【インプレッション・リポート】
ランボルギーニ「アヴェンタドール」

Text by 岡本幸一郎



強烈なインパクトを身に着けたアヴェンタドール
 ランボルギーニの最新フラッグシップとなった「アヴェンタドール」を、いよいよドライブするときが訪れた。伝統に則して雄牛の名前から譲り受けたというその車名も、独特の響きを持っていて印象に残る。ステージは千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイ。まずは、こうして貴重な機会を与えてくれたランボルギーニ・ジャパンに心より感謝したい。

 スーパーカーメーカーとしての実績でいうと、やはりフェラーリの右に出る者はいないだろうが、その対抗としてランボルギーニのような存在があるから面白いのだと思う。むしろ、かつて日本にスーパーカーブームが訪れたときの主役といえば、フェラーリ「BB」よりも「カウンタック」だったことに異論を挟む余地はないはずだ。

 巨大なV12ユニットをミッドシップレイアウトしたクルマというのは、すでにフェラーリの量産モデルではラインアップから消滅して久しいが、アヴェンタドールはカウンタック直系の末裔らしく、縦置きしたエンジンの前方にトランスミッションを搭載するという、独自の手法を踏襲している。おそらく将来的にもランボルギーニはそれをやめることはないだろう。リアカウルの透明なカバーの奥に、件のV12ユニットが誇らしげにその姿を覗かせている。

 低くワイドなウェッジシェイプのボディーは、カウンタック以来のランボルギーニ製スーパースポーツのアイデンティティだが、前身の「ムルシエラゴ」がややあっさりとした印象だったのに対し、全長が20cmも大きくなり、鋭角的なモチーフを多用するなどしたアヴェンタドールは、より強烈なインパクトを身に着けたように感じさせる。

エンジンフード、可変リアスポイラーはカーボンファイバー製、フロントボンネット、前後フェンダー、ドアはアルミ製。乾燥重量は1575kg。ボディーサイズは4780×2030×1136mm(全長×全幅×全高)、前後重量配分は43:57となっている

カーボンファイバーを適材適所に配した車体
 とかく破天荒なイメージの強いランボルギーニだが、内容的にはアウディという強力な後ろ盾を得たこともあり、むしろ近年では非常に先進的なクルマづくりを行っている印象がある。

 そしてアヴェンタドールも、カーボンファイバー製モノコックや、レーシングカーのごときプッシュロッド・サスペンション、そして700PSを発生しながらもムルシエラゴに比べて20%ものCO2排出量を削減した、新開発のV型12気筒DOHC 6.5リッターなど、いくつかの技術的な特徴を持っている。

 とくにカーボンファイバー技術について、ランボルギーニはボーイングやワシントン大学と提携を結ぶことで、業界屈指のハイレベルな技術を有する。特許を取得した「RTMランボ」と呼ばれる独自の技術をはじめ、プリプレグ、ブレーディングなど3タイプの製法によるカーボンファイバーを適材適所に配した車体は、非常に軽量かつ高剛性に仕上がっている。

 フロア下についても、見える限り本当にフラットに仕上げられていて、いかにも空力がよさそうだ。可動式のリアスポイラーは、選択したモードと速度によって3段階に角度が変わる。ムルシエラゴでは車体後端にあったラジエターは、両サイドのドア後方に配されており、リアクオーターパネルは内部の温度上昇に対し、自動的にせり上がって冷却性を高める仕組みとなっている。

搭載エンジンはV型12気筒DOHC 6.5リッターで最高出力515kW(700PS)/8250rpm、最大トルク690Nm/5500rpm。トランスミッションは7速シングルクラッチAT。エンジンはリアミッドシップに縦置きされるため、フロントフード下はトランクになっている

極限まで低いシートポジション
 とても軽いドアをはね上げて車内に潜り込むと、コクピット各部もエクステリアと共通のイメージで、鋭いラインを多用したデザインとされていることが見て取れる。シートのポジションは異様に低く、リクライニングは電動ながら、前後スライドが手動式となっているのは、おそらく極限まで座面を下げるためだろう。

 ガヤルドまではキーをひねってエンジンを始動させたのに対し、アヴェンタドールではついにプッシュボタン式が採用された。ダッシュから斜めに貫くセンターコンソールの途中にある赤い小さなカバーの下に、そのボタンは配されている。

 エンジンをスタートさせると3500rpmまで跳ね上がって目覚め、軽く、そして乾いた音質は、これまでのランボルギーニ車とは少々趣が異なる。アイドリングは約1000rpmと高め。TFTディスプレイによるメーターは鮮やかで視認性にも優れ、各種操作系はMMIなどアウディとの共通性も見受けられる。

 ちょっと気になったのは、「R(リバース)」や「M(マニュアル)」ボタンがセンターコンソールの後方側にあることで、この位置だとステアリングから遠く、少々使いにくいのだが、このクルマで細かいことを気にするのは野暮なのでやめておこう。



ことのほかイージーなドライビング
 そして、いよいよコースイン。インストラクターの先導で走るのだが、あまり手加減せず走ってくれたので、ほぼ全開でアヴェンタドールのパフォーマンスを堪能することができた。

 まず圧倒されるのは、やはり700PSのエンジンだ。さすがに0-100km/h加速2.9秒というだけのことはある。これまでのランボルギーニと言うと、いかにも大きなエンジンが豪快に吹け上がるという古典的なフィーリングで、それはそれで味わいがあったのだが、アヴェンタドールはそれとは異質で、乾いたエキゾーストノートを奏でながら、抵抗感なく軽やかに回る。いかにも新世代のエンジンらしい洗練されたフィーリングである。

 トランスミッションは、ISR(インディペンデント・シフティング・ロッド)と呼ばれるロボタイズドMTのみの設定で、HパターンのMTは将来的にもラインアップされない予定と言う。最速のドライブモードを選ぶと、シフトチェンジに要するのは本当に瞬時となる。筆者はさすがにF1マシンには乗ったことがないが、今のF1マシンのシフトチェンジというのは、おそらくこのようなイメージなのだろう。

 ドライビングはことのほかイージーだ。走り出したあとは、ブレーキングでスピードのコントロールさえできていれば、何も恐怖を感じることはない。

 コーナリングは極めて安定しているし、加速力は驚異的だが、ストッピングパワーもまた驚くほどのキャパシティを備えている。それなりに大きなサイズのクルマながら、車体は軽く、まったく遅れなく操作に対してダイレクトに応答してくれて、隅々まで神経が行き届く感覚がある。

 もう1つ印象的だったのが乗り心地のよさだ。これにはロードゴーイングカーではほとんど採用例のないプッシュロッド式サスペンションや、カーボンモノコックが効いているに違いない。インホイールにスプリングやダンパーを持たない同方式は、アップライトを持つ一般的なサスペンションに比べてバネ下重量を圧倒的に軽くできる。さらには空力面でも有利となる。また、カーボンという素材はスチールやアルミよりも振動吸収性に優れるため、独特の柔らかなライド感をもたらしている。これらが乗り心地に寄与していることは間違いない。

 ドライブモードは、エンジンスタート&ストップボタンの前方にあるスイッチにより、一般走行向けの「ストラダーレ」、ややスポーティな走りとなる「スポーツ」、本格的なスポーツ走行に対応する「コルサ」という3段階から選ぶことができる。これにより、前述のシフトチェンジのスピードやスロットルの開け方、ESPの介入タイミングやAWDの駆動力配分などが変わるので、ドライビングの特性もかなり変わる。

 そのAWDシステムについても、従来はスリップを検知してからフロントに機械的にトルクを伝えていたところ、アヴェンタドールでは電子制御となり、横Gに応じてフロントにトルクを伝えるとともに、連動してESPの制御を行うようになった。

 スポーティなモードを選ぶほど後輪駆動に近い状態となり、コルサモードにすると最終的にはアシストしてくれるが、走りはかなりダイナミックになり、限界を超えて破綻する一歩手前までESPが介入しない設定となっている。

日本国内ですでに約100台のオーダー
 あまり長い時間ではなかったが、とにかくこのクルマのスゴさは十分に伝わった。全体的に見て、今までのランボルギーニ車とは異質の、とても緻密で洗練されたクルマになったという印象を強く受けた。

 ランボルギーニというと、やはりフェラーリと比べたくなるところで、間もなく発売される「F12ベルリネッタ」が最大のライバルとなるはずだが、これまでの印象からすると、洗練度や完成度という意味ではフェラーリが大なり小なり先んじているのは否めなかったように思う。ところがアヴェンタドールに触れて感じたのは、これを超えるのは相当な困難に違いないということだ。まだF12ベルリネッタに触れていないので言い切れないが、ランボルギーニのクルマづくりは、ついにフェラーリに追いつき、ある部分ではすでに追い越しているのかもしれない。

 考えてみると、車両価格が4100万円2500円と言うと、筆者がこれまでドライブした中でもトップ3に入る。それでも試乗会が開かれた時点ですでに日本国内で約100台のオーダーがあり、約20台がデリバリー済みとのことだ。こうしたスーパースポーツに触れるたびに感じるが、このクルマを所有し、好きなときに乗れる人が本当に羨ましいと思う。


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2012年 6月 26日