日下部保雄の悠悠閑閑

アウトランダー

奥志賀のアウトランダー。この左手の山々が夕日で赤く染まります。写真ないけど……

 三菱会心のヒット作となったアウトランダー。袖ヶ浦フォレストレースウェイとオートランド千葉の2種類の路面で走らせることができ、その進化に三菱がアウトランダーにかける意気込みを感じた。オンロードでもオフロードでもそれぞれの路面でS-AWCによるアウトランダーの特性を体感できたからだ。

 車両重量2.2tにもなるPHEVがその重さを感じさせない動きができるのは4輪の駆動力制御が進化したからだ。

 そして高速道路でのロングドライブと雪道での走破性を体験するチャンスがやってきた。4輪制御をさらに深く知るチャンスだ。

 新アウトランダーはバッテリー容量が20kWと大きく、エンジンをかけることなく電気だけでWLTCモード83kmの走行を可能としているが、いきなり乗り出した高速道路では回生も限られているので、エンジンで発電しながらモーターで走ることがほとんどだ。条件によってはエンジン駆動にもなるがモーター駆動の場面が圧倒的に多い。

 ロングドライブを経ていよいよ雪道に入る。履いているタイヤはブリヂストンのブリザック。SUV用のスタッドレスタイヤだ。ここからはドライバー交代で助手席に移動して観察、観察。他人の運転は興味深く勉強になることが多い。

 S-AWCはなかなか賢く、NORMALモードはオールマイティだ。オンロードから滑りやすい路面までこのモードでほとんどカバーできる。

 電動4WDは急勾配の上り坂でも前後にトルク配分をしながらグイグイと曲がっていく。除雪のいき届いたスキー場に向かうならNORMALモードでも大概は間に合いそうだ。

 標高が高くなると圧雪とアイスバーンが混じった路面になる。ドライバーは慎重にグリップのいい路面を選んでいる。ところどころ雪に乗って少しアンダーとなる場面もあるが、横滑りを感じることはない。

 目的地の奥志賀までたどり着くと外気温度計は-12度。シートヒーターにヌクヌクと暖められた体で外に出るとさすがに寒い。それになんとも美しい雪山の夕景を見ることができた。何度見ても素晴らしい。素晴らしすぎて写真撮るの忘れたけど……。

きれいな奥志賀の圧雪路。日陰のコーナーや北斜面は凍っている可能性も考えてドライブしないと危険です

 よく晴れた翌日、今度は雪道を自分でドライブした。臆病なのでVDC(横滑り防止装置)はONにしたままだ。NORMALからSNOWにダイヤルを回す。

 このモードの真価がよく分かったのは、それまでの圧雪から路面が変わりブレーキゾーンからコーナーの前半にかけてシャーベットとアイスバーンが混じった路面が出てきた時だ。想定ではブレーキングからフロントタイヤがグリップするまでラインに乗っているはずだったが路面変化を読み切れず、わずかに想定ラインよりアウトに膨らもうとした。SNOWはモーター出力を低めに制御するだけでなく、アンダーステアを消す方向にブレーキ制御を早めに行なう。膨らみかけたトレースラインはそのままの姿勢を維持することができた。いろんな路面が混じる雪道でも安心している走れるのがSNOWモードだ。ただ重量は約2.2tあるので無理は禁物。タイヤグリップの限界を超えることはできない。

長いストレートにもわだちがあるということは、コーナーではさらに雪が薄くなっていて、日陰では凍っている可能性が……

 試しにウェットダートや舗装で安定感が高いと感じているGRAVELモードにするとトラクションが高く、ターンインがうまくできない。極端に滑りやすくグリップ変化の大きな路面では微妙な回頭性は苦手だった。前に進もうとする力が強く、GRAVELモードの狙いはもう少しグリップの高い路面でマッチする。さらにグリップの高い路面に合わせたTARMACモードでも雪道では微妙にノーズが入りにくい。

 それぞれのモードは当然のことながら路面に合わせられてセッティングされているのがよく理解できた。道幅が狭く路面変化が多い積雪路だからこそ分かることも多い。

雪道を走った後のリアエンド、降雪時ではなかったので巻き上げた雪がキレイにつきました。この光景が好きです。山から下りる時は泥だらけになってしまうんだけど……

 待望の積雪路で三菱が培ってきた4輪制御の現在を知ることができた。ランサーEvoに使われた初期のS-AWCはドライバーがクルマに合わせることで早く旋回できたが、逆に合わせられないと走りにくかった。しかしアウトランダーは多くの人が4輪制御の恩恵を感じることができる。三菱が粘り強くこの技術を磨いてきたことが報われた。

 多くのことが経験できたスノードライブだった。それにきれいな雪の中にいると久しぶりに滑りたくなった。いやスキーの話です。

この先、通行止め。もうすぐ横手山。スキーやスノボを楽しむ人たちが結構来ていました
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。