トピック
高橋敏也の「週末、F1行ってきました!」
F1を観戦するため鈴鹿サーキットへと向かったおっさんの奮闘記
2016年10月24日 00:00
ああ、私はたぶんバタバタする星の下に生まれたのだろう。どんなに綿密な計画を立てても、いくら慎重に行動しても、最終的にはバタバタすることになるのだ。「身も心も疲れたから、鈴鹿サーキットへ行ってF1を観戦、リフレッシュしよう!」と思い立ったのが以下の記事。
高橋敏也の「そうだ、今週末はF1に行こう!」
今からでも間に合うのか? F1を観戦するために鈴鹿サーキットを目指すおっさん奮闘記
http://car.watch.impress.co.jp/docs/topics/1023023.html
ご覧いただければ分かると思うのだが、比較的大ざっぱな私が結構綿密にスケジューリングをしたのである。F1開催までさほど時間が残っていない中、チケットを手配し(最終的にはCar Watch編集部にお願いした)、新幹線などの交通機関の情報を収集する。最大の難関は出発当日の10月8日、私は秋葉原で開催されるイベントをこなしてから鈴鹿サーキットへと出発するということだ。リアルなイベントの場合、何が起こるか分かったものではない。予定がズレるなどというのは日常茶飯事なのである。
10月8日18時にイベントが終了し、片付けをしつつ関係者に挨拶、秋葉原駅から東京駅へと向かう。新幹線は19時発を予約した。イベント終了から1時間あれば余裕を持って東京駅の新幹線乗り場にたどり着けるはずだ。そう思った時期がありました、イベント会場で当日の打ち合わせをするまでは……。
そもそもイベントの存在を忘れて「予選も見たいな」とか当初は考えていた私である。「ステージ終わったらプレゼントのジャンケン大会ですよ」というのもすっかり忘れていたのである! ステージイベントに遅れが生じ、なおかつお客さんがジャンケンにとんでもなく強かったらどうしよう。そんな不安が頭をよぎる……。どうなる高橋!?
おっさんよ! あれが名古屋の灯だっ!
すべて杞憂でした。イベントはつつがなく進み、ジャンケン大会もスムーズに終了。片付けてから挨拶、無事に秋葉原を後にすることができた。向かうは東京駅、秋葉原駅からはわずか3分で到着するのだ。ホームで余裕をぶっこきながら新幹線待ち。思えばこのあたりで私の慢心が始まっていたのだろう。
普段は愛車で旅をする私だが、鉄道も実にいいものだと実感する。何しろ自分で運転する必要がない上に、ポテトチップスをツマミにビールまで飲めるのだ。もちろんクルマやバイクより速いし、そもそも新幹線はパンクしない。SA(サービスエリア)に寄らなくても車内販売がやってくるし、トイレだって完備されている。クルマやバイクの旅にはそれでしか体験できない楽しさがある。そして当然、鉄道や空、船の旅にも独特の楽しさがあるということを今回実感することができた。
東京駅を出発して2時間弱、あっという間に名古屋駅に到着。19時に東京駅を出て、21時前に名古屋入りという訳だ。これがクルマやバイクなら余裕を見て5時間前後を想定しなくてはならない。さすがは新幹線である。
F1観戦の旅なのだから、本来の目的地は鈴鹿サーキットである。だが、前回の原稿でも書いたとおり、F1のようなビッグレースがある時は鈴鹿サーキット周辺の宿泊施設はすぐに埋まってしまうのである。なので我々は名古屋に宿泊し、翌朝バスで鈴鹿サーキットを目指すことにしたのだ。
さて、名古屋を宿泊地にしたのにはもう1つ理由がある。鈴鹿2&4レースの時もそうだったのだが、「名古屋に泊まればうまいもの食い放題じゃないか!」ということだ。鈴鹿2&4レースの時は全国的に有名な、ひつまぶし発祥の店(諸説あります)へと行った。そして今回はどこへ? Car Watch編集部が選んだのは松阪牛一頭買が売りの「牛神 錦店」であった(注:松阪牛は“まつさかうし”、牛神は“うしがみ”と読みます)。
高「どうして松阪牛なんよ?」
編「それはあなた鈴鹿サーキットがあるのは三重県、三重県と言えば松阪牛ですからね」
高「そんなもんかね」
編「そんなもんです」
これがまあ大当たり! 普通の焼肉と同じように焼いていく訳だが、どれを食べても旨い! 7種類の部位を盛り合わせた「松阪牛盛り合わせ 別格」、そして「松阪牛炙りにぎり寿し」などを頂いたが、安心して誰にでも勧められるクオリティだ。しかもそのクオリティの割に値段が安い。仮に東京で同じものが注文できたとして、この値段では収まらないと思う。
大満足のディナーを終わらせ、向かったのは有名チェーンの某ビジネスホテル。どうやら名古屋市内に数件あるらしく、行き先を間違えるというトラブルはあったものの、23時前にはチェックインすることができた。後はもう寝るだけ、明日はいよいよF1決勝である! 目指せ鈴鹿サーキット! などと思いつつベッドに入った訳だが、バタバタの神は私を見放していなかったのである。
おっさんよ! あれが鈴鹿サーキットだ!
高橋、まさかの寝坊! ホテルで自室に向かう前、私とCar Watch編集部で「じゃ、明朝はロビーに7時集合」と打ち合わせた。私の場合、自宅ではいつも7時前に目を覚ますので安心してベッドに入った訳だが、起きたのはスマホの呼び出し音を聞いてから。慌てて時計を確認し、数字が7時という時点で私はその電話の内容を把握した。スマホを引っ掴んで「すいません、40秒で支度します!」と叫び、台風のような勢いで支度をする。
10月9日F1決勝、我々は名古屋駅前から出発する、三重交通の臨時直通バス「サーキットエクスプレス名古屋・鈴鹿直通バス」を利用すると決めていた。ホテルから名古屋駅までは10分程度、名古屋1便が出る7時30分には余裕で間に合うはずだった。が、まさかの寝坊である。私の慢心が招いた結果ではあるが、とにかく急いでロビーへと向かう。
Car Watch編集部とロビーで合流し、本来は鉄道で名古屋駅へ向かう予定だったところをタクシーに変更。運転手さんに間に合うかどうかを尋ねると、まったく問題ないというありがたい返事があった。タクシーはすぐに名古屋駅に到着し、急いでバス乗車の集合場所へ行ったところ受け付けを行なっている最中だった。
バスは向かうよ鈴鹿サーキットへ。無言で怒りのプレッシャーをかけてくるCar Watch編集部と、慌てて支度したため上着をホテルに忘れてきたおっさんを載せて、バスは鈴鹿サーキットへとひた走ったのであった。そう、上着をホテルに忘れてきたのよ……(後でホテルに連絡、着払いで自宅に送ってもらいました。その際はご迷惑をおかけしました)。
F1決勝は世界的な「お祭り」だった!
10月9日9時少し前、ついにF1決勝が開催される鈴鹿サーキットへ到着。何度かきたことのある鈴鹿サーキットだが、その日はいつもと雰囲気が違っていた。バスから降りて徒歩でゲートへと向かう訳だが、とにかく人が多い。そして海外からの訪問者も多い。F1が世界最高峰のレースだということをひしひしと感じるのだ。
さらに驚いたのが宿泊可能なエリアにある多数のテント、そしてキャンピングカーの存在だ。予選の前から鈴鹿サーキット入りしているのか、はたまた予選当日に入って昨夜は鈴鹿サーキットで宿泊したのか。というより「鈴鹿サーキットに泊まれるんだ」という驚きの方が大きい。
そしてゲートへの道すがら見つけたのが、鈴鹿サーキットに到着するドライバーを待つ人々。ドライバー出身国の国旗を飾ったり振ったり、チームの旗を掲げたりと熱烈歓迎ムードが素晴らしい。そう、F1でもほかのレースでもそうなのだが、ファンはチームやクルマだけでなくドライバーも愛しているのだ。聞いた話によると、ドライバーの中にはクルマの窓を開けて手を振ったり、状況によってはハイタッチするサービス精神旺盛な人もいるらしい。
行き交う観客たちもF1モード全開である。国旗を羽織った観客は珍しい存在ではなく、レーシングスーツを着用した観客もいるし、かなりの割合でチームのロゴ入りシャツや上着を着用しているのだ。それがまた愉しげに闊歩しているのだから、これはもうF1という「お祭り」と考えていい。
そしてもちろん「お祭り」ならば屋台がある訳だ。世界規模のレースであり、観客は8万人以上集まる訳だから、それはもうそこかしこに屋台が出ている。定番の串焼き肉から焼きそばやたこ焼き、カレーやピザ、ラーメンまでそこらじゅうからいい香りが漂ってくる。これだけ出店していれば、さほど混雑することもないだろうと思ったら大間違い。まず「特に美味しい」ところは常に長蛇の列となる。列がないところが美味しくないということもないので、もしスタート間近といったタイミングなら、短い列に並んでもいいだろう。
だが、昼時となれば話が変わってくる。もう、どこもかしこも大行列となるので、ほかの観客とタイミングをずらすか大人しく並ぶしかない。あるいはシートで食べられるものを事前に買っておくかである。個人的にお勧めなのは「昼食」ということを考えずに、少しずついろいろなものを食べる、言うなれば「お祭り」方式だ。まあ、スタンドから外に出れば山ほど屋台はあるので、自分なりに楽しんでほしい。
それともう1つ重要なことを。入ったら出てくるのがこの世の摂理、ぶっちゃけた話トイレはかなり混雑する。当たり前と言えば当たり前の話で、鈴鹿サーキットに8万人を超える人間が集まるのだ。そして一部の観客は(それでも大人数が)お祭り気分でビールやワインを飲みながら観戦するのである。さらに言えばスタンドシートは気温が低い(いい気温の年もあるらしいが、少なくとも今年は寒かった)。トイレには余裕を持って行きたい。
さて、我々取材班(本当はただの観客ですが)が陣取ったのはB2席。1コーナー、2コーナーを見渡せるスタンドのほぼ最上部にあるシートを確保した。狙っていたA1席は残念ながら確保できなかったが、B2席も見晴らしがよく、1コーナー&2コーナーを抜けていくフォーミュラカーを堪能できた。
ここでスケジュールの話に戻るのだが、決勝当日のゲートオープンは8時、決勝レースは14時にスタートする。もっともF1のスタート進行は13時30分からなので、13時ぐらいにはほとんどの観客がシートに戻ってくる。ではなぜスタートが14時なのに8時、あるいはもっと早くから観客が集まってくるのか? 実はF1スタート前にも、いろいろと楽しめるコンテンツが用意されているからなのだ。
それらを順に並べて行くと、まずブライダルパレード(結婚式に合わせて行なう鈴鹿サーキットのサービス)があり、次にS-FJ(スーパーFJ、入門編フォーミュラカーのレース)の決勝8ラップがある。そしてチューニングされたポルシェの決勝レース10ラップがあり、レジェンドF1のデモラン、ドライバーズパレードと続く。もちろん、最終目的はF1決勝であり、見たいものを見て楽しめばいい。その合間に食事やショッピング、展示などを楽しめばいいのである。
食事やショッピング、展示やイベントを楽しみたいというなら、メインストレート側にあるGPスクエアは外せない。出店あり、トークショーあり、展示あり。決勝の最中はステージでもコース映像を流しているが、それ以外の時間は何かしらやっているし、見るべきもの、買うべきもの、そして食すべきものがある。「初めての鈴鹿サーキットでよく分からない」という人は、まず何よりGPスクエアへ行ってみるべきだろう。
そんな訳でF1決勝レーススタート! 一斉に1コーナーへ飛び込んでくるフォーミュラカーたちの排気音、彼らが通り過ぎた後、わずかに遅れてやってくる排気とタイヤの匂い。興奮する観客たちの歓声、お気に入りのドライバーやチーム向けての声援。F1の何もかもが別格だった。あ、ちなみにレース結果に関しては別記事を参照してほしい。
最後にぜひとも書いておきたいのが、海外からやってきたウェーブおじさん。スタンド下部のB1席にいた大柄で陽気なおじさん、どうしてもウェーブを起こしたいらしい。周囲に声をかけ、ウェーブをちょうど我々のところからスタートさせる。観客もノリノリでおじさんの呼びかけに応じるのだが、少し離れたシートの観客には、なかなかおじさんの気持ちが伝わらない。
我々のシートはちょうどB1席とB2席、C席の切れ目付近にあったのだが、ウェーブはC席やスタンドの異なるB2席には伝わらないのである。なんとかウェーブを広めたいおじさん、巨体を揺らしながらまずB1席の端まで走る。そしてウェーブをスタンドの異なるB2席に伝え、今度は逆方向に走ってC席の方にもウェーブしたいという意志を伝えたのである。何がおじさんを突き動かしているかは分からないが、その熱意は見事に伝わった。やっとこさB1席、B2席、そしてC席でウェーブが起きたのである。もちろん観客拍手喝采、おじさんやったね!
いや、本当にF1は楽しいですわ。なお、大切なことなので繰り返し書いておくが「レース結果に関しては、本誌別記事を参照してほしい」。もうね、リアルに「F1に行こう」と「F1に行った」記事なんですよ、私の担当は。
お家に帰るまでがF1です!
ゴールを見届けた我々は、そそくさと鈴鹿サーキットを後にする。ゴール後にはもちろん表彰式があり、さらにGPスクエアではイベントが続いている。だが、多くの観客が我々と同様、鈴鹿サーキットを後にするのである。そう、決勝レースが終わったところから観客8万人以上の大移動が始まるからだ。早く帰りたいなら、早めに動くことが重要なのである。それでも帰路につく観客の渋滞に巻き込まれる訳だが。
鈴鹿サーキット脱出のルートだが、我々が目指したのはF1の時にしか開かないと言われる(真偽は不明)1コーナーゲートである。ちなみにこのゲートに一番近いのがA1席、A2席なのである(このため当初はA席を狙っていた)。そしてゲートを出てから向かうのが「鈴鹿サーキット稲生駅」である。この駅から列車で名古屋駅まで行き、東京行きの新幹線に乗る訳だ。
1コーナーゲートを出てしばらく歩くと「鈴鹿サーキット稲生駅 700m(約10分)」という看板が出てくる。道は一直線だし、同じ方向に観客がぞろぞろ歩いてくので迷うことはない。改札にはやはり長蛇の列があるのだが、その前に特設窓口(というかテント)で切符を買ってから並ぼう。さすがは列車、大人数をどんどん捌いていくので待ち時間はそう長くない(というかそのために表彰式も見ずに帰路についたのだ)。鈴鹿サーキット稲生駅から名古屋駅までは約1時間ほどである。
名古屋駅に到着して我々も驚いた。あまりにスムーズに移動できたため、予約していた新幹線より早い便に乗れてしまったのだ。決勝のゴールが15時30分前後だとして、鈴鹿サーキット稲生駅で列車を待っていたのが16時20分ぐらい。名古屋駅に到着して18時前の新幹線に乗れたのである。このため東京駅には20時ぐらいに到着できる。新幹線は何事もなく我々を東京駅へと運び、私はそのままJR中央線に乗り換えて帰宅した。
数日前にF1観戦を思い立ち、実際にF1を観戦できた訳だが、私の寝坊と上着をホテルに忘れたことを除いてパーフェクトでスムーズな旅だったと思う。チケットさえ入手できれば「そうだ、F1に行こう」は可能なのだ。もちろん、今から来年のF1観戦をスケジュールするのもいいだろう。今からなら鈴鹿サーキット近辺の宿を手配できるかも知れない。一方でネットの情報などを見ながら「あー、F1見たい」と思って、実際に行くことも可能なのである。
テレビなどで見るレースもいいが、実際にサーキットへ乗り込んで見るレースはひと味違う。音、匂い、そして風。サーキットにはリアルがあるのだ。「行こうかな、どうしようかな」と迷っているならぜひ行くべきだ。行って体験して、つまらないとか大変だとか思うなら次はないだろう。だが、決してそうはならないと思う。サーキットへ行った人間はその帰り道、次のレースのことを考えるのだから。
【お詫びと訂正】記事初出時、松阪牛に関する記述に一部間違いがありました。お詫びして訂正させていただきます。
協力:鈴鹿サーキット