じだが、坂道では3段階あるうちの“標準”アシストレベルであっても、脚の自重をペダルに乗せるだけで勝手に進んでいくような感覚が味わえた。内装3段変速で、平坦路では最も重いギヤを選択した状態でも力を込めることなくスムーズに加速してくれる。

軽々と坂道を走る子乗せモデル

 子乗せモデルのPAS Kiss miniも、33kg超の車重をまったく意識することなく加速できる。前後にチャイルドシートを備えた試乗車には、8kgのダミー人形2体を前後に乗せた状態で走行できるようになっており、車両と合わせると50kgほどの重さになるにもかかわらず、坂道発進も余裕だった。なお、8kgという重さは自転車に乗せられる年齢の幼児の体重としては軽すぎるが、重心位置などを考慮すると実際には平均的な幼児と同等の重量感になるとのこと。

 これら子乗せモデルについては、全体の重量が大きくなることから、制動力を強化するなどブレーキの効きにもこだわっている。フロントはサイドプル型の「スマートコントロールブレーキ」で、コントロール性を重視した設計になっており、唐突に制動力が立ち上がることはない。ブレーキレバーを握り込む量に応じて滑らかにスピードが落ちていく感じだ。リアはローラーブレーキで、かなり強く握ってもロックするようなことはなく、確実に減速できる。

装備充実のクロスバイク風モデル「PAS Brace XL」

 スポーツタイプのPAS Brace XLは、フロントにサスペンションとディスクブレーキを備えたクロスバイク風のモデル。サスペンションが柔らかくショックを受け止めるため、フルブレーキしても軽くフロントが沈むだけでタイヤがロックしにくく、ディスクブレーキということもあってしっかり止まってくれる。一般的なスポーツタイプの自転車のような軽さはさすがに望めないが、変速時のショックが少ない内装8段変速で、坂道途中での変速なども楽なうえに、スピードを出しやすいなど自由度が高い。アシストレベルやバッテリー残量、速度、消費カロリーまで表示可能な液晶ディスプレイも面白い要素だ。

 最後に試乗したのは、主に配送業務向けのPAS GEAR CARGO。クルマでは入り込めないような狭い場所でも、楽に通り抜けながら大きな荷物を運べる3輪自転車だ。前側が3輪の電動アシスト自転車になっていて、フロントバスケットに3kg、リアキャリアに20kgまでの荷物を搭載できる。さらに自転車後方には巨大なリヤカーが連結され、こちらには最大で100kgまでの荷物が載せられる。つまり、これ1台で123kgまで荷物を運ぶことが可能だ。

 バッテリーは8.7Ah容量で、内装3段変速。通常モデルより電動アシストのトルクをアップさせており、大きな荷物を載せていても楽に発進できる。実際に試乗したところでも、計60kgほどのバラストやボックスを乗せた状態で軽々と走行できた。逆にアシストをオフにしてみると、体重を預けるようにこがないと前に進まない。坂道発進は試せなかったが、おそらくほぼ不可能だろう。

配送業務に活躍する「PAS GEAR CARGO」
リアに巨大なボックスを積載できる
リアカーは簡単に着脱可能
リアカーには安全のため2個のリフレクターが標準装備。後輪のフェンダーにあるリフレクターは点滅する
試乗時は全体で137kgほどの重量。それでも軽々と走る

 リアカーも含めると車重が77kg、最大積載量の123kgまで積むと合計200kgと大型オートバイ並みの車重になることから、安全に駐車可能なパーキングレバーを装備。前後ブレーキの大幅な強化も図られており、フロントはブースター付きのVブレーキ、リアの2輪はローラーブレーキながら大きな放熱フィンが設けられ、効率的に熱を逃がして制動力が損なわないような工夫が施されている。

フロントはVブレーキで、ブースターを備える
巨大な放熱フィンが目立つリアブレーキ

 操縦方法は普通の自転車と異なるやや独特の雰囲気。ハンドルを切って曲がるのは同じだが、バイクでいうリーンアウトのような感覚で身体を傾けることで、よりスムーズに、急角度で曲がることができる。慣れないとバランスを崩して蛇行してしまったり、そもそも車幅が通常の自転車より広いため、障害物にリアタイヤなどをぶつけてしまいがち。試乗会でもコースを区切るために設けられたパイロンにぶつかる“事故”が多発していたが、このあたりは慣れの問題だろう。

 同社によれば、PAS GEAR CARGOはヤマト運輸と3年間に渡って共同開発してきたモデルとのこと。2013年12月には50台のPAS GEAR CARGOをヤマト運輸に納入し、都市部を中心に全国に配備が進んでいる。ほかの運送会社においても導入が決定しており、前日の2月18日にひとまず1台を納入したという。価格はオープンプライスで、想定価格は40万円前後としている。

(日沼諭史)