NVIDIA「GPU Technology Conference 2019」

【GTC 2019】NVIDIA、ジェンスン・フアンCEO、質疑応答レポート

NVIDIAの自動運転はWaymoを上回ることができる

2019年3月19日(現地時間) 実施

NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏

 半導体メーカーのNVIDIAは、3月18日~3月21日(現地時間)に米国カリフォルニア州サンノゼ市にあるサンノゼ・マーキュリー・コンベンションセンターにおいてプライベートイベント「GTC」を開催している。

 会期2日目となった3月19日にはNVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏による質疑応答が行なわれ、GTCで発表された各種の内容について報道陣からの質問にフアン氏が答えた。

リアルタイムレイトレーシングがグラフィックスの未来だ

──フアンCEOから冒頭にあいさつを

フアン氏:今回のGTCに会わせて、レイトレーシングをソフトウェアでサポートできるような発表を行なった(僚誌PC Watchの記事GeForce GTX 1060 6GB以上でもリアルタイムレイトレが可能にを参照)。

 より多くのユーザーにリアルタイムレイトレーシングが使えるようになるのはよいことだ。RTXの位置づけは、リアルタイムレイトレーシングを高速化するというものになる。DXRやUnreal Engine 4、そしてこのカンファレンスではUnityでRTXが利用できるようになったことを発表した。強調したいのは、次世代のゲーミングはレイトレーシングにあるということだ。

 データセンターに関しては、GPUの利用がさらに進んでいることを説明した。実際、TOP500の半分はNVIDIAのTesla V100になっている。今後もHPCの市場はスーパーコンピュータやエンタープライズにも巻き込んで成長していくだろう。データサイエンスは今後科学の発展にとって大きな要素になっていくだろう。

 我々はこのカンファレンスの前にMellanoxを買収することに決めた。現在のHPCには、スーパーコンピュータとハイパースケールという2つのタイプがある前者は大きなシミュレーションなどを1つのジョブとしてやる。後者は小さなジョブを多くのユーザーが同時に行なう。後者のデータセンターではDockerなどのコンテナーがサービスとして実行され、Kubernetesやオーケストラエンジンが他のサーバーと通信を行なって協調して実行する。そのようにデータセンターの内部で多くの通信が、機械間で行なわれている。我々はこれを東西の通信と呼んでいる。Mellanoxの技術はそうした東西の通信に役立つ。

 いずれにせよ、現在のボトルネックはネットワークだ。このネットワークがCPUに負荷をかけているが、Mellanoxの技術を活用することでCPUを負荷をオフロードすることができる。

──NVIDIAはGeForce NOWでストリーミングゲームに取り組んでいる。ストリーミングゲームは成功するか?

フアン氏:クラウドであればハイブリッドクラウドが優れていると考えている。誰もがすべてをクラウドでは編集している訳ではなく、ローカルでも編集している。ゲームも同じではないだろうか?我々はゲームでもハイブリッドなアプローチが正解だと考えている。120fpsで6msのレイテンシでプレイしたければローカルでとなる。eSportsなどはローカルが向いている。それに対して、それが問題にならないゲームもありそれらはストリーミングゲームに向いている。

 強調しておきたいのは、我々はゲームパブリッシャーとゲーマーの関係を壊すつもりはない。そのビジネスモデルには手をつけない。あくまで我々が目指しているのは、GeForceを持っていないPC、例えばmacや古いPCなどのユーザーがクラウドでGeForceを使う、それがコンセプトだ。

──GeForce NOWはいつから使えるようになるのか?

フアン氏:現在はベータとしてフリーで提供している。待機リストは100万ユーザーにもなっており、今後サービスの品質を確保したままコストを下げていくことが課題になるだろう。

 そうしたこともあり通信キャリア向けのバージョンとなるGeForce NOW Allianceを今回のGTCで発表した。日本、韓国などの通信キャリアとの契約を発表し、今後広げていく計画だ。第3四半期~第4四半期頃に立ち上げていくことになるだろう。

──昨年投入したRTXは足踏みしているように見えるが?

フアン氏:CUDAは我々のラインアップの上から下、Jetson Nanoのような小さなモジュールから巨大なデータセンターまで同じコードが使えるようになっている。他の半導体メーカーとは違って、我々のビジネスはチップを売るだけでは意味が無く、ソフトウェアとセットである必要がある。我々のビジネスは単にチップを売ることでは無く、コンピューティングプラットフォームを売ることだ。

 RTXはすでに成長している。最初の8週間で、Pascal世代よりも50%多く販売された。だが、それでも足踏みしていると言われてしまうのは何かと言えば、RTXは最初はハイエンドからスタートしたため、普及価格帯にまで降りてきていなかったからだ。今回ソフトウェアでの対応を発表したことで、上から下までRTXを利用できる環境が整った。

──業界では3Dスタッキングなどの採用がトレンドになっているが、NVIDIAの取り組みは?

フアン氏:我々はすでに3Dスタッキングの技術をTesla V100に採用している。V100では3Dスタックのシリコンを採用しているし、HBMメモリをスタックしている。3Dスタッキングの技術は3~5年前の技術で、我々はすでに採用している技術だ。我々も今後の製品でもMellanoxをダイに統合する時などに使うことになるだろう。それによりデータセンターをさらに小さくしていくことが可能になる。

──NVIDIAの競合他社、例えばAMDは7nmのプロセスルールを導入している。なぜNVIDIAは今回7nmの製品を投入しないのか?

フアン氏:7nmのプロセスルールはすでにファウンダリーから半導体メーカーに対して売っている。彼らが望む金額を払えばいつでも買うことができる。ではその7nmのウェハーを買うメリットはなんだろうか? 言うまでもなく性能と低消費電力だ。だが、我々はすでに12nm FinFETのプロセスルールで競合よりも高性能で低消費電力なGPUを製造することができている。我々のエンジニアが優れたアーキテクチャの製品を設計しているからだ。我々はそうした優れたエンジニアがより効率よい製品を生み出すことにフォーカスしており、追加のコストが必要なのにメリットがないことに支払いたい訳ではないのだ。Amazonでも高いモノを買ったら、その分特別な何かがあるものだろう?

──米国と中国の経済戦争は中国の規制当局によるMellanox買収の承認に影響を与えないのか?

フアン氏:承認については心配していない。我々の買収は、カスタマーのイノベーションを加速し、テクノロジーの進化を加速するモノであり、顧客のコストを下げることにつながるものだ。我々は楽観的に考えている。

──Mellanoxを購入するのに69億ドルという金額を支払うがそれに見合うものなのか?

フアン氏:Mellanoxは10年間我々のパートナーで、非常に優れたパートナーだった。すでに説明したようにデータセンターにはハイスピードネットワーキングが必要であり、そこに疑問はなく、彼らにはそれだけの価値がある。それはコストではなく、バリューだ。

──Mellanoxの買収で決め手になった要素は?

フアン氏:2つの理由がある。1つは自分では解決できなかったからであり、もう1つはほかの人には真似ができない価値があるからだ。我々もいいエンジニアを抱えているが、Mellanoxも彼らの強みではいいエンジニアを抱えている。

NVIDIAの自動運転はWaymoを上回ることができる

質疑応答の途中でトレードマークの革ジャンを脱ぎ捨てたフアン氏

──今回のGTCではCUDA-Xについて説明がされた。汎用プロセッサであるGPUで、より多くの機能を実現していこうという意欲的な取り組みだと考えるが、当初はグラフィックス専用だったGPUを、AIにも対応できるように改良を加えてきたのが、NVIDIAのここ最近のGPUの進化の歴史だ。今度新しい領域のアプリケーションに対応するようにするためには、そうした改良を加えていくことになると思うが、簡単ではないと思う。その戦略について教えてほしい。

フアン氏:いい質問だが、GPUは汎用のプロセッサではない。GPUでワープロソフトを動かそうとすれば、とても遅くなり使えたものではないだろう。GPUはピークのスループットにフォーカスしている。その意味でドメインスペシフィックなプロセッサだ。我々はその課題に対して注意深く取り組もうとしている。そこを間違えれば、科学者にとって無駄な時間を過ごすことになるからだ。まさにそこのバランスをきちんととっていくことが私たちの仕事だ。そこに向けてきちんと戦略を立てて開発を行なっている。

──データセンターの拡張における限界とはなんだろうか?

フアン氏:素晴らしい質問だ。一番の問題はムーアの法則の終わりが来ることだ。これまではムーアの法則により、性能の向上と電力効率の改善を手にすることができた。しかし、それはソフトウェアとエンジニアでは解決できない。ムーアの法則が終われば、性能を上げるにはデータセンター全体の電力の枠を増やすしかないが、それは簡単ではない。そうなるとワークロードはスローダウンし、コンピュテーションは変わっていくことになるだろう。まさに我々が言っているアクセラレーテッドワークロードを増やしていくしかない。今の10倍の性能を実現するには、ソフトウェアのイノベーションが必要になる。

──NVIDIAはオープンソースの「RISC-V」に対しても貢献している。だが現在のTegraはArmベースだが、なぜRISC-Vへの貢献を行なっているのか?

フアン氏:Armは非常にいい仕事をしており、そのことに疑いはない。その一方で、RISC-Vは優れたアーキテクチャとコンパイラが提供されている。大きな違いはビジネスモデルの違いで、Armはライセンシングモデルであるのに対して、RISC-Vはオープンソースになっている。両者とも一長一短がある。そうした中でNVIDIAはDLAをオープンソースとして提供するなどの貢献を行なっている。なぜかと言えば、私が基本的に好きだからだ(笑)。

──先日米国のレポートでWaymo(ウェイモ、Googleの子会社になる自動運転のベンダ)はNVIDIAの自動運転よりも優れているという調査結果が発表されたが、NVIDIAはWaymoに勝つことができるのか? そしてNVIDIAの自動運転車はいつ登場するのか?

NVIDIAの自動運転シミュレータ(左)とフアン氏

フアン氏:答えは明確にイエスだ!。我々はほかの企業とは違ったものを提供することを目指している。Waymoはロボットタクシーの開発にフォーカスしており、我々はロボットタクシーもターゲットではあるが、人間が運転する乗用車での自動運転両方をカバーする。我々のカーコンピュータはわずか21Wで、カメラだけで自動運転を実現することができる。それがトヨタが我々を選んでくれた理由だ。それだけでなく、乗客をモニタリングしてより快適にしたりもできるし、パーキングまで自動でできる。いつできるかだが、今年ではなくまだ数年かかるだろう。だが、来年になればさらに驚くようなものをお見せできると思う。

 自動運転車向けでもう1つ強調したいのは、シミュレーターの提供を開始したことだ。100%現実と同じクルマを、レイトレーシングやコンピューターグラフィックスを利用したリアルに近い環境の中で走らせることができる。例えば、多くの自動車メーカーが設計に使っているIPGのデータを作ってシミュレーター用の自動車を構築することができ、それは100%リアルなクルマと同じものだ。

笠原一輝