インプレッション

三菱自動車「アウトランダーPHEV」

第一印象は“意味不明”!?

 車重およそ1.8tもあるSUVでありながらも、プラグインハイブリッドとして登場してきた「アウトランダーPHEV」。その第一印象はハッキリ言って“意味不明”の一言だった。だってそうだろう。こんな重たい遊びグルマでエコカーを造ったところで、それは環境や周囲に対する免罪符でしかない。僕はそう考え、このクルマに批判的な視線を送っていた。

 だが、開発担当者はこんな言葉を残している。「自分で発電する電気自動車(EV)・PHEVをSUVに搭載し、自然環境にやさしく、安心して地球を舞台にどこまでも走り続けられる、そんな夢を叶えるクルマがアウトランダーPHEVです。この世界に触れた途端、今までに出会ったことのない気持ちよさ、新たなるSUVの楽しみ方が、今まで以上にアクティブな生活へと導いてくれますよ」。

 夢を叶えるクルマ、出会ったことのない気持ちよさ、新たなるSUVの楽しみ方……。開発担当者の言葉を聞けば聞くほど興味が湧いてくることも事実。ナナメな目線はよくないなと、改めてアウトランダーPHEVの概要に耳を傾けてみることにした。

87kW(118PS)を発生する直列4気筒DOHC 2.0リッター MIVEC「4B11」エンジン。これにフロントとリアの駆動用としてそれぞれ最大出力60kWの電気モーターを搭載

 このクルマのシステム構成は87kW(118PS)を発生する直列4気筒DOHC 2.0リッター MIVEC「4B11」と、60kW(82PS)を発生するモーターを前後に配することで4WDを達成。リアを駆動するのはモーターの力のみで、前後の駆動を繋ぐプロペラシャフトの存在はない。その代わりと言ってはなんだが、車体センターの床下には総電圧300V、走電力量12kwhを生み出すリチウムイオン電池が備わる。

 走行モードは充電電力のみを使用してモーターで走る「EV走行モード」、エンジンを発電専用として動かし、その電力も使ってモーターで走る「シリーズ走行モード」、エンジンの駆動力を主体に走行し、加速や登坂の際にモーターがアシストする「パラレル走行モード」の3つ。これらが状況に応じて自動選択される。

 なお、それぞれの燃費データについては、充電電力使用時走行距離は60.2km、ハイブリッド燃料消費率は18.6km/L(JC08モード)、プラグインハイブリッド燃料消費率は67.0km/L(JC08モード)、総合航続可能距離は897km(JC08モード)となっている。

ボディーサイズは4655×1800×1680mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2670mm。ガソリン車との差別化として、専用バッヂやグリルを採用する。ボディーカラーのテクニカルシルバーメタリックもアウトランダーPHEV専用となる。グレードはE、G、G Safety Package、G Navi Package、G Premium Packageの5モデルを展開

アウトランダーPHEVならではの注目ポイント

 ただ、ここまでの領域はPHEVとしてはほとんどが当たり前のものばかり。だが、ここから先がアウトランダーPHEVの本領発揮といっていい領域だ。まず注目したいのは、ドライバーの意思でバッテリーの使い方をコントロールできる点である。セレクターレバー後方に存在するバッテリーセーブモードとバッテリーチャージモードがそれだ。

 まずバッテリーセーブモードは、その名の通りバッテリーを温存することが可能となっており、これをONにするとハイブリッド走行が主体となるように制御。帰宅寸前にEV走行にするなど、後の走行にバッテリー残量を残しておけるところが魅力だ。バッテリーチャージモードは、停車中・走行中にかかわらずエンジンを作動させて充電することが可能。バッテリー残量計がゼロから80%付近まで充電ができる。これもまた、後のEV走行や野外での電力供給に役立ちそう。これまでありそうでなかったPHEVの姿がここにある。

 制御系でもう1つ注目したいのは、回生ブレーキの強さを6段階で調整することが可能なところだ。それをステアリング裏のパドルシフトで行うというのだから面白い。もちろん、セレクターレバーをBレンジにすれば同様の効果が得られるが(その際は2段階)、まるでスポーツカーに乗ってダウンシフトをキメるように、回生ブレーキ介入量を選択できるところが興味深い。

 スポーツを感じさせる点はそれだけじゃない。なんとツインモーター4WDとS-AWD(Super All Wheel Control)を組み合わせたシステムを盛り込んでいるのだ。これはすなわち、ランサーエボリューションに用いられていた制御と同様のもので、ツインモーター4WDとアクティブヨーコントロール(AYC)、アクティブスタビリティコントロール(ASC)、そしてABSを組み合わせたS-AWDにより、駆動とブレーキによって旋回方向の動きを出してやろうというものだ。単なる4WDで終わることなく、ランエボの技術を盛り込んだ辺りに同社の本気度がにじみ出ている。

黒を基調としたインテリア。ステアリング裏のパドルシフトで回生ブレーキの強さを6段階で調整できる。ジョイスティックタイプのセレクターレバーの後方にバッテリーセーブモードとバッテリーチャージモードを選択できるボタンがある
合成皮革&ファブリックシートはG Navi Package、G Safety Package、G、Eに標準装備
6:4分割のセカンドシートは折りたたみ、スライド、リクライニングが可能。アウトランダーPHEVは5名乗車仕様のみの設定のため、サードシートはない(ガソリン車は3列シート)
メーター中央には4.2インチのマルチインフォメーションディスプレイが備わり、駆動モード、燃費、ECOドライブサポート、ルートナビゲーション、エネルギーフロー、EV走行比率などを表示できる
7インチWVGAディスプレイメモリーナビゲーション「MMCS」ではEV航続可能距離、電力消費量といった情報を表示できる

同じアウトランダーでも走り出せばまるで違うクルマ

 そんなアウトランダーPHEVに乗り込んでみると、メーターまわりやセレクターレバーこそ特殊に感じる部分はあるが、ドライバーズシートにおいてガソリンモデルとの明らかな違いは感じない。室内での決定的な違いとしては、ガソリンモデルが7名乗車だったのに対し、5名乗車になっていることくらいだろうか。

 だが、走り出せばまるで違うクルマであると感じる。そろりと走り出せば静粛性に優れているところが注目点だった。それはEV走行しているからではなく、スロットルを開け気味にしてシリーズ走行になった時もそうだ。ガソリンモデルで感じていたノイズとは明らかに違い、高級感すら感じられるくらいだ。後に聞いた話によれば、これはエンジンの違いだけではなく、車体側の防音に力を入れた結果なのだとか。PHEVらしく静かにしたいとのことで、フロントガラスは遮音ガラスに変更。ドアにはデッドニングが行われ、リアのクロスメンバー取り付け部のブッシュ構造が変更された結果がここにある。アウトランダーPHEVに対する意気込みはハンパじゃない。

 さらにはスロットルのレスポンスも見どころだった。少しの踏み加減に対して瞬時に応答するこのパワーユニットは、EV走行からシリーズ走行、そしてパラレル走行になる領域まで段付きもなく滑らかに加速してくれる。ガソリンモデルで感じた応答遅れもなく、要求に即座に応えてくれるところがPHEVの魅力であるのだと悟った。キビキビとした加速感は、いま自分がSUVに乗っていることさえ忘れてしまいそうなものだった。

 こうして感心できるのは、何も動力系だけの話ではない。なんとSUVでありながらもコーナーリング性能で見どころがあったこと、これが意外な発見だった。ガソリンモデルとの比較で言えば、圧倒的な低重心であることがまず感じられる。ある程度高さのあるSUVながらも駆動用バッテリーをボディー下部に配したことで、とにかくドッシリ感を感じる。足まわりのセッティング違いもあるが、ガソリンモデルに比べておよそ30mmも重心が下がっているそうだ。

 この低重心感覚にS-AWCの動きが加わるのだから鬼に金棒だ。試しに高速の流入路でスロットルを開けながら旋回して行くと、S-AWCが旋回方向の駆動力を発揮。ステアリングだけでなくスロットルで曲げられる感覚が得られるのだ。結果として操舵角は少なくなり、SUVとは思えないコーナーリング性能を見せる。ランエボで培ってきたS-AWCのギミックがこんな形で展開されるとは思わなかった。

試乗会の途中でアウトランダーPHEVの充電。ちなみにアウトランダーPHEVは車体の右側に普通充電と急速充電用(急速充電機能はオプション)のポートがあり、左側にガソリン給油口が用意される

走りを満足できる仕上がりだったアウトランダーPHEV

 単なるPHEVとして終わるのでもなく、お楽しみを追及したSUVで終わるのでもなく、1台のクルマとして走りを満足できる仕上がりだったこと、これがアウトランダーPHEVの素晴らしさであり魅力なのだと心底感じることができた。乗れば必ず体感できるこの感覚は、批判的だった僕の心を一瞬でひっくり返したのだ。

 そしてアウトランダーPHEVこそ三菱自動車しか造ることのできなかった夢のクルマなのだとも思えた。i-MiEVで培ったEV技術、パジェロで得たSUV性能、そしてランエボで鍛え上げたS-AWCの制御といったすべてが集約されている。単なる環境グルマだけでなく、お楽しみSUVだけでもなく、走り自慢のスポーツモデルだけでもなかったクルマ、それがアウトランダーPHEVという1台だ。

 エコを追及するあまりどこか窮屈なカーライフを送るよりも、この世界でクルマを存分に楽しみながらエコができるのなら長続きしそうだ。こんな世界をミニバンやスポーツモデルでも展開してくれないかと三菱自動車にはつい期待してしまう自分がいる。今では批判的ではなくむしろ肯定的な自分には驚くばかりだ。それほどにアウトランダーPHEVは楽しめた。もしも僕のように誤解をしている人がいるなら、一度でいいからこのクルマに触れてみて欲しい。そうすればその誤解はきっと一瞬で消えてしまうはずだから。

Photo:中野英幸

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。