日下部保雄の悠悠閑閑

東京オートサロン

スクリーンに映るモリゾウさん。終了後に自然と拍手が起こりました。この後私服に着替えてブースを細かく回っていたのがモリゾウさんらしい

 例年の賀詞交歓会、やはりわれわれの場合は東京オートサロン(TAS)で、事前申請しておいたプレスパスを発行してもらい、9時のオープンとともに幕張メッセの広い会場へ。まずはGRから回ることにした。すぐにトヨタやGR、レクサスの広報やエンジニアさんに会い、世間話をしているうちブースの前は黒山の人だかり。モリゾウさんがプレゼンターということもありメディアの数も多く、もはやモニターでしか舞台は見えなくなってしまった。

 モリゾウさんのスピーチは相変わらず冴えており、論旨明快で分かりやすい。雇用を守りCO2を削減するために何が必要かを説き、トヨタは全方位戦略を取る、つまりBEVもハイブリッドもPHEVもFCEVも水素燃焼もすべて取り組むことをプレゼンした。

 中でもニュースはエンジン開発部を立ち上げて内燃機関を強化するということだった。世界中のエンジン技術者が聞いたら万歳しそうなコメントだった。多くのメーカーがエンジン開発を中止している中でのエンジン開発部だ。

 地域によって内燃機はまだまだ必要なことは明白。そして世界に16億台もある自内燃機関の自動車が一気にBEVになるわけもなく、それを取り残してしまうのは大きな問題が起こる。水素の燃焼技術や合成燃料に対応する最適な内燃機関を開発する必要があり、モータースポーツからのフィードバックも応用するためにも量産エンジンの強化は必要だ。

 一方でレクサスのBEV化を進め、走れば走るほど空気がきれいになる燃料電池車(FCEV)をMIRAIに続きクラウンにも搭載、驚異的な燃費を誇るお家芸のハイブリッドとPHEVと、体力がなければできない仕事量だがそれを行なう決断力もすごい。

 マイチェンで素晴らしく運動性能が高くなったGRヤリスもお披露目となりクルマファンの集まるオートサロンらしいGRブースだった。

 この後、人の波はさらに増え、もはやプレスカンファレンスに間に合いそうもなくフラフラと会場を俯瞰することになった。ローダウンするだけでなくアイデアを積み込んだカスタムカーはTASならでの光景だが、今年は内容が充実していたように感じた。

 各メーカーの展示はオフロードイメージの車両が多くなっていたのが印象的だ。オフロードと4WDがお家芸の三菱自動車は2月発売のトライトンはもちろん、都市型PHEVだったアウトランダーもオフロード仕様で盛り上がっていた。日産もエクストレイルの車高を上げ、車体もモディファイしたオフロードコンセプトを出展していた。なかなかカッコいい。

スバル・クロストレックかと思いきや、フォレスター。もはやここからだと何だか分からない。キャリアを搭載すればこれだけに荷物が積めるということだと思う
スズキ・スーパーキャリイのカスタマイズ。働くクルマ、スーパーキャリイにふさわしいモディファイでお見事
オフロードなら三菱自動車でしょ、とアウトランダーも本格的なオフローダーに
デリカミニも元気いっぱいの格好でブースに入ってました。右下の雪だるま仕様のデリ丸。がかわいい!
日産はエクストレイル クルーザー コンセプトを作ってオフロードに参入。なぜかピンクでフロントマスクからしてそれっぽく、写真より実物の方がよかったです

 日本に再上陸したヒョンデも小スペースながら興味をひかれる展示があった。大のクルマ好き、日本のクルマ文化好きのYoon氏率いるNチームが手掛けたアイオニック5 Nをお披露目したことだ。Nはテストを続けたニュルブルクリンクのNと開発拠点のあるナムヨンのNの頭文字を取ったパフォーマンスモデルで、既報のように速いだけでなく開発チームのクルマ好きが伝わってくる面白いハッチバックだった。BEVをベースとしてその特徴を活かした「面白いクルマ」が作られる時代になったことを感じた。さらにエアロパーツなどアイオニック5 Nをモデファイするキットも発表され、上半期の販売を待つばかりとなった。

ヒョンデ・アイオニック5 Nのエアロパーツキット装着車。こちらはオフローダーとは対照的なサーキット仕様。Nの開発責任者、Yoonさんの熱気あふれるプレゼンでした

 BEVは日本ではインフラが追い付いていないのが現状で、特に冬が厳しい北の地域ではなかなか進まない。実は自分自身、パワートレーンは何でもよいと思っているが、現時点で重量、完成度、利便性は内燃機が優れている。しかしBEVをはじめとする各種パワートレーンはそれぞれ利点があり面白い。これからも何にでも対応できる感受性を持っていたいと思っている。そんなことを感じたGRとヒョンデのプレスカンファレンスでした。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。