【インプレッション・リポート】
日産「ジューク」

Text by 日下部保雄


 昨年の東京モーターショー。海外メーカーがほとんど参加せず、また日本メーカーも何か自信をなくしたようで例年よりも静かなショーになる予感だった。

 こんな状況を少しでも盛り上げようと日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)では一般来場者を対象に「ジャーナリストと回るプレスツアー」と言う試みを行った。約10名を1グループとして自動車メーカー、部品メーカーのブースを回り、解説をする約2時間のツアーだった。

 肝心のブースは寂しいと言ってもやはり日本メーカーならではの面白いものがたくさん展示されていた。

 日産自動車ブースでの注目はEV(電気自動車)の「リーフ」や「フーガ ハイブリッド」。その片隅に置かれていたのが「ジューク」のプロトタイプで、プレスの間でもあまり注目されていなかった。

 あまりにデザインスケッチから飛び出したそのままのようなスタイルをしていたし、これまで見たこともないカテゴリーのクルマだったから、何だか分からなかったというのが本音だ。ツアーの参加者に「近い将来、このままのスタイルで販売されるようですよ」とお話したところ「うそ~!」と言う正直な反応が返ってきたことからも分かるように意外性のクルマだった。

昨年の東京モーターショーで展示されたジュークのプロトタイプ「QAZANA(カザーナ)」。ショーカーだけあり、観音開きのドアを備えていたものの、ジュークは同様のデザインコンセプトで発売されたのが分かる

コンセプトはSUVとスポーツクーペの結合
 東京モーターショーから半年以上が経過して、ジュークは実際の発売に至ったが、ターゲット層を絞り込むことで、逆に当初の目標台数を大きく上回る販売を記録している。

 ジュークのコンセプトはSUVとスポーツクーペの結合。今、流行の兆しを見せているクロスオーバー車の中でも、特にクーペに寄ったモデルで、ジュークだけの価値感を持っている。開発は2006年から始まり、軸足を欧州に置くグローバル展開モデルで、デュアリスとともに日産のコンパクトクロスオーバーの新たな橋頭堡を築く使命も持っている。

 そのジュークは見たとおりどこにもないデザインで、独自性を持ち、決してニッチに走り過ぎない微妙なバランス感覚を持っているのが面白い。日産はキューブといい、なかなか味なことをやる。

 エンジンは直列4気筒 DOHC 1.5リッター のHR15DE型で、燃料噴射装置にツインインジェクターを量産エンジンとしては初めて採用。それに吸排可変バルブタイミングも採り入れることで、さらに燃費効率を上げ、最高出力84kW(114PS)/6000rpm、最大トルク150Nm(15.3kgm)/4000rpmを発生し、トランスミッションもジャトコ製の副変速機付きエクストロニックCVTでフリクションロスを30%も減らしたもの。そのあわせ技で10・15モードで19km/Lの低燃費を実現している。こちらも日産なかなか頑張っているのである。

 車体はティーダなどに使われているBプラットフォームを基本としているが、ジューク用にはフロントに井桁フレームを使うことでよりダイレクトな操舵フィールを大切にしている。

ジュークの特徴は独自性あふれるデザイン。そのバランス感覚も絶妙だリアまわりにはフェアレディZと同様のデザインモチーフを採り入れている
直列4気筒 DOHC 1.5リッターのHR15DE型エンジントランスミッションは副変速機付きのエクストロニックCVT。車名と同様19km/Lの低燃費を実現する。日産によると“たまたま”とのこと

横浜周辺でジュークを試乗
 では横浜周辺だがジュークの上位グレード15RXを走らせて見よう。試乗車はメーカーオプションの215/55 R17を履いていたが、標準は205/60 R16なので一回り大きなサイズだ。

 乗降性の点ではクロスオーバー的でやや乗り込み感があるが、それほど違和感はなく日常使用に問題があることはないだろう。後席に関しては割り切りで前後のドア幅が狭いので、必然的に開口部が狭く、ギリギリOKといったところだ。ただドアの開閉角度は大きい。ついでに後席で言えばルーフが絞り込まれているので、斜め上方のヘッドクリアランスに余裕はなく、シートの前後長も少なめだ。


試乗車はメーカーオプションの17インチホールと215/55 R17のタイヤを履いていた。タイヤは横浜ゴムのDNA dB E70N
ジュークのフロントドアスタイルを優先するジュークのリアドアオープーナーはリアガラス後方に設置リアドア

 ドライバーズシートに座ると、ちょっとアグレッシブなインテリジェントコントロールディスプレイに目が行く。オートバイのタンクをモチーフとしたセンターコンソールにiPodなどを置けるのも、電子デバイスに熱心な日産らしい配慮だ。

 インテリジェントコントロールディスプレイのセンタースイッチでD-MODEかAIR CONを選択すると、周辺スイッチを含めて表示が変わり、1画面で2画面分のインフォメーションを出すことができる優れものだ。これもジュークだけのパネルで、今後ますます情報が多くなるインフォメーションでは活用されるようになるだろう。

 一度、エアコンを設定してしまえば後はD-MODEのスイッチを押して表示を切り替え、NORMAL、SPORT、ECOのドライブモードを確認しながら走ることにする。

ジュークでは、ドライバーズシートから見る風景も独特のものがある
センターコンソール部にあるインテリジェントコントロールディスプレイ。写真はNORMALモード。エンジン、CVT、エアコンがノーマルにセットされる
SPORTモード。エンジンとCVTがスポーツにセットされる。NORMALではTORQUEゲージだったが、SPORTではPOWERゲージとなる
ECOモード。エンジンとCVTに加え、エアコンもエコモードに
AIR CONボタンを押すとエアコンの情報表示に。ディスプレイ左右にあるボタンの表示も切り替わる
ドライブインフォメーションや、燃費履歴グラフも表示できる
インテリジェントコントロールディスプレイ下部にはiPodやiPhoneが置ける場所を用意。すぐ脇にシガーソケットや、USBコネクターが設置され、滑り止め加工をすることで携帯機器を便利に使えるよう配慮されている

 視界はラウンドタイプのフロントウィンドーで、比較的よいようだが、交差点では最近のクルマの例に漏れずAピラーが太いので右側の視界が遮られる。大きなドアミラーの支点も死角になるので、ジュークに限らずもう少し見やすくならないだろうか。

 後方視界は外観からも分かるように開放的ではないが、大きなドアミラーもあって意外と悪くない。

 動力性能は1.5リッターとは思えないほど。重量1170㎏と比較的軽量であることもあって結構軽快に走る。エンジンの中速トルクの盛り上がりが素直なのが好印象だ。スポーツクロスオーバーらしいエンジンパフォーマンスで、私にはこれで十分と感じた。

 D-MODEは、通常はノーマルかECOモードを選んでおけば間違いはない。燃費を気にするユーザーならECOモードでも街中なら問題ないだろう。D-MODEはエンジンとCVTの制御を行うもので、スポーツにするとギヤ比を低く保ち、アクセル開度に対するゲインが高くなる。つまりレスポンスが向上するわけだ。ワインディングロードだけでなく、ちょっと俊敏な走りを要求される時にはスポーツモードを使うと気持ちよく走れる。

 ECOモードは高いギヤで引っ張り、アクセルに対するゲインも反応を鈍くして出力を抑えている。ただしアクセルの開度が大きくなると出力特性は変わらなくなる。ノーマルはECOとスポーツの中間で日常的には適当にスポーティと言うファジーな感じが好ましく、使いやすい。

 ちなみに100km/hクルージングにおける各モードごとのエンジン回転は、ECO 1600rpm、ノーマル 1750rpm、スポーツ 2100rpmといった具合でギヤ比の違いで回転数も異なる。当然クルージング燃費も異なってくる。各モードのモニターはセンターコンソール上にあるので瞬時の判断はしにくいが、重要なインフォメーションではないので、ここに置かれているということか。ちょっとしたゲーム感覚である。

走行時のインジケーター。セグメント数はそれぞれ5つなので、大ざっぱににイメージを掴む程度と言えるだろう。センターコンソール下にあるので、走行中の判断は難しい位置となっている

 ベースとなっているBプラットフォームのハンドル応答性はすっきりとしたところがあり、あまり好みではなかったが、ジュークのハンドル応答性はキリッとしており、フロントサスメンバーのマウント方法の違いが活きている。応答性は結構シャープでスポーツセダンのようだ。ここにはSUVの面影はない。

 サスペンションはよく固められており、コーナーでのロールは小さく、高速で回り込んでいるコーナーでもライントレース性は優れており、オンザレール感覚もスポーツセダンのそれだ。ロールセンターが高いのとタイヤのキャパシティが大きいためにロールが小さく、かつグリップが高いので、ジュークの不思議な感覚を形作っている。しかもアイポイントが高いのでこの点ではSUV的だ。

 ハンドルの保舵感は100km/hぐらいからややボンヤリしてくるが、EPS(Electric Power Steering)のチューニングも含めてもう少し、改善幅があるように思う。

 乗心地ではダンパーが締め上げられているので、決してソフトなアタリではなく突上げ感は小さいほうではない。それでも決して不快に感じないのは、ダンパーの伸び側と圧側の比率バランスがよいからだろう。気持ちよくキビキビとした乗心地だ。ただしコーナリング中にギャップなどに遭遇すると、オプションの215/55タイヤのバネ下の重さもあってリアサスペンションが踏ん張りきれずに一瞬接地を失いやすい。こちらも標準の205/60タイヤのほうがバランスよいだろう。

 風切り音はドアミラーあたりから出ており聞こえやすいが、ロードノイズの発生はよく抑えられている。このクラスとしての静粛性は十分妥当だろう。

 トランクはゴルフバッグが1個入る程度の広さしかないが、後席を倒せば当然積めるし、サーフボードも大丈夫だ。さらにトランク・イン・トランクの大きな収納スペースがあって、ここにも結構手回り品を入れられる。

 現在は1.5リッターの自然吸気2WD(FF)だけだが、秋にはハイパワーターボと4WDの組み合わせが登場する。ジュークは発売1カ月にも満たないのに1万台以上の受注があった。販売目標1300台/月なのでヒット商品になろうとしている。勢いのある日産らしさを感じさせる。

 残念なのはオプションでもVDC(横滑り防止装置)が装備できないことだ。同じプラットフォームを使用するキューブは選べるのに、スポーティグレードにあたるジュークで選択できないのは疑問に感じる部分であった。

2010年 7月 9日