三菱ふそうトラック・バス「エアロスター」は主に路線バス向けとなる大型モデル。1984年に初代がデビューし、1996年に現行型(2代目)へとバトンタッチ。そして30周年となる今年、フロントデザインなどの変更が行われた。
今回のモデルチェンジは、主な購入層となるバス事業者からの「経済性」「安全性」「快適性」の向上といった声に応えたもの。
中でも路線バスという性格上、安全性の向上に力が注がれている。大きいところではフロントまわりを刷新するとともに、ディスチャージヘッドランプとコーナリングランプを採用したのがポイント。ヘッドランプは明るさと色温度で言えばH4バルブを採用していた旧型(13年モデル)が1900lm/約3200Kだったのに対し、新型は2800lm/約4100Kと大幅に明るく、そして白色系の色味とすることで視認性を向上。寿命も同社比で約2.5倍となり、整備コストの低減にも寄与している。後々アフターマーケットのバルブに交換なんてことが考えられない車種だけに、ディスチャージヘッドランプが標準装備となったのは大きなアドバンテージと言えそうだ。
経済性は路線バスという性格上、事業者からのリクエストが多い部分だ。そこで新型では「ECOモード」スイッチを新たに採用したほか、燃料噴射マップやATのシフトマップの変更、エアコンのコンプレッサー制御の変更、冷却ファンの特性変更などを実施。重量車モード燃費(路線バス、14t超)で4.30km/L、実際の走行をシミュレートした同社の試験による実用燃費では約5%の向上を果たしている。これらにより「平成27年度重量車燃費基準」を達成するとともに、「ポスト新長期規制(平成21年度、平成22年規制)」を基準値より10%低減、自動車重量税(50%)と自動車所得税(60%)の減税対象となっている。
そのほか、ノンステップモデルでは「反転式スロープ板」を標準装備として安全性を高めるとともに省力化を図ったほか、給油時の容易性を高めるために給油口の高さを1200mmと13年モデルより高い位置に変更した。これに伴って燃料タンクの形状を変更し、搭載位置を左側優先席下からタイヤハウス後方に移動するとともに、ホイールベースが延長されている。従来、左側優先席部分は横向き座席のみの設定となっていたが、座席下部分の燃料タンクがなくなったため快適性の高い前向き仕様が選択可能となった。
ラインアップは路線バス向けがノンステップとワンステップ、自家用向けにツーステップと計3タイプのボディーを用意。それぞれにK尺(4995mm、13年モデル比+195mm)/M尺(5550mm、13年モデル比+250mm)、K尺/M尺/P尺(6000mm)、M尺/P尺とホイールベースの異なるモデルが設定されている。
ボディーサイズはK尺車で1万705×2490×3070mm(全長×全幅×全高)と全長のみ195mmアップ。つまりホイールベースが増加した分、そのまま全長が増えたことになる。そのため、最小回転半径が8.0mから8.3mに増えているが、直角コーナーでの占有幅は5.7mから5.8mとほぼ同等を確保。取り回しの悪化が極力抑えられている。
価格はノンステップ、M尺モデルで2920万2120円。事業者以外が購入することはあまりないと思われるが、すでに神奈川中央交通、名鉄バス、東急バスなどの事業者に200台あまりが導入されている。街中で目にしたり実際に乗車したりと、身近で接する機会は今後増えていきそうだ。
18年ぶりのモデルチェンジを果たした新型路線バスエアロスター。写真奥がK尺、手前がM尺でともにノンステップ車。前扉直後の窓サイズが異なる 都市部での採用が多いK尺車。ノンステップ車の中扉は引き戸タイプ 前面の比較。右が新型、左が13年モデルのツーステップ車 バンパー上に前面ガラス清掃時に便利なステップを用意。デイライトはオプション リッドを開くとウインドーウォッシャーやワイパーアームなどの点検が可能 向かって右側にABS用のコンピュータ。ブレーキはドラム ルーフ上部のエアコンはデンソー製が標準。オプションで三菱重工製も用意される。搭載位置は重量バランスなどを考慮して前寄りになった 燃料はもちろん軽油。キャップにはスリーダイヤモンド オプションのバックカメラはクラリオン製。ちなみに同社のCVカメラ事業は市場シェア33%(2013年度) 色温度と露出を固定しての見え方の違い。こちらは13年モデル 色温度と露出を固定しての見え方の違い。新型の方が明るく、広い範囲をムラなく照らしているのが分かる 新型の路肩灯。街灯の影響を受けて違うように見えるが同露出。こちらの方が明るく鮮明だ バンパー下部に突入防止用のアンダープロテクションを新たに装備 7.5リッター(7545cc)の直列6気筒インタークーラーターボユニット「6M60」を搭載。ダイムラーAGの「BlueTec」テクノロジーを採用、PMを再生制御式DPFで、NOxをAdBlue(尿素水)で処理する。スペックは最高出力199kW(270PS)/2500rpm、最大トルク785Nm(80kgm)/1100-2400rpm ヘッドカバーには24VALVEの文字。いわゆる4バルブOHCで、ボア×ストロークは118.0×115.0、圧縮比は16.0 オルタネーター、スターターなどのベルトは乗用車と比べると超幅広。オルタネーターは24V、180A、スターターは24V、5.5kW ベルト駆動のラジエター。新型ではファンの軸部分(ファンカップリング)の粘性を変更することでエネルギー損失の低減、燃焼効率アップを図っている エンジンルーム側から物理的にエンジンスターターをストップできる機能が付く タイヤは275/70R22.5-148/145J。撮影車両はダンロップのOEMリブタイヤ、SP120を装着していた マフラーの出口径は意外と細いが排気量があるだけに中間はかなりの太さ メインバッテリーは190H52×2、サブバッテリーとして55D23R×2も搭載 左レバーはエキゾースト&パワータードブレーキとワイパー関連 エンジン回転数を手動でセットできるハンドスロットルノブ アクセルペダルはオルガン式から吊り下げ式になった。アイドリングストップは乗用車と同じようにブレーキを踏み増すことで作動するが、復帰時は左側の青いペダルを踏む必要がある メーターパネルは乗用車ライクなもの。レッドゾーンが2900rpmからというあたりはいかにも大排気量ディーゼルらしい アイドリングストップ可能時は「ISS(アイドリングストップ&スタートシステム)」ランプが点灯 アイドリングストップ時は停車補助装置が働いてブレーキをホールド(中央上、坂道のようなアイコンが点灯) メーターパネル右側のスイッチ群。右下の「ECO」ボタンが新たに追加された ECO機能が動作中はメーターパネル下にインジケータが点灯。加速度が一定以上になると燃料噴射を抑制 エアサスを使ってボディーを左側に傾けるニーリング機能を搭載。ステップ部分で70mm車高を下げることが可能 逆に障害物との干渉を避けるなど50mm車高をアップすることも可能 メーター中央にはマルチ情報システム「Ivis(アイヴィス)」を採用。表示内容は走行情報からメンテナンス情報、車両設定など幅広い シンプルなドライバーズシート。撮影時にしばらく座ってみたが座り心地はかなりイイ感じ ドアや車内アナウンス用スイッチ。放送用機器もクラリオン製が使われている エアコンスイッチ。こちらにもECOモードが追加されており、エンジン負荷が高い時に自動的にエアコンを切る仕組みとなっている 降車ボタンが押された時に点灯するインジケーター。車イススペースのボタンが押されると専用ランプが点く 運転席上。上はクラリオン製の車内放送ユニットで音声データはメモリーカードに記録される。下は矢崎エナジーシステムのデジタルタコグラフ内蔵型ドライブレコーダー。下にあるのがドラレコ用マイクユニット オージ製デジタル行き先表示器の操作パネル。解像度は前面で40×192ドットと意外と低い ステアリングコラム左側にデフロスターなどの切り替えレバー ノンステップ、K尺、都市型ラッシュ向け、優先席横向きの車内。ホイールベースの延長もあってかなりゆったりした印象 後方から。手すりの配置や色などバリアフリー化に対応している 後部。段差や頭上注意のピクトなど国土交通省による「次世代普及型ノンステップバスの標準仕様」に準じたものとなっている 一番人気という左側最前列シート。1段目のステップが従来より広くなり足をかけやすくなっている つり革用のバーを車体外側にオフセット。乗客の立ち位置を少し外側にすることで車内の移動や乗降性を高めている。ただ、事業者によっては以前からこの仕様を採用している場合もあるという ニーリング&スロープで車イスでの乗降がスムーズになった 折り畳み式のシートは観光バスの補助席のようなイメージ。折り畳んだ際は専用の降車ボタンが利用可能だ 燃料タンクの移動により左側優先席に前向き設定が追加となった 横向きでも足下に空間ができたため踵を後方に移動することができ、お年寄りでもラクに立ち上がることが可能になった